とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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突拍子もない提案

 

 

「お姉さまはさー、ミサカがどれぐらいの確率でヘイローの現出に成功したか知ってる?」

 

閉じられた施設へ連日のようにやって来るミサカと一人称を名乗る少女が、今日も今日とて暇を潰したがっているのが丸わかりな声で、施設に捕らわれている一人の少女へと話しかける。

 

少女は、小鳥遊ホシノはミサカの声に俯いたまま言葉を返さない。

会話する気は毛頭無いという明確な意思表示を示すが、肝心のミサカはどこ吹く風と言わんばかりにコツコツと足音を立てて施設内を、正確にはホシノの周囲を歩きつつ一人で続きを喋り始める。

 

「今までに製造されたのが約二千二百体。その内お姉さまのDNAをミサカ達の生体組織に組み込む実験が始まるまでに製造されたのは千二百体。結果は散々。千百体が製造段階で人間もどきの姿か、人間と呼んで良いのかすら不明な状態で生成され破棄。二百体が欠陥電気《レディオノイズ》だけを発現させた状態で培養器の中で十四歳の姿になるまで無事に成長出来た」

 

けど。

と、ミサカは言葉を区切る。

 

「けど、後天的にヘイローを組み込む実験の道具として扱われ、最終的に全員が死亡。このままじゃどうにもならないってことで一時的に実験は凍結したんだけど、その後、お姉さまの力を利用出来るようになった為実験は再開、一週間足らずで、追加で千体のミサカが生み出された」

「…………、っ…………」

 

淡々とした口調で語る彼女に、ホシノは何も返さない。

ただしそれは彼女の言葉に耳を傾けないと言う意味では無い。

 

グッッと、彼女の身体が一瞬重みに引っ張られる。

命の重みに、ホシノの身体が僅かに震える。

 

小鳥遊ホシノは完全な被害者である。

ミサカが語る実験に何一つ関与しておらず、今後も協力する気などない。

 

交差個体(クロスオーバー)が語っているのはただの結果であり、ホシノは一切の介入をしていない。

 

でも。

彼女は利用された。

己の意思にかかわらず、彼女の一部を知らぬ内に使われた。

 

それからの結果を、交差個体(クロスオーバー)は紡ぎ始める。

 

「それでもやっぱり無茶な実験なのは変わらず、作られたミサカの大半は精神を崩壊して壊れて今までと同じく破棄されて行った。製造中を除いた現存するミサカの内、健康に活動しているのは僅か七体。ヘイローを宿したのは、ミサカ含めて二体だけ」

 

一五八四号が自分と同じくヘイローを宿したと彼女は言う。

彼女の説明にホシノは顔を上げぬまま、表情を一切変えぬまま、心をさらに沈める。

 

「でもミサカ一五八四号は調整中に精神に異常をきたして廃人になっちゃった。完全に使い物にならなくなった彼女だけど実験体としては成功の部類なんだってもんだから救えないよねー、今は脳だけを取り出され、プカプカと培養液の中で脳とヘイローだけの姿だけになって変な実験に使われているらしいよ。ミサカはもうミサカネットワークから既に弾かれてるから何されてるかについて詳しくは分かんないけどね」

 

ヘイローが現れて能力の出力が上がったのも考え物だよねと、何でも無さそうに彼女は話を続ける。

 

自分がどれだけ異常なことを喋っているのかも認識していないかのように、何でもなさそうに彼女は笑顔で死を説明し続ける。

 

どれだけ非人道的なことが行われているのか彼女は分かっていない。

それがどこまでもホシノには恐ろしい。

 

そう言う人種がいるのではなく、そういう風に作られたという事実を前に、彼女は吐き気を催す。

この世界に、どこまでも腐った頭を持つ破滅的天才がいることに。

どこぞの誰かのクローンを作り、自分のヘイローを移植し、あまつさえ人格形成まで成功させた。

 

これを天才と言わずして何と言うのだろう。

どれだけ終わった思考をしている奴と言わずになんと言うのだろう。

 

ギチ……。と、ホシノは僅かに歯をかみ合わせ、こみ上げる怒りを表す。

 

