とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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妹達(シスターズ)

 

妹達(シスターズ)

 

学園都市にて超能力者(レベル5)を量産化させる計画として実践された、学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人、『御坂美琴』を基にして作られたクローン。それが妹達(シスターズ)

 

一体十八万円という格安の単価で製造された妹達(シスターズ)だったが、クローンは基となった御坂美琴の一%の力しか発現せず、クローンではどう足掻いてもオリジナルと同等の力を持たせることは不可能とし、超能力者製造計画は凍結、後に立ちあがった『絶対能力進化計画』に彼女達の存在は流用される事となる。

 

『絶対能力進化計画』

学園都市最強の超能力者、序列第一位『一方通行(アクセラレータ)』を絶対能力者(レベル6)へと進ませる為の実験。

 

述べ二万体の妹達(シスターズ)をあらゆる条件下で殺害する事を必要とする計画により製造された妹達(シスターズ)は、最終的に一〇〇三一体の妹達(シスターズ)が死亡した後、紆余曲折を経て実験は凍結され、生き残った九九六九体といくつかの例外は学園都市、及び全世界に散らばる事となった。

 

これが妹達(シスターズ)を取り巻く過去であり、現在。

 

なのに。

それなのに。

 

早瀬ユウカの目の前に現れた機械から伸びるチューブで局部のみ絶妙に隠されている全裸の少女は、ミサカ一四五一号と名乗った。

 

何も知らないユウカは状況の深刻さを知らない。

その名が使われた事の、異常事態を察知出来ない。

 

全ては一方通行がユウカやその他少女達に何も過去を話そうとしなかったのが原因なのだが、かといってこれについて彼を責める事は出来ないだろう。

犯した罪を考えれば、話す事を憚るのも無理は無い。

 

だが、結果的に話さなかった事でユウカは気付く機会を与えられなかった。

目の前にいる少女がどういう存在なのか知らず、ただ一人の女の子だと思った。

 

「み、みさか……せ……?」

 

困惑しながら、語られた名前を復唱する。

しようとして、何を言っていたのか忘れた。

ただ漠然と何か数字を羅列していたな、程度しか認識出来ていない。

 

何かのコードネームなのだろうかと、当たらずとも遠からずな感想を零す。

 

キヴォトスにてヘイローが無い少女を目撃する事は無い。

意識がある少女は皆、頭にヘイローを浮かべている。

だが目の前のミサカ一四五一号にヘイローは存在していない。

それは彼女が純粋なキヴォトスの住人でない事を示していると言えた。

 

「あなたも……先生と同じ『外』の人なの……?」

 

それを知識として知っているユウカは、漠然とミサカに問いかける。

 

「先生と言うのも、外というのが何なのかも存じませんが、ミサカはこの場所で作られましたよと、ミサカ一四五一号は正直に吐露します」

「?????」

 

言っている事が分からない。

作られたとは何なのか、彼女の発する言葉一つ一つがユウカにはさっぱり不明だった。

 

ミサカが語った物は少なからず妹達(シスターズ)を知っている人間が聞けば即座に激昂しそうな情報なのだが、当然ながら何も知らないユウカにはそれが今一繋がらない。

そもそもクローン技術が確立されている事を知らないユウカには、言葉の意味を見抜けない。

 

作られたという言葉は、どうしたって生まれたに変換される。

当たり前の言葉を当たり前じゃない言葉に置き換えているのだろうと。勝手に変換される。

 

きっとそれは彼女じゃなくても通る道であり、そうなって当然の結論だった。

 

「とはいえ、今は十人程度しか活動していませんがと述べつつ、ミサカ一四五一号は攻撃姿勢を取ります」

 

バチバチッッ!! と、彼女の身体から青い雷が迸り、ビルを溶かした銃口がユウカに向けられる。

明らかに戦闘態勢を見せるマシンとミサカの様子は、露骨に話は終わりである事を告げた。

 

ゴォッッッ!! と、ミサカはユウカの返事を待つ事無く、脚部のスラスターを噴射させ、ユウカの方へ接近を始める。

 

「ッッッッッ!!」

 

