とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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オークション会場の戦い

 

 

シロコの携帯に通信が入ったのはほんの一瞬。

内容も何も無い、ただワンコールにも満たない時間だけ携帯から音が放たれた。

 

誰から送られてきたのかを、シロコは確認しない。

間違いなく先の音は一方通行先生からだと確信する。

ただし、疑問には思った。

 

連絡が送られてきたのがあまりに早すぎる。

まだ施設に突入してから十分と経過していない。

 

予想よりもかなり早い連絡に少し、ほんの少しだけ疑問に思うシロコだったが、その決断は早かった。

 

「行こう」

 

呼ばれた以上は動く以外に自分に残された選択肢は無い。

現場にいる先生の判断が何より正しいとして、銃を手に持ち、最後にいつでも撃てる状態であることを確認したシロコは、左手で銃を背中に担ぎ一直線に施設へと突入する。

 

『出来る限りエレベーターは利用するな。閉じ込められる可能性がある』

 

先生が残したアドバイス通り、施設に足を踏み入れたシロコは一瞬周囲を見渡し、エレベーターと地下へと続く階段の二つを見つけ、迷わず階段がある場所へ身体を動かし始める。

 

その、矢先。

 

「ああちょっと、お待ちくださいそこの学生さん」

「っっ!?」

 

向かおうとした階段がある廊下から人型のロボットが二機姿を現し、急いでいるシロコに声を掛けた。

 

見張り。

瞬間的にシロコは察する。

同時に、当然かと自身を納得させた。

 

こんなきな臭い場所で、見張りの一人も立てていない方がおかしいに違いないのだから。

 

「ここは生徒立ち入り禁止の場です。どうかお引き取りを」

 

やんわりとした口調で、しかし固い意志を隠すことなくロボットはシロコを静止しにかかる。

ご丁寧にもシロコの進行を邪魔するように階段の前に陣取って、ロボット達はシロコと相対した。

呼び止められたシロコは眉一つ上げず、さてどうするべきかと頭を回し始める。

 

「少し前に一人、学生が入って行ったのを目撃した。なら私にもオークションに参加する権利はある筈」

「生徒? 見ませんでしたよそんな人」

「ええ、それにここではオークションなんて開かれておりません。ただの建設会社です。ここでは業務が行われているだけです」

 

ロボット達から白々しい嘘が立て続けにシロコに降りかかる。

当然、全てを知っている彼女にとってそれは何の説得にもならない。

 

むしろ、ロボット達の対応はある判断を彼女に下させた。

 

これ以上は何を言っても無駄。

時間も惜しい。

ここで無駄な時を過ごしている場合では無い。

早急的な解決を施す必要があると、そう決断を下したシロコはロボット達に見えない様に右拳を強く握る。

 

そして、予備動作無しで向かって右側にいるロボットの顎と思わしき部分に裏拳を叩き込み、返す動作でもう一機のロボットの顔面目掛けて全力の右ストレートを放った。

 

「ふ……ッ!」

 

刹那、二発の重い打撃音がシロコの両側から響き、ロボットの顔面を構成している液晶の何かが破砕する音と、ロボットの胴体が無慈悲に壁に叩きつけられる音が連鎖的に発生する。

 

壁に叩きつけられたロボットは、二機とも動かなかった。

呻き声すら放つこともなくシロコの一撃によって機能を停止させられていた。

 

完全に動く気配がないことを確認したシロコは、障害を取り除けた安堵と、同時に早速暴れてしまった事実にほんの少し後悔するように息を吐く。

 

監視カメラとかで見られて騒ぎにならないと良いけど。

心の中でシロコは願うが、世の中はそこまで甘くないことを彼女は知る。

 

ビーーーーーーーーッッッ!! と、突然、けたたましい警報音が鳴り響いた。

 

あまりにも的確すぎるタイミングに、シロコは火災報知機を誰かが押してしまったのだろうという現実逃避する時間すら与えられなかった。

 

「あー……」

 

完全に先のやりとりは監視カメラで見られていたらしいと、シロコが察するには十分だった。

でなければここまで早い対応がされる筈が無い。

 

やっぱり流石に衝動に身を任せ過ぎた行動だったかもしれないと今になってシロコは思い始める物の、自分でいざこざの火蓋を切ってしまった以上ここで迷うのは時間のロスでしかないと彼女は意識を前に向ける。

 

「急ごう、ノノミが待ってる」

 