「と、言う訳で、ミサカは現状二千二百分の一の逸材なのだ! って、ミサカは自慢げにビシっと人差し指を立てて言い放ってみるのだ! えっへん! って、だからこの喋り方だけは本当に直したいんだってのに…………はぁぁ……!」

 

一言も返事を返さないホシノを前にして、そんなの別に知らないとばかりに好き放題に交差個体(クロスオーバー)は捲し立てる。

 

どこまでもご機嫌な彼女は、どこまでも純真無垢だった。

透き通る程に、裏表が無かった。

 

そう言う風に彼女は作られている。

疑いを持たない様に製造されている。

 

彼女はどこまでも道化のようだった。

二千体以上ものクローンを犠牲にして生み出した彼女を使って、何かをするつもりなのは明らかなのに、当の本人である彼女は僅かたりともそれを察知しない。

 

何か、出来ることは無いのか。

囚われ、身動きできない自分でも何か。

 

彼女を救う、いや、水面下で企てられているであろう何かを妨害できることは出来ないか。

 

楽し気に語る彼女とこのような状況ながらも数日間接し続けてしまったホシノの心に、身勝手な情が芽生えているのを彼女は自覚する。

 

瞬間、全てを失い自暴自棄となっていたホシノの目に。

確かな光が、宿り始めようとしていた。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

「じゃあ、ノノミはカイザーのオークションに出品される可能性がある?」

「むしろ高いな。今日の襲撃もオマエ等を次の商品にする為の確保行動だったろォしよォ」

 

バイクでゲヘナに向かう道中、一方通行はゲヘナでオークションが行われてそこに十六夜ノノミが出品されているであろうことと、ついでにカイザーが今日も襲撃してきた理由を後ろに乗っているシロコに説明していた。

 

思えば先の襲撃はアビドス勢力に向けるには過剰戦力にも程がある物だった。

彼女達にもう戦う力が残って無いのはノノミを攫った戦闘で明らかになっており、あそこまで戦力を引っ張り出さなくとも圧殺出来たに違いない。

 

その上で念入りに叩き潰さんとしていたのは、なるべく彼女達を無傷の状態で無力化させたかった為だと一方通行は考えていた。

 

無論、その計画は彼の手によって一方的に叩き潰した訳だが。

 

「どうやってノノミを取り返すの? 場所も開催時刻も私達は知らないけど」

「心当たりはある。時刻についても問題ねェ。ただ、取り返す手段については考える必要があるな」

 

オークションがあることをアロナは一方通行に教えた。ということはどの場所で、どの時間で行われるか大方の目星がついているということになる。なのでゲヘナに到着して下らない探偵ごっこに興じる必要は無い。

 

なので彼が懸念していたのはその先、どうやってノノミを取り返すかについてだった。

 

オークション会場に殴り込みをかけるのが最も手っ取り早い方法ではあるし、少なからず戦闘が発生するのを想定してシロコを連れて来ている訳だが、だからと言って無暗に暴れ回るのは得策では無い。

戦闘の最中にカイザーがノノミを連れてどこかへ逃げられる恐れもあれば、手当たり次第に喧嘩を吹っ掛けたせいで戦力差を覆せずシロコが返り討ちに会う可能性も否定できない。

 

まず間違いなく屋内で行われるであろうオークション会場では『白い翼』を使う訳にもいかず、一方通行単独では戦況をひっくり返せないのも相まって、銃撃戦を行うにしても状況は選ぶ必要があった。

 

であるならば、別の手段を講じるのも一つの手ではあるのだが、ここで一つ問題が発生する。

 

「単純に金で買うって選択肢が少し前まではあったンだが、生憎手持ちは二日ほど前にゴッソリと消えた。残り数百万ぐらいじゃ流石に女一人を買うのは難しいだろォな」

 

オークションで彼女が出品されるのならばそれを大金で購入するのが一番無難で確実な方法だ。

しかし彼はその手段に打って出られない。

 

原因は先日ミレニアムで発生した大規模戦闘において生じた一兆を超える損害額。

それを少しでもと補填するべく、彼はポケットマネーで蓄えていた資産の殆どを投げ出した。

 