あまりにも噴射音の小さい移動に、先程近くまで忍び寄っていた理由はこれかと内心納得すると同時、ユウカも改めて銃を構える。

だがその表情は苦い。

敵が目前に迫る中、オーバースペックなマシンが肉薄して来ている中、彼女は引き鉄を引くことに躊躇を見せていた。

 

引いてしまえば、取り返しの付かない事になる事態に発展するのが目に見えていたからである。

 

間違いなくあのマシンは少女が操縦している。

つまり少女を仕留めてしまえばその時点でユウカの勝利が確定する。

どれだけあのマシンがオーバースペックだろうと、操っているのが何の防護策も持っていない生身の少女であるという最大の弱点がこれでもかと剥き出しになっている以上、勝ちの目は大いにあると言って良い。

だが彼女に命中した弾丸を痛いで済ませてくれるヘイローは無い。

銃弾はそのまま肉を抉り、骨を砕き血しぶきを撒き散らせる。

 

ユウカの攻撃があの少女に当たってしまえば、まず助かりはしないだろう。

その事実が、ユウカに戦闘を始める事を躊躇させる。

 

だが残された選択は無い。

いくらユウカが戸惑っていようと、あの少女はユウカに対して攻撃を仕掛ける。

 

戦わなければ、殺される。

戦えば、殺してしまう。

 

「どうすれば……ッッ!!」

 

どうする。

どうする

 

どうすればこの状況を打破出来る。

まともに戦う決断が出来ず、一瞬迷ったユウカに対して。

 

ミサカの操る生体接続ユニット。捕食者(プレデター)の背中から伸びるアームが襲い掛かる。

 

「ぁ……」

 

頭部目掛けて迫るそれを見て、ユウカは咄嗟に頭を腕で庇う。

 

ゴガンッッッッッ!! と、分厚い音が静寂な夜のミレニアムで爆発した。

 

ミレニアム大通り。

早瀬ユウカとミサカ一四五一号。

 

二人の戦闘は、ユウカの側頭部に重機のようなアームが全力で叩き付けられ、ユウカの身体が大きく吹き飛ばされる所から開幕する。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

何か周囲の空気がおかしい。

一ノ瀬アスナがそう違和感を覚え始めたのは、才羽ミドリを撃破する寸前だった。

 

ただし、何か気掛かりな事があるとして、何が喉元に引っ掛かっているのかまでは掴めない。

窓から外を見回しても、夜空が広がるだけで何も無い。

不穏な気配を察知したにしては、特に変わった感じを世界は放っていない。

それを確認した上で、漠然とアスナは不安感のような物に駆られた。

 

理由としてはそれだけ。

 

だがアスナは、それだけの理由でも心を傾ける。

今この瞬間には絶対に辿り着けないが、しかしこの思考は正しかったのだと後後に気付くような答え合わせが少し先の未来で眠っている。

 

そんな気がしてならなかった。

 

「はッ! はッッ! う、うぅ……!!」

 

うつ伏せに倒れ、満身創痍である事を隠しもせず、それでも戦う意思だけはまだ見せているミドリの姿は賞賛こそする物の、特に不思議に思う物では無い。

 

何かこの状況をひっくり返す一発逆転の策略があるようには見えず、加えてアスナはアスナ自身にしか伝わらない勘みたいな物によって、この妙な胸騒ぎはミドリが原因ではない事を結論付けた。

 

じゃあ何が原因だと誰かに問われたらそれは本当に分からない。

ただし、この胸騒ぎはあまり良くない事になりそうな予感をひしひしとアスナに伝えていた。

 

どうしよう。と、アスナは判断を迷い始める。

このまま逃げられないミドリを撃破するのは簡単だ。

タンッ! と、頭に一発撃てば終わり。

しばらく起き上がる事は無いだろう。

 

同時に、それは今この場における最適解では無いと勘が告げていた。

今この場で才羽ミドリという戦力を失う訳には行かないと、自分でも理解の及ばない第六感が任務の遂行を妨害する。

課せられた仕事は彼女の撃破の筈なのに、心の奥がそれを止めろと言って来る。

 