今は、ノノミの救出が先だ。

その為にも、一刻も早く先生がいる場所に向かわなければ。

 

背中に担いでいた銃を両手で構え、階段からやってくるであろうドローンやロボット兵達への迎撃準備を整えつつシロコは軽やかな足取りで階段を降り始める。

 

「いたぞ!!」

 

だが、彼女の意思を嘲笑うかのように早速階段下から声が聞こえ、いくつもの足音が響き渡る。

警報が鳴ったとしても早すぎる兵士の登場に、流石にシロコは顔を険しくさせた。

 

いくらなんでも対応が早すぎる。

これはもう、警備兵が倒されたのをカメラが目撃したから襲って来たのではない。

この施設に足を踏み入れた段階から既にマークされ、排除に向けて動かれていたのだとシロコは知る。

 

「邪魔……ッ!」

 

進軍の邪魔をするロボット兵士を蹴散らすべく、アサルトライフルの銃口を下層に向けて乱射する。

相手とシロコとの力の差は歴然だったのか、シロコは特に苦戦することなく第一陣を掃討することに成功し、歩みを進めるシロコは地下一階、そして地下二階へと辿り着く。

 

しかし、心を落ち着かせている余裕はシロコに与えられることは無かった。

再びシロコがいる場所よりも下のフロアから足音が聞こえ始める。

それだけでなく、今彼女が降りて来た上のフロアからも、複数の足音が響いて来るのをシロコの耳は拾った。

 

「エレベーターを利用して挟み撃ち……!?」

 

足音は地下一階のさらに上、地上一階部分から聞こえて来ているとシロコの耳は訴えていた。

面倒だ。と、素直にシロコは皺を寄せる。

 

間違いなく下のフロアから襲って来る相手を倒すまでの間に、上からやってくる兵士はシロコがいる場所へ到着してしまう。

 

仮に相手取るのは面倒だと逃げる選択肢をシロコが取ったとしても、それはオークション会場に兵士を引き連れて現れることと同義である。

そして、会場には銃弾が当たれば死んでしまう、ヘイローを持っていない存在。先生がいるのをシロコは忘れていない。

 

先のアビドスでは未知の白い翼によって百体ものオートマタ兵士を撃破した彼だが、あの力をここで使ってしまえば全員が地下で生き埋めになってしまうのは確実。

 

決して被弾させてはいけない、言ってしまえばお荷物でしかない先生を庇いながら追って来た連中をオークション会場で撃破するのはあまりにも無意味な行為だと考えたこともあってなのか、彼の力を頼り、会場まで逃げの一手を取る道は、自動的にシロコの選択肢から外されてしまっていた。

 

引き延ばしにするのではなく明らかに今、ここで戦闘して双方とも撃破しておいた方が精神面でも得だと、一旦シロコは足を止め、上と下、両方から迫りくるオートマタを迎え撃つ準備を始める。

 

「仕方ない。やろうか」

 

こんなことに時間を使っている場合では無いのにと内心で愚痴りつつ、まずは下から来るのを片付けるかと銃口を下層に向ける。

 

シロコは気付かない。

オートマタ兵士達の目的がシロコの迎撃では無く、会場に到着させるのを一秒でも遅らせる時間稼ぎの為の戦闘だということに、状況に焦らされているシロコは気付けなかった。

 

加えて。

戦闘と時間に追われるという二重苦による緊張状態に陥っていたシロコは辿り着けなかった。

 

どうしてここまで過剰に生徒がやってくるという事態に気を配っているのに、何故生徒の姿で変装していた

先生は無事に会場まで辿り着けたのだろうという単純な疑問に、シロコは辿り着けなかった。

 

辿り着けないまま、シロコはカイザーが仕組んだ作戦通りに足を止めてオートマタ兵士の撃破に勤め始める。

見事に思惑に嵌ってしまったシロコがオートマタ兵士との接敵するまで、残り五秒。

 

 

 

 

 

 

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能力を伴わない一方通行の戦闘スタイルは基本的に、彼から自然と発される威圧と恐怖によって相手の動き、思考能力を極端まで削り取り、脆くなった精神面を起点に攻める心理戦を踏まえた物である。

 

一方通行。学園都市最強の能力者。

ありとあらゆる『力』の向きを自在に操れる能力の持ち主。

 

この情報を相手が握っているならば、彼と相対することになった者は少なからず彼に畏怖の感情を抱く。

 

