「先生は現在、日本に神様が何柱いるかご存知ですか?」
突然の神道講座を始めた黒服に、一方通行は額に皺を寄せた。
学園都市の頂点の頭脳を持つ一方通行でも、日本の神様について造詣が深い方ではない。
元々興味が薄いのもそうであったが、学園都市は神道についての講座を深く取り扱ってはいない。
従って彼は一般的。もしくはそれより多少深い程度の知識しか持ち合わせていない。
パッと出てくるのは、一番の代表例として挙げられる神の数。
その数、実に八百万。
「正解はおよそ百五十六万です。日本には八百万の神がいると謳っていますが、実態はこんな物です。この程度しかいないのですよ」
太陽や月といった天体。
風や雨といった気候。
動物や植物といった生物。
刀や車と言った道具。
それら全てに神様が宿っていると考えられ、それら無数の神々を崇め奉る為の総称として
その観点において数字による正確性は意味を為さず、必要とされるのは心持ち。
たとえ付けられた数に実際の数が満たなくても、そうであると考えるべきだとするのが
なのに黒服は特に必要性の無い、柱の数に対して言及を始めた。
「何が言いてェ」
率直な疑問をぶつける。
黒服が言いたい事の概要が掴めない。
具体的には、キヴォトスとの関連性が見えない。
「キヴォトスはそれを補完する都市。という事ですよ」
が、すぐさま黒服によって関連性が与えられた。
しかしそれは一方通行の疑念を払拭するには至らない。
黒服の説明を言葉通りに受け取り話を組み立てるならば、キヴォトスで神を創ろうとしているように思える。
あまりにも荒唐無稽な話だった。
到底信じられる話では無い。
しかし。
「疑問には思いませんでしたか。まるで天使の輪っかのように生徒一人一人の頭に浮かぶヘイロー。その存在理由を」
まるで彼の逃げ道を一つ一つ塞ぐように黒服は次々と説明を並べていく。
ドク……と、彼の鼓動が一段階激しさを増した。
それはあながち黒服の指摘が間違っていない事に起因する。
気にならなかったと言えば嘘になる。
銃弾を受けても平気な肉体。
学園都市の生徒と比較した場合に異常さが浮き彫りになる身体能力。
ヘイローは少女が気絶すれば消失する。
少女との関連性を結び付けるなと言う方が難しい話だった。
同時に、ヘイロー自体に関する疑問を持つのもまた当然。
調べなかったと言えばウソだった。
だが調べた上で、その正体は掴めなかった。
分かった事と言えば、一人一人大きさも形も色も違う事。
そして、破壊されれば死んでしまうという事。
「最初に浮かぶヘイローは、決まって全員同じ形なのですよ、先生」
「……、っ…………」
一方通行自身が掴んでいない情報を次々と明かす黒服の言葉を、彼は素直に信じたりはしない。
だが一概にそれをフェイクだと切り捨てる事が出来ないのもまた事実だった。
嘘であると言い切れるだけの根拠が彼の中に根付いていない。
自身の中に、確固たる知識が固まっていない。
見聞だけは数例程、彼はキヴォトスに来る前に確認している。
一つ目は学園都市で己の腹を刺し貫き完全なる敗北を叩き付けた真っ白な化け物、エイワス。
二つ目は、第三次世界大戦にて共闘したヒューズ=カザキリ。
キヴォトスにやって来て、早々に発生した一騒動を片付けて、少しの間ぬるま湯のような日常に浸り続けている間、仕事を手伝いに来るユウカやミドリ達を見ながらずっと思っていた事があった。
思って、しかし口にも顔にも出さず、心の中にしまい続けていた思考があった。
エイワスとヒューズ=カザキリの輪っかの形は、ヘイローに似ていたと。
天使の輪っかの様でいてそうでない。
しかし明らかに異質な感覚があの輪っかから放たれている。
ヘイローからは感じない威圧と神々しさが混ざった、見ているだけで気圧される感覚。
一方通行の中でゆっくりと仮説が組み上がって行く。
最悪の、最悪の仮説が。
「ある少女は戦闘経験を積んだ。違う少女は文学に勤しんだ。別の少女は遊ぶことに情熱を燃やした。それらの経験を以てヘイローは独自の形へ変化を遂げる。生徒一人一人が積んだ知識や記録を基にその形を個性ある物へ変化させる。これがヘイローの姿形が違う真実です」
「……それがどォ関係するってンだ」
「つまるところ生徒単体に価値は何もない。知識や経験がヘイローに集約されるならば、
刹那、一方通行の目が強く見開かれる。
最悪が降りる。
目の前に降り立つ。