このような状況下に陥る事は何回かあった。

その時は大抵、心に従うと大抵良い方向に転がる。

 

よってアスナは、ミドリに向けていた銃を下ろした。

 

「……ッ!? は……ッッ!? な……ん…………っ!」

 

トドメの一撃を撃たなかった事による動揺がミドリから投げられる。

当たり前の反応だよね~とどこか他人事めいた笑顔でアスナは彼女の気持ちを理解しつつ、さてこの感覚をどう説明しようかと迷い始める。

 

個人的には何かイヤな感じがするので攻撃を止めました。で終わりなのだがそれで納得されるかは話が別。

納得しようがしなかろうがアスナの方が圧倒的に実力では上である以上、ミドリに彼女の意見を跳ね退ける力は無いので、この悩み自体特に必要の無い物である。

 

加えてアスナ自身特にキチンとした説明が出来る訳でもなく。とりあえず適当に流す感じでいこっか。と、超適当に整理を付けてミドリの方へ手を振りながら歩く。

 

 

窓ガラスを突き破り、数発のミサイルが飛来してきたのは正しくそんな時だった。

 

 

直後、アスナは信じられない程の身体能力の高さを発揮する

ミサイルが飛んで来たのを目視で確認し、それが床に着弾し爆発するまでに与えられた時間はコンマにも満たない。その刹那の時間で、彼女は今の自分が出来る最大限のパフォーマンスで近くにあった気絶しているモモイの身体をミドリがいる場所目掛けて全力で蹴り飛ばした後、ミドリを爆風から守る為に彼女の前へと躍り出る。

 

ミサイルによって視界が爆発に包まれたのは、アスナの身体がミドリに届いて直ぐの事だった。

 

耳を貫くような轟音がまずアスナの身体を貫いた。

次いで、部屋のガラスが一斉に破壊される音と共に、発声した爆発と爆風によってアスナの身体が否応なく吹き飛ばされる。

背後にいるミドリが受けていたであろう爆風を、一身に受け止めながら。

 

但し、アスナが受け止めたのは爆風まで。

その爆風によって吹き飛ばされる身体を受け止めるのは、逆にミドリの役目だった。

 

「ぐぇあぁあッッッ!?」

 

突然眼前に飛び込んできたアスナ、モモイ両名の身体と、背後の壁に容赦なく挟まれる形となったミドリから潰れた声が走る。

アスナと比較すればミドリが受けた被害は微少も良い所だが、彼女の声からは限界である事がありありと語られている。

 

それから二秒程の時間が経過した頃、熱と爆風によって多大なダメージを負った筈のアスナはしかし。

 

「あっつつつつ……! 今のは流石に死んじゃったかなって思ったよねー」

 

でもまあ終わってみればこんな物かーと、サラっと立ち上がりながらアスナは軽口を叩く。

ミサイルの威力が見掛け倒しだった。と言う訳ではないのだろうが、あの程度の攻撃ではアスナを気絶させるには明らかな威力不足。

 

部屋一帯を容赦なく吹き飛ばすミサイル程度では、アスナに大した傷を与える事は出来ない。

 

惨状を一瞥しながらアスナはさらにもう一つ軽口を叩いた後。

 

「で、あれが攻撃目標って事だね」

 

ミレニアムで見た事の無い。ヘリと呼んで良いかすら分からない戦闘ヘリコプターがミレニアムタワーの屋上付近を飛んでいるのを見て改めて武器を担ぐ。

 

同時に、自分の勘が訴えていたのはこのヘリの襲来であったことをアスナは知った。

 

二基のロケットエンジン。

機体左右にある翼が三対に分かれ、それぞれに仕込まれている機銃やらミサイルやらの物騒極まりない兵器が全てミレニアムタワーに向けられている。

 

『六枚羽』

 

ミレニアムでエンジニア部が作り上げた『二枚羽』のオリジナル。

一機二五〇億円の殺人兵器が、タワー最上階を狙う。

 

より正確には、そこに佇む才羽ミドリを。

彼女をターゲットとするように機銃を向ける。

 

そこにいるアスナやモモイごと、ミレニアムタワーごとミドリを焼き払うかのように、学園都市の科学。その最新鋭が彼女達に宣戦布告を叩き付ける。

 