現在の様に一方通行が能力が使えない状態に陥っているとしても、相手がその情報さえ握っていないならば、相手視点から見れば彼はその超常の力を持ってこちらを粉砕しにかかる破壊者その物。

 

彼と戦おうと決意した時点で、その身体には恐怖が宿る。

それは至って当然の話。

一方通行はそうした自身への評価を武器として容赦なく扱う。

 

但しこの戦法は基本的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そしてそれが、キヴォトスにおける一方通行が行う戦闘において最大のネックだった。

キヴォトスにいる一方通行と敵対しようとする者達は、基本的に一方通行が持つ力を知らない。

 

彼等の認識では、ヘイローを持たない癖に様々な場所にしゃしゃり出て来る頭のおかしい奴。

少なくとも、これに近い認識は持たれているなと、一方通行は感じ取っていた。

 

故に、数十を超えるロボット軍団に囲まれ、一斉に銃を向けられている状況は一方通行としては危機的状況であることは間違いないが、同時にまたとないチャンスでもあった。

 

『一方通行に喧嘩を売るともれなくスクラップにされる』

 

彼等が描く勝利予想図から容易に浮き上がる一方通行に対する舐め腐った認識を、おぞまじい程の恐怖で塗り替えれば、今後も起きるであろうカイザーとのいざこざ、及び裏ルートでこの騒動を知ることになるであろうその他の軍団にこれまで以上の大きな牽制が出来る。

 

その為に彼に課せられた試練は一つ。

四面楚歌なこの状況を、無傷かつ迅速に制圧することだった。

 

ただし、その試練は他ならぬカイザーによって大きく手助けされている。

 

生け捕りにして利用する関係上、カイザーは一方通行に対してむやみやたらに銃弾を撃ち込む訳にはいかない。

ヘイローを持たない彼に銃弾を撃てば撃つ程、殺してしまう危険度が跳ね上がるからだ。

 

ペラペラとまるでもうこの戦いに勝利しているかのようにカイザーが語った彼が敗北後に訪れる未来の内容は、一方通行の戦略に大きな指標を立てた。

 

殺すことを念頭に置いて立ち回る気がカイザーに無いのなら、連中が向けている銃口の殆どはそもそも撃つ気が無い物。

 

九割がフェイク。

生け捕りにする等とわざわざ言わなければ決して悟られることの無かった内容を、限りなくカイザーの勝利が掲げられていた戦闘を、説明を受けたばっかりに一方通行はひっくり返せると判断した。

 

よって彼がとった手段は単純明快。

無数に向けられる銃口をその身に受けながら、彼は一切射線上から身を隠すことをせず、引き鉄を引こうとしている奴に向かって撃つ。

 

ただそれだけだった。

 

「どォしたァ!? 俺が黙って撃たれるお人好しに思えましたかァ!? あァ!?」

 

突然一方通行が起こした反撃に驚き、持っている銃から弾丸を放とうにも殺してしまうと言う危険性に負けて戸惑っている連中を歯牙にもかけず、好戦的な意思を見せている連中だけを的確に銃撃する。

 

そうして拳銃に残っていた弾丸五発で五機のロボットを的確に戦闘不能に追い込んだ一方通行は、立ったまま片手で銃弾を装填する。

 

滑らかな動作でマガジンを抜き、引き鉄に人差し指を引っ掛けたまま拳銃を半回転させ、左袖の中に仕込んでいたマガジンを口で突き入れる。

 

その後再び拳銃を半回転させ、強引に口でスライド部分を引く。

 

これを一方通行は、二秒に満たない時間で行う。

 

だがそれでも、二秒に満たない時間であろうとも、無防備な身を晒す時間が生まれた。

それを見逃さない存在も、当然含まれている。

 

ガガガンッッッ!! 

 

三方向から、リロードしている一方通行に銃弾が飛ぶ。

右肩。左足。右腕。

 

彼を殺すのではなく動きを止める為に撃ち出された弾丸は、リロードに集中せざるを得ない一方通行の身体に容赦なく突き刺さらんと迫る。

だが、一方通行は動じない。

 

何故ならば。

 

『させません!!』

 

絶対に当たらないという、確信があったからだ。

そしてそれは、現実となる。

脳内に響いた言葉通り、弾丸は彼に当たる直前にアロナが施している防護システムによって弾かれ、弾道が反れた。

 

「なっっ!?」

 

