「あなた……いや、先生、で良いんだっけ。先生は何故ここに居るの?」
その言葉は、カイザーのオートマタ兵士を撃退し、互いに簡単な自己紹介を済ませて一息付いた時に不意に彼女から飛び出た質問だった。
そこには、少なからず敵意が混じっているのを一方通行は目敏く察知する。
助けられて良かったことと、彼がここに居ることはどうやら彼女の中では別問題として切り替えられたらしい。
その顔色には間違いなく怒りの表情が隠れているのを覚えた一方通行は事実を包み隠しても無駄だと判断し。
「小鳥遊ホシノの救出依頼を受けた。だから事情は大雑把にだが把握してる」
依頼者が誰かと言う部分だけをボカした以外はありのままを伝えた。
「…………それは、一週間以上前に私達が送った書類を今見たってことで良い?」
だがここで話の食い違いが発生した。
彼女の震える声に、一方通行は眉を寄せる。
ザっと、彼女が日数を勘違いしている場合もあるなと、一週間では無く直近三週間以内のシャーレに送られてきた書類内容を全て思い返す。
検索時間はおよそ五秒。そして辿り着いた結果は、アビドスと言う文字列を見かけたことは無い。と言う結論だった。
では彼女が嘘を言っているかと言われれば、それは確実に無いと一方通行は断言する。
言う必要が無い嘘であり、仮に嘘であるならばここまで声に怒りを滲ませる理由も無い。
シャーレに書類が送ったのは事実なのだろう。
その上で一方通行は確認していない。
担当となった生徒が確認漏れをした可能性も考えたが、そもそも重要そうな物は全て一方通行に確認を取る様に命令を下しているのと、一方通行がコイツになら仕事を任せても良いと信頼している生徒にしかシャーレで手伝いを要請していないのもあって、ヒューマンエラーが発生した確率も限りなく低いと断定する。
その限りなく低いエラーが仮に発生したとして、それがよりにもよってアビドスの書類だった場合を考慮するのは流石に無理があり過ぎる。
故に一方通行は意見の食い違いが起きた原因を他に無いか探し始める。
即ち、誰かによって握り潰されたかもしれないと。
一週間前。
時期的に言えばゲヘナとトリニティとのいざこざを解決して忙殺されていた時期。
そこで細工をされたか。と、一方通行は細工を行った犯人まで纏めて突き止める。
ミレニアムで小鳥遊ホシノを救ってくれと黒服から話を受けた際、あの男は完遂させた仕事を利用されたと語っていた。
小鳥遊ホシノを拉致するまでは黒服の思惑通りに進んでいたと考えた場合、一方通行の妨害を受けない為にアビドス関連の書類を何かしらの経緯で潰し、なおかつ元々の計画が破綻し、想定された結末が大幅にズレたことから計画そのものを破棄すべく話を持って来たのだと考えれば全て辻褄が合う。
掃き溜めのようなマッチポンプだった。
つまり一方通行も小鳥遊ホシノも、そして砂狼シロコらその他のアビドス生徒達も一様に黒服、もしくはこの計画を利用した黒幕に踊らされている。
だが踊らなければ助けられない。
やっぱりあの男とは心底相いれない存在であることを再認識しつつ彼は首をイヤと横に振る。
「少なくともシャーレでは届いてねェ。事前に俺の手に渡らない様に潰されたンだろォな」
「っっ……。…………、そう」
怒りに拳が強く握られたのは一瞬。
だが、その怒りも力のぶつけ先もここにはないことに気付いて、解かれたのも一瞬だった
彼女の表情からは、むしろ書類に一週間遅れで気付き、やっと今駆けつけた。そう言ってくれた方が嬉しかったという感情がありありと浮かんでいる。
そうすれば、怒りの矛先を容赦なくぶつけられたかもしれなかったのに。
けれど、事実は彼女の願う通りでは無かった。
だからシロコは、怒りと悲しみが混じった表情のまま顔を僅かに伏せる。
