ミレニアムサイエンススクール。
他の学園の追随を許さない科学技術が特徴な学園で、歴史は浅いながらもゲヘナやトリニティにも引けを取らない影響力を持つと言われる場所。
学生だらけの街。
科学がキヴォトス内の外の学校の追随を許さない程発達している。
その二つの要素が、一方通行にある種の既視感を与える。
懐かしさ。そんな物を覚える程一方通行は学園都市に対し良い印象を持っていない。
暗部と言う下らない学園都市の闇によって行われた非道な実験の数々。
その犠牲となった無数の子ども。
その犠牲者側として、あるいは加害者側として両方の立場に浸かった彼にとって学園都市と言う存在は手放しで褒めるような場所とは到底言える物ではない。
だが学園都市はそんな闇だらけではない場所であることも知っている。
僅かな時間ながら彼もその場所にちゃんといた。
そして、今はそれを目指そうと足掻いている。
故に一方通行にとってミレニアムは、学園都市の光としての面影をそこかしこから感じ取れる場所として存外気に入っている。
そんな科学エリアの中心地である学校内を、一方通行はユウカと共に歩いていた。
(つーか、なンで付いてくるンだ? セミナーの方向はこっちじゃねェだろ)
ふと、そもそもの疑問が一方通行の頭に浮かぶ。
現在一方通行はユウカと行動を共にしているが、二人で行動していると言っても、一方通行はユウカにミレニアム内の道案内をされている訳ではない。
ただ彼の進行先にユウカが勝手に付いて来ているだけ。
既に何度かミレニアムへ足を運んでいる一方通行の脳内には、ミレミアム敷地内の地図が完璧に描写されている。
故に道案内等の手助けを求めてはおらず、ユウカが付いてくる理由が一方通行には分からなかったが、かといって特に跳ね除ける理由も無い為、そのまま放置を続ける。
そう考えていた矢先。
「先生はこのあとすぐにエンジニア部へ?」
杖をつく音が断続的に響く中で、ユウカがそそくさと一方通行の隣に並ぶと唐突に質問を投げかけた。
「今日は俺が呼ばれてる側だからな。さっさと行って済ませるつもりだが、それがどォした」
「じゃあその用事が終わったらセミナーに顔を出してみませんか」
「あ? 行く意味もねェだろ」
パン、と手を合わせながらユウカから一つの提案が飛び出すも、セミナーに行って意味があるとも思えない一方通行は極めて塩な対応を行う。
シャーレでの仕事中、雑談として一方通行はユウカから彼女がセミナーという物がどういう組織で、その中でどのような活動をやっているかを聞かされてはいる。
セミナー。
ミレニアムサイエンススクールにおける生徒会の通称で、ミレニアムの適切な運営をするのが主な活動目的ではあるが、それはあくまで表向き。
彼女達の真の目的は『千年難題』と呼ばれる今の技術では解けない七つの難題の研究。
ミレニアムで行われる様々な研究も全てはこの課題に繋がり得る過程であるという理念に基づいて予算等の支援をしており、ミレニアムサイエンススクールという名称すらも『千年難題』を礎にしていることもあり、全ての中枢となっている概念であると。
一方通行はセミナーがどういう所なのかをユウカから事前に聞かされた上で、一方通行は行く意味が無いなと結論を出していた。
簡単に言ってしまえば、セミナーのミレニアム運営も『千年難題』もまるで興味がなかった。
「改めてミレニアムがどういう所なのか教えますよ。先生が気に入りそうな店や施設とかも案内します」
「それ別にセミナーでやらなくてもシャーレで言えば良いンじゃ───」
ねェか、とユウカの提案に渋い返事をしようとした瞬間。
「いたーーーー!! 先生ーーーーーー!!!!」
彼の声を遮る程の大きな声が響き渡り、次いでドドドドドッッ!!! と、地響きを思わせる程の轟音を鳴らしながら、廊下の向こう側から明るい髪の少女が凄まじい速度で一方通行目掛けて駆け寄ってくるのが見えた。
その声と姿に見覚えしかない一方通行はオイ。と声を掛けようとして。
「あっ! 止まれない!!」
走って来る少女の口から、思わずもう一度言ってみろと言い出したくなる言葉が聞こえ、
その声に反応して避ける間もなく、ドンッ! と鈍い音を響かせて一方通行と少女が衝突し、結果一方通行は見事に吹き飛ばされた。
突然の報告が飛んでくるまで全くの無警戒だった一方通行は唐突な交通事故に対応出来る訳もなく、ゴフ……と言う呻き声と共に身体を折れ曲がらせながら、ベシャっと情けない音を立てながら床に思いきり身体をぶつける。
「わーーーーーー!! 先生ごめんーーーー!!!」
同時、一方通行を吹き飛ばした少女がやってしまったと言うような表情を浮かべ、大慌てで倒れた一方通行の救助に走る。
その少女の名は、才羽モモイ。
