とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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ミレニアムの超電磁砲(レールガン)

 

 

 

 

 

ミレニアムの上空で発生した一つの戦い。

数多の生徒と建造物に犠牲と被害が生じたこの戦闘は、一人の少女によって終止符が打たれた。

全てが終わったミレニアムの空は先程までの騒々しさとは一転、怖いくらいの静けさに覆われている。

その静寂の中、大金星を挙げた少女、才羽ミドリは一人空から地上へと落下していく。

 

ミドリの後頭部には、消失していた筈のヘイローが普段通りに輝いていた。

それは彼女が才羽ミドリに戻った証。

 

そして、超常の力を失った証。

 

「力……もう、入ら……ない、や……」

 

浮遊感に包まれながら意識が徐々に遠のいて行く感覚をミドリは覚える。

先程放った一撃で、気力も何もかも全部出し尽くしてしまったらしい。

 

身体に宿っていた異常な力も消え失せたこと、戦闘が終わり緊張が一気に解けたこと、幾分かダメージを受け過ぎたこと。

様々な理由が織りなす相乗効果が、ミドリの意識を奪いにかかる。

 

だがそれは想定していた未来だった。

きっと自分は全部が終わったら何も出来ず落下し地面に激突してしまう。

この傷では助からない。

落下の衝撃で、自分は死ぬ。

 

そんな未来を、彼女は先生が使っている装置を使って空高く飛んだ時から予想していた。

打破出来るような起死回生の一手がどこにも転がって無いことも。

 

エンジニア部の緊急救助ドローンは既にミレニアムタワーからの脱出時に使用された。

救助ドローンがもう残っていなかったからこそウタハは当初、ミドリにこの装置を貸すことを良しとしなかった。

それでもミドリは強行した。

 

こうなる未来が待っていると分かっていたけど、怖くなんかなかったから。

 

刹那。

空を駆ける真っ白な翼を彼女は見た。

優しい光だった。

とっても、とっても優しい光が、暖かくミドリを包む。

 

それは、願いの象徴だった。

 

「少し見ねェ間にボロボロじゃねェか……! 無茶してンじゃねェぞ……ッ!」

 

声は、ミドリを包んでいる光と同じぐらいに暖かかった。

心配する彼の声に、ミドリは言葉を返さない。

とっくの前から、その姿を見かけた瞬間から、ミドリは安心感によって意識を闇に落としかけていた。

 

背中に回された彼の腕から伝わる心地よい圧迫感が、余計に眠気を助長する。

 

ご褒美って、こう言うことを言うんだろうな。

頑張った甲斐、あったな。

ぼやけつつある頭でささやかな幸せを感じつつ、最後にそっと、想い人の表情を覗き込む。

 

「……っ」

 

嬉しさと恥ずかしさで、胸が一杯になった。

そんな顔するんだ。してくれるんだと、喜びを覚えてしまった。

 

でも。と、ミドリは彼に笑いかけようと目を細める。

不安なんて最初からなかったよと、言葉に出さず伝える。

 

(来てくれるって信じてたから、落ちるのは怖くなかったんですよ? 先生)

 

口説き文句のようなロマンチック溢れた返事はしかし、口に出す前に彼女は意識を落とす。

だがその顔は、どこまでも充足感に溢れている表情で。

 

果てしなく安心しきった表情を浮かべていた。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「ここからが本番ッ!」

 

どういう変化が起きたのか。

つい先程まで瀕死の様相だった早瀬優香が、今はありありと力がみなぎっているかのような力強い表情へと変化している。

 

気の持ちようではどうにもならない筈の大怪我を負った筈なのに、今の彼女はまるで健康体のように生き生きと肉体を操っている。

 

傍目には信じられない現象だった。

不可解。そんな単語がミサカ一四五一号の頭に浮かぶ。

 

これもヘイローがもたらす力の一環なのか。

それともただ意地を張っているだけなのか。

 

答えは、出ない。

だが時間は待ってくれない。

逡巡している間にも、優香はミサカ一四五一号に狙いを定めている。

丸腰のまま、しかし握り拳を右手で作っている。

 