貯金のほぼ全てをミレニアムの修繕費用に叩き込んだ結果、手元に残ったのはせめてこれぐらいは持ってて下さい! 一文無しだけはダメです! と、ユウカに突き返された数百万だけ。

 

流石にこの程度の少額ではノノミを買い戻すことは出来ない。

なので、無難とは程遠い別の手段を考える必要が生じていた。

 

「消えたって、どれぐらい使ったの先生」

「…………。七百億」

「………………」

 

金額を問われ少し考えた一方通行は、別に隠す必要はどこにもないかとユウカに渡した金額を告げた。

瞬間、何故だか冷ややかな視線が投げられている雰囲気が背後にいるシロコから迸り。

 

「先生って、金遣いが荒い?」

 

ある意味ごもっともな言葉が一方通行の背中を貫いた。

事情を話していない以上仕方ないが、結果だけを聞けば金遣いがおかしい人間に他ならない。

 

それでもミレニアムの惨状を鑑みれば支援する以外に選択肢は無かった。

渡した金額自体は莫大だが、被害額を考えると本当にはした金にしかならない。

 

しかし当然そんな事情をシロコは知らない。

よって彼女が一方通行に抱く印象は悪化の道を辿って行く。

 

それだけの金を少しでも節約してくれてればスマートに解決出来たのに。という視線が彼の背中を貫く。

今日まで一方通行とシロコの交流はなかった以上それはシロコの独りよがりに等しい物ではあったが、一方通行はその感情を無下にしない。

 

「心配すンな、何とかする」

 

なので、少しだけ申し訳なさそうな声色で彼女を宥める方向に走った。

方法も何も定まっていないが、こういう以外に今は場を収める方法が無い。

 

「別に何も怒ってない」

「そォかよ……」

 

声が語ってるんだよと言う言葉を飲み込みながら、一方通行はアクセルを吹かし一直線にゲヘナを目指す。

そこには、どうにもこの空気から解放されたいと言う悲しい思いが僅かに含まれていた。

 

「で? オマエはどォしてアビドス高校の前にいやがったンだ?」

 

苦し紛れも混じりつつ、先程は聞きそびれた内容を改めて一方通行は問い始める。

アビドス高校の付近で一方通行はシロコに助けられた。

 

しかしそれはよくよく考えればおかしい。

彼女があそこにいる理由が何一つないからである。

 

ノノミがいないことはドローンで確認済み。

ホシノもいないことも認知済み。

 

重機の音が聞こえていた事から学校を崩され始めているのは一方通行も察しているが、それはそれとして単独で向かう程の価値は無いように思えた。

 

居場所を守る為の行動にしては、些か無謀が過ぎる。

学校を取り返したいという気持ちは肯定こそ出来るが、そのタイミングは決して『今』ではない。

なのでもしかしたらそれ以外の目的があったのかと一方通行は聞いてみるが。

 

「学校を取り返すつもりだった」

 

回答は愚直すぎる程に真っ直ぐな物だった。

弾薬も尽きている中、迎撃すらおぼついていないのに襲撃が成功する訳が無い。

 

頭が足りていないにも程がある発言だが、シロコの声には本気が混じっている。

彼女が馬鹿ではないのは雰囲気で分かる。なのに彼女は自分の行動に迷いが無い。

 

まるで絶対に奪い返せると言う自信があったかのような声色だった。

 

「根拠でもあンのか。俺にはオマエがアビドスに突撃した後、十六夜と同じようにゲヘナ商品として出品される未来しか見えねェが」

「三日ぐらい前に見つけた切り札がある。根拠も自信も無いけど、どうにか出来るって確信だけはあった」

 

先生が来たから、一旦先送りにしたけど。

そう言いながらシロコは制服の中に手を突っ込んでガサゴソと何かを取り出した後、これ。と、言葉を付け加えて『切り札』と先程評した物を一方通行に見せつけた。

 

「ンだそりゃ……? ボロボロだが……カードか……?」

「ん、これを校内での戦闘中に握り潰すつもりだった」

「握り潰してどォなるンだ」

「分からない」

「……はァ?」

 

カードを再び懐に戻しながらシロコは一方通行が理解できない言葉を並べる。

 