一方通行がミレニアムで知り合った中で、交流の多い少女の一人である。
モモイは勢い余ってぶつかり、あまつさえ吹き飛ばしてしまったことにわたわたと焦りながら、ひとまず一方通行を助け起こそうと倒れた彼に手を伸ばそうとする、
その、刹那。
「モォォモォォイィィィィクゥゥゥゥゥン!? テメェはいつになったら俺を見かけるなり飛び込んでくるのを止めるンだァ!? 毎回止めろって言ってるよなァ!?」
怒号を響かせつつ、青筋をこれでもかと浮き上がらせて上半身を起こした一方通行は、すかさずギチィッ!! っと、左手の親指とそれ以外の指で挟むように駆け寄ってきたモモイのこめかみをガッチリと掴んだ。
そのままギリギリと指先でこめかみを締め付け始め、一向に言う事を聞かない彼女目掛けてアイアンクローのお仕置きを始め、いぎゃぁあああああああああああごめんなさいぃぃいいいいいいいと、甲高い悲鳴と謝罪が廊下中に迸った。
「そンなに俺と遊びてェなら望み通り遊んでやるよォ!! まずはこのまま耐久ゲームだ。どこまで耐えられるかここで見ててやるからよォ!」
「ごめんなさいぃぃいいいい謝るから手を離して先生ぇええええ!! このままだとこめかみが凹むぅぅうううううううう!!」
「そりゃァ見応え抜群だ一体どこまで凹むか試してやるよォ!」
びええええええええええッ!! と、もはや断末魔のような叫びを上げるモモイはどうにかしてこの危機から逃れるべく、または助けを求めるべく自分の両手をバタバタと慌ただしく上下に動かす。
が、一方通行はそんな儚い抵抗を気にする素振りもせず、ひたすらにモモイの頭蓋へ圧力を掛け続けていた。
一方的な光景が繰り広げられているが、実際の所、モモイが本気を出せば一方通行の腕を振り払うことは簡単に出来る。
それをしていないと言うことは、彼女が今の状況を楽しんでいるかどうかはともかくとして、受け入れてはいる証拠だった。
一方通行とモモイによるある種微笑ましいやり取りが続く、そんな中。
「お姉ちゃん? 今度は何を…………。うん。お姉ちゃんが何をやったかは大体分かった」
彼女の悲鳴を聞いて駆け付けたのか、モモイそっくりの少女がひょこっと姿を見せながら呆れたように彼女へと喋りかける。
モモイをお姉ちゃんと呼ぶ少女の名は、才羽ミドリ。
モモイとは双子であり、一方通行がミレニアム内で知り合った中で、特に交流が多い少女の一人だった。
床に倒れ上半身だけを起こしながら一方通行がモモイを虐めている姿を見ておおよそここで何が起きたかを察したミドリは、一方通行にペコリと頭を下げる。
「いつもお姉ちゃんがごめんなさい」
「ミドリ。モモイの暴走を止めろっていつも言ってるだろォが」
「止めたかったんですが、部室でゲームの案を練ってる最中に突然あ! 先生が来た予感がする!! って言って飛んで行かれたら、いくら私でも止められないです」
一方通行が発した文句に、ミドリは困ったように肩をすくめながらそう言葉を返す。
ちなみにこの間もモモイへの変わらず攻撃は続いており、彼女の口から延々と悲鳴が零れ続けるせいもあってか、一方通行はモモイと、ミドリ……? 私には苗字なのに……? と、冷えた声がユウカの口から絞り出された事を見事に聞き逃した。
「ミ、ミドリーーー!! 助けてーーーー!!!」
ユウカの周囲が一段と冷えたことにユウカ以外の全員が気付かぬまま、モモイは自分の窮地に颯爽と現れた救世主である妹に助けを求め始め、ミドリはその声にえぇ……と悩む素振りを見せた。
モモイが一方通行から受けている仕打ちは完全に彼女自身が引き起こした結果であり、紛うこと無き自業自得でしかないので、ミドリからすれば助ける理由は何一つ無い。
だとしても彼女は一応自分の姉であるということが働いたのか、仕方ないなと呟きつつ彼女は一方通行の肩をチョンチョンと触り
「先生、そのぐらいにしてあげた方が……」
と、やんわりとした口調で一方通行に制止を促した。
ミドリの健気な説得に、一方通行は仕方無ェなと言わんばかりに小さく息を吐くと。
「もう次はねェからな」
言いながら、パっとモモイのこめかみを掴んでいた左手を離した。
「ぜ……ぜ……ひ、酷い目に遭った……!!」
一方通行が手を離したことでようやく地獄から解放されたモモイは、涙目になりながら自分のこめかみに手をあてがい、良く耐えてくれたね。凹まないでくれてありがとう等と労いを始める。
「酷い目に遭ったのはどう考えても俺だろォが……!」
解放された直後からふざけ始めたモモイに対しもう少しお仕置きが足りなかったか等と思いつつ、一方通行はそう反論しながら杖を支えにして起き上がると、ミドリの方へ身体を向け。
「で? 何か用事でもあンのか」