「くっっっ……!」

 

どういう理由があるにせよ、空を飛んでいるのならばもう身動きはそうそう取れる訳がないと判断したミサカ一四五一号は、飛んでくる優香目掛けて捕食者(プレデター)の背中から伸びている殴打用の腕で今度こそ優香を仕留めにかかるべく、右下から左上へと全力で振り上げる。

 

この一撃に対応出来る手段は空を浮いているユウカには無い。

飛行速度から考えて、間違いなく命中する。

 

そう、確信していた。

なのに。

 

「ッッ!? ま、またしても消失を確認……と。ミサカ一四五一号は驚きを露わにしますッ……!」

 

腕は風切り音を立てるだけで、目標に命中する事はなかった。

先程まで確かに空を飛んで真っ直ぐこちらへ向かって来ていた筈の少女の姿が、再び視界からいなくなる。

 

一体何処に……と、ミサカ一四五一号が右から左へと視線を流した矢先。

 

「……なるほどね」

 

背後から何かを把握したような彼女の声が聞こえた。

反射的に視線を背後に向ければ、捕食者(プレデター)にそっと手を置き、うんうんと言葉を零す優香の姿が映る。

 

「手足を動かす感覚でコイツを操れるようにチューブで無理やり操作系統を肉体とリンクさせてるのね。てことはあくまで機械とアンタは独立してる。安心したわ。コレをぶっ壊してもチューブを引きちぎってもアンタに何の影響も無ければ痛みがフィードバックされる事態になったりもしなさそうで」

 

信じられなかった。

あり得ないと、心が告げた。

少し手を置いただけで捕食者(プレデター)の特性を見抜く。

そんな離れ業がこの世にある訳がない。

 

早瀬優香の異質さを耳にしたミサカ一四五一号の表情に、うっすらと動揺の色が現れる。

彼女は、そんなミサカ一四五一号を見て不敵な笑みを浮かべていた。

 

一体何処にそんな余裕があるのか。

立っているのすら不思議なぐらいボロボロなのに、どうしてそんなに佇まいにゆとりがあるのか。

 

分からない。

分からないからこそ、恐ろしかった。

 

その恐ろしさを払拭させたいかのように、もう一度ミサカ一四五一号は殴打用の腕を優香目掛けて振るう。

 

──だが。

 

「よっっ」

 

フワッ! と、拳が当たる直前、優香の身体が僅かに浮き上がりながら、空を滑る様に後退した。

 

馬鹿な。と、ミサカ一四五一号はとても容認できない光景に絶句する。

間違いなく先程のは跳躍ではなく、飛行。

 

おかしい。

おかしすぎる。

 

彼女の動作は説明の付かない領域にまで手を伸ばしている。

一体何をどうやれば空を自在に移動するなんて芸当が出来るのだろうか。

 

疑問はそれだけではない。

そんな化け物じみた力があるにもかかわらず、彼女は今の今までこの力を一切使用する素振りを見せていなかった。

 

使わなければならない場面は多かった筈だ。

その力を使えば楽に百ものミサイルを回避出来ていただろうし、数トンもの質量を持つ殴打用の腕に二回も全力で殴られずにも済んだだろう。

なのに彼女はこの瞬間に至るまで力をひた隠しにし、行使する気配すら漂わせていなかった。

 

何かある。と、ミサカ一四五一号は優香から発される違和感に小さく眉を寄せる。

だが、その違和感を突き詰める時間が無いのも事実だった。

 

今はとにかく、目の前の少女を無力化しなくてはならない。

その早瀬優香は後退して攻撃を回避した後、何事もなかったかのように地面に着地している。

 

「接近戦は無駄であると判断します。と、ミサカ一四五一号は戦法の変更を余儀なくされたことに僅かに舌打ちします」

 

ガコンッ。と、次の手を打つかの如く、捕食者(プレデター)前面にある数十の銃口を展開し、その照準を全て彼女合にわせる。

間髪入れず銃撃を開始し、口径五十ミリ、秒間千を超える弾丸の雨を、容赦なく彼女に降り注がせた。

 