黒服の放った言葉は、彼の立てた仮説と完全に一致していた。
もう十分だった。
なのに。
「生徒の学習はBDを用いた自主学習が基本。時代の最先端を進んだ先の答えだと言えば聞こえは良いでしょう。ですが少し見方を変えれば、大人の介入を極限まで削り、子どものみの世界にしたくてわざとBDによる学習方法を取り入れている。そう受け取る事も出来ます」
追い打ちをかける様に黒服はさらなる続きを述べ始める。
一方通行自身も前々から疑問に思い、しかしこの都市の常識として半ば避けていた話題に手を掛け始める。
「多かれ少なかれ大人の指示に子どもは従う物です。学校という枠内であれば猶更でしょう。むしろ教員と言う立場からすれば生徒を従わせるのも仕事の一つなのですから、個性の突出が控え目になるのは種当然と言えます」
ああ、ダメだ。と、一方通行は全身の血液が沸々と煮えたぎり始めたのを否応なく自覚する。
この感情は、あまりにもまずい。
抑えなければならない。
杖を持つ右手が小刻みに痙攣を始める。
銃を握る左手の力が無意識に込められる。
今すぐこの男の口を黙らせたいとする本能を理性で必死に押し留める。
同時に思う。
同時に痛感する
キヴォトスは、真に終わっている場所なのだと。
「ですがその思考自体が誰かにとって都合の悪い物だとしたら?」
一方通行の結論を後押しするかのように黒服は言葉を続ける。
「子どもの主体性を前面に押し出し、個人個人が異なる成長を目指す事を主目的とする為に、敢えて大人による押し付けを強要しないようにしているのだとしたら?」
「結果はヘイローが語ってやがるとでも言いてェのか……!」
激情に駆られない様、必死に感情を抑制しながら一方通行はこの世界の根幹について問い始める。
「ご明察ですよ。この学習方法により誰も彼もが違う形のヘイローを形成しています。全く同じ経験を全く同じ量だけ積めば、ほぼ同じ形に成長するヘイローにもかかわらず、千差万別の姿を表すようになった」
キヴォトスは順調に回っていますよという言葉に、一方通行は強く、強く歯噛みした。
子どもの主体性による成長。
それは聞こえだけは確かに良いだろう。
だが裏を返せばそれは、大人の悪意に気付けるよう教育すらされないと言う事でもある。
キヴォトスにも大人と呼ばれる者達は存在する。
但しそれは人間ではなく、ロボットと言う形で。
付け加えると、キヴォトス中に存在する数多の会社の役員として大人は存在する。
しかしこのロボット共に生徒を慮る気持ちは無い。
一方通行が調べた限りでは、殆どが自分の利益の為に生徒をどう利用するかを考えている連中だった。
いるだろう。間違いなく。
大人の利益を貪りたいと言う悪意の餌食になり、精神を歪まされた事すらも成長として扱われた例が。
歪まされたと自覚出来ない無知を利用して、さらにさらに堕としていった例が。
それはどこまでも一方通行の地雷だった。
決して踏み抜いてはいけない彼が引いた境界線だった。
だから彼は少なくともシャーレに顔を出す生徒には目を光らせた。
守れるだけ守り続けた。
気に喰わない連中から持ち掛けられた仕事の誘い等も断る様に半ば命令じみた言葉を投げたりもした。
その過程で、生徒を私服の肥やしにしか利用していない企業をいくつかシャーレとして潰したりもした。
かつてミドリと共に潰した『未来塾』もその一つ。
この街は、無知な生徒を餌にしようとする悪魔が大勢いる。
そして、その悪魔から身を守る為の教育が、この街では施されていない。
脅威から子供を守るべき存在である大人も、この街には誰一人いない。
「第一にです。キヴォトスよりも遥か先の知識や技術を持つ学園都市はディスク学習などしていないではありませんか」
それが最高効率であるとするならば学園都市はとっくに採用している。
理論として正しく構築されているなら、キヴォトスが取り入れる前からより洗練された形で実用化している。
超能力開発が特徴の学園都市ではあるが、それはあくまでカリキュラムの一つ。
国語、数学、英語、理科、社会と言った教科の中に超能力と言う科目が追加されている。
学園都市の外との学習内容の違いはたったこれだけに過ぎない。
超能力が目玉の学園都市ではあるが、学習内容は超能力が主役ではない。
故に学園都市が例外といった言い訳は通用しない。
だからこそ絶対的な事実としてそれは容赦なく告げられる。
BD学習が最先端な訳が無いと。