と、ここまで勢い良くぶつかる程の事をしでかす程度には何か用事があったのだろうと一方通行は話が通じやすいミドリの方から話を聞き始める。
面倒事かそれともただの使い走りか。
この二人、否モモイのことならば可能性が高いのは圧倒的後者の方だなと性格からそう判断し、本当に後者だったらお仕置きもう一回だなと内心思う一方通行だったが、聞かれた側のミドリは一方通行の予想と反するように首を左右に振り。
「あ。ううん。特に用事って物はないかな。お姉ちゃんが会いたかっただけだと思う」
と、実にあっさりとした答えを返した。
「……そォかよ」
あれだけ大声で呼んでおいて特に用事は何もなかったことを事も無げに伝えられた一方通行は、これ以上ない程に無駄な時間を過ごしたような感覚に大きく嘆息しようとして。
「ミドリだって会いたい癖に。というかミドリの方が会いたい癖──」
モモイが何かを言い始めた直後、パンッ、と言う銃声が一発鳴り響いた。
一方通行は反射的に音が鳴った方を見ると、いつの間に構えていたのか、神速の如き早業でミドリは愛銃を取り出し、その銃口を姉のモモイへと向けて容赦なく発砲していた。
哀れにも妹から実力行使が入るとは露ほどにも思っていなかったモモイは、放たれた銃弾に反応すら出来ずまともに銃弾を額に貰った結果、彼女は最後まで言葉を言い終えることなく白目を剥いたまま、ドサッと仰向けに倒れて沈黙する。
「……酷い目に遭ってたのは確かに俺じゃなくモモイの方かもしれねェなァ」
あまりにも綺麗な暗殺に一方通行は僅かばかりモモイに同情する。
その傍らでミドリに対しどうしていきなり撃ったのだとかを筆頭に色々と疑問が降って湧いてきたが、追及する気も起きないので一方通行は彼女の奇行に対し何も言わない。
元はと言えばモモイが自分に突撃さえしてこなければこんなことになっていないので、やはりこれは彼女の自業自得でしかなく、それ以上の域は出ないな。と、一方通行は結論を出すと。
「特に用が無ェなら行くぞ。この後始末は適当に済ましとけよ」
ここで起きた全てのゴタゴタが終了したと見た一方通行はミレニアムに赴いた当初の目的であるエンジニア部の方へ歩み始めた所で。
「あ、その用事が終わったら、今日も部室に来ます?」
ミドリの方から引き留めが入った。
一方通行はその言葉に立ち止まり、数秒程考えた後、
「……時間があったらな」
振り向かず、一つの回答を置いた。
返事を聞いたミドリは、はい、待ってますから。と、嬉しそうな声色で発し、その後直ぐにお姉ちゃんいつまでも気絶してないで起きて等とまあまあ身勝手な事を宣いつつズリズリとモモイを引き摺り始める。
ミドリが姉のモモイに文句を垂れ流し続ける声が徐々に自分から遠ざかって行くのを感じ取りながら、一方通行はカツン。と杖の音を響かせて次の一歩を踏み出そうとした所で。
「先生、先生」
今度はユウカから中断の声がかかった。
何故だかいつもよりも声を一段、二段程低くして。
「あ?」
今度はお前かよと言う空気をひしひしと震わせて一方通行はユウカの呼びかけに反応する。
急いでこそいないが、待たせてはいる。
そもそも立て続けに自分の行動を妨害され続けて純粋に機嫌が悪くなり始めている。
それぐらいのことお前なら分かるだろ。という雰囲気を纏わせて足を止めた一方通行には、ユウカの方も自分と大して変わらない機嫌になっていることに気付かなかった。
はぁぁぁ……と、わざとらしく嘆息する一方通行の横で、ユウカが低い声で質問を始める。
「先生、今さっき二人のことを何と?」
「あ? ミドリとモモイがどォかしたかよ」
そう、何の気無しに発言する。
だが、
一方通行にとって普通に返事しただけだったそれは。
「先生、ちょぉぉっっっと、お時間よろしいですか?」
ユウカにとって何らかの線を越えてしまうには十分だった物らしかった。
彼女は目をカっと見開き、明らかに大きな不満と小さな怒りを宿していることを隠しもせず、一方通行に詰め寄り始めた。
「なんで私は早瀬なのにあの二人はミドリとモモイって名前で呼んでるんですか才羽で良いじゃないですか才羽で!!」
「仕方ねェだろ基本的にどっちも同じ場所にいやがるンだからよォ!! 才羽と呼んでどっちからも返事されたら面倒に決まってるだろォが!! 俺を引き留めたと思えば突然何下らねェ事言い出すンだテメェ!」
「下らなくなんか無いです!! 死活問題!! 結構な死活問題です!!!!」
訳の分からない事で突然怒り出すユウカに対し一方通行も熱を上げながら声を上げて反論する。
あの二人には名前呼びしなければならない面倒な理由があった。
だがそれをユウカに咎められる覚えは無い。
何なら元に戻す気もサラサラ無い。
一方通行にとって至極真っ当な言葉は、何故かユウカには届いてくれそうになかった。
