メキッッ!! と、床の耐久値が限界を超えた事を告げる音が響いたのは、目の前でネルが大岩に殴り飛ばされて直ぐの事だった。
一度響いた危険な音は果たして、バキバキとあらゆる物が折れ始めた音へと変化する。
ミレニアムの校舎は、千トンを超える大岩の重量に耐えられ無い。
そもそもが校舎のコンクリや大岩を文字通りあちらこちらにくっつけて人のような形をした石人間を生成した以上、教室の耐久値は大きく削れている。
まずい。と、思う猶予だけはあった。
このままじゃ崩れると、考える時間だけはあった。
しかしそこから逃げる時間だけは与えられなかった。
よって。
ゴッゴォオオオオオンッッ!!! と、ある瞬間を境にゴーレムが教室の床を壁ごと破壊し、真下のフロアを上から踏み潰した後、ミレニアムの分校を半壊させながら屋外へ放り出される。
「わっっわッッッッ!?」
当然、それはユウカも例外では無かった。
巻き込まれるようにユウカも屋外へと放り出される。
二階から地上へは真下に落ちて行く訳では無かったのは不幸中の幸いだったと言えよう。
ゴーレムが出現した場所からはほんの少し離れた場所にいたのも相まって、彼女は滑り落ちる様に屋外へと投げ出された。
「い、ったっっっ!!」
うつ伏せとなって唸るユウカに大怪我は無い。
だがしかし無傷という訳にもいかなかった。
滑るように落ちて行く際、コンクリートや瓦礫にあちこち身体をぶつけ、ジャケットはビリビリに破れて悲惨な物へと変化している。
とは言えそんな下らない事に意識を割いている余裕はユウカには無い。
すぐ傍で巨大な石の拳が自分目掛けて振り下ろされようとしている。
刹那、ユウカはこれ以上なく顔を青ざめさせた。
直感が告げる。あれに当たったら死ぬと。
肉も骨も一撃で砕け散ると、死が迫る中、どこか冷静さを持つ頭が正確に当たった場合の未来を予想した。
立ち上がって走り出しては遅いと、第六感が訴える。
だからユウカは、転がって避けた。
起き上がろうとする力を使わず、前へ目掛けて跳躍するように足に力を込め、前回りの要領でクルリと身体を一回転させる。
ドッッッッズゥゥウウウッッッッ!!!! と、先程までユウカが居た位置に地面を深く抉る一撃が刺さったのはその一瞬後の事だった。
「ぐっっうううううッッ!!」
地面を全力で叩き付けた衝撃がビリビリとした振動と轟音を生み、イヤでもユウカの鼓膜と全身を貫く。
間近で発生した大破壊は、ユウカの足を竦ませるには十分な威力と衝撃を誇っていた。
だがそこで怖気付かずに逃げようと身体を起き上がらせたユウカの判断は正しい。
一端全力でゴーレムと距離を離そうと振り返りもせず走った彼女の判断は何処までも正しいと言えた。
少しでも判断を間違えたら即死。
僅かでも決断を迷うことは許されない。
普通なら誰もが恐怖に身体を震わせまともな思考が出来なくなる状況。
その中でも頭と体をフルに動かすユウカは、だからこそ命を拾えていると言って良かった。
「は……は……ッッ!」
距離を離し、銃を構えたユウカは改めてゴーレムと正面から相対し……。
「ッッッ!!!」
その巨体さに思わず息を呑んだ。
腕だけで二メートル。全長は四メートルを有に超えている。
見ているだけで圧倒的な絶望を与える姿は、しかし同時に一つの納得をユウカにも与える。
「その巨体で隠して……
疑問ではあった。
持ち帰って初めて奪取出来たと言える。
だが、その解決法が今ユウカの前に立ち塞がっている。
このまま素直に彼等の拠点としているであろう場所にゴーレムを歩かせればそれで作戦完了。
まんまとミレニアムのシステム全てを出し抜いて
にもかかわらずゴーレムは交戦の意思をありありと醸し出していた。
どうやら男達は、
どうしても。
どうしても彼等は早瀬ユウカを壊したいようだった。
その事実に自然と背筋が震える。
命の危機に身体が強張る。
直接ゴーレムから攻撃を貰わずともユウカの感覚が告げる。
一撃でも当たったらきっと二度と立てなくなると。
そうでなくても掠っただけで重傷は免れないかもしれないと。
どうしたって絶望的。
だけどそんな中でユウカは。
「悪いけど、私の身体は受け取り待ちの先約済みよ」
あなた達二人に言い寄られても私は良い返事を返さないと軽口を叩きつつ、応戦の意思を見せた。
ゴガガガガガッッ!!! と、ユウカのサブマシンガンが火を噴き始める。
二足歩行で動くバカバカしい程に巨大な石像。コンクリートや大岩、鉄柱等をゴテゴテにくっつけ、凶暴さをこれでもかと見せつけるそれは圧倒的な絶望感を放ち、敵対者を恐怖に陥れるには最良の姿。
だが逆に言えば、どんな攻撃であろうともその巨体では絶対に逃げられない事を意味してもいる。
神秘が込められた銃弾が、一つ残らずゴーレムに着弾する。
重装甲の鎧すら弾幕を用いれば破壊できるユウカの弾丸はしかし、着弾こそすれどゴーレムの身体を貫通する事は出来ていなかった。
せいぜい何発かの弾丸が少しだけ埋まる程度。
殆どの銃弾はゴーレムの大岩に悉く弾かれていた。
(やっぱり、何か私達の攻撃を通しにくくする特殊な細工がされてるわね……!!)