「……正直、先生に今、私は良い感情を持ってない。来るのが遅すぎたし、悪びれもしてくれない。私は……先生の言葉をそのままは受け入れられない」
ひいては、一方通行自身を受け入れられない。
彼女の言葉の節々には、その意が込められていると彼は看破する。
しかしそれは彼にとって関係の無い物同然だった。
彼は小鳥遊ホシノを救う為にここに来ている。
シロコに嫌悪感を持たれたとして、彼女達と協力してホシノを救う為に動く際、嫌悪が原因で小さな影響こそ生まれるかもしれないが極論としては受け入れて良い問題だった。
「構わねェ。俺は砂狼等の安全と小鳥遊の救出を優先に動く。オマエが俺に抱く感情にどうこうは言わねェ。好きにしろ」
無理に気持ちを改める必要は無いと一方通行はハッキリと宣言する。
事前に目の届かない様に対策されてしまっていたとはいえ、彼女達は一方通行に救助要請を送った。一方通行はそれを結果論として無視してしまった。この現実はもうどう足掻いても変わらない。
もしもあの時ああしていれば。
追い詰められた人物が良く零す常套句であり、一方通行としてはあまり気の食わない文字列だが、仮に彼女達の要請を届けがあった日に受諾した場合、ホシノが拉致される未来は無かったかもしれない。
シロコの言い分は正にそれだった。
初めから来てくれれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
悔しそうに目を伏せるシロコが願うのは何も悪いことは起きなかった未来。
あったかもしれない、あり得たかもしれない未来を可能性の部分から潰したのは、他ならぬ一方通行自身だ。
もしも仮にこの話を第三者が聞いていた場合、それは違うと声を荒げて弁解しただろう。
しかしここにいるのはシロコと一方通行の二人だけ。
彼を庇おうとする者は誰もおらず、だからこそ彼はひたすらに彼らしさを振りかざす。
ともすれば危う過ぎる持論で、彼はシロコから向けられる全てを受け入れる。
敵対感情も、悪意も全部受け入れて、その上で宣言する。
小鳥遊ホシノを助けると。
「但し、協調すべき時は手を貸せ。足の引っ張り合いで小鳥遊を助けられませンでしたじゃ後味悪すぎるからな」
受け入れた上で、一方通行は何てことの無い声色でこの部分については妥協しろよと念を押す。
必要だと判断した場合は即座に指示を出すからその時は大人しく従え。
重要な局面でだけ命令を飛ばすと、一方通行はシロコにそう予め伝える。
ともすれば反発されても仕方の無い彼の物言いに対し、シロコは僅かばかり表情を柔らかくして顔を上げると。
「先生って、変わってるね」
率直に思ったであろう意見を、シロコは思った通りに口に出した。
「変わってるかどォかの基準はオマエ次第だろ。俺に聞かれても分かンねェよ」
「ん、確かにそうかも」
ピンと張りつめていた空気は、先の会話を皮切りに緩められる。
周囲に漂う雰囲気から敏感に感じ取った一方通行は、これをシロコが少なからず歩み寄りを見せた身体と判断した。
信頼は無い。
信用も薄い。
それでも、僅かだが信用は生まれた。
今はこれで十分。
「ついて来て先生、皆の所に案内する」
その証拠とばかりに、愛車にまたがったシロコは先導すると言って自転車を走らせる。
まずは第一段階クリアだな。
走り始めた彼女を追いかける為バイクのエンジンを回し、ヘルメットを被りながら彼は内心でそう言葉を紡ぐ。
唸り音と共にバイクを発進させる一方通行は、とりあえず彼女からコイツは利用価値があると判断され、次のステップへ進むのを許可されたことに人知れず胸を撫で下ろし。
同時に、こういうやり取りが後何人分やる必要があるんだと、辟易するような気持ちで嘆息した。
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自転車で先行するシロコの後ろを、一方通行がバイクで追従する。