人に向ければ一秒と経たず粉微塵になり、人間だった痕跡すら無くなる破壊の雨。

無力化するという目的の為に使用するにはあまりに殺傷力が高すぎるソレを、ミサカ一四五一号は躊躇いも無く使用した。

 

対して、優香は動かない。

諦めたのかと一瞬ミサカ一四五一号は考えたが、すぐにそれは過ちであったことを気付かされる。

 

「……悪いけど、()()()()()()()()()()()()

 

声と同時に、スッと、右手が前方に差し出された。

何を。と、思う暇は無かった。

 

変化が訪れたのは、一瞬。

 

看板。

マンホール。

鉄くず。

鉄板。

 

周囲にあったあらゆる鉄製の物が瞬時に彼女の前面に集まり、一個の集合体となり即席の盾となった。

そして。

 

ゴガガガガガッッッ!! と言う衝撃音が絶え間なく発生する。

 

捕食者(プレデター)から撃ち出した弾丸は、全て優香が作り出した盾によって阻まれた。

そればかりか、撃ち出した弾丸すら新たな盾となって次の銃弾を防ぎ始めている。

 

(まさか……)

 

銃弾を躱すでも迎撃するでもなく、様々な物体を手元に引き寄せて防御するという前代未聞の現象を目撃してしまったミサカ一四五一号は再び言葉を失う。

が、同時に、ある一つの仮説が彼女の中で浮かび上がった。

 

いや。

しかし。

そんな馬鹿なことがあるのか。

 

自問自答をミサカ一四五一号は繰り返し始める。

 

けど、現にミサカ一四五一号が立てた仮説通りの事象を優香は披露している。

加えて目の前でその事実を見せられてしまっている以上、信じない訳にはいかなかった。

 

彼女は、早瀬優香は。

磁力を用いて鉄製の物をかき集めた。

自分達と同じ超能力を行使して。

 

そしてその芸当は、どう足掻いてもミサカ一四五一号には出来ない。

 

(何故今まで行使しなかったのかは不明ですが、彼女の能力はミサカ達と同じ電撃使い(エレクトロマスター)、それもミサカ達よりも上位の能力であると、ミサカ一四五一号は推測しますッ……!)

 

ゴバッッッ!! と、続けざま無数のミサイルを発射する。

正面からの攻撃が通用しないのならば、多方面から攻撃するしかない。

 

周囲にある鉄製の物は全てかき集められている。

これ以上はもう残っていない。

ミサイルによる上空や左右からの攻撃に対する防御手段は優香には残されていない。

そう、ミサカ一四五一号は判断する。

 

結論から言うと、彼女の判断は間違っていなかった。

しかし。

 

ミサカ一四五一号は、優香の力量を悉く見誤っていた。

 

優香はミサイルが襲って来ているのを見るや否や、表情を険しい物に変えたかと思うと。

 

「ああもう! 鬱陶しいわねッッッ!!!!」

 

バリッッッッッ!!! と、全身から紫電を全方向目掛けて持続的に放ち始め、飛来してきたミサイルを全て雷撃によって破壊し始めた。

円状に展開されまるでバリアのように広がる雷。その雷に触れた途端音を立てて爆散していくミサイル。

 

目を見開いて驚く。どころの事態ではなかった。

 

あれは最早、災害レベルの何かだ。

たった一人で軍隊とやりあえてしまうような、少なくとも人が扱う力の範疇に収まっていない。

 

「な、ならばこれです。と、ミサカ一四五一号は最後の望みをこの一撃に託します」

 

捕食者(プレデター)が誇る最大火力をぶつけるべく、数多のビルを溶かした主砲を優香に向ける。

その動作に合わせる様に彼女は盾を放棄すると、バチバチと彼女の前髪から電気が一瞬放出され、弾け始める。

 