先程ネルの攻撃を弾いたのと同じ現象が発生しているのを、ユウカは冷静に受け止める。
だが、ハッキリ言ってユウカの柔軟な思考は異常と言って差し支えない程の物だった。
普通の少女は、大岩が人型となって形成され、あらゆる物体を吸収しながら襲い掛かる光景を見てこれを現実だと思う事は無い。
まずあり得ないが襲う。
そしてどのような状況でも、自分が知っている世界の常識を基盤にして敵の情報を当て嵌めようとする。
対しユウカはそれをしなかった。
理解の及ばない物を、まだ今の自分では理解の及ばない物であるとしっかりと理解した。
その思考は並大抵の生徒が簡単に得られる物では無い。
当然、ユウカはゴーレムを目撃したのは今日が初めてである。
ファンタジー的なゲームでしか存在を知らないゴーレムが、突然ユウカの前に姿を表した。
普通ならばパニックになって然るべきな現象を間近で見て、しかしそれをユウカはハッキリと事象として受け止めた。
自分の知らない未知の何かを利用して、この石像は動いていると。
今の自分では理解出来ない物がある。
魔法にしか思えない現象を引き起こす法則がある。
それをあり得ないと切り捨てず、彼女はしっかりとあり得る物として受け止めた。
だからこそ、彼女は銃弾が弾かれている事に対し面倒だと思いつつも下手に動揺したりはしない。
そういう物なのだと、認識する。
重ねるが、ユウカの柔軟にも程があるその思考は異常である。
自分の知らない法則がこの世にある物なのだと、突然知らされてそれを受け入れることが出来る少女がごまんといる訳が無い。
それをユウカが達成できたのは、
黒服に腹部を集中的に銃撃された時、夢なのか未来なのか曖昧な世界に飛ばされたユウカは、他の誰でもない先生が理解の及ばない力を現出させたのを目撃した。
同時に、この世には自分が持つ知識では到底説明の付かない事象がある事を思い知った。
故に彼女は取り乱さない。
だが、取り乱さない事と、攻撃が通用してないのを見て焦らない事は話が別。
「効き辛いにも程があるわよ!!」
どれだけ撃ち込んでも大してダメージが入っていないゴーレムの様子に、悔しさを隠す事もせず叫んでしまうのはある種しょうがない事と言えた。
攻撃を続ける中チラリと、崩れた校舎の二階を見やる。
その奥にいる、自分を庇ってゴーレムの攻撃をまともに受けたネルはあれ以降一度も姿を見せない。
最悪が過る。
気絶で済んでいるのか、それとも取り返しの付かない状態になってしまったのか。
ギュッッ! と、彼女は唇を強く噛んだ。
助けに行きたいと心から思う。
けど、助けに行ける程ユウカが置かれている状況は甘くない。
グオッッ!! と、ユウカの弾幕を意にも介さぬように、ゴーレムの右拳が真上へと持ち上げられ始める。
その予備動作から何をするかを概ね悟ったユウカは、銃撃を止め一目散に後退する。
逃げ時を見誤ってはならない。
退くと決めたら全力で退く。
中途半端な行動は確実に死を招く。
この戦闘ではそれが絶対だとするユウカは、迫りくる大岩を目で追えない恐怖を必死に押し殺し、敵に背中を向けて全力逃走を図る。
明かな格上である敵の動向から目を離す。
着実な死の一撃を放とうとしている攻撃に背を向ける。
そのやり方が最も生存率の高い行動だと頭では分かりつつも、気安く選択できる択ではない。
迫る拳を目で追い続けたい。当然の思考だ。
何処に飛んでくるか分からない拳を目視で観測し避ける算段を立てたい。当然の思考だ。
だがそこに注力するあまり逃げられないではお話にならない。
それが分かっているユウカは、全力で背を向けて走り出した。
そして、彼女の行動が正解だと言わんばかりに背後から全身が震えあがる程の轟音が響き渡り。