一方通行に向かって撃った三発の弾丸全てが外れたことに動揺の声が各所から漏れる。

動じなかったのは、一方通行ただ一人。

 

一切の攻撃は自分に当たらないという前提で安全にリロードを終えた一方通行ただ一人だけが冷静を保ち、今撃って来た三機のロボットの内、最も身近な場所に、二つ前の座席から右肩を狙っていた一機目掛けて銃口を向ける。

 

乾いた銃声音が一発。次いで破壊音と倒れる音が続いて響く。

紛れもなくロボット一機を撃破した音だが、一方通行は音の発生源に視線は向けず、続けざま二発の銃弾を同様に腕と足を狙って来たロボットに向けて放つ。

 

そうして追加で二機、合計三機のロボットを破壊した一方通行は、次の優先順位を定めようと一帯を見渡した時。

 

「何をしているのです! 早く無力化させろ!」

 

戦闘が始まるや否や壇上の隅に引っ込んでいたオークションの司会をしていたロボットから怒号が走った。

その声に合わせたかのように、一機のロボットが一方通行目掛けて重装甲の拳を振り下ろさんと飛び掛かり始める。

 

悪く無い選択肢だ。と、一方通行は襲い掛かって来ているロボットの行動に一定の評価を下した。

銃を使わない接近戦ならば、対象を殺すことなく無力化させられる。

 

おまけにロボットから放たれる拳は一撃で昏倒まで持っていけるだろう。

 

殺してはならないという制約下での戦闘では、一番有効的な選択肢であると一方通行は今にも振り下ろされんとする拳を眼前に捉える中、そう心の中で感想を零す。

 

だが、その行動が一方通行に通じるかと言えば話は別だった。

 

ツー……と、一方通行は自分の身体を倒さない為、会場の椅子に添えていた右手をゆっくり背後へとズらした。

 

その動きに合わせ、彼の身体が数えて二歩の歩幅分、後退する。

だが、その程度の動きでは上から叩き下ろされようとしている拳の範囲から逃げられない。

 

だから一方通行は、後ろに下がる動きの最中、身体そのものを後方に倒した。

身体のバランスが崩れ、仰向けに倒れてしまうギリギリまで身体を後ろに傾ける。

 

ブンッッ!! と、直後、彼の鼻先で拳が空を切った。

同時、一方通行は飛び込んできたロボットの額に銃口を向けた後、口角を歪め。

 

「一撃が大振り過ぎるな」

 

近接戦に対する練度が甘いことを咎めるように弾丸を放った。

直後、椅子を持つ右手に強く力を込め、倒れかけた己の身体を強引に引っ張り上げる。

 

そうして己の身体を持ち上げ体勢を戻したのと、額に銃弾を撃ち込んだロボットが、一方通行が倒れかけていた場所で崩れ落ちたのはほぼ同時だった。

 

一歩遅れていればロボットの下敷きになり無防備な姿を晒していた。

そればかりか先の回避運動も判断が一瞬でも遅れていれば脳天を殴られ一発で気絶していた。

 

思い返せば何もかもが危機ばかりで、余裕な態度を取っていられる状況ではなく、彼自身それを自覚しているが、敢えて一方通行はそれを余裕でやり過ごしているかのように振る舞う。

 

この場にいるロボット全機が束になって掛かって来ても敵わない程に己が格上であることを、態度と行動で見せかけて行く。

 

「さァて、残りは何機だ……?」

 

適当にそう口走って見る一方通行だが、撃破した数ぐらい覚えている。

丁度先程の破壊で会場にいるロボットの数は半分になった。

 

即ち、残り二十機。

 

だがこの中で、明確に戦意を向けているのは果たして何機残っているのか。

とはいえ、助けてくれと懇願されようが一方通行は慈悲を向けるつもりは無い。

どう足掻こうが、彼の地雷を踏んだ時点でここに集まってるロボットの全滅は確定事項だった。

 

二度と下らない考えを起こさせない為にも、この場では一切の容赦を彼はしないことを心に決めている。

先程と同じように左手のみで銃弾の装填を数秒で終えた一方通行は再び拳銃を構える。

 

「先生!!」

 

バンッッ!! と、勢い良く入り口のドアを開けてシロコが珍しく声を張り上げながら中に入って来たのはそんなタイミングだった。

 

「砂狼、遅ェぞ」

「ごめん、手間取った」

 

彼女の言葉に一瞬だけ目をシロコに向けた一方通行は、制服の所々が煤けているシロコの姿を見て即座に彼女は彼女で戦闘を行っていたのだと納得する。

 