構わない。と、ミサカ一四五一号は彼女の攻撃態勢に一切臆することなく照準を合わせた。

彼女が何をしようとしているのか、能力で劣る自分には判断が付かないが、電撃如きでどうにか出来る威力では無い。

何をどうしようと、一度射出すれば彼女は回避するしか手立ては無い。

 

ビュッッッ!! と、主砲から超高熱の閃光が放たれる。

当たれば人体は焼失。その熱の前には炭を残すことすら許さない。

文字通り必殺の一撃が、優香に高速で迫る。

 

だと言うのに、彼女は避けようとする意思すら見せなかった。

ただまっすぐ右手を伸ばし、左手で右手を支える構えを見せる。

 

その一瞬後、赤の光が優香に激突し。

 

優香の右手によって全て阻まれ、霧散し始めた。

巨大な爆音と余波が周囲に撒き散らされ始める中で、優香は健在な姿を見せ続ける。

右手に生成した電撃を用いて、鋼鉄を一瞬で溶かす閃光を相殺している。

 

もう何から驚けばいいのかすら、ミサカ一四五一号には分からなかった。

 

「何なんですか……それは……と、ミサカ一四五一号は驚愕を通り越して恐怖に身を竦ませます」

 

一歩間違えれば即死だというのに、彼女は迷うことなく受け止める選択を選び、成功させた。

 

絶望。そんな言葉では計り知れない感情がミサカ一四五一号を襲う。

規格外にも、限度がある。

 

ミサカ一四五一号が可能な攻撃は電撃を一点に集約し真っ直ぐに飛ばすことのみ。

繊細なコントロールはおろか、多方面へ同時に放つような演算も彼女は会得していない。

そしてその一点のみを見ても、優香が操る雷撃に遠く及ばない。

 

それは、圧倒的な力の差が両者の間にあることを彼女に教える。

 

(彼女の能力を推定するにミサカの百倍以上の出力があります……と、ミサカ一四五一号はこの上ない絶体絶命の危機に晒され始めたことに対して撤退の意思を強めます)

 

勝てる勝てないの話ではない。

ここまで力量差があるとそれはもう勝負にすらなっていない。

 

兵装のほぼ全てが彼女によって無力化された。

効果が無いことを目の前で立証された。

 

このまま戦闘しても任務を遂行できそうにないことを察したミサカ一四五一号は即座に逃げるべきだと決断を下す。

 

アレは、立ち向かってはいけない相手だ。

少なくとも妹達(シスターズ)の手に負える敵ではない。

 

『完成品』でもない限りは。

 

ミサカ一四五一号は主砲での攻撃を取り止めると、スラスターを最大限吹かして撤退を始める。

同時、そんな彼女を追うように優香も追従を始めた。

捕食者(プレデター)を媒体として、引っ張られるように彼女も空中に飛び上がり移動を始める。

 

「磁力で自身を引き寄せてる訳ですか……これでは撒けそうにもありません。と、ミサカ一四五一号は彼女の対応力の広さに歯噛みします」

 

どんなに愚痴を零そうとも、追い付かれた瞬間早瀬優香の勝利と言う形で勝負は決まる。

泣き言を言いながらも逃げ続けるしか残された選択肢は無かった。

 

ミレニアムの外までまだ相応の距離がある中をミサカ一四五一号は空を滑る。

途中、巨大な石くれとその石くれと相対する二人の少女を見かけた。

あれは確か、未完成の樹形図(プロトダイアグラム)を運ぶ手筈になっている石くれ。

 

とっくの昔に脱出していなければならない石くれが何故まだミレニアムに存在し、重要物を抱えたまま少女と相対しているのか不明だったが、今、ミサカ一四五一号はそこに気を配る余裕は無い。

 

構わず移動を続ける中、優香が少女達目掛けて雷撃を放つのを目撃する。

その意図を見抜くことは出来なかった。

 

だが今が好機と、優香の注意が外を向いた瞬間ミサカ一四五一号は再び大量のミサイルを射出する。

 

少しでも迎撃に時間を使わせ、距離を稼げればと思った手立てはしかし、ミサイルに気付いた途端に放出された全方位攻撃の前にことごとく爆発、四散を迎えた。

 