柔らかすぎる砂が一面を覆うコンクリートの上を自転車が走る行為は、一般的に考えればバイクで後を追う一方通行が徐行に近い速度で走らなければすぐさま追い抜いてしまいそうな物だと思ってしまっても何ら不思議ではないのだが、シロコが普段からロードバイクを高い技術で乗り回しているのが手に取る様に分かる程、その走りは軽快そのものだった。
砂地を物ともせず走り、それでいてそこそこのスピードも維持し続けている。
一方通行が追い付き、追い抜いてしまう心配は今の所無さそうだった。
立ってペダルを回し続けている彼女が何処に向かっているのかは言わずもがな。
ただ、彼女を追う一方通行の表情はいつも以上に硬かった。
前を走る彼女の顔を後ろからでは窺い知ることは出来ない。
それもあってか彼は一切言葉を発さず、ただ彼女の後ろ姿だけをその目で追う。
彼の頭の中で渦巻いているのは、彼女達を取り巻いている状況が想定していた物よりも遥かに相違し過ぎていることについてだった
甘いと言われてしまえばそれまでだが、一方通行は当初小鳥遊ホシノを救出すれば全てが終わる話だと思っていた。
が、実際は想像よりも遥かに深刻だった。高校はカイザーの手に落ちているばかりか、あまつさえ一方通行に対する信頼も地の底に落ちている。
シロコが特別敵意を抱いている訳では無いだろう。
間違いなく残りのメンバーも同様かそれに近しい感情を抱えているに違いない。
彼女達に無理に好かれようとは微塵も考えていないが、思った通りに連携が取れないのは厄介だ。
それを防ぐ為にはやはり少しばかりは良好な間柄になっておくに越したことはない。
曲がりなりにも最低限の協力関係だけは構築したシロコが、残りのメンバーとの橋渡し役をこなしてくれるか次第だなと、一方通行は先行きに若干の不安を覚えつつも、とりあえず最初の一歩は順調に踏めたなと彼女の後ろ姿を適当に眺めながら考えていると。
『あ! ダメですよ先生!! 立ち漕ぎしてる生徒さんの後ろ姿は凝視しちゃダメです!!』
途端、脳内にアロナの声が響いた。
さっき誰かといる時は話しかけるなと確認を取り、前のめりで彼女から分かってますと言う語気が強い了承の言葉を受け取った筈なのだが、どうやらその約束は早速反故にされてしまったらしい。
それとも、バイクのエンジン音で小声ならば大丈夫だろうと勝手に判断されてしまったのだろうか。
いずれにせよ、こうなってしまったアロナを放置すると後々手間なので、一方通行は渋々と言った表情を隠すこともせずシロコに聞こえない範囲で口を動かし始める。
「何の話だ」
『アロナちゃんの目は誤魔化せないんですからね! もう! 先生は放って置いたらすぐエッチなことするんですから!』
何故だか彼女はとてもご立腹だった。
何で腹を立てているのかその原因について一切心当たりが無い一方通行だったが、もしやアロナはまだ自分が把握していない何かが原因で頬を膨らませ、わざわざ話しかけてきたのだろうかと勘繰る。
彼女の性格からしてその線は非常に濃厚だった。
何故だか今日も頭が痛くなるのを覚えつつ、だから何の話だと一方通行はとりあえず彼女が怒っている理由を問い質そうとする。
が。
そう言いかけた一方通行の口は理解と同時に閉ざされることになる。
路上の砂を大きく巻き上げる一陣の風が突如巻き起こり、その風に煽られるように前方を走るシロコのスカートがフワリと大きく舞い上がることによって。
「ッッ……!?」
瞬間、前を走るシロコから声が零れる。
何が起きたのかを彼女も下から吹き上げる風の感覚によって知ったのだろう。
だが立ち漕ぎをしていたシロコにそれを防御する術は無かった。
慌てて右手をハンドルから離してお尻を抑える仕草をして見せるも、もう何もかもが遅い。
