とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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高みと誇りを掲げて

 

 

 

アビドス分校奪還作戦。

その始まりの奇襲は成功と言う形で成果を発揮した。

 

利用したのは、先日カイザー側が襲撃を掛けた際に持ち出して来た戦車と、オートマタ兵士が持っていた爆弾を一方通行が独自に改良した物。

 

戦車による砲撃で視線を真下に集中させた所で、空中に浮かべていたシロコのドローンに持たせた視界を遮ることに特化した特殊爆弾を落とす。

 

目論見は正しく機能し、カイザーのオートマタ兵士は立て続けの爆発。次いで視界が灰色に覆われたことにより瞬く間に混乱の真っ只中に置かれた。

 

しかし、それは一方通行達も例外ではない。

地上戦を仕掛けなければならない以上、視界の悪さはこちら側にも無視出来ないレベルな深刻さを与える。

 

だが。

その深刻さが深刻さとして正しく機能するタイミングは、今ではない。

だからこそ、一方通行は自身達も不利になる状況を敢えて作った。

 

要は単純明快。

煙に覆われた戦場で戦わなければならない事実にこちらが困る百倍以上、相手の方がこの状況に困る。

 

それだけの話だった。

 

「いっきますよ~~~~~!!!!」

 

煙が立ち込めるアビドス分校。その校門の前に立つノノミは、構えているガトリングガンから破壊力溢れる弾丸をありったけ、そして出鱈目にぶち込み始める。

 

当然、ノノミの視界は八割方塞がれている。

彼女自身、どこに銃口を向けて、弾丸がどう命中しているのか把握していないだろう。

しかし、巨大な破壊音が無限にあちこちから響き続けていることから、彼女の銃弾がオートマタに命中し続け、破壊し続けていることだけは確かだった。

 

「それそれそれそれ~~~~~!!!!!」

 

にこやかな笑みを浮かべ、いつも通りの戦闘だと言わんばかりにノノミは自身の身体能力に物を言わせてガトリングガンを意のままに操り、照準をブレさせずに上下左右に振って銃弾によるダンスをカイザー目掛けて見舞わせ続ける。

 

どこもかしこも敵が跋扈しているならば、適当にガトリングガンを左右に振ってやるだけでイヤでも命中する。

 

そのレベルの物量が相手ならこちらの視界が開けているかどうかは最早関係が無い。

どこに撃とうが当たってしまうのが今の状況ならば、煙幕があっても無くても同じ。

 

こちら側が叩き出す結果は何も変わらない。

 

それが一方通行が立てた作戦だった。

順調に進んでいるかどうかは、結果が優に語っている。

 

「シロコ。セリカ。ノノミの脇を抜けて突入しろ」

 

頃合いと見て、指示を投げる。

了承の声が同時に届いたのは、そのすぐ後。

 

瞬間。

二つの影が高速で煙幕の中を進み。

 

「フッッッ!!」

「とりゃあッッ!!」

 

掛け声と同時にシロコとセリカはオートマタ兵士に近接戦闘を仕掛けた。

 

「せいっっ!」

 

背中に背負うアサルトライフルは使用せず、セリカは走る勢いを落とさぬまま、最も近い位置にいた兵士に腰の入った右拳を顔面に叩き込んだ。

 

ゴガンッッ!! と、言う音と共に兵士が吹き飛ぶが、セリカは目もくれず次の敵の方へ走る。

 

「二体目ッッ!!」

 

跳躍し、拳を真上から真下へと振り下ろしながらオートマタを叩き潰す。

直後、間近にもう二体いたことを目視で確認したセリカは、着地と同時にその方向に向かって加速し。

 

「吹っ飛びなさいッッ!!!!」

 

腹に風穴を開ける勢いで真正面からオートマタの腹部を蹴り飛ばし、蹴り飛ばした足で強く地面を踏み抜き、グリンと身体を大きく回転させ流れる動きでもう一体の側頭部目掛けて回し蹴りを叩き込んだ。

 

バギンッッ!! と、破片を零しながらオートマタは吹っ飛び。後者の壁に激突してその機能を停止させる。

 

しかしそこにセリカは一瞬たりとも注意を向けたりはせず。

 

「次ッッ!!」

 

と、叫んで次の兵士目掛けて煙が覆う戦場を駆けて行く。

それはシロコも同様だった。

 

「フッッッ!!」

 

腰を落とし、地面を低く進む中、手頃な場所にいた兵士を足払いで地面へと転がす。

視界が遮られている中、地面を這うように進んでいたシロコの姿を兵士は捉えることが出来ず、何も抵抗できぬまま、呻き声と共に仰向けに転倒する。

 

そして。

 