この攻撃で稼いだ時間は、コンマ五秒も無い。

そればかりか、次はこっちの番とばかりに優香から雷の矢が飛来した。

 

「ッッ!?」

 

慌てて捕食者(プレデター)を左方向へずらす。

一瞬でも回避行動が遅れていたら直撃していた。

 

慌てて振り返れば、またしても雷の矢を生成している優香の姿が映る。

 

稼いだ時間は、今の回避で費えた。

否、それ以上の時間を浪費してしまい、むしろ距離が縮まった。

これを続けられれば、遠くない内に追いつかれる。

当然、優香もその事実に気付いていない筈が無い。

 

(どうするべきなのでしょうか……ッ! と、ミサカ一四五一号は防戦一方な状況を打開出来ない自分自身に悔しさを滲ませます)

 

己の武装での打開は不可能。

ならばミレニアムの街中に何か逃げ切れるアイデアは無いかと、飛行を続ける中で周囲を見渡す。

 

そして。

 

「あれは……っ? と、ミサカ一四五一号はとある区画を凝視します」

 

区画全体が建設中の土地として開発されているのか、建設中のビルと思わしき建造物が十、二十と立ち並ぶ区画を捉えた。

 

着手したばかりのビル。

下地がほぼ完成しているビル。

あらゆる完成度の建造物が並んでいるが、共通するのはまだ未完成と言う所。

 

剥き出しの鉄骨が、区画全体に広がっていると言う所。

 

(これなら……いけるかもしれません。と、ミサカ一四五一号は勝機を見出します)

 

優香との距離は数十メートル程。

まだ致命的な程には詰められてもいない距離。

 

これなら成功確率は高いと、ミサカ一四五一号は急遽思い付いた作戦の実行を始めた。

進む方向を左に曲げ、無理やり建設区画へと突入する。

 

どこか無慈悲な冷たさを覚える発展中の土地に足を踏み入れたミサカ一四五一号は、捕食者(プレデター)は地面に設置する寸前まで高度を下げた。

 

空を滑っているのではなく、大地を駆けていると表現しても良い程の超低空で移動するミサカ一四五一号は、区画の中腹部分まで到達するや否や、捕食者(プレデター)の主砲二問を鉄骨へと向ける。

 

「主砲の兵装を換装します……換装完了。と、ミサカ一四五一号は冷静に対応します」

 

ビッッッ!! と、時間を置かず彼女は主砲から閃光を放射する。

ただし撃ち出されたのは赤い光ではなく、波打つ青いブレードのような物だった。

主砲から放たれ始めたのは、多くのビルを燃やし尽くした熱線ではなく、窒素。

マイナス二十〇度にもなる液体窒素だった。

 

主砲の役割が、液体窒素をウォーターカッターの要領で超高圧で放射する為の装置へと切り替わる。

何も残さぬ地獄の火から、全てを切り裂く冷たい刃へと変化を遂げる。

鋼鉄を易々と切断する窒素の刃を主砲から十メートル伸ばしたミサカ一四五一号は、発生させた刃を手当たり次第に振るう。

 

右に、左に。捕食者(プレデター)を自ら回転させながら、スラスターを吹かす速度を出来る限り保ちつつ周囲一帯の鉄骨の下地となる部分を全て切り裂いて行く。

 

数秒後、鉄骨街全体が戦慄き始めた。

ミサカ一四五一号によって切り裂かれた部分を中心に、区画全体が崩れ始める。

支える物を失った鉄骨は、重力と言う名の力に従い、分厚い音を鳴らしつつ地面に引き寄せられて行く。

 

早瀬優香が鉄骨街へ足を踏み入れたのはミサカ一四五一号が下準備を整え終えたその直後。

金属が擦れ合う甲高い音を響かせて、無数の鉄骨が落下を始めたその直後だった。

 

ミサカ一四五一号が超低空で飛行を始めたのと同じタイミングで同じ高さまで降り立っていた早瀬優香を、今にも崩落する街のど真ん中にいるという危険過ぎる状況を作り上げる。