要領を得ないにも程がある内容だった。

錆びたカードをどう使えば戦闘に役立つのだろうか。

 

カードだというのに使い方もスキャンするとかではなく握り潰そうとしている時点でおかしいし、その際に発生する効果に関しては彼女自身説明が付かないと来た。

 

何一つシロコ本人が分かっていないのに、それでどうしてコレを握り潰せば戦況がひっくり返ると言う冗談みたいな話をさも根拠があるかのように語れるのだろうか。

 

「握り潰しても崩れ落ちるだけだろォが」

「私もそう思う。これを使った後何が起こるか私にも分からない、けど分かる。これを使えばきっと、どうにかなってたって事が」

 

学校も、ホシノも、ノノミも。

何もかも全部どうにか出来たと、夢物語にも近しい物を彼女は自身あり気に一方通行に語る。

 

下らないと一蹴しようにも彼女の声には絶対に近しい自信が溢れていた。

使用した際に発生する効果も何も、把握していないと言うのに。

 

現実が見えていない訳ではない。

自暴自棄になり、幻覚に囚われた訳ではない。

 

彼女は努めて冷静で、今を見据えて行動を取っている。

だからこそ、謎になる。

あまりにもファンタジーが過ぎる、その発言に。

 

「多分、裏面に六って書かれた数字が、そうさせているんだと思う」

「いや、益々分からねェよ…………」

 

シロコ自身にも詳細が分からない物が多すぎるのもあってこれ以上詳しく聞いても余計頭が混乱するだけだとした一方通行は一端ここで話題を区切ることにした。

 

錆びたカード。

裏に書かれた数字。

 

この二つだけでは推理しようが無い。

 

(頭の中で一応留めておくか)

 

前方には既にゲヘナの風景が広がり始めている。

色々と話している間に、到着間際まで距離を詰めていたらしい。

 

ゲヘナに到着してからもやるべきことは色々ある。

今は一端思考を切り替えるかとシロコへの追及を切り上げ、バイクの速度を上げた。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

『アロナちゃんが調べた限りではオークション会場はこの地点にある建物の地下。今から二時間後に行われると思います』

 

アロナからの連絡が脳内に届いたのは、ゲヘナに到着してバイクから降りた直後、人の少ない所で小休止を取っていた時のことだった。

現在シロコは一方通行と少し離れた所でゲヘナの自販機から買ったドリンクを煽っている真っ最中。アロナが話しかけて来たタイミングはベストと言える。

 

場所はおろか開催時間までも探し当てた辺り、流石は電子世界の住人と言った所だろうか。

いささか幼稚すぎなのと喋り過ぎな気もしないでもないが、そこら辺は妥協すべき所なのだろう。

それにしても。と、一方通行は言葉を放つ。

 

「ハッキング能力も優れてるとは思わなかったなァ。割とセキュリティは厳重だったろォによォ」

『意外となんでも出来るアロナちゃんです! あの程度はお茶の子さいさいです!』

 

スーパーアロナと呼んでくれても良いですよ! 等と言う声まで飛び出す始末だった。

仕事が出来るのは分かったからもう少し声を抑えて欲しいと切に一方通行は願う。

 

彼女の声は頭に直接響くので小さい声でも十分聞き届けられるようになっており、アロナもそれを理解している筈なのだがテンションが上がった彼女の声はそんなの知ったこっちゃないとばかりにとても大きい物として一方通行の耳に届く。どうやらそういうタイプの性格らしい。

何回か注意を促してみたが一向に改善する兆しは無く、それはどこか懐かしさすら覚えてしまう程のデジャブを一方通行に与え続けていた。

 

『シッテムの箱にあるマップ機能に座標は既に打ち込み済みです。なんとすぐわかる様にピンまで差しちゃいました! これはとっても有能ですね!』

「本当良く喋るようになったなァ……まあ良いけどよォ」

 

えっへんどうですアロナちゃんは凄いでしょう! と胸を張って褒められ待ちの声だけはスルーしつつ、一方通行は『シッテムの箱』を取り出し、マップ機能を展開する。

 