しかしそれを口には出さず、彼女に指示を出そうとして。

 

「っ! 加勢する」

 

会場内にて展開されている凄惨と言っても過言では無いこの状況を目撃し、己の助力が必要だと判断したらしいシロコが慌てて銃を構える動作を彼が指示する前に見せ始めた。

だがそれは、一方通行が望む行動では無い。

 

故に。

 

「イヤ良い。ここは俺が引き受ける。オマエはあそこにある会場の奥へと繋がる扉から十六夜を探せ」

 

一方通行は、即座に彼女の提案を棄却し、別の指示を投げた。

ここは任せてこの施設のどこかにいるノノミを見つけ出せと。

 

「でも」

「時間が勝負の戦いには俺の足は向いてねェ。適材適所だ。行け」

 

既に戦闘を再開しつつ、異議を唱えようとするシロコを一方通行は半ば強引に黙らせる。

彼女の言い分ぐらい彼も理解している。

一方通行が戦場に立っていることそのものが危険。

 

そう言いたい彼女の気持ちは痛い程伝わり、その上で彼はその提案を蹴る。

キッパリと、行けと断言する。

 

「っ、……分かった」

 

彼の言葉に一瞬迷いの表情を見せたシロコだったが、一方通行の言うことも尤もであるという気持ちもあったのか、その説得に負け次の瞬間には扉へと走り出していく。

 

「先生」

「あ?」

「シャーレと全面戦争になるのは御免だから」

「要らねェ心配だな。無駄口叩く前に早く行けってンだ」

 

死ぬな。

暗にそう言い残して扉の奥へと消えて行くシロコを見送り、彼は再び拳銃を構える。

 

『勿論です! 先生には銃弾なんて一発たりとも当てさせません!』

 

脳に響くアロナの声を聞きながら、一方通行は第二幕を開始する。

 

 

 

 

 

 

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扉をくぐった先に待ち受けていたのは、長い廊下とそこに連なるいくつかの扉が断続的に続いている光景だった。

 

その光景に一瞬だけシロコは眉を寄せる。

直感的に考えれば、ここはオークションに出品される商品を保管する場所。

 

この直感が正しいならば、少なくとも十以上はある扉のどこかにノノミは捕らわれている。筈だとシロコは考え、同時に面倒だという言葉が彼女の脳内に浮かび上がった。

 

これを全部開けて一々確認していかなければならないのか。

扉の先がただの部屋ならまだ良いが、この場所のようにまた廊下が広がっていてと言うような展開だけは避けたいなと気持ちを抱きつつ、とりあえず一番近い扉を開けようと手を伸ばす。

 

「……開かない」

 

扉には鍵が掛かっていた。

考えてみれば当然の話だった。

 

商品を盗難される訳にもいかないのは当たり前。

その為に鍵ぐらいは掛けるのが普通。

 

「まあ関係無い」

 

ただし、銃社会であるここキヴォトスでは扉に鍵を掛けた程度では何のセキュリティにもならない。

鍵が掛けられていると見るや、シロコは一瞬の躊躇なく、肩に引っ掛けていた愛銃『ホワイトファング465』を構える。

 

直後、大きな銃撃音が数発廊下内に轟き、難なくシロコは扉を破壊した。

通常時ならばこの音で騒ぎが発生するのだろうが、もう既に騒ぎは起きてしまっている以上銃を撃つことに何のリスクも無い。

 

ドアノブ部分を銃で破壊したシロコはそのままゴガッッ!! と、扉を蹴り抜いて部屋の概念を終わらせると、中に入る前に一度内部を一瞥した。

 

中には夥しい数の銃や手榴弾が置かれている。

が、そこにノノミの姿は無い。

 

外れか。と、中の物に一切興味を見せず、シロコは次の扉へ向かう。

そうしてシロコは次々と物理的にドアを破壊しながらノノミ捜索を始めた。

 

二つ目の部屋は不気味にニュルニュルと轟く触手のような物を無数に生やしている変な生物が数匹、水槽の中に飼われていた。

その姿に本能的な危機を感じたのか、それともあれが商品として出品されている事実に言い知れない忌避感を覚えたのか、適当に銃を乱射して生物の息の根を止めた後、次の部屋へとシロコは向かう。

 