 

彼女に残された選択肢は二つ。

追跡を諦めて全力で退避するか。

それとも深追いして鉄骨の餌食になるか。

 

ミサカ一四五一号は安全を確保した上で区画を破壊した。

しかし早瀬優香はミサカ一四五一号と相応の距離が離れている現状から、どれだけ速度を上げようと崩落からは免れられない。

 

結果的に優香が取れる選択肢は一つしかなくなる。

ミサカ一四五一号の撃破を断念し、この区画から脱出する。

 

その道しか生き残れる道は残されていない。

 

だが優香は。

早瀬優香は。

 

退避すると言う選択を取らず、真っ直ぐ捕食者(プレデター)目掛けて前進を続けた。

諦める意思を、見せなかった。

 

だがそれは、ミサカ一四五一号が想定していた未来の一つでしかなかった。

ミサカ一四五一号は、彼女の行動に動揺しない。

 

淡々と静かに、彼女が誤った選択をしたその愚かさを言葉に出さず述べる。

 

(それは悪手ですよ。と、ミサカ一四五一号は命知らずな選択を取った早瀬優香の無謀さに勝ちを確信します)

 

いくら上位の電撃使い(エレクトロマスター)と言えどどうにか出来る物量では無い。

追撃を諦めて引き返さなければあっと言う間に鉄骨の下敷きになる。

 

その未来は、もう間近に迫っている。

故にミサカ一四五一号は巻き込まれない距離まで移動しつつ、壊れ行く街並みの中心にいる優香から目を離すまいと細心の注意を払った。

 

どのような形になるにせよ、あくまで諦めい選択を取った優香に訪れる未来は敗北。

自分に課された命令である、彼女の捕縛が遂行出来る。

 

そう、ミサカ一四五一号は思っていた。

直前まで。

直前までそう思っていた。

 

 

 

だが

 

 

 

「逃げの一手を選んだのに突然反撃に出る時は、相手が何か勝機を掴んだ時」

 

カツ……と、優香の靴音が強く存在を主張する。

大地を滑ることすら止め、優香はゆっくりと地面を強く踏み抜いた。

ミサカ一四五一号にわざと聞かせるように。

あえて強く踏み出したような足音が一つ、ミレニアムに響く。

数秒もすれば瞬く間に消え去るであろう、区画のど真ん中で。

 

余裕の表情を浮かべる優香が、一人佇む。

 

「私が予想した通りにアンタはこの区画を見かけた瞬間、無理やり逃げる方向を転換してまで突入し周囲に攻撃を始めた。そりゃそうよね。アンタ視点では任された仕事を達成するにはそうするしかなかったわよね」

 

けど目論見が甘いわね、と、優香は続ける。

対するミサカ一四五一号は、硬直してしまっていた。

何が起きているのか、理解が追い付かない。

ミサカ一四五一号の感覚では、今起きている事象を現実と受け止めることが出来ない。

だがその思考とは正反対に、彼女の視覚は確実に何か起こっている光景を映し出している。

 

「でもそれってさ、逆に言えばアンタが最も油断するタイミングなのよね。私がこうしてアンタの推測外の行動を取った時は特に、無策かのように突撃した場合は特に、ね」

 

言い当てられる。

まさにその通りの内容を全部、早瀬優香に言い当てられる。

彼女が鉄骨の雨の中を走って来た時、ミサカ一四五一号は足を止めた。

 

仕留められた可能性を、言い渡された仕事を完了できる可能性が生まれたから。

 

まさか、と、ミサカ一四五一号は身震いしたくなるような感覚を覚えた。

まさか彼女はこのような展開に発展することまで読んでいたとでも言うのか。

この場所を最後の決戦の地として選ぶことも、最後にどう攻撃するのかも全て読んで、その上でこちらの作戦に乗っかり、死地に飛び込んで来たとでも言うのか。

 