どうやら距離的にもそこまで遠くは無いらしい。

残された猶予は二時間。

余裕はそれなりにあるように見えて、これからの動きを見据えるとそこまでゆっくりもしてられないかと、

シロコの方に視線を移し、杖の音を響かせて近づいて行く。

 

「砂狼、場所と時間が割れた。作戦を詰めるぞ」

「ん、分かった。それにしても早いね先生」

「頼れるアテがあンだよ」

 

途端、きゃーーーもう先生ったら褒め上手なんですからーー!! 、と脳にやかましく響く歓喜の声が走るが表情に出さずにそれをやり過ごすと、行くぞ。と、先導をするべく一方通行が前を歩く。

 

「バイクで移動しないの?」

「あまり俺が近くにいるのを悟られるのはまずいだろ。脱出するまでバイクは使わねェ」

 

仮に潜入作戦中にカイザーがバイクを見つけてしまった場合、押収もしくは破壊する恐れがある。

逃げ足をバイクに頼っている関係上、移動手段の確保は優先順位が非常に高い。

 

多少不便でも、ゲヘナを脱出する際にバイクがある所まで移動するという無駄な時間を生んでしまうとしても、ここは隠しておくべきだろう。

 

そんなことよりと、一方通行は会場までの道のりを歩きながら懸念事項をシロコと共有し始める。

 

「オークション会場に堂々と入り込みてェが、門前払いをされた挙句オマケに警備が厳重になるで終わるだろォからな……まずはそこから考えなくちゃならねェ」

 

『シッテムの箱』が映す目的地を見つめながら忌々しげにそう吐き捨てる。

 

嬉しくもなんともない事実だが、一方通行の存在はカイザーに大々的に認知されている。

今更服装を変えた所で顔が割れている以上面倒事に発展するのは見えている結果と言えた。

 

どう転んでも、歓迎はされないだろう。

むしろその場で戦闘に入っても何ら不思議ではない。

 

ではシロコのみを潜入させるかと言われればそれは一方通行が許可したくない。

無いとは思いたいが、最悪彼女がその場で捕らえられ商品として出品される可能性もある。

シロコが無謀に等しい行動を取る恐れも否定できない以上、どうしても一人で行かせる選択肢は無い。

 

「じゃあどうするの先生」

「十六夜の出品はどう見てもメインイベント、出品されるタイミングは間違いなくラスト付近。そこを見計らって強引に突入して暴れるっつゥのが頭の中にある有効策の一つだ。それなら十六夜もオークション会場にいるだろォから容易に奪える。が、成功条件に不安定要素が多すぎる」

 

ノノミのオークションが始まるのはラスト付近と彼はシロコに言ってみせるが、確実とは決して言えない。

どこまでも過去の経験から来る推測の域を超えない。

 

もっと早く出品される未来もあれば、一旦オークションを終えて、一般参加者を退出させてから、改めて彼女のみを対象としたオークションが始まる結末だって何一つ否定できない。

 

ノノミが出品されるタイミングを外からは推察できない以上全てが勘で動くことになる。

タイミングが少しでも早いと襲撃が来たと彼女を連れて逃走される恐れもあるし、遅いと既にノノミを購入した奴がカイザーに誘導されてコッソリと会場を脱出している懸念もある。

 

出来ればもっと確実性のある作戦を立てたいが、そう上手く行く話が都合よく転がっていないのも事実だ。

 

「参加者の一人を脅して十六夜を買わせるのも考えたが、まず情報収集して参加者を探すことから始める必要があるし、買えるだけの金を持ってない場合もある。これも得策とは言えねェ」

 

それに何より他者の意志に成功の可否を託すことになる。一方通行はそこに一切の信用を置いていない。

よって、可能な限りこの策は取りたくはない。

 

「今から殴り込みに行くのは?」

「十六夜がどこにいるか分からねェのに地下施設を探しまくるのか? 連れて逃げて下さいと言ってるよォな物だろ」

 

携帯を開き時間を確認する。

アロナが言うオークション開催まであと二時間。

 

まだまだ高い警戒であろうこのタイミングで殴り込みに行くのはあまりに分が悪い。

相手も馬鹿ではない。十六夜を取り返そうとアビドス陣営が躍起になっているのは当然予測の範疇だろう。

 