直後、ユウカの立つ地面が上下に揺れた。
「ッッッ!?」
その現象はユウカでさえ予測していない物だった。
人為的に発生した地震に、自然と彼女の足が止まる。
波の様に揺れる地面に脚がとられる。
もつれさせ、転ばない様に地面に手をつく。
致命的だった。
まずい。と、頭の中で警鐘が響く。
逃げなければ、そう思うもこの揺れる地面ではまともに走ることが出来ない。
無理やり動きを封じられてしまったユウカは、それでも自分に出来る事をしようと、逃げ出せないのならせめて銃撃で時間を稼ごうとゴーレムの方へ振り返った。
そして、振り返らなければ良かったと即座に後悔した。
どうやら地面を殴りつけたのは右の拳だったらしい。
そして今、左の拳がユウカ目掛けて真っ直ぐに突き出され始めている。
ゴオッッッッ!!! と言う、途轍もなく重圧的な風切り音がその一撃の破壊力をユウカに知らしめる。
逃げようにも地面の揺れは未だ激しく先程のように、転がって避ける事すら許してくれそうにない。
逃げられない。当たる。
直感的にユウカは悟った。
これはもう無理だと。
けれど。
けれど。
絶対的に無理な事を頭で理解しつつ、それでも彼女はどうにかする道を探る。
何か無いかと、起死回生の手は無いかと必死に必死に策を考え。
鼻先まで迫っても必死に生き残る道を考え。
「どぉりゃぁああああああああああッッッ!!」
まるでそれを叶えるかのように少女の声が一つ、空から響いた。
同時、ゴッガアアアアンッッ!! と言う音がゴーレムの頭部付近で炸裂する。
結果、殺人を厭わぬ一撃はユウカのすぐ真横、一センチ横を勢いよく通り抜けた。
ヒュ…………と、拳が真横を通り過ぎた瞬間、ユウカは無意識にそう零した。
何が起きたのか理解出来たのは全てが終わった後。
崩れた二階の校舎から勢いよく飛び出したネルが全力でゴーレムを蹴り抜き、体勢を崩しよろけさせたと知ったのは、
蹴り倒した事によって拳の軌道が強引に逸らされたのだと知ったのは、
僅か一センチの差で九死に一生を拾った後だった。
「ネルさ……ッッ!?」
生き残った。
生きていた。
自分が、彼女が。
ズズゥゥゥウウンッッ!! と、ゴーレムが重い物音を響かせながら倒れる中その事実を数秒遅れでようやく理解したユウカは、颯爽と現れたネルに礼を言おうと声を掛けようとして、それを最後まで言い切ることが出来なかった。
代わりに、ネルの状況を見て一気に顔を青ざめさせる。
彼女の左腕がブラリと力無く垂れている。
よくよく見れば歪な方向に曲がってもいる。
先の一撃、二階でユウカを庇った際、ネルは左腕で攻撃を受け止めたのだろう。
腕一本を犠牲にして、左半身のダメージを最小限に抑えた。
だがそれでもダメージは著しく、全身はボロボロで彼女の大きく傷を負ったのか頭の左側からドクドクと血が流れている。
放って置くと命の危険に繋がりかねない。
否、放って置くと間違いなく死ぬ。
「あ? なんだよ?」
なのに彼女はケロっとした表情でユウカの呼びかけに応えていた。
その目に宿る戦意は一片たりとも失われていない。
否、むしろ燃え上がっているようにすら思える。
「ネル先輩……う、うでが」
「あ? 確かに折れちゃいるが、まあその程度だ、しばらく動かねえだろうが問題ねえ」
自分の傷に関する話題をアッサリと終わらせたネルは、それよりも。と言葉を続ける。
「石くれの相手はあたしがやる。ユウカは隠れるなりさっきの男探し出すなりして来い」
お前じゃコイツを相手にするのは力不足だ。
ここに居ても邪魔だからいつの間にか消えたあの男を探せ。この短時間じゃそう遠くまで行ってないだろ。
キッパリ言い切りながらネルは生きている右手で銃を強く構え、動かない左手で力無く銃を持つ。