「んッッッ!!」

 

ドスッッ!! と、隙だらけになった兵士の胸部分にシロコは右拳を突き刺す勢いで振り下ろした。

彼女が放った一撃によって内部の何かが破壊するような音が響く。

グッタリと動かなくなったロボットが完全に機能停止したのを確認したシロコは、次の標的を探す為再び走り出さんとした矢先。

 

「このッッッ!!」

 

背後から声が響いてきたことを察知した。

どうやら、運悪く見つかってしまったらしい。

 

声の勢いから察するに、武器を振りかぶられているとも予想する。

このままでは一方的に殴られる状況だが、肝心のシロコはこの危機をどう解決するか。等と考えたりはしなかった。

 

何故ならば既に身体は勝手に動き始めていたから。

 

トンッッ。と、優しい音と共にシロコは相手の懐に背中から飛び込む。

敢えてシロコは後方へ、相手がいる方向へと後退した。

 

予想の範疇を超えた動きに、一瞬オートマタの動きが止まる。

だがその一瞬さえあれば、シロコにとっては充分だった。

 

ドスッッ!! と。予備動作無くみぞおち部分に右の肘を二度、三度沈ませる。

当然相手は機械。人体の急所に一撃を加えても纏まったダメージは与えられない。

 

が、その連撃で少しだけ相手を浮ち上がらせることは出来る。

狙い通りの展開だった。

 

「ふっ……!」

 

相手を浮き上がらせて作り出した猶予を利用して、身体を半回転させる。

そうして瞬く間に相手と向き合う形に持ち込んだシロコは、そのまま両手を広げてオートマタの身体を強引に掴む。

 

そして、力任せに前進を始めた。

直進上にいたオートマタも纏めてその動きに巻き込みながら。

 

「ッッ、んぐぅううううううううッッッ!!!」

 

一体、また一体と押しこむ対象が増える度にズシリと圧し掛かる腕の負担に唸り声を上げながらシロコは前進し続け。数えて四体のオートマタを追加で捕まえ。五体のオートマタを一纏めに固めた瞬間。

 

「ここッッッ!!」

 

腰に収めていた先日鹵獲したハンドガンを抜き、一体につき一発ずつ発砲した。

ノノミのガトリングガンの音に紛れているのと、サイレンサーを装備していたのもあって彼女の発砲音は完全に掻き消された。

 

ドサドサと崩れ落ちるオートマタ兵士を一瞥した後、シロコは背後へと振り返る。

見れば、校門前でガトリングガンを連射しているノノミに応戦している兵士たちが視界に映った。

 

こちらもそこそこ派手に暴れているというのに、攻撃目標はノノミだけに定めているらしい。

それ程までに彼女が叩き出している戦果が凄まじいと言うことだろうか。

 

良いね。と、シロコは呟く。

今の所、全部順調に進んでると。

 

「まだまだいるね。じゃ、減らしていこうか」

 

その言葉を皮切りに、シロコは再び戦場へと戻る。

これが、一方通行が立てた作戦だった。

 

爆弾による煙幕の生成。

ノノミによる破壊的銃撃による一掃を兼ねた視線誘導。

その煙幕内を隠密に駆け抜け、銃撃を伴わない接近戦でノノミの銃撃範囲の外にいるオートマタを一機ずつ的確に処理するシロコとセリカの投入。

 

戦闘が始まった時点から敵の包囲網にあるならば、その包囲網を出来る限り少なく。かつ始まる前に少しでも数を多く減らす。

その為にカイザー側のヘイトを、校庭の外、煙幕の範囲外にいるオートマタの視線をノノミ一点に固めた。

 

ガトリングガンによる銃撃は見た目も破壊力も驚異的。

現にシロコ、セリカがノノミの影を利用し、着実に撃破数を稼いでいるものの、戦果を一番上げているのは間違いなくノノミである。

 

当然、そんな戦果を上げればカイザー側からノノミは最大の脅威としてみなされ、集中砲火を喰らう。

ガトリングガンの欠点である機動性の悪さを徹底的に突いて行く。

 

それを逆手に取る為に、セリカとシロコがいる。

 

「せいッッ」

 

ドスッッッ!! と、ノノミに意識を向けていた複数のオートマタにセリカは蹴りを入れて後ろにいた複数体毎まとめて吹き飛ばした後。その辺に転がっている破損したオートマタの部品と思わしき物体を、先程巻き込んで転倒させたオートマタの頭部目掛けて蹴り飛ばす。

 

鋭利に尖っていた部品は見事に頭部の額部分に突き刺さり。オートマタは起き上がることなく沈黙した。

 

「分かってたけど、本当数が多いッッ! わねッッ!」

 