三つ目の部屋には上から着用するであろう鋼鉄製の鎧めいた物が丁寧に並べられていた。

これを出品し、配布して何を企んでいるのか、シロコは訝しむが今はその時間は必要無いと切り捨てる。

 

今の所ハズレばかりだが、収穫自体はあった。

扉の中には基本的に商品が積まれているだけ、その奥にまた別の部屋があると言った煩わしい展開にはなっていない。この事実はシロコの精神面を大きく助けていた。

 

ノノミが連れ去られたりしていないならば、しらみ潰しに探せばいつかは彼女がいる部屋に辿り着く。

一歩ずつ前に進めている捜索に安堵しつつ、四つ目の扉も破壊しながら勢い良く扉を蹴り破り。

 

「っ……!? ノノミ!」

「ぅ、ぁ……シロコ……ちゃん?」

 

部屋の奥。

天井から伸びている鎖で出来た拘束具によって両手を吊るされ、身動きが取れずにいるノノミを見つけた。

 

意識はある。

シロコの呼びかけに反応した様子からそこだけは判断出来たシロコはしかし、安心は出来ないと慌てて駆け寄り、彼女の状態を確認し、そこで初めてホっと胸を撫で下ろした。

 

(良かった……大きな怪我はしてない……)

 

酷く衰弱している様子ではあるものの、幸いにもノノミの身体に目立った外傷は見当たらなかった。制服に乱れらしい乱れも無く、怪我らしい怪我も見当たらない。

商品としての価値を高くしておくことを求められたか、はたまたノノミが抵抗を諦めていたのかは定かではないが、ともかく彼女の身体に大きな損傷は見受けられなかった。

 

「助けに来た、待ってて、今鎖を壊す」

 

拘束具を外す鍵を探す時間は無い。

こうしている間にも会場では先生が無謀にも等しい戦闘を繰り広げている。

加えてこの事態をカイザーが既に聞きつけていないとも限らない。

 

長居は作戦失敗に直結する。

その為彼女には悪いが、拘束具は後から破壊してもらうことにして、一先ず両腕を自由に使える様にすることをシロコは選択した。

 

アサルトライフルの照準ををノノミの両腕を繋いでいる拘束具の少し上に合わせ。連射する。

 

十発程撃ち込んだ後、バギンッッ!! と砕ける音が響き、そして。

 

「あうっっ!!」

 

強引に持ち上げられていたノノミの身体が床に崩れ、その衝撃に彼女は小さく声を漏らした。

 

「ノノミ、動ける?」

 

シロコはそんな彼女に手を差し伸べつつも、すぐに動けるかを確認する。

出来ることならば回復する為の時間を設けたいが、今はその時間すら惜しい。

 

シロコの焦りはノノミにも伝わったのか、彼女はコクンと頷くことで了承の意を返した。

だが、返事こそ出来ても身体がまともに動くとは限らない。それを分かっているシロコは自身の肩を貸して、ゆっくりとノノミを拾い上げた。

 

しばらくはこの状態で進む。

そう思い部屋を出ようとした、その瞬間。

 

「逃亡を検知。逃亡を検知」

 

部屋の隅に置いてあった、洗濯機に見える機械からそんな音声が流れ始めた。

 

「「ッッ!?」」

 

突然響いたその声に、ノノミとシロコは同時に振り返り、かつシロコは片腕でアサルトライフルの銃口を向ける。

そして容赦なく、撃った。

 

話を聞く理由は彼女には一切無い。

むしろ、撃たない理由が彼女には無い。

 

恐らくコレはノノミの逃亡を検知した際に知らせる脱走防止のマシーン。

もう騒ぎが起きてしまっている以上あまり逃亡を報せる警報は関係無いのかもしれないが、だとしても放置しておく理由も無い。

 

撃って数秒で終わるアクシデントならさっさと済ませるに限る。

そう判断して即座にシロコは撃った。

 

が。

 

「報告報告。マスターに報告」

 

洗濯機に見える機械は、彼女の銃撃を受けて傷一つ付くことなく独りでに動き出し、シロコが蹴り破った扉から逃走を始めた。

 

その様子を見て一瞬、追うかどうか迷う素振りをシロコは見せる。

が、ノノミを肩に担いでいる現状、そして逃げて報告されたところで大して状況に違いは起きないのは確かであることから、とりあえず弾丸が通じなかったことだけを頭の片隅に入れつつ、シロコは先程見かけた機械のことを頭から忘れ去った。

 