「そうして多種多様な『体験』がヘイローをより非凡な物へと昇華させ、各々の経験に沿った伝承が日本に作り出される」
「ンな物を作り上げて何がしてェ! そもそも現代で起きた出来事が伝承になるだと? 訳の分からねェ事ばっか吠えてンじゃねェぞ三下ァ!」
伝承を作り上げて何になると言うのか。
そもそも伝承を作り上げる事が出来るというのか。
そして何故黒服がそれをさも当たり前かのように語り続けているのか。
まるで、この話を聞く為に知らなければならない前提知識があるかのようだった。
しかし一方通行には現状この黒服が具体的に何を差しているのか答えは見えない。
だが取っ掛かりだけは残されていた。
その全ては第三次世界大戦中に彼が得た物。
ロシアの夜空に発言した幾何学的図形。
そして、空に浮かぶ大地から撃ち落された黄金の光。
あの時、学園都市とは基軸の違う技術が存在する事を一方通行は知った。
しかし、だが、けれど。
あの力とキヴォトスに一体何の関係があると言うのだ。
否。
否。
否。
一方通行は知り始める。
その圧倒的頭脳によって、散りばめられた情報から一つの事実を推察する。
ある事柄について理解するのに必要な知識量が百だとして、一方通行が知っている情報が一にも満たない物だとして。
しかしその一にも満たない物を必死に必死にかき集めて、かき集めて、かき集めて、
一を作り、十を作り、その十がやがて二十、三十へと繋がって。
そして一で構成された百を形成する。
それは正確な答えとは違う物。
しかし限りなく、正確な答えに似た物。
辿り着く、
辿り着いてしまう。
キヴォトスが何をやろうとしているのか。
何を目的として設立されたのか。
ヘイローに蓄積される経験。
それらが伝承として日本へと降りる。
それが結果として何を生むのかこそ掴めなかったが、真に重要なのはそこではない。
今、一方通行が求めているのはその過程で何が起きるかであり、過程の部分に関して、彼は限りなく正解を引き当てていた。
日本の新たな神を創る。
キヴォトスはそれを担当している。
そして、ユウカ達に求められているのはヘイローの成長だけ。
その為だけに、キヴォトスは彼女達を育てている。
その言葉の意味する物。
言葉通りに受け取った場合に発生する物。
「では少し分かりやすく、手っ取り早く結論だけを言いましょうか」
黒服が切り出す。
一方通行が辿り着いてしまった事実を、言葉として世界に放つ。
「
刹那、世界が止まった気がした。
ガラガラと校舎の奥から轟音と共に何かが崩れ落ちていく音が聞こえたのはそれとほぼ同時。
巨大な石くれが校舎の一角を破壊していると頭が理解したのはその直後。
しかし一方通行にはその場所に意識を向ける事は無かった。
「年月に換算して僅か六年の経験をヘイローに刻んだ後、その肉体は無へと還ります」
降りかかる。
絶望をさらに超えた災厄が。
災厄をさらに超えた地獄が。
一方通行ではなく生徒に。
何も知らないであろう生徒に。
悪意が、これでもかと注がれる。
「この街で先生は卒業生に出会ったことがありますか? もしくは学生ではない、正真正銘の子どもをこの街で見た事がありますか?」
ドスンと、冷たい刃物で胸部を刺し貫かれた気分だった。
常々に思っていた疑問であり、どれだけ調べても理由の糸口すら掴めていない問題だった。
結論から言えば、一方通行は見ていない。
大学生、小学生。どちらも彼は一度も目撃していない。
それはキヴォトスが広大だからという話ではなかった。
どれだけキヴォトスの施設を調べても、小学校と大学は存在していなかった。
「キヴォトスに外の概念はあれど外の世界はありません」
カチリと、頭のどこかで音が鳴る。
それが何なのか、一方通行は分からない。
ただしかし、確実にそれは何かが切り替わる音だった。
「幼少期の経験は何千、何万と予め設定されたシステムからランダムに一人一人に与えられる。数千人の生徒に過去の話を聞いてみると、一人ぐらいは一字一句同じ経験をしている生徒がいられる筈ですよ」
「ふ……ざけ……ン……な……ッッ!!」
声が、震える。
もう抑えられなかった。
黒服がたった今放った言葉は、一方通行の限界を踏み抜く。
それが正しいとするならば、
それがこの世界の法則だとするならば。
この世界はどこまでも、クソだ。