見ると、ゴーレムは既にゆっくりと起き上がり始めている。
再び動き出すまでもう幾許の猶予も無い。
その限られた時間の中で、ユウカは無謀にも等しい発言をするネルの説得にかかる。
あの化け物に一人で挑むなんて、死にに行くと同義ですよと。
「そ、そんな無茶です! 一人でどうにかなる相手じゃ……! それにその怪我じゃ動くだけでもっ」
「ハンデにゃ丁度いいだろ」
だがネルはユウカの説得を聞く気は微塵もないようだった。
頑なに耳を貸さないネルの様子にユウカは血の気が引いて行く。
「それに、コイツぶっ倒して終わりじゃねえだろ」
「っっ!!」
核心だった。
このゴーレムは倒さなくてはならない。
だがそれがイコール勝利ともならない。
この化け物はあの男の手によって作り出された存在。
それはつまり、どこかへ逃げた首の無い男を野放しにしている限り、ゴーレムを倒しても復活させられる恐れがあると言う事。
この化け物と二度戦う戦力は現状のミレニアムには無い。
ネルの怪我を考慮した場合勝てるとしたら一度きり。
二度目は無い。二度の戦闘は間違いなくネルの力が先に尽きる。
そうなる前にあの男をどうにかしなければならない。
そして今、それが出来るのはユウカしかいない。
それで良いのか。
それが正解なのか。
それしか道は無いのか。
考えて、考えて、考えて。
ユウカは。
「……ッッ! 十分以内に戻ります!! どうかそれまでお願いします!!」
彼女の判断が正しいと、戦線からの離脱を決めた。
戻るまでの時間制限を、己に課して。
────────────────────────
ネルとユウカが別れたと同時、ゴーレムはのっそりと起き上がり傷だらけの少女を見下ろし始める。
「ま、仕方ねえよな」
化け物を見上げながらボソリとネルは誰にともなく呟く。
言葉に込められたのは自嘲。
どこまでもどこまでも自嘲だった。
自分の身体の事は自分でも分かる。
限界だ。立っていられるのもやっと。
先の一撃で、ユウカを守る為に放った全力の蹴りで力の大部分を使い果たしたと言っても良い。
しばらくすれば回復はするのだろうが、その時間があるとはとても思えない。
出血も酷い、これでは回復速度も期待できない。
そればかりか、ある程度時間が経過したら休み続けているだけで力を浪費し始めるだろう。
それでも無理やり身体を動かして、今の自分に出せる全力を出したとして、戦える時間はきっと僅かしかない。
この状態での戦闘は、あまりに無謀すぎる。
十分間は、きっと戦えない。
だが。
「守れって言われちゃなあ」
右手で耳の後ろを掻きながらぼやくネルに悲観の色は無い。
先生に言われた。ユウカを頼むと。
彼女を守れと。
それが与えられた仕事なら、何が何でも全うする。
ご主人の期待に、どうしたって応えたい。
それは彼女の中の心の力をグングン燃やし、グツグツと湧き上がるような原動力を生み出す。
その気持ちの根源が何なのかネルは知っている。
知っていて、敢えて無視し続けている。
ハッ! と、もう一度だけ自嘲気味に笑う。
この笑いは、救いようの無い自分に向けての笑いだった。
だが、それを最後に彼女は目を細める。
右手に握る銃をゴーレムに向ける。
そのまま彼女は何時でも全力で動けるよう両足に力を込め。
「クソみてえなゴミはキッチリ掃除しねえとなあッ!!」
ご主人様の口調と自分の口癖が合わさった台詞を最後に、彼女は走りながら銃撃を始めた。
────────────────────────
首の無い男はゴーレムが破壊した校舎からそう遠くに離れた場所にはいない。
それがユウカが立てた予想だった。