その中で襲撃が起きた時、咄嗟に逃げる用意をしていない筈が無い。

ここでノノミを奪い損ねて、状況を振り出し以下に戻るのは何としても避けたい。

 

「じゃあ終了後、ノノミを連れてる奴を叩くのは?」

「この会場から堂々と出る確率は低い。それを読ンで裏道を潰すにしてもゲヘナは逃げ道が豊富に作られている特殊な地域だ。ハッキリ言って現実的じゃねェ」

 

カイザーが保有する土地もあるだろうにわざわざゲヘナを会場に選んでいるのは有事の際のリスクを極限まで減らす為なのだろう。もしくは、カイザーだけでなく参加者の保護も踏まえているのかもしれない。

 

ゲヘナの街並みは校風と風紀委員の強さがそうさせているのか、逃げる、隠れることに関する環境構築は他学校の一つ上を行っている。

オークション会場から繋がる逃げ道を潰そうにも二つ三つでは済まないレベルであろうことは想像に難く無く、二時間程度の猶予と人員が二人では逃走ルートを事前に全て抑えると言う芸当は不可能に近い。

 

全てが終わった後を叩くという背水の陣は、上手く機能するとはとても思えない。

 

だが。どれかは決めなくてはならない。

却下却下ばかりでは、何も先に進まない。

どれもこれも最善策とは決して言えないが、成功率が高そうな作戦を強いて上げるなら、もう一つしか無い。

 

「砂狼からすりゃ不安だろォが、ラスト付近。十六夜が出品されているであろう時間を予測してそこを一気に突入して叩く。それが最も成功率が高ェ方法だと俺はおも──」

「ん、いい方法を思いついた」

 

コンッ。と、左手の掌に右拳を乗せながらシロコは軽快な声を上げた。

妙案を思い浮かべたらしい彼女の次の言葉を聞くべく一方通行は耳を傾け。

そして。

 

 

 

「先生は今から女装をするべき」

 

 

 

真剣な表情でトンデモない言葉をシロコは滑らせた。

 

「…………はァっっ!?!?」

 

心の底から理解不能な発言に、一方通行は滅多に見せることの無い動揺を多分に含んだ大声で慌てふためく。

 

「目立つなら先生じゃない見た目になってしまえば良い。会場の中からならノノミが出品されるタイミングが確実に分かる。うん、これで行こう先生」

 

中に先生がいるならば的確なタイミングで会場の外にいる私に突入する指示を送れる。

彼女なりの完璧な理論を展開するシロコはしかし、これ以外に確実性のある作戦は無いとして強引に彼の手を掴み、煌びやかな衣装が目を惹く女性向けの店に彼を引き込み始める。

 

一切の議論の余地を一方通行には与えられなかった。

強引に腕を絡め取られ、無残にも引っ張られていく様子はどこまでも哀愁を誘う。

力が強い、勢いも強い。と言うか目が若干輝いている。

 

仕方ないと言葉を並べつつ若干楽しんでいる節があるのを一方通行は目敏く察知するが、ちょっと待てと言いつつ放とうとした反論はシロコの圧に呑まれ、一言も発せないまま封殺されていく。

 

「ついて来て。あっちに良いブティックがあった」

 

一方通行は思い知る。

いかに金銭的及び精神的余裕の無いアビドスにいるシロコだとしても、そこの内面にあるのは年頃の少女そのものであるということを。

 

テンションが上がっている少女に対して何を言っても、無駄となってしまうであろうことを。

 

一方通行は、直に心の底から痛感することになる。

 

オークション開始まで残り二時間。

一方通行とシロコの二名は、戦闘準備そっちのけでブティックでのお買い物お楽しみタイムに突入しようとしていた。

 

無論一方通行は特に楽しんでおらず、主に熱を上げているのはシロコだけだというのは、特別詳細に語るまでも無い。










更新頻度は遅くなってますが展開は早いアビドス編です。
夏コミに向けて合同の主催をすることになったので間違いなく忙殺される未来が決定しました。

その割を食うのがここだったりします……でもなるべく更新しますので……!


次回本編は…………一度やりたかったものをやります。
そうとしか言えません!!!



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