『あーーー!! 見ましたね!? 今先生バッチリと見ましたね!? あの子のお尻全部見ましたね!?』
「不可抗力だろ……つゥか今更下着が見えたぐらいで嬉しくもねェンだよ俺としてはよォ」
何で目を伏せたり顔を反らしたりしないんですかとバチバチに非難してくるアロナに、小声で一方通行は抗議する。
自然発生する風を予測して目を伏せるといった芸当が出来る筈も無いのだ。
もっと言うと、例え予測したとして目を伏せると言った配慮をしようとする気すら彼には最初から無い。
そんなことに一々気を配っていたら目の置き場所が無くなってしまうからだ。
一方通行はキヴォトスにやって来てから今日までの間に、女生徒の下着を見飽きる程に目撃している。
例えば今朝のユウカが弁当作りをしている後ろ姿であったり。
例えば当番日に、どういう訳かスカートをたくし上げて起こしに来るワカモだったり。
例えば自分の隣でゲームをするモモイが胡坐をかいているのを横目で見た時だったり。
キヴォトスの常識が外れているのかそもそも異性と接する機会が皆無だったことに因んでいるのか、程度の差こそあれ、彼女達はスカートが捲れることに関しての警戒心が一律低い。
なのに生徒の殆どが短いスカートを好んで履いているせいで、目撃しない日を数えた方が早いレベルで彼は少女達が起こすミニハプニングに都度巻き込まれる日常を送っている。
その中には敢えて彼に見られるように仕組まれた物がいくつかあったりするのだが、そうする意味を何一つ理解出来ない一方通行はまさか自ら下着を見せびらかす少女達がいるとは露程も思っておらず、結果、一部の彼に思いを寄せる少女達の涙ぐましい努力は一蹴されているのが現状。
しかしこの評価は言ってしまえば一方通行の中だけの話。
たった今目の前でスカート全てが舞い上がり、純白の下着どころかお尻全てを目撃された少女にとっては先のハプニングは少し許容出来る範囲を逸脱していたらしい。
「先生……見た?」
足を止め、恥ずかしそうに頬を染めながら一方通行の方へ振り返る。
この返答次第で今後の何かが変わるなと容易に想像が付いた一方通行はさて、どうした物だろうかと考える時間に突入した。
見られて恥ずかしいのだろうと言う気持ちは分かる。
ではこの場合における適切な回答は何なのだろうか。
一つ目、見てないと嘘をつく。
それが一番丸い選択肢なのだろうが、その言い訳が通用するかどうかは別問題。
分かってて聞いていると仮定した場合、最もダメな選択になるだろう。
あまり適切な答えとは言えない、却下。
二つ目。見たと素直に吐露する。
相手も状況を理解した上での質問である線が一番高い以上、正直に答えるのは悪く無い様に思える。
ただし恥ずかしがっている相手に堂々と宣言して良いのかと言われれば疑問だった。
見られても気にする気にしないは生徒個人個人によるが、彼女は間違いなく気にする方に分類される少女だ。
敢えて嘘をつくのが正解であるかもしれない。
確証が無い以上これもあまり適切な答えとは言えない、却下。
(オイオイ、面倒な流れにならない答えがどこにもねェぞ……)
どちらを選ぼうとも不穏な結末が見え隠れしており、下手に喋れない。
言ったが最後、精神的にとても疲れる展開が起こりそうな気がしてならない。
しかし何も言わなければこの妙に苦しい時間が終わらないのも事実。
なので彼は。
「砂狼」
彼女の名前を呼び。
「そこまで急いでねェンだから立って漕ぐ必要はねェンじゃねェか」
直接的な言及は避けつつ、しかし察しろと言わんばかりの返答を投げた。
「……ん、そうする」
僅かな時間逡巡した後、サドルに座ったシロコはペダルをゆっくりと漕ぎ出す。
何事も無く進み始めた彼女を見て気まずい雰囲気はどこかへ立ち消えたなと安堵したのも束の間。