まずはその手始めだと言わんばかりに。

もしくはこれで終わりだと言わんばかりに。

 

六枚羽が備える摩擦弾頭(フレイムクラッシュ)が、容赦なく彼女達目掛けて火を噴き始めた。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

ミレニアム分校の校舎の外にて、絶え間ない銃撃音が木霊する。

延々と火を噴き続ける銃弾は、全長四メートルを超えるゴーレムの頭部に綺麗に吸い込まれていく。

 

だが。

 

「コンクリートの塊の癖に効果ねえな……ッ!」

 

校舎から引き離すように走りながら、しかしゴーレムに狙われ続ける為、一定以上の距離を保って走りながら攻撃を続けるネルは、銃弾の殆どが弾かれている現状に辟易しつつもひたすらに攻撃を重ねる。

 

分厚い鋼鉄ですら数秒でスクラップに出来る筈なのに、このゴーレムにはてんで効果が無い。

 

ただ、全く無い訳では無かった。

撃ち続けている間は怯んでいる姿を見せ、攻撃の振りも僅かばかり遅くなってはいる。

撃つだけ無駄。と言う訳ではないのが余計ネルに焦燥感を与える。

 

未だボタボタと頭から溢れる様に落ちる出血量から推定するに自分に残されている時間は少ない。

こうやって満足に走っていられるのも今の内だけ。

 

もう直、動けなくなる。

短期で勝負を付けるしかないのに、どうにか出来る道がどこにもない。

 

「チッ! 手数が足りねぇ!」

 

左腕が使えない代償がジワジワとネルを蝕む。

銃が二丁使えればまだ突破口は見出せたかもしれないが、本来出せる火力の半分しか出ない今、ネルは深刻な火力不足に悩まされていた。

 

使えない物をウジウジ言っていても仕方ない。

無い物は無いで割り切るしかない。

頭では分かっているが、ジリ貧にジリ貧を迎えている戦局を見て、どうしてもそう愚痴ってしまう。

 

ボロボロに折れた左腕では、射撃時の反動を制御できない。

まず間違いなく、撃った瞬間に銃があらぬ方向に飛んで行く。

 

そこら辺に生えてる木から添え木を作り、無理やり腕を固定させてしまえば少しの間ならどうにかなるかもしれないが、一対一の戦闘中にそんな悠長な事をしていられる余裕がある訳も無い。

 

仮に達成できたとして、その状態で左腕を酷使すれば最悪二度と左腕が動かなくなる可能性だってある。

 

(先生の為なら腕一本使えなくなるぐらいどうだって良いが、それで仕留めきれねえんじゃ元も子もねえ……!)

 

結果、ネルは片腕での戦闘を強いられ続ける。

様々な要因から彼女はその選択を決断出来ず、また選択できる状況にも無い。

 

結果、ネルは徐々に追い詰められていく。

一見膠着状態に見える今の状況は、簡単にゴーレムの攻撃によってひっくり返る。

 

ネルを追うゴーレムの右腕が、大きく真上に持ち上げられた。

ピクッ。と、ネルの眉間に皺が寄る。

 

またそれか。と、内心吐き捨てながらネルは走る速度を上げる。

付かず離れず、ゴーレムが攻撃を振り回せば当たる距離から、当たらない距離へ移動を始める。

 

オォォオオッッ!! と、言う音だけで震え上がらせるような風切り音を唸らせながら、質量にして数百トンに及ぶ重量を持つ腕から放たれる、あまりに重すぎる一撃が大地を穿つ。

獲物を狙うべくして放たれたそれは、しかし素早く動く彼女の動きを捉え切れる事は出来ない。

その一撃が放たれ始めた頃には、既に彼女はその場からの逃走を終了させている。

 

しかしその余波はあまりにも彼女、美甘ネルにとって頭痛の種となり過ぎていた。

彼女目掛けて放たれた一撃は、ネルには当たらず代わりに大地を抉る。

その衝撃は地面を上下に波打たせ、簡易的な地震と言っても良い現象を引き起こしていた。

 