どうしてユウカが突然詰め寄ってきたのかも声を張り上げたのかも不明。
もっと言えばモモイをモモイと呼び、ミドリをミドリと呼んだ事がどうしてユウカの怒りに繋がるのか全く理解出来ない。
ユウカと口論をする中、頭の片隅でそんなことを考えていると、ほう……。と、突然ユウカは怒りの形相を引っ込め、一方通行の反論に何かを納得したような表情をし、その後何かを思いついたような、閃いたかのような顔に一瞬なると。スッと、真剣な顔つきで一方通行の目をまじまじと見つめ始めた。
あァ……? と、秒でコロコロと変わるユウカの表情と感情に一方通行は戸惑いが追い付かない。
そんな中、ユウカは先生。と、改めて良い聞かすような声で一方通行に確認を取り始める。
「先生。私の名前は早瀬ユウカです」
「そりゃそォだろォよ」
「そして私が所属しているセミナーには、同じ早瀬という名前の仲間がいます」
「……はァ」
「ほら、紛らわしいですよね? 面倒ですよね? 行く時困りますよね? 呼ぶ時困りますよね? 困らない為の別の呼び方、あるんじゃないですか?」
瞬間、ほら。ほら。と、謎の催促を始めるユウカと、この流れをどう処理すれば良いんだと本気で困惑している一方通行の図式が完成する。
一方通行はセミナーに所属している生徒の名前はユウカから過去に聞き、名前を覚えているが、流石に苗字までは聞いていない。
仮に名前を聞いた生徒の苗字が彼女の言う通り『早瀬』なのだとしたら、それは当然彼女と彼女じゃない方と区別する為に分ける必要はあるだろう。
確かにユウカの言う通りだなと、一方通行は彼女が言っていることの正しさを理解する。
しかし、
しかしだと、一方通行は考え直し。
「いや、セミナーに行く理由は無ェしお前とはシャーレで会うしそのシャーレに早瀬はお前しかいねェだろ」
ピシャリとそう言い切り。思っていることをそのまま素直に口に出す。
「変える必要、あるか?」
あります!!!!! と、その瞬間声を大にして反論された。
突然の大声に一方通行は思わず耳を塞ぐがユウカの勢いは収まらない。
「それにさっきモモイ達の部室に寄るって言ってました!! セミナーに対しては渋り気味だったのに!! と言うか今も渋ってるのにゲーム開発部には渋らないなんて差別です差別!!!」
「あァ分かった分かった!! セミナーに寄れば良いンだろォが寄ればよォ!!」
その気迫に負けたかのように、とうとう一方通行は折れた。
「やった!! それじゃ用事が終わったらすぐセミナーに……あ!?」
根負けして一方通行が了承したことが嬉しかったのか、ユウカは僅かにガッツポーズをしながら彼と約束しようとした直前、稲妻が直撃したような表情を作りながらそんな声を上げた。
まるで何か、思い出してはいけない物を思い出してしまったかのような声だった。
一方通行はまたもやコロコロと変わるユウカの表情に追いつけずにいると。
「えーと……やっぱ良いです、来なくて良いです」
さっきの勢いは何処へ行ったのだと問い詰めたくなる程にしおらしくなりながら、自分から取り付けようとした約束を反故にし始めた。
余りにも急変する態度に一方通行はいよいよ付いて行けなくなり、一体全体何を考えているのかと、頭の中で疑問符を量産する。
「では先生、またシャーレでお会いしましょう」
オホホホホ……と、わざとらしい笑い声を出しながらユウカはそそくさとその場を後にし始める。
そんな彼女の後姿を眺めつつ、一方通行は。
「俺にはお前が正直良く分かンねェよ……」
抱いた率直な感想を、ミレニアム内の廊下で落とした。
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科学技術の最先端を行くこの学校にも当然様々な部活がある。
スポーツ。
サイエンス。
文化。
そして、例外。
その中にあるサイエンス系部活の筆頭として、エンジニア部が存在する。
白石ウタハ。
豊見コトリ。
猫塚ヒビキ。
僅か三名で構成されたその部活は、全員が全員『マイスター』と呼ばれる機械の製作、修理を行う専門家であり、同時にミレニアムの最先端テクノロジーを巧みに活用し、高い技術力と知識で数多くの発明品を世に出した正真正銘の天才集団が集結した部活。それがエンジニア部である。
最先端科学を主張するミレニアムにおける一種の顔としての側面を持つ彼女達の部室は、体育館二つを丸々繋げたかのような広大さを誇っており、一般的な部室と比較できる程ではない大きさを持っている。
一方通行は、そのエンジニア部と協力関係を結んでいた。
自分やシャーレに関する機械や武器を作成する際に生じた費用は全てシャーレが負担する。