「そうしてこの世界に中学生として生み出された少女達は本能のまま所属する学校を選びヘイローを成長させる。そしてヘイローに刻まれた記憶は伝承となり、彼女達の消滅後、日本のどこかに割り込むように浸透し、やがて一つの神として昇華される」
ゲームが得意だった生徒の記録は遊びに精通した神として、
食事が好きだった生徒の記録は美食の神として、
計算が得意だった生徒の記録は数字の神として。
「それが
日本国内で科学では説明の付かない力を使用する際、何をどう工夫を凝らそうとも八百万に及ぶ伝承が様々な方向から小指を引っ掛けるように条件に抵触し、まともな使用を不可能にする。
「日本で魔術を満足に使えないようにする。生徒達はその為の贄です」
「ふざけンじゃねェぞクソッタレがぁぁああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
重い銃撃音がいくつも鳴り響く。
だが黒服の姿は銃声を鳴らした瞬間に消えた。
だがそんな物はどうでもよかった。
絶叫し、心の底から叫びながら思いの限りをぶつける。
魔術が何なのかもどうでも良かった。
頭の中にあるのは、笑いながら楽しく今を過ごしている少女達の姿だけ。
何も悪い事をしていないのに悪意に晒されている、彼女達の姿だけだった。
「あいつらは死ぬ為に生まれたってのか!!! 世界に何もかもを翻弄されて、何も知らねェことすら知らねェまま、どこぞの誰とも分からねェ奴等に好き勝手に利用されるってのかッ!? 一体誰があいつ等の人生を滅茶苦茶にする権利があるンだッ!? ふざけた事ぬかしてンじゃねェぞクソ野郎がぁああああッッッ!」
「歪み、狂い、濁りきった世界。これがキヴォトスです。これがこの街を取り巻く真実です」
声が聞こえたのは背後からだった。
咄嗟に振り向いたと同時、彼の顔面に右拳が刺さる。
ゴッッッ!! と言う音を立てて、まともに踏ん張る事の出来ない一方通行は廊下を転がる様に吹き飛ばされた。
ゴロゴロと無様に地面を転がった後、ガッッ! と乱暴に杖を突き立てて即座に体勢を立て直す。
顔面に深々と突き刺さった拳の痛みに彼は呻きもしない。
鼻からポタリと血が零れ始めたのを微塵も気に留めもしない。
その代わり、ただ強く怒りを露わにする。
キヴォトスに来て以降、一度も見せた事の無い表情だった。
「クソッタレがッッ!! だったらオマエの目的は何なンだ!! あァ!? ユウカを攫って何がしてェンだッッ!!!」
「一言で纏めるとキヴォトスの維持。ですよ。先程の話はキヴォトスに脅威が迫っていない時にあるべきキヴォトスの姿の話です。しかし今、キヴォトスはある悪意に晒されています。私はその未来を変える為の手段として彼女達をリタイアさせる道を、先生と彼女達を接触させない為の道を選びました」
この男とは別の敵がキヴォトスにいて、それがこの街に著しいダメージを与えようとしている。
それを回避する為に、この男はユウカを犠牲にする事を選んだ。
ユウカを攫い、何かを施す事でキヴォトスのシステムを維持させる。
それがどれだけ大事なのか一方通行は知らない。
知らなくて良いと思った。
絶対にユウカは守り抜いてやると一方通行は心に誓ったから。
それよりも。
それよりも。
「彼女達。だと……?」
聞き捨てならない言葉が、黒服から聞こえた気がした。
言葉通りに受け取るなら、それは……。
「才羽ミドリ」
「ッッッ!?」
ポツリと、知ってる少女の名前が語られる。
今、自分が守れる範囲にいない少女の名前が語られる。
「賭けをしましょう。先生」
ここまで言えば先生ならもうお分かりでしょうとでも言いたげに、具体的な答えは述べず黒服は一方通行に遊びの提案を持ち掛ける。
一方通行は絶対に失敗する事が許されない遊びを。
「今夜の一件で誰も死なず、誰も壊れず、全員が先生の手の届く範囲で生き残ったのなら先生の勝ちです。その瞬間から、我々ゲマトリアは先生が選んだ地獄へ進む方に力を注ぎましょう」
ヒュッッ!! と、一方通行の目の前に突然姿を表いながら、黒服はルールを語る。
失敗した場合、私達は独自で事を進めると続けざまに言い残す。
「世界は少女達を死に導く。我々は彼女達の再起不能を目的としている。敵はキヴォトスその物を潰そうとしている」
最後に黒服は笑いかけているかのような声色で、彼に言葉を投げつけた後。
「どうです? 全てから少女達を守りたくなったでしょう? 一方通行」
ゴキンッッ!! と、固く握られた黒服の右拳が一方通行の顎を下から上へと振り上げられた。