「うっおッッ! 鬱陶しいなクソッ!」

 

どれだけ器用に立ち回ろうがグラグラと揺れる地面に足を取られ、思った通りに動けない事に毒づく。

 

如何にミレニアム最強のネルといえど決してその能力は万能ではない。

全ての出来事につつがなく対応出来るかと言えば断じて否。

 

不安定な足場で普段通りのパフォーマンスを行える程彼女は完璧ではなかった。

転んだり手を付いたりすることこそしないものの、よろけはするし速度も落ちる。

それは何よりも機動力を武器とするネルにとっては最悪の条件と言って良かった。

 

ゴーレムの一撃一撃はネルに命中こそしない物の、その余波によって機動力と集中力、そしてユウカを庇った際に負った大怪我も相まって体力は着実に摩耗を続けている。

それに輪をかける様に頭が痛くなる出来事がこの戦闘では発生している。

 

「地面を抉ってパワーアップってか!? 笑えねえんだよそれッ!!」

 

一撃一撃を放つ度、滅茶苦茶に大地を抉る度、抉った大地をその身に吸収させ、ゴーレムはより一層身体を肥大化させていた。

 

見てくれも内容も完全に岩石やコンクリートや鉄の塊な筈なのに、まるで磁石の様に破壊した瓦礫を取り込む様は率直に言って脅威の一言だった。

 

悪い予感がネルの脳裏を過る。

もしこのまま瓦礫を吸収し続けていたら、いつか銃撃で怯む事すらしなくなるのではないかと。

仮に予想が正しかった場合、勝機が完全にゼロになる。

 

元々あるかどうかすら不明な物が、確実に無いと宣言される。

 

「ぐッッッ!!」

 

走っている反動で頭から鈍痛が走りネルの顔が歪む。

出来れば一度振り切って身体に休憩を与えたいが、それをすると二度と自分は休憩を始めた場所から起き上がれなくなるような気がしてならない。

加えてこの化け物の注意を引き付けなければ、ゴーレムは街を破壊し始める恐れもある。

何よりも、先生の所に向かう可能性だってある。

 

街は後でどうとでもなるが、先生が被害を被る事だけは絶対に阻止しなければならない。

全てを考慮した結果、ネルはここで戦闘を継続せざるを得ないと判断する。

 

しかし。

 

「……ッ! ウソだろおい!!!」

 

ネルを追いかけ、定期的に地面を殴り潰している動きを繰り返していたゴーレムが突然挙動を変えた。

全てを破壊する大腕を、右から左へ大振りに振り回し始める。

それはまるで、ネルとゴーレムの追いかけっこに終止符を打たんとするような動きだった。

 

音。そう呼んで良いのかすら分からない、空間全てにどこまでも迸るような破壊音と共にゴーレムがビルをの二階に当たる部分を薙ぎ払う

 

 

結果、ビルの二階部分は根こそぎ消失した。

 

 

壁や柱がスナック菓子のように抉れた。

窓ガラスが一斉に悲鳴を上げ、あらゆる柱がへし折れた事で天井部分があっと言う間に崩れた。

 

だが、最も危険なのはそこからだった。

ゴーレムが薙いだのはおよそ六メートル程ある六階建てビルの二階。

 

細かく飛び散り鋭利さを何倍にも増したガラス。

ネルの等身大や小指サイズといった大小さまざまなコンクリートの瓦礫。

ギラリと折れ曲がった金属棒。

その他、ゴーレムに薙ぎ払われたあらゆる備品が、全てネルに襲いかかる。

 

時速にして数百キロ。

ビルの素材全てを百にも二百にも届く飛び道具とした文字通り弾丸の膜は、逃げるネルに容赦なく文字通り必殺として降り注ぐ。

 

「クッソがッッッ!!」

 

避けられない。

目に映った情報から即座に逃げられない事を悟ったネルは立ち止まって振り返った後、顔を腕で覆う。

 

直後。

 

ゴガッッッ!! と、腹部に拳サイズのコンクリートが突き刺さった。

目に見えない程細かく破砕した無数のガラスがネルの皮膚を切り刻み始めた。

小さく砕かれたコンクリートが、銃弾のようにネルの全身を襲い始めた。

 