また、その際に試験的に作成した物のテスト役を可能な限り請け負う。
代わりに、彼女達には自分からの依頼を優先的に処理して貰う。
一方通行にとってまだまだ未知数なこの世界を生き残る為に必要な物資の調達、及び必要だと思った場合、自らの知識を提供し、疑似『学園都市』製のアイテムを。
彼女達にとっては予算の関係で取り掛かれなかった多様な技術を詰め合わせたオーパーツの作成、及び自分達では辿り着けなかった未知の技術の提供を。
お互いがお互いにとって不利益を被らない契約がここに交わされ、いつしか一方通行が定期的にエンジニア部にやってくる理由となり、少女達は未だ知り得ぬ世界に手を掛けたことで発生したモチベーション及び一方通行との交流に胸を躍らせるといった副次的効果もあり、四人独特の関係性が築かれるに至っていた。
「やあ先生、来たばかりなのに随分と疲れているようだけど、道中で何かあったのかい?」
「色々とあったンだよ色々となァ」
そんなエンジニア部の部室にて、一方通行は置いてあった椅子に適当に腰かけ、労いをかけてきたウタハに心底疲れ果てた顔でそう愚痴る。
モモイと物理的に衝突し、ユウカの謎の勢いに振り回される。
一つ一つは大した物ではないのだが、立て続けに発生すれば流石に疲れもする。
いつの間にか置かれていたコーヒーに口をつけながらそう嘆息する一方通行の様子をウタハはそうかい、と苦笑しつつ、さて。と、早速本題に取り掛かる姿勢を見せた。
「一応頼まれた物の一つはちゃんと用意出来たよ」
コトッと、一方通行の前にある机にそれを置く。
片手サイズの拳銃だった。
「出来る限り先生が持っていた銃と質感、重量、グリップ等ありとあらゆる部分を再現しておいた。使用感はそれでも変わるだろうが、そこは自分で調整してくれると嬉しい」
「悪ィな。費用はシャーレに請求しとけ」
礼を述べつつ、一方通行は机に浮かれた武器を左手に持ち、手触りを確かめた後、それを懐へとしまう。
「試し撃ちをしたいならいつでも言ってくれると良い。動き回る的を用意するぐらいは可能だ」
「そりゃどォも。で。もう一つの方は渋い返事だったが。そりゃどォいう事だ?」
「そこから先は私が説明しましょう!」
シャ──ッ、と、滑る様に移動しながら一方通行とウタハの会話にコトリが割って入る。
彼女はやって来た途端、ゴトッッ!! と大きな鞄を一つ机の上に置き。
「とりあえずどういうのが好みなのか分からなかったので! 適当に色々作っておきました!!」
ドサドサドサッッ!! と、鞄をひっくり返し、その中にあった物を全て机の上にぶちまけた。
中から出てきたのは得体の知れない金属が底に接続されている靴。
脚に巻いて使う事を想定されているであろうことが推測出来る何本もの帯状の物が重なったベルトらしき物体。
その他にも金属製の鎧の足部分のみを模した物や何かのチューブがこれ見よがしに伸びているバッグ等、見るからに怪しい物が続々と鞄から散りばめられていく。
机に並べられていく数々の道具を見て、一方通行はウタハが回答をはぐらかした理由を成程と理解した。
(要するに使えそうな物を適当に作ったので後は今から俺自身でテストして確かめてみろって訳か)
「脚のサポート。と言うお話でしたので私達三人がそれぞれ自作したアイテムをそれぞれ持ってきちゃいました!! 用途も使用法もそれぞれ違うので、気に入った奴を使って下されば!!」
コトリは多様なアイテムを制作した経緯を説明すると、嬉々とした表情でその中から一つを取り出し。
「例えばこれ、脳からの命令を即座に伝達させ次の一歩をどこに踏み出して良いかを予測し、その通りに動かしてくれる歩行補助機。名付けて『
と、自信作を披露した。
「なるほどな。却下だァ」
が、一方通行はこれを即断即決で否決した。
そもそも自分の脳は既に前頭葉が欠損しており、その欠損を補うという形で自分の脳は首にあるチョーカーから伸びる複数の電極で補助されている。
その上でさらに負担を強いるのは得策ではないし、何より一々着脱の為ここまで来なければならないのがあまりにも面倒かつ不便すぎる。
エンジニア部で付け外しをしない限りシャワーや寝る時もずっと装備し続けなければいけない未来を考えると、ここは彼女の案を棄却するのが妥当だろうと一方通行は冷静に判断を下す。
しかし。
「なッッッ!? なんでですか!! 自己防衛機能である小型十連装ミサイルを両足に二基ずつ搭載し、かつ気になるあの子のスカートの中を見放題! 爪先にステルス搭載された二十四時間継続使用可能な覗き見盗撮カメラまで搭載しているというのに!!!」
「余計却下だろ誰も頼んでねェ機能追加してンじゃねェ」