果たしてそれは、計算と言う単語で括られる物なのだろうか。

それ以上の、それ以上のおぞましい何かで定義される物ではないのか。

 

「私が生身であることは、銃弾一発で死ぬように身体になっているのはアンタの前で証明済み。そして手に負えない程の鉄骨で押し潰すなら電撃による防御は不可能。引き寄せようにも巻き添え事故の可能性もある。再起不能か殺すにはうってつけの、そして最後の手段としての信頼も十分な攻撃手段」

 

でも、やりようはあるわよね。

冷たく、力強い声が届く。

 

目の前に広がる現象は、それを立証していた。

 

ミサカ一四五一号は確かに鉄骨を切断した。

数十メートルの高さに組み上げられた鉄骨は、三百にも四百にも届く鉄骨は、

轟音を響かせながら全て落下し、真下にいた少女を圧し潰す筈だった。

 

なのに。

それなのに。

 

鉄骨が落ちてこない。

一本たりとも、地面に落下しない。

ビタッッッッ!!! と、落ちる寸前だった鉄骨を、落ちている途中だった鉄骨を。それら全ての性質を磁石へと変質させた早瀬優香がたった一人で、左手一本で支えている。

 

崩れ落ちるしかない街を、一人の力で食い止めている。

想像を絶する、等と言う言葉で収まる物では無かった。

 

絶句する。

何処までも人間離れの所業に、光景に、動きを止めてミサカ一四五一号は絶句する。

 

化け物を化け物以上の言葉で表現したい場合、どのような言葉を使うのが適切なのだろうか。

そんな下らない思考が、一瞬ミサカ一四五一号の頭を過る。

 

あれだけの鉄骨全てに電流を一瞬で通す。

たとえそれが可能だとして、実行に移せるのだろうか。

 

ミサカ一四五一号は実践できる能力があるならば躊躇いなく実行に移す。

何故ならそこで彼女が失敗し鉄骨に押し潰されたとしても妹達(シスターズ)としては一切問題がないからだ。

 

限り無い命。

それが彼女達妹達(シスターズ)の特徴。

死んだのならばまた作れば良い。

使い切りの、単価十八万の命。

 

だが彼女は違う。

彼女に代わりは存在しない。

 

なのに彼女は躊躇なく鉄骨の下に飛び込む道を選んだ。

追撃を諦めれば楽に助かった筈なのにあろうことか彼女は命を投げ捨てる行為を迷わず選び、あったかも疑わしい生存の道を手繰り寄せた。

常識外れにも、限度がある。

一体何が彼女をそうさせているのか。

ミサカ一四五一号は、何一つ掴めない。

 

「アンタは今、使ったら絶対ダメな兵器を使ってる……ッ!」

 

答えが、紡がれ始めた。

まるで全て見越していたかのように、彼女の口から理由が語られ始める。

 

「ソレを破壊出来るのは今、私しかいない。だからどんな無茶だろうとも破壊する……ッ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

キィーン……と、高音を走らせて優香の右手から何かが真上に弾かれる。

音に引っ張られるようにミサカ一四五一号は弾かれた物を目で追い始め。

 

(弾……丸……?)

 

銃弾が一発、真上に弾き飛ばされているのを視認した。

優香は銃を持っていない。

二丁とも、戦いの最中に手放している。

 

では、この状況であの弾丸が弾かれた意味は何なのか。

 

「ねえ、超電磁砲(レールガン)って、知ってる?」

 

答えは、彼女の言葉に眠っていた。

一転して、優しい声だった。

まずい。と、ミサカ一四五一号が思った時には既に遅く。

 

落ちて来た銃弾が、彼女の右手に収まり。

優香の指によって弾丸が再び弾かれ。

 

 

音が、消えた。

 

 

「色々と原理はあるけど、要はアリスちゃんがやってるのと、同じことを言うのよッッ! ねッッ!!!」

 

空間を支配していたあらゆる音が一瞬掻き消えた。

瞬く隙すら存在しなかった。

何が起きたのかと視認しようとした時には既に。

 

捕食者(プレデター)の右半身が、見る影もない程にバラバラに砕け散っていた。

 