ゴーレムによってビルから射出されたあらゆる物体が、小柄なネルの身体を穿ち始めた。

 

「ぐ、ぎッッッッ!!」

 

拳に直撃したコンクリートから内臓を吐き出してしまいそうな程の痛みが生じ、目を見開いてネルは呻く。

だがそこに唸る時間すら与えてくれない様にガラスが飛んで来ている事に気付いた瞬間、慌てて顔と腰を丸め、両腕で首も防御範囲に入る様に体勢を変える。

そうして逃げる事も出来なくなったネル目掛けて、礫の嵐が傷口に刺さる。

 

「ッッッ! ッッッッッッ!!」

 

受け続けるしか選択肢がないネルは全身に走る痛みに耐え続ける。

だが耐えた所で嵐が終わる訳では無い。

ビルの残骸が、容赦なくネルを襲う。

 

だがそれはある時を境にして終わりを迎えた。

 

ゴシャリ。

 

「がっっっあッッッッッ!?」

 

彼女の二倍ほどの体積を持つ瓦礫が飛来し、歪な音を立ててネルを文字通り上から押し潰した。

逃げる事が出来なかったネルは、瓦礫が飛んで来ているのをただ見届ける事しか出来なかった。

 

刹那、あらゆる骨が軋む音がネルの全身から響く。

さらに数か所から折れる音が彼女の体内で迸る。

瓦礫によって押し潰された地面に、背中や全身から滲む赤がゆっくりと広がる。

三トン近い重量を持つ瓦礫に全身を押し潰されるという、今まで生きてきた中で経験した痛みとは比較する事すらおこがましい程の焼けるような痛覚に、ネルはまともに声を上げる事すら出来なかった。

 

意識を保っていられたのは、美甘ネルだからであろう。

常人なら即座に意識を飛ばしてしかるべき所を、彼女は持ち前の胆力で堪える。

 

だが、それでもそこまでだった。

 

「ぐっっっ!? ぐ、ご、あッッッ!!」

 

飛んで来た瓦礫を押し返す力は今のネルには無く、ギリギリと全身に重圧をかける三トンの壁から迸る甚大な痛みに耐える事しか出来なかった。

 

何をどうしようと身動き出来ず、ただただ意識を失うまで絶望的な重みに潰され続ける。

一種の生き地獄のような環境に叩き落とされたネルだが、その状況は結果的にでしかないが一つの幸運を呼んだ。

 

ネル目掛けて容赦なく飛んでくるその他全ての障害物が、全てネルを押し潰している瓦礫によって阻まれると言う形で。

 

飛んでくる金属棒や瓦礫が、彼女の全身を押し潰している瓦礫を僅かに削る。

 

重量に負けて押し潰されていなければ、内臓を金属棒が貫いて即死していたであろう所を、甚大な痛みと引き換えに彼女は生を得た。

 

だがそれはそれとして押し潰されている事実に違いは無い。動けない事に違いは無い。

彼女を襲っているゴーレムがいる。今すぐ行動しなければならないタイミングで動けない事に違いは無い。

 

まるでネルを甚振るかのように最悪が次々と押し掛ける。

地面が、縦に一瞬揺れた。

その揺れが、徐々に徐々に大きくなった。

 

「ッッッ!」

 

ゴーレムが近づいて来ている。

地面を力任せに粉砕する一撃を、動けない彼女目掛けて振り下ろそうとしている。

 

その一撃から、この盾は守ってくれない。

呆気なく盾ごと上から叩き潰されるだろう。

 

「クソッッ!! クソッッ」

 

先程まで自分を守っていた盾が、今度は途端にうらめしくなる。

全身に力を入れて脱出を試みるが、痛みも相まってまともに力が入ってくれない。

 

動かない左腕も使って必死に持ち上げようと抗う。

しかし。

しかし。

 

「ク、ソッッッ!!」

 

ネルは目撃した。

ゴーレムが腕を高く持ち上げたのを。

その分厚く巨大すぎる腕を容赦なく振り下ろそうとしているのを。

 