容赦なく浴びせられた却下の一言に、ガーン! と作品を簡単にあしらわれた事にショックを受けたコトリはいやいやいやいやと一方通行の判決に待ったをかけて必死に追加機能含めたアピールを始めたが、一方通行にとってその機能はまるで必要が無かったのでそれも含めて全て没と評した。
そんな、男の人なら泣いて嬉しがるであろう録画映像をシャーレのパソコンに自動転送する機能まで導入したのにとさらにどうでも良い機能を紹介しつつ、地面に手を突いて悔し涙を流すコトリだったが、一方通行はそんな彼女を完全に無視し、
「猫塚、お前が作ったのは何だ?」
と、色ボケ眼鏡よりは期待が持てそうなヒビキに作った道具の紹介を促した。
「任せて。良い物を作って来た」
指名されたヒビキは、机の上に広がる道具、ではなく部室の端に置いてあったソレを取り出し、カラカラと音を立てながら運びつつ一方通行にこれ。と見せつける。
瞬間、その道具を見た一方通行の頭に警鐘が響く。
頼む相手を根本的に間違えたのではないかと、過去の自分の判断を悔いるかのように彼は頭を抱えた。
ヒビキが運んできた物。それはどう見ても、誰がどう見ても歩行を補助する道具ではなかった。
百人中百人が、これは何かと聞かれたら全員が同じ答えを返すだろう。
車椅子だと。
「先生は杖をついて歩かないといけない。つまり歩かなければ良い。という事で発明したのが『
「歩行のサポートが回り回ってどォして車椅子になるンですかねェ猫塚さン?」
「やることは一緒。行動方法が違うだけ。後、車椅子の方が色々機能が追加出来て楽しかった」
「本音が全部後半で漏れてンぞお前。俺は脚を補助する道具を頼むとは言ったが面白機能満載の玩具を作れと頼んだ覚えはねェんだよ……」
満足気に語るヒビキを横に、コトリと大して変わらない成果物を見せつけられた一方通行は本当に頼む相手を間違えたなと後悔する段階に突入した。
はぁぁぁと、深く深く嘆息する一方通行に、ヒビキはどう? と、彼からの結果発表を待ち続ける。
絶対に採用される。否採用されなければおかしい。
そんな視線が放たれていることをひしひしと感じつつ一方通行は。
「当たり前に却下だ馬鹿が」
冷静に思った通りの事をそのまま言葉として流した。
「そんな!! 飛行中も身体が吹き飛ばない様に移動中は常にシートベルトが自動装着! 手元にあるボタン一つでただの空中を移動できるだけの車椅子が標的を自動追尾する大型爆弾へと変貌を遂げられるのにどこが問題が!」
「大有りだろォが!! シートベルトで動けねェのに爆弾化させて突撃させてみろォ! ンなことなったら敵と一緒に俺も吹き飛ぶ未来しかねェじゃねェか! あとそもそも爆弾が積まれてる物に人を乗せンな! 流れ弾が爆弾に当たった時点で俺がお陀仏になっちまうだろォがよォ!!」
「確かにそれは改善点。どうにかしておく」
「どォにかする前に破棄して欲しいンですけどォ……」
車椅子を引き下げながらブツブツと改善案らしき独り言を呟きつつヒビキは部室内にあるどこかへと消えていく。あの様子では破棄をする気は毛頭ないのだなと知るには十分であり、一方通行は三人中二人の自信作が駄作以上の何かだったことにこれ以上ない不安を覚えながら。
「白石。分かってるだろォがお前がまともじゃなけりゃ俺は帰る。そして二度と来ねェからな」
残っている最後の一人でありエンジニア部の部長であるウタハに釘を刺すようにそう告げる。
しかし、その言葉を向けられたウタハは、フッと小さく笑うと机に散らばってる物ではなく、自分の鞄を取り出しその中の物をガサゴソと引っ張り出し始める。
「その心配はないよ先生。私のは完璧だ。最高傑作と言っても良い」
「もうその言葉だけで不安にしかならねェよ……」
鞄の中に手を突っ込みながら自信満々に言い切ったウタハの態度こそが不安に思えてならない一方通行は、ひとまずウタハが鞄から取り出した物を目で追おうとして。
それ以降彼は考えるのを止めた。
「先生の足はまともに動かない。ではどうするか。その答えは考えてみれば簡単だ。別のに付け替えてしまえば良い、と言う訳で私が提案するもの。それは義足だ! 足が使えないのならいっそ別の足にしてしまえば良い。そうすればその悩みとは────」
「帰る」
彼女が言い切るより先に、一方通行はこの場を後にしようと立ち上がった。
逃げ出すようにエンジニア部から退出しようとする一方通行だったが、その行動は既にウタハに読まれていたのか、動き出すより前に彼の腕は掴まれ引っ張られ、まだここにいろと暗に強要される。
「待つんだ先生! 冗談だよ。先生の大切な足をちょん切ったりするもんか」
「いィやさっきの目はマジだった。俺が帰るって言い出さなかったらガチでぶった斬って足を作り替えるつもりだっただろォがもう良いですここには来ませン今までありがとうございましたァ!」