「ッッッッ!?」

 

事象だけが、その映像だけが先に現出する。

ブチブチと身体を繋いでいたチューブが途切れ、ミサカ一四五一号は強制的に捕食者(プレデター)から切り離されてしまい、彼女は自然と空を舞い始める。

 

それは間違いなく、アリスと言う少女が持つ攻撃手段と同じ威力では無い。

ただただ同じ名称なだけの、もっと桁違いの何かだった。

 

「な……あ…………ッ!?」

 

放たれた超電磁砲(レールガン)の威力はそれだけでは飽き足らず、捕食者(プレデター)を貫いた勢いで、ミサカ一四五一号の背後百メートルのコンクリートに対して直径四メートルにも及ぶ溝を数十センチの深さで抉る。

 

雷が間近で落ちたような音が迸ったのはその直後。

音すらも置き去りにした一撃によって何もかもが終わった後に、轟音が響き渡る。

 

しかし、ミサカ一四五一号にとってはそこからが本番だった。

 

ゴッッッッバァアアアアンッッッ!!! と、数秒遅れでやってきた破壊音と衝撃波が、彼女を真正面から襲う。

 

「ッッッッッッッッッッッ!?!?!?!?!?」

 

対処する事は、出来なかった。

真正面から降りかかる恐ろしい衝撃に、彼女と、残骸となった捕食者(プレデター)が数十メートルもの距離をノーバウンドで吹き飛ばされ始める。

 

吹き飛ばされる最中、破壊された捕食者(プレデター)の左半身が右半身を失った影響で爆発を起こす。

二度とその兵器を用いさせないかのように、ただの鉄くずへと容赦なく変換されていく。

 

ゴッッッ!! と、攻撃手段を全て奪われたミサカ一四五一号は衝撃と風圧によって吹き飛ばされる中で、普遍的なビルに後頭部をぶつけた。

 

「~~~~~ッッッ!!」

 

グラリと、世界が揺れた。

この事故は危険だと思った時にはもう、彼女の手足は言う事を聞かなくなっていた。

 

視界が、歪む。

全身から、力が抜ける。

どうにかしたいと心が思っても、心に反して意識は急激に遠のいていく。

 

「作戦通り」

 

搭載した装備を完膚なきまでに破壊され、問答無用で身体を吹き飛ばされ、ビルに頭をぶつけ、視界が暗くなる最中、ミサカ一四五一号の耳が優香から放たれた音を拾う。

それは、どうしようもなく完敗を叩き付けられる言葉。

放たれる言葉を刻み付けられながら、彼女は意識を闇に落とす。

 

「完璧~ってね」

 

高らかに勝利宣言を掲げながら髪をかき上げる彼女の頭には、失われていた筈のヘイローが元通りに出現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












常盤台の超電磁砲(レールガン)が御坂美琴なら、ミレニアムのレールガンは天童アリスになるのでしょう。
けど超電磁砲(レールガン)はユウカがカードを用いて一時的に借りた力なので、ミレニアムの超電磁砲(レールガン)は早瀬優香になる訳です。
なるほど! ややこしい!



そんな訳でユウカ編決着です。
長い戦いでした。

決着の付け方は悩みました。
初期案ではユウカの鉄拳制裁顔面全力右パンチで決着という『とある』お馴染み光景で終わらせるつもりだったのですが、ミサカを相手にそれをやると後々ひっじょーーーーーにまずいのでは?? と言う訳で終わりは少々マイルドになりました。

これはこれで容赦を見せたユウカ。容赦の無いミサカ一四五一号。という形で対になったので良かったのではないかと思っております。


次回は残されたもう一組の戦いの決着編です。
そしてなんとか十月中にミレニアム編が終わりそうです。多分。

半年ぐらい使っちゃいましたね。おかしい、予定では三か月ぐらいで終わらせるつもりだったのに。色々と書きたい物が多く出来過ぎました。

アビドス編こそ、スマートに三か月ぐらいで……終わりたいなぁ。





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