彼女を潰している瓦礫は一向に持ち上がらない。

力を入れれば入れるだけ、逆に身体が痛みに蝕まれる。

 

それでも彼女は力を込めた。

歯を食い縛り、出血も気にせず全力を出した。

限界だと訴えて来る全身の痛みを無視して、下らない言い分は物は後で聞くと、身体から発される警告を全て無視して今を打開する事にありったけを注いだ。

 

だが。

だが。

だが。

 

「ち……くっしょ…………う……がッッッ!!」

 

それでも足りなかった。

少しだけ持ち上げられているが、それが限界。

 

動き出せる程度の隙間を作り出す所までは持って行けない。

そうしている間に終わりが訪れる。

抗える時間は終わりだと告げる様に、ゴーレムの大腕が振り下ろされる。

 

「~~~~~~~~~~~ッッ!!」

 

終わる。

死ぬ。

殺される。

こんな所で。

何も、為せないで。

ご主人様を、守れないで。

 

その事実に、ネルはか細い声でクソがと小さく吐き捨てた。

自分が死ぬ事では無く、この化け物を野放しにして死ぬ申し訳なさに吐き捨てた。

 

後悔だけが募る。

力不足を呪う。

何が、何がミレニアム最強だと。

何も守れていないのに、何が最強だと。

 

ギチッッ!! と、歯を噛み潰すかの勢いで彼女は悔しさを露わにし。

最後に一つ言葉を残す。

ごめん。と。

 

 

ビシ……ビシッ……ッ! 

 

 

と、彼女の近くの地面から、何かが割れる音が聞こえたのは彼女が諦めて目を閉じた直後の事。

 

「ん、ぬぬぬぬぬぬぬっっっ!!!!」

 

次いで、ある少女のくぐもった声が、音が響いた場所から届き始めたのもその直後の事。

そして。

 

「どっっっかぁあああああああああんッッ!!」

 

瓦礫の山をおしのけて、コンクリートをぶち破って、少し前に叩きのめした少女が、天童アリスが元気いっぱいと言わんばかりに両手を突き上げ戦場に姿を表したのも、その直後の事だった。

 

 

 

 

 






戦闘シーンはいくら書いても良い。古事記にもそう書かれている。
と言う訳であっちゃこっちゃで大乱戦が起きてますね。
右に左に視点が動いてますが、同時に書くとまあ必然的にこうなるかなって。

敵もいつの間にかオーバースペックマシンやらゴーレムやらと個人の力ではどう足掻いても対処できない軍団にシフトしています。殺す気も満々。

でも好きなんですよね。一見勝てない敵に挑む構図。

そうやって全年齢的な性癖をこれでもかと出していると、ヒロインが出しちゃいけない声を出してる作品になってきましたが、まあでも登場人物の大多数が女の子だしこうなるよねって。

ヘイローとか言う普通ならまず死ぬ攻撃でも基本死なないという便利物。
これのお陰でトンデモボスの凄まじさをダメージで伝えられる。素敵。某世紀末帝王なら死んで終わっちゃう所を耐えてくれる。素敵。
でもまだ第二章なんですよね。実質的には第一章。
章が進むにつれ全ての敵が段階的に強くなる訳でもないかもしれませんが、基準にはなりますよね。今後の。

やりたい戦闘シーンはまだまだあって、ヒロインズ&ネームドVSモブ数百人&ネームドでハイ&ロー的戦闘がいつかやりたい。無双シーンはナンボ書いても良い。古事記にもそう書かれている。好きなんですよね。軍団戦と個人戦が入り混じった奴。

そしてミサカが存在しているのにどうして一方さんが能力を使えないかの説明が為されました。個体数が少ないから。だった訳なんですよね~。

だった訳なんですよねじゃないが? と思ってる方は鋭いですね。
その想像は大体合ってるので安心して下さい。この物語は基本地獄です。



そして次回なんですが、忙しさの観点で為ひょっとしたら更新が無い……かもしれません。あったとしても今回のような3視点ではなく1視点だけに絞ったミニ更新になる可能性は高いです。

出来るだけ、出来るだけ頑張りますので何卒ご了承下さい……ッ!!
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