第一、彼は身体を動す際にそう命令する脳が壊れてしまった結果、思う様に足が動かないのであって、足その物は健康である。
たとえ今の足を捨てて義足に切り替えたとしても、命令系統が壊れている以上動かない結果は変わらない。
彼女達に脚のサポートを依頼する時にその辺りの説明はそうなった経緯等を除いて説明した筈なのだが、どうやら部長であるウタハにだけは理解して貰えなかったようだった。
「次! 次は自信作だ! さっきのはほんのお遊び。ジョークという物だよ。何事も最初はコメディから入るって言うだろ? 最初からシリアスじゃつまらないからね。まずは人の心を掴まなきゃ」
「その唯一の観客である俺の心はもう離れてるンですがそこン所はどォなンですかァ」
「そういう先生もこれを見れば黙ると思うよ。ほら」
一方通行を逃がさんと片手で彼の動きを封じつつ、もう片手で器用に鞄から取り出したのは掌に軽く収まる程に小さい円形の筒のような何か。
「実はヒビキの歩けないなら飛べばいいという案は悪くないと私も睨んでいてね。奇しくも揃って似たような装置を作る結果を生んでしまったよ。と言う訳でこれは先生の身体を直に浮かす装置で、訓練と身体に装着する場所次第だが音速を超える速度で飛ぶ事もかの──ああ待って先生出て行かないで欲しいもう少し真面目に装置の説明を聞いてから──」
「もう帰りますゥ!! 失礼しましたァ!!」
ここにいては人権も何もかも毟り取られる。
冗談ではなく本気で命の危機を感じた一方通行はこの場からの全力逃走を図ろうとするが、既に彼の腕は掴まれており、ウタハの腕を引き離すことは今の彼には相当な難題だった。
「これは別にヒビキやコトリが発明したようなトンデモ機能がある訳じゃない。ただちょっと人体を浮かしてそのまま何もしなければロケットのように吹き飛ばしてしまう物をどうにかして改良しようとしている良品だ。出力の調整次第では十分活用が期待出来───」
「調整次第って言ってるじゃねェかまだそれ完成してねェじゃねェかそれ誰が完成まで人体実験するンですかァ俺は嫌ですまだ死にたくありませンーーーーー!!」
「先生の体重や体幹で微調整しないと実用化に至らないんだそこは了承して欲しい」
「誰が了承するかこのクソアマァ!! 命が百あっても足りなさそうなので辞退しますゥもォいィです自分の足でキヴォトス歩きますゥ!!」
待ってくれ。
イヤだ。
お願いだ。
断る。
話を聞いてくれ。
全部聞いた。
じゃあ了承してくれ。
する訳ねェだろ。
上記のような問答が延々と繰り広げられ、埒が明かないと踏んだ一方通行は他の部に用があることを思い出したかのように告げ、時間がそれなりに経過したことを理由に逃亡に成功する。
結局この日、一方通行が得た収穫は拳銃一丁と少女達のシャーレの予算をふんだんに使用し、贅沢かつ無意味なコントに付き合う忍耐力だけだったのは言うまでもない。
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エンジニア部から命からがら逃げだした一方通行は、先程ミドリと約束した通り、彼女が所属するゲーム開発部へと足を進めていた。
名前の通りゲームを開発し、販売、配布する部活らしいが、一方通行は彼女達がゲームを制作している様子を見たことはなく、寧ろ遊んでいる様子ばかり観察している。
そんな一方通行だが、彼がゲーム開発部を訪れるのは初めてのことではない。
初めてミレニアムを訪れた際、初対面のモモイに無理やり引っ張られ、部室へ連れ込まれ、彼女達が嗜むコンピューターゲームに無理やり参加させられた。
当然一方通行も最初はゲーム開発部に連れて行かれるのを拒否し、遊びにも付き合わない姿勢を見せていたが、二人の落ち込む姿を見て渋々承諾、一時間だけと言い張った上で遊びに興じたが、彼が結局シャーレに戻ることになったのは三時間以上が経過しての事だった。
以降。モモイとミドリの両名、及びゲーム開発部のもう一人の部員である花岡ユズは彼のことを甚く気に入ったのか、ミレニアムで一方通行がいるのを見かければ、又はシャーレでの休憩時間に部室やシャーレ内にあるゲームセンターへ誘うようになり、一方通行も時間に余裕がある時は付き合うようになった。
そんな経緯を経て、現在一方通行はゲーム開発部の部室前へと辿り着いていた。
今日の仕事はユウカと共に終えている。
今からシャーレに戻っても特にすることはない。
なら少しばかり彼女達に付き合い暇を潰すのも悪くないかとドアノブに手を掛けた瞬間、
(ほら急いでミドリ! 早くしないと先生来ちゃうよ)
(先生……ちゃんと私がミドリだって気付いてくれるかなぁ)
(それを知る為にやるんじゃん早く早く!)