最後にあの男をユウカが目撃したのは校舎の外へ放り出されている瞬間まで。
あの時、ゴーレムの自重に負けて床が崩れ落ちた時、間違いなくあの男も同じように外に放り出された。
中に取り残されたままと言う線は絶対に無い。
確実にあの男は外にいるとユウカは断言する。
校舎へ戻っている可能性も一瞬だけ考えたが、戦闘を掻い潜って侵入するのは難しいと判断しユウカはその可能性を即座に捨てた。
その上で分校がある位置、投げ出された場所を起点に土地勘で彼女は走る。
向かったのは大通り。
ここから先は入り組んでる場所が多く、身を隠すのにはうってつけ。
虱潰しに探すのは骨が折れるが、それでも可能性が高いのはここと決めて捜索を始める。
だが。
「どういうことよこれ……」
開口一番、壮絶に変わり果てた大通りの光景を見てユウカは思わずそう零した。
数多のビルに突き刺さっている弾痕。
派手に破壊されたガラス窓。
ひしゃげた信号機。
円形状に陥没したコンクリート。
ゴーレムのような明らかな大破壊ではなく、満遍なくあちらこちらが破壊されてる様子から、間違いなく数時間以内に生徒同士で戦闘があった事を示す証拠だった。
一体何をどうしたらここまで派手に暴れるようなことが起こるのか。
ミレニアムの今後が掛かった戦闘が起きている横で好き勝手に暴れるなんて……! 等と考えるユウカだったが、すぐさま意識を切り替える。
今は生徒同士のいざこざに対し小言を言う時間じゃない。
一刻も早くあの男を見つけ出して捕らえなければならない時間だ。
そう言い聞かせ、再びユウカは走り始める。
目的地は大通りを抜けた先にある路地裏。
潜伏している可能性が最も高いであろう路地裏を目指してユウカは駆け出す。
ゴゴォォォッッッッ!! と、空が光ったのと遠い場所から爆発音が轟いたのはその直後の事だった。
「な、なに今のっっ!?」
足を止めずに、ユウカは音が聞こえて来た方向に目線を向け。
ミレニアムタワーの最上階が爆発し炎上しているのを目撃した。
一機のヘリが、ミレニアムタワーの最上階を攻撃しているのを目撃した。
「ッッッッ!?」
目を見開き、ミレニアムタワーの最上階を機銃で荒らし始めたヘリがいる事の信じられ無さに、ユウカは呆気にとられる。
確か、確か最上階にはセミナーの生徒がまだいた筈。
無人では無かった筈。
動機が、一瞬で激しくなった。
どうすれば良いのか、判断に迷い始めた。
事態は急を要している。
ヘリの思惑も目的も搭乗者も不明だが、ミレニアムに攻撃を仕掛けている事だけは確か。
そして最上階を攻撃している関係上、狙いは間違いなくセミナー。
止めないと。
あれを放置し続けるのは絶対にまずい。
一刻も早く撃墜しなければセミナーの生徒に甚大な被害が出る。
直感が、そう告げる。
しかし今、ユウカはユウカにしか出来ない仕事がある。
顔の無い男の捜索と捕縛。
これも急を要する事態。
その時間を稼ぐ為ゴーレムの相手を請け負ってくれたネルだが、彼女の容態を考慮した場合戦闘可能時間は十分が限界だとユウカは推察する。
ネルを助ける為にも、一刻も早く探し出して戦線に戻らねばならない。
だがもし仮に、セミナーを助ける為に捜索を断念しヘリの撃墜に力を注ぎ始めれば。
救助の来ないネルは、やがて敗北し死ぬ。
「~~~~~~~ッッ」
最悪な状況下で完全な二者択一をユウカは迫られる。
ネルを取るか。
セミナーを取るか。
ミレニアムの今を守る為ヘリを撃墜するかか。
ミレニアムの今後を守る為顔の無い男の捜索を続けるか。
汗が止まらない。
動機が激しい。
心臓がうるさい。
どちらかを選べば、どちらかを諦める必要がある。
そんなのしたくない。
選べる訳が無い。
けど。
だけど。
でもッッ!!