それは、全ての本質を問うているような言葉だった。
ありとあらゆる理屈の中に閉じ込められた、最も重要な単語であるような気がした。
まるで、この世界の全てはただその一点を成し遂げる為だけに作られているような。
ミシ……と、顎の骨に罅が入ったような音が迸った。
耐えられる筈の無い激痛が、意識を奪わんとする程の激痛が一方通行を襲う。
だが。
「あァ……そォかよ……」
一方通行は怯みもしなかった。
右手に持つ杖一本のみで黒服からの一撃を体制を崩さぬまま踏ん張った後、ギロリと、鋭く突き刺すような赤い目で一方通行は黒服を力強く睨みつける。
「ッッ!?」
ただならぬ威圧感を発したその目に、今度は黒服が狼狽える番だった。
バッッ!! と、背後に飛び退き一方通行と距離を開ける。
カチャリと、フラ付く事無く再び一方通行は黒服に銃を向けた。
己の意思に関係無く体温が上がる。
全身が、熱く沸騰する。
それとは裏腹に、心だけは冷えていく。
頭だけは、冷静さを取り戻していく。
「そンなにお望みなら見せてやる……ッ! オマエのよォなクソッタレの目に焼き付けさせてやる……ッ! どこまでもアイツ等を食い物にしやがるゴミ共に思い知らせてやるッッ!!! 俺だって
右手だけで解決出来る程強くはない。
立っているだけで希望の象徴となれる程、輝きを放っている訳ではない。
一方通行は彼にはなれない。
いくら憧れようと、焦がれようと彼が至る場所に成り代わる事も隣に立つ事も出来ない。
同じ頂に立とうにも、もう一方通行の手は血で汚れ過ぎた。
一生拭い去ることの出来ない罪が、彼を延々と蝕み続ける。
分かる。
自分だからこそ分かる。
あのツンツン頭のようにはなれない。
最弱の男が魅せた強さを持ち合わす事は絶対に出来ない。
己の罪を生徒に吐き出す事すら躊躇っている自分に、初めからその資格は与えられていない。
でも、
それでも。
そんな自分でも。
誰かの盾となって立ち向かう事は出来る。
「同時並行で進めてやるよォ! アイツ等が死なずに高校を卒業出来る方法も、キヴォトスを潰してェ奴の妨害もッ!」
彼は決して認めたがらないだろう。
首を縦に動かし肯定する事はないだろう。
だが、それは抗いようの無い事実として世界が受け止める。
「オマエをここで、止める事もよォッッ!!!!」
誰かを想い、誰かを救おうと必死に手を伸ばそうとする彼の姿は、
正しく『ヒーロー』であるという事を。
地獄だ……地獄過ぎる……。
とある魔術の世界観を基盤にブルアカの設定を考えた時、これらがストンと嵌まってしまったのはもう最悪としか言いようが無かったですね。
まあ採用したんですけども。
そんな訳で今回も始まるザックリ解説コーナー。
今作の生徒は、神様を人工的に作っちゃおうというノリで生み出された神様クローンみたいな立ち位置になってます。この時点で一方さんの地雷確定ですね。
風斬氷華が科学の力で生み出された『人の形を模した天使』に対し、生徒達は位相が持つ様々な魔術的要素から作り出された『人の形を模した神』となっています。
ヘイローも結果的に『天使の輪っか』が成長した物となりました。天使ならあの異常な耐久力も納得だね。
魔術について。
とあるシリーズの魔術は、基本的には神話や伝承に記されている内容を自身の個人的解釈によって歪め、自分の思う通りに行使する力、なんですよね。超ザックリ言ってしまうと。
で、ユウカ達を消滅させてアレイスターは何がしたいのかと、ザッと一千万単位で伝承を作りまくって、日本国内で特定の魔術を使用した際に「ちょっと待てお前が今使おうとしてる魔術、これとこれ、あとこいつと、もう一つおまけにこの伝承にも似たような物があるじゃん解釈を曲げようにもこれじゃ曲げらんないよまともな魔術になんないよ」として使えなくさせちゃおう! としている訳ですね。
百万程度で八百万と言えるなら、二、三千万神が居ても八百万で良いんじゃね? と、考えてもいるようです。
まあそれが本当にやりたい事なのかどうかは置いておいてですが。
今日のお話はブルアカ中心の話をしているのに解説が挟まる程の話になっている……おかしい。
ネルちゃん颯爽と現れて可愛いねでも先生に対してちょっと感情重くない? 的な話をしたいのにずっと話がシリアスしてる……
次回はユウカパート中心ですね。
そして地獄のネタがまた次回に……あるんだなぁこれが。
まだ最悪じゃないんだよね、これ……。