「なんだったんでしょう……今の」

「今は忘れるべき。まずはここから離れよう。ここまでのいきさつは帰りの道中で話す」

 

はい。と、何も分からないノノミでもノノミなりに状況がひっ迫しているのを理解したのか、細かい説明は後回しというシロコの言葉に頷き、シロコに引っ張られる形で彼女も歩き出し始める。

 

そんなノノミを連れて出口へと向かうシロコの表情には、明確な焦りが生まれていた。

既に彼女を見つけ出し、助け出すまで既に数分の時間が経過している。

数分間もの間、先生をあの戦場に置いてしまった事実が、今になってシロコの背中に重くのしかかる。

 

先のやり取りだけでシロコには一つ、彼について分かったことがある。

先生は生徒を優先するあまり自己を犠牲にするきらいがあるということ。

 

それは敵対意思を向けていた自分やアビドスの面々ですら例外では無いということ。

 

もうシロコには分かっていた。

 

彼は敵ではない。

れっきとした、私達の味方だと。

ノノミの無事を最優先とする彼が、敵である筈が無いと。

 

だからシロコは、純粋に心配の気持ちを彼に向かって投げかける。

 

どうか会場へと続く扉を通った際、死んでませんようにと。

 

 

 

 

 

 

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オークション会場で始まった、四十機のロボットと一方通行による戦闘。

 

翼を使っての一網打尽が使えない中で一方通行に与えられたハンデは殺されないということだけ。

普通に考えれば焼け石に水なそのハンデを一方通行は最大限利用した。

 

その結果どうなったか。

 

「ま、こンな所かァ?」

 

吹き飛ばしたトランクから自前の杖を取り出し、右腕に装着した一方通行は周囲に散らばっている割れた破片やロボットの残骸を見渡しながらそう言葉を吐いた。

 

立っている物は彼を除いて誰もいない。

誰が見ても分かる程に、一方通行は勝者として君臨していた。

 

ここまで徹底的に破壊してしまうと当初彼が計画していたカイザーと言う組織に一方通行と言う恐怖を植え付けると言う話も、生き残っている存在がいないことで台無しになる危惧が生まれる。

 

「ま、全員機能停止じゃねェだろ。終わりよければ全て良しってなァ」

 

が、一方通行は特にその点について気に留める様子を見せはしなかった。

これだけの数を相手にしたのだ。一々トドメを指す余裕は無い。

 

運が良ければ全機生き残ってるだろと適当に流しつつ、シロコの後を追うかと杖を突き始めた途端。

 

『良く無いですよ先生! 一体何発銃弾をアロナバリアで弾いたと思ってるんですか!!!』

 

脳内でアロナの全力の怒号が響いた。

 

「あァ? まあ十発は受けたかもしれねェなァ」

『二十二発です!! 撃たれまくりです! 普通なら十回は死んでます!! あの壇上にいたロボットからの殺して構わないから撃ての命令が飛ばされた後滅茶苦茶撃たれ始めたじゃないですか! バッテリーが持たないかもって最後らへんずっとハラハラしてたんですよ!?』

 

もうちょっと隠れるなりなんなりして下さい! と、彼女の怒りを一身に受けるしかない一方通行はその正しすぎる言葉に何も言い返せない。

 

殺さないという制約では一方通行を制圧出来ないと踏んだのか、シロコを見送って以降、殺しても良いと言う命令が全員に出された。

 

アロナによる防護壁を頼りに一機ずつ的確に撃ち抜く戦法により最終的な被弾こそゼロに抑えたが、彼女の言う通り確かに危ない橋は渡ったとも思う。

 

とは言え、結果は結果。

一方通行は無傷で戦闘を終えた。

 

終わってみれば彼の圧勝と言う形で舞台の幕は下りた。

どうせこの会場にも監視カメラ等は仕込まれていることを踏まえると、思惑通りの展開になったと言える。

 

『それよりも良かったんですか? どうして先生が変装しているのを見破ったのか誰かに聞かなくて』

「順当に考えればアビドスにいた頃から目を付けられたって感じだろォな、一応高校前で発見はされてたしよォ」

『なら残して来たアヤネさんやセリカさんが危険では!? 先生がここにいるのがバレてるってことですし!』

「いくら二人でも、敵側の兵器を大量に鹵獲した、つまり戦える二人だぞ? おまけにオートマタ兵士百機に加え戦車も数量相手は失ってる。下手に動かねェよ、それに動いて奥空達を攫った場合どうなるかは今ここで俺が証明してるだろォが」