「……。えっち」
一言、一方通行に抱いているであろう感想を彼女から告げられる。
非常に不名誉な称号だった。
誤解だと否定しようにも、確固として拒否できる材料を一方通行は所持していない。
納得が行く状況ではとてもなかったが先の言葉で手打ちとしたのか、彼女が先の件に対し言及する様子はもう見せていないのを一方通行は妥協点としていく。
色々と不平はあるが余計な追及を避けれたのは幸いだったと、一方通行は無事に面倒事を切り抜けられたことに肩の力を抜く。
『えっち!!!』
「理不尽だろ……」
ただ、一部始終をしっかりと見聞きし、回避不可能だったことを知っている筈のアロナからも同じ感想が飛んで来たのに関しては流石に理不尽さを感じずにはいられなかった。
────────────────────
「もうすぐ私達の拠点が見えるよ」
先頭を走るシロコから声が掛かったのは先の騒動から十分が経過した頃だった。
拠点と言われて周囲を見渡しても、見渡す限り砂に埋もれ、崩れ落ちた廃墟だけ。
特に目ぼしい建造物は見当たらない。
どこにあるんだと、一方通行がシロコに説明を求めようとする。
「ん、着いた」
だが彼女が放った一言と、ロードバイクを停止させて降り始めた行為から、どこが拠点なのかと言う疑問は瞬く間に解凍を迎えた。
同時に、新たな疑問が湧き上がる。
どこにも拠点らしき物が見つからない。
いや、正確には目の前には確かに人の手で作られた施設自体はある。
しかしこれを拠点と呼んで良いかは甚だ疑問だった。
脳内で描いていた拠点と、現実で描写された拠点との差に珍しく一方通行の脳内が混乱する。
一瞬冗談を言っているのかと一方通行はシロコの方へ視線を移したが、既に彼女は軽やかな足取りで奥へと進んでいる。その行動には嘘や冗談は含まれていない。
正真正銘、本当に彼女は、彼女達はここを拠点にしているようだった。
一方通行が立っている場所。
シロコが彼をここまで連れてきた場所。
それは、一般的なソレと比較した場合少しばかり大きな屋外遊具施設。
即ち、公園だった。
『公園……ですね』
頭の中でアロナが呟く。
彼女も彼女で呆気に取られていたらしい。声の出し方からひしひしと戸惑っているのが確認出来る。
一方通行も同様だった。
いくら砂漠に呑まれたアビドスと言えど無事な建物が皆無な訳では無い。
探せば拠点使用に耐えうる建造物は複数件はあるだろう。
砂漠化している以上雨は基本降らないのを踏まえて屋根は必要ないとしても、公園を拠点として選ぶ特別な理由があるとは思えない。
少なくとも、一方通行は固有の利点を思い浮かべない。
であるならば理由は戦術的価値ではなくもっと別、特別この公園に思い入れを持っている等、彼女達の心理的要素が深く関係していて、ここが選ばれたのかもしれない。
それならば納得出来る話だなと、一応の決着を付けた時。
「先生、こっちだよ。二人共きっといつもの場所にいると思う」
一人で先に進んでいたシロコが振り返り、距離が離れていたことを察するや彼の方へと戻って来ながら早く来てと促す。
彼女の声に意識を現実に戻した一方通行は、適当に返事をしつつバイクから降りてシロコの後を追うように歩を進め始めた瞬間。
「待て、
どうしようもない異変を感じ、咄嗟に聞き返した。
刹那、シロコの表情が固まったのを一方通行は見逃さなかった。
「……そォいや、なンでオマエは高校の前にいたンだ? 一人で学校を取り返せる訳がねェのは自分自身分かってることだろォが」
「…………」
一方通行の質問に、シロコは目を若干逸らすだけで返答の意を示さない。
回答に困っているのか、それとも後ろめたい何かがあるのか。
自然と表情が深くなり、声色が低くなっているのを自覚するも、捻じ曲がった性格を中々修正するのは難しいのか、こうなった場合の彼は歯止めが利かない。