扉の向こうから、モモイとミドリの騒々しい声が聞こえて来ている事に気付いた。
(何騒いでンだあいつら)
ゲーム開発部が騒がしいのは今に始まったことでないが、何故だか今日はいつにも増してドアの奥が騒がしいことに一方通行は僅かばかり眉を寄せる。
が、そもそも騒いでいるのはいつもの事だったなと思い立ち、まァ何でも良いかと彼はそのままノータイムでガチャッと扉を開け。
ミドリの服に着替えようとしているモモイと。
モモイの服に着替えようとしているミドリの姿と、
一方通行が来てしまったことに顔を青ざめさせながらワナワナと震えるユズの姿を目撃した。
瞬間、先程まであんなにやかましかった部室内が途端に静まり返る。
加えて、少女達三人は一方通行の方を見つめたまま全員時が止まってしまったかのように固まってしまい誰も動こうとしない。
それは、スカートを手に持ち、今正に履かんとしていたミドリと、短パンを膝まで持ち上げていたモモイも同様だった。
さらに言えば、モモイ、ミドリ双方共上着のボタンを閉じておらず、白い肌と慎ましい膨らみを隠す布、そして下腹部を覆う逆三角状の水玉模様があしらわれた布の二つがこれでもかと一方通行の前に曝け出されている。
カラーもそれぞれ桃色と緑色と、徹底して自分達のイメージカラーに沿われていた。
「……あ?」
その空気を壊さんかの如く、二人のそれはもうどうしようもない程にあられもない姿を目撃した一方通行は事態が掴めないような声を上げる。
しかし、一方通行が声を発した。
それそのものが自分達の意識を現実へと呼びよせる引き金となったのか。
直後、モモイ、ミドリの両名は瞬く間に顔をカーーーーッッ!! と頬を紅潮させ。
「わーーーーーーー!! 先生見ちゃダメーーーーー!!!」
「先生に、みら、みられ……!!」
ババッッ!!! と素早くモモイは身体を隠し始め、ミドリはモモイよりも顔を真っ赤にしながら、身体を隠す動作すら出来ない程にテンパる様子を見せた。
慌てて短パンを履いてボタンを留め始めるモモイと、プシューーー……とフラフラと首を左右に揺らし、頭から湯気すら出始めているミドリを他所に一方通行はこの状況が良く読めず、呆れ気味に言葉を投げる。
「何やってンだ、お前等」
「先生が来るまでにミドリと服を入れ替えて先生が気付くかどうかやりたかったの!! て言うか先生冷静に聞いてないで後ろ向いててよもーー!! 恥ずかしいじゃん!!!」
デリカシーの無さ最大限の発言をこれでもかとぶっ放す一方通行だったが、一応服を着終え体裁を整えたモモイはそこに怒ることはせず、顔を赤くしながらポカポカと一方通行の肩を叩く。
しかし、この状況に対応出来なかったミドリは未だ服を着替える事も出来ず、最早茹っていると表現するしかない程に真っ赤に顔を染め上げながらフラフラと頭を揺らし
「見られるなら、もっと可愛いの……履いて来ればよかった」
最終的にその言葉を最後に、ドサッッと、羞恥に耐え切れず気絶した。
直後、ミドリーーーー!!!! と叫ぶモモイの絶叫と。
あ、気にするのそこなんだ……と冷静なユズのツッコミと。
だから本当何がしたかったンだよと言う一方通行の呟きが重なる。
「気絶するならせめて私のスカート! いやボタンも! とにかく服を着てから気絶してーーーー!!!!」
以降、一方通行は事ある毎に様々な少女達のあられもない姿を偶然的に目撃する事態が多発することになるのだが、
それはまた、別のお話。
皆さま、ハッピーエンドはお好きですか。
私は好きです。大団円。大好きでございます。
しかし、山なし谷なし大団円。お好きじゃありません。
主人公やヒロインには物語に会った大きな苦しみを経験して欲しいなと思っております。
みんな幸せで結果オーライなら片目ぐらい見えなくなっても、良いんじゃない??
エデン条約編ではそんな苦しみを与えたい訳ですが、あまりにも重いとその重みを跳ね返す突破方法が見えなかったりもします。
例えばエデン条約編で出現する『聖徒会』が『妹達』の模った思念態だったりね。
「お久しぶりです。と、あなたに撃たれた腹部の痛みを思い出しつつ、ミサカ一号は憎悪の念を第一位に向けながら武器を構えます」
とか言われたら瞬間的に一方さんの心はポッキリな訳です。
当然これは本物の『妹達』ではなく、一方通行が心の中でそうなんじゃないかと勝手に思っている妹達の感情を歪な形で具現化しただけで当人達である『妹達』は全く憎悪等抱いていないのですが、一方通行が考えていた妹達の内面がそのまま出てきた訳ですから当然一方通行はそれを事実として受け止めます。
受け止めなかったとしても攻撃なんか出来ないです。撃たれ放題です。
勿論事情なんか知らない生徒達は一方さんを庇ったり反撃したりするでしょうが、その生徒の攻撃から『妹達』を庇う為一方さんが撃たれます死んじゃいそう。
守りたい筈の人が敵を庇った。
自分の銃弾で先生が傷付いた。
どうして……と絶望に浸る当人や周囲の生徒達を横に一方さんは血だらけで意識朦朧でやっぱりこうなるのが正しかったんだ等と、間違いだらけの正解を胸に抱いて死んじゃうんだ。
って所までをプロットに書き起こした時点で、あ、これ無理だハッピーエンドルートいけないわ。ということで没に。
もう少し丸くしないとね。
でも丸くし過ぎは面白くないからね。
そんなことを考えながら、次回はちょっとだけ戦闘が入ります。
ちなみに、ユウカは現在最も多く出番を貰っているヒロインではありますが、一番勝者に近い位置にいるという訳では……ないのかもしれません。