「見つけました」
空間を切り裂くように静かな声が聞こえたのは、ユウカの精神が限界を迎えようとする直前の事だった。
聞いた事の無い声が聞こえた事にユウカは反射的に振り返り。
ヘイローが浮かんでいない全裸姿の少女が
「なっっ!?」
突然現れた裸の少女と、少女と
その鎧はゴーレム程巨大ではないが、それでも全長は二メートル程は誇っている。
だが真にユウカが恐ろしく思えたのはその大きさではない。
ここまで静かな空間にもかかわらず、少女が声を発するまで気付かない程に音を放たずに移動出来るスペックの凄まじさにだった。
無意識に、ユウカは声を失う。
機体はスラスター機構で動く代物なのか僅かばかり地面を浮いている。
だが何よりも目立つのが、駆動鎧に備わっている大砲を模した腕とは別の、背中から伸びる重機を思わせる二本の巨大なアーム。
そして、
知らない。
あんな物をユウカは知らない。
少なくとも、ミレニアムで見た事は無い。
同時に、最悪だと歯噛みする。
このタイミングで見ず知らずの少女が見ず知らずの兵器を引っ提げて声を掛けてくる訳が無い。
イヤでも分かる。
全裸の少女の目的はは首の無い男と同じ、真っ黒な男と同じ。
自分をどうにかしたい。
攫うか、壊すか。それとも殺すかしたい。
その為に差し向けられた刺客。
どうやら、ミレニアムに攻撃を仕掛けたのはあの男達二人だけではなかったようだった。
同時に、ここまで大規模な事を小規模な人数で仕掛け、成功寸前まで持って行かれてる事実にミレニアムの力不足を痛感する。
だが世界はユウカに悔やむ時間を与えない。
必要の無い時間を何一つ与えてはくれない。
それを彼女に教えるかのように。
手の形ではなく大砲の形をした右腕が、駆動音を放ちながら赤く輝き始める。
刹那。ユウカが咄嗟に動けたのは奇跡と言って良かった。
考えるよりも先に、身体が生存を求めて身を屈ませる。
ビッッッ!! と赤い光がユウカの頭上を横切ったのは彼女が身を伏せたすぐ後の事だった。
直後。
ジュッッッッ!!! と言う音と共にユウカの背後にあったビルが赤い光の線に沿うように溶けた。
光に触れたコンクリートは、超高熱の液体となってビルを滴り始め。爆発と共に一気にビルを燃やし尽くし始めた。
「う、うそ…………!」
常軌を逸しているレーザーの威力にユウカは戦慄する。
ビルを溶かす程の高温。
直撃すれば、一瞬で蒸発してしまうだろう。
反則にも程がある火力だった。
ガタガタと、反射的に身体が震え始める。
抑えたくても、抑えられなかった。
ゴーレムと相対していた時よりも、明確にユウカは死を感じる。
それでも、それでも生き残る為にユウカは改めて
街灯が消えていて風貌は良く見えない。
分かるのは、暗闇でも満足に動けるように暗視ゴーグルを装着しているという事。
短髪の少女であると言う事。
バチバチと静電気らしき物が迸っているという事。
最後に、見間違いでも何でも無く、ヘイローが浮かんでいないと言う事だった。
「あなた……一体……!」
思わずユウカは裸の少女に声を掛ける。
それが全ての始まりとなる。
キヴォトスに住まう少女達と、学園都市に住まう最強。
彼が、彼女達が織りなす学園物語の本当の始まりを告げる。
「戦闘を開始します。と、
地獄だ……地獄が過ぎる……。
しかしこの地獄によっていくつかの謎が解けた方もいらっしゃる筈。
同時にあれ? と新たな謎が出たかもしれませんが。それはまあ追々と言う事でここはひとつ。
二話の時からこれに関する描写やら感想でコメントを貰った時から色々と逸らかしていましたがやっとコレを書けました。ウソを言うのも苦しいよ。しんどかったよ!
さて、この作品は『一方通行』が知っている情報。『生徒』が知っている情報。そして読者が掴んでいる情報と三つに分かれています。楽しいですね。読者だけが知っている事実を登場キャラが追っていくの。
二次創作だからできる事でもありますね。先を予想していくの。
これが書けたと言う事はパヴァーヌは佳境です。
終わりに向けて加速したい所。
でもまだパヴァーヌなんですよねこれ。アビドスにパヴァーヌ後編にエデンが待ってるんですよね……あと一年半ぐらいで完結出来たら……良いな。