 

十六夜の救出はカイザーへ牽制する目的もあると一方通行はアロナへと教える。

アヤネやセリカ達をノノミと同様に攫っても、同じように取り返すだけだと。

 

そしてその分被害が増えるのはお前達だと、行動で彼等に叩き込んで行く。

下手に動けば動くだけ、一方通行を敵に回せば回すだけ損害が大きくなる。

 

今回一方通行が行った戦闘は、その事実を分かりやすく実践しているとも言い換えても良かった。

 

「とにかくここはクリアだ。休ンでる暇はねェ。砂狼との合流に動く」

 

アロナへの説明も程々のタイミングで切り上げた一方通行は、カツッ、と杖を突きながらシロコが向かった奥へと続く扉へと歩き始める。

 

しかし。

 

「そこまでです!! カイザーコーポレーション!!  全員速やかに制圧……を……」

 

扉まであと数歩と迫った時、奥の階段へと続く扉から威勢の良い声が放たれた。

何事かと思って咄嗟に振り替えれば、ゾロゾロと十以上ものゲヘナの生徒が戦闘体勢で部屋に突入する姿が見える。

 

だが、部屋の惨状を見た途端、正確には既にロボットが全滅している光景を見た途端、彼女達の勢いは見ていて面白い程に速やかに下降していく。

 

あ、あれ? 等と言う声があちこちから聞こえる中、一方通行は最初に部屋に入って来た少女、残りの生徒達に発破をかけていたであろう少女の方に視線を向け。

 

「天雨か」

 

知った顔であることと、同時に彼女達がゲヘナの風紀委員であることを知った。

 

「その声は、先生……?」

 

同時、彼の声に反応したアコは一方通行の方に振り向き、そして不可思議な物を見つけたかのような例えきれない表情を浮かべた。

 

「……何なんですか、その格好」

「成り行きだ」

 

彼の最小限の説明に額に皺を寄せて、は? とでも言いたそうな顔をするアコとは対称的に一方通行はこれで話は終わりだとして、再びシロコがいる方の扉へと向き直り、歩こうとして。

 

カチャリと、拳銃が向けられている音を彼の耳は拾った。

まさかと思い振り返れば、そこには彼の予想通り、銃口を一方通行へ向けているアコの姿が映る。

 

何のつもりだ。そう言いたいのをグっと堪え、鋭い視線を送らない様極力努力しながら彼は今一度アコの方へ振り返り彼女の目を正面から見据える。

 

「待って下さい先生、まだ私達の……いや、私の話は終わっていません」

「俺からの話は終わった。今は急いでる。話なら終わってからにしろ」

「出来ません」

 

強情。

そう言っても差し支えない態度がアコから発されていた。

同時に、一方通行は直感する。

 

彼女の表情は、本気だった。

途端、彼の中で築かれてきた経験と勘が訴える。

 

もし仮に、仮に彼女の話を打ち切ってシロコとの合流を優先しようとした場合。

撃たれる可能性があると。

 

今ここで、時間を使ってでもアコと相対しなければならないと。

一方通行の心は、そう訴えていた。

 

「チッ……。はァ……。続けろよ、その話ってやらを」

 

なので一方通行は、折れた。

暫しの間、彼女との話し合いに応じる姿勢を見せる。

 

天雨アコと一方通行。

 

かつてゲヘナで起きた事件の中で出会った二人の二度目の交流は、またしても事件の真っ最中。

ゲヘナで起きた問題に、ゲヘナに許可を取ることなく首を突っ込んでいる時の出来事だった。

 

 

 

 











合同誌の準備やら何やらで時間が思うように取れない日頃です、更新が隔週になってしまってて申し訳ないです。

何とか毎週更新に戻したいですけど中々難しい……一日が四十時間ぐらいあったら良いのに。

等と言いながら本編です。シロコと一方さんがそれぞれ暴れてます。
洗濯機こと五十六号もチョイ出番ありでどうなるか、どうなるんでしょうねこれ。

そして最後に現れたアコちゃん、次回のキーパーソン。
ゲヘナ出張編は次回で完結。舞台を再びアビドスに戻してのお話になるでしょう、

それはそれとして……ブルアカ本家のアビドス3章は……どうしましょうね……ギリギリまでちょっと粘って見ましょうか……。なるべく齟齬が出ない範囲で、組み込んでもみたい……


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