シロコから特定の返答が無いのも考察に組み入れながら、思考を加速させる。
この先で待っているのは二人。
それ自体が既におかしい。
アビドス高校は小鳥遊ホシノを含めた五人が在籍している高校だ。
だが現在ホシノは捕らわれの身。
従って残りの人員は四人の筈。
先の発言にシロコ自身は勘定に入っていないので、本来ならば三人が正解。
なのに彼女は二人と、口走った。
一体どういうことだ。
聞き間違いであるかどうかも含めてもう一度彼はシロコに聞き返す。
「待って下さい! そこから先は私が説明します!」
奥から大声が響いたのは、一方通行が口を開こうとした直後の出来事だった。
話しかける動作を中断し顔を僅かに上げて目線を奥の方へ向けると、シロコと同じ制服に身を包んでいる二人の少女が一方通行の方へと走って来る姿が見える。
両者とも黒髪だが、片方は肩にも掛からない程の短髪で眼鏡を掛けているいかにも普通な見た目の少女、片方は太もも付近まで伸びているツインテールと、それ以上に頭から獣耳を生やしているのが随分と目を惹くファンシーな少女だった。
「アヤネ……。セリカ……」
『眼鏡の方がアヤネさん、ツインテールの方がセリカさんですね』
走って来る二人の名前をシロコが呼び、脳内でアロナがどちらがどちらなのかを改めて捕捉する。
しかし一方通行が気になったのは別の点。
大声を出したアヤネの方ではなく、睨みつけながら掛けて来るセリカの方に彼は視線を合わせる。
彼女は、シロコ以上に敵対心を一方通行に向けていた。
シロコよりも露骨に、隠そうとする意思すら見せず。
「通信を繋いでいたので一部始終は把握してます」
二人の下へ駆け寄ったアヤネが簡潔にこれまでの経緯の説明はいらないと話し、その言葉に一方通行はセリカが露骨に苦い表情を浮かべているのにも納得した。
通信を開いていたということはシロコと彼のやり取りを彼女達は聞いていたのだろう。
結果アヤネは少なくとも協力する姿勢を崩してはいけないと判断した。
ただしセリカはシロコのように妥協点を見つけることすらおこがましい程に一方通行を信用する気持ちを持てなかった。
予想していた通り厄介な話になって来たなと、解決策を講じる必要が出来たことに一方通行は近くに寄ってからも未だ睨んでくるセリカを見ながら若干の面倒くささを覚える。
とは言え。
とは言えだ。
今はセリカよりも、気にすべき事項がある。
「聞いていたなら話は早ェ。何でここには三人しかいねェ。もう一人……十六夜ノノミはどォした」
砂狼シロコ。
奥空アヤネ。
黒見セリカ。
彼女達三人の他にももう一人、この場にはいる筈だ。
いなければならない少女がいる筈だ。
十六夜ノノミ。
アビドス高校の二年生。
彼女の所在はどこだという一方通行の問いかけに、アヤネは僅かに顔を伏せた後。
「ノノミ先輩は……昨日、ここを襲撃したカイザーの連中によって攫われました」
ゆっくりと、顛末を語り始めた。
えっちなシーンがあるということは平和なシーンである。
偉い人はいつもこう言っております。
まだまだ嵐の前の静けさですが、不穏さはずっと漂っております。
とある箱庭の一方通行は読み口を少年漫画風に仕立てているのでラストの引きは大事にしたい。
そんな事を考えているから投稿が遅れます。
そして来週は恐らくお休みです。
時間が取れません!! 無理です!! 年末は無理!!!
アビドス編は次回からが本格的に動く、かと思います。
恐らく、きっと。
感想いつもありがとうございます! 全部読ませて頂いております!!
それでは、次回更新までちょっと間が開くかもしれませんが、お待ち下されば幸いです。
では、今週発売したばかりの『とある魔術の禁書目録』創約9巻、読ませて頂きます。