破壊しても破壊しても、一向に戦力を削っている実感が湧かない程の大量の敵を相手にしている事実に辟易するような言葉を吐き捨てながら、彼女の存在に気付き、今にも撃たんとしていたオートマタに接近し、問答無用の裏拳で吹き飛ばす。

 

シロコ、セリカの両名が銃を極力使っていないのは、周囲に自身の存在を察知させず、隠密に動けるこの状況を可能な限り維持する為。

 

そして相手も銃を所持し、かつここまで数に開きがある戦闘の場合、懐に飛び込む接近戦に持ち込んだ方が最終的な被害は少ない為と言う二つの利点から、一方通行は二人に可能な限り銃撃戦は行うなと指示を出した。

 

銃を使うならば、必然的に大なり小なり相手と距離を開けて戦うスタイルになってしまう。

四方八方が敵な状況。学校を占拠されている都合上地理的にも大幅に不利な場所で撃ち合いを始めてしまえば瞬く間にこちら側が蜂の巣にされてしまうのは火を見るより明らか。

 

いくら銃弾が致命傷にならないヘイロー持ちでも、限度と言うのはある。

被弾は限りなく避ける方針にしなければ、相手との物量差もあって簡単にこちら側が押し潰されるのは自明の理。

 

故に一方通行はシロコ、セリカの二人に相手との距離を自分から詰めて、銃による攻撃が役に立たない距離で確実に仕留めていく作戦を立てた。

対して、ノノミにだけは普段通りのガトリングガンが持つ圧倒的破壊力に身を任せ、自身もドッシリと構えて場を蹂躙する力押しスタイルで戦場をかき乱し、二人が動きやすい状況を作る。

 

作戦は、すこぶる順調だった。

 

しかし。そこにも限界点と言うのは存在する。

その切っ掛けとなるのが。

 

煙幕の効果切れだった。

 

「ッッ!?」

 

突然、シロコの頬を銃弾が掠めた。

チリ……とした痛みと熱さが微かに彼女の眉を歪める。

 

流れ弾か。とシロコが一瞬思った次の瞬間。

ガツンとした衝撃が後頭部に走り、彼女の身体が前に崩れかけた。

 

「ぐっっっ!?」

 

グラリと、視界が揺れる感覚が襲う。

 

倒れるすんでの所で右足を前に咄嗟に出して踏ん張り、シロコは転倒を防ぐ。

背中に絶え間ない銃撃を受けたのは、その直後だった。

 

「~~~~~~ッッ!!」

 

背中に追撃を受けつつも、転倒するのを意地で耐え抜き、咄嗟に走る判断を下せたのは奇跡と言って良い物だった。

 

もしこの場で体制を崩せば、延々と撃たれ続ける羽目になっていたであろう。

最悪の場合、二度と起き上がるのを許してくれなかったかもしれない。

 

敗北の危機をギリギリで回避したシロコではあったが、後頭部と言う急所、及び背後という完全な死角から銃弾の雨を浴びた事実は拭い去れず、受けたダメージに顔を歪ませ、額から一筋の汗が流れる。

 

同時に、身体が警告を発する。

今の角度からの攻撃は、流れ弾による物ではないと。

明らかに狙い澄ました一撃だったと、経験と勘が訴える。

 

走りながら被弾するのを極力抑えているシロコはある場所を境に身体を真後ろに反転させて振り返り様、視線を上に持ち上げる。

 

そして、二階、三階のあらゆる窓からこちら目掛けて銃撃しているオートマタの軍団を目撃した。

 

「ガキ共を潰せーー!!」

「上から殺せーーーッ!」

「撃て撃て撃てッッ!! 嬲り殺しにしろッッ!!」

 

視線を上に向ければ、意識をそちらに向ければ、目の前の戦闘に集中していて聞こえなかった音がハッキリとシロコの耳に聞こえて来る。

 

殺意に満ちた声が、シロコ達を襲う。

 

まずい。と、状況が一気に傾いた事実にシロコは焦りの表情を浮かべる。

見れば、煙幕はすっかり風に流され、戦場の半分以上がもう既に公の場に晒されてしまっていた。

 

この状態のシロコ達はカイザーにとって格好の的にしかならない。

現にもう、彼女達目掛けての的確な攻撃は始まってしまっている。

 

「いたっっいたたたたッッッ!?」

「ぐぅっっ!? ちょ、ちょっと銃弾が多いですねこれはっっ、まずっっっ!!」

 

少し遠い所から、セリカとノノミが被弾していると思わしき声が溢れる。

状況を打破しようと慌ててシロコは足を止め、背中に背負っていた自前のアサルトライフルを構え、上から狙う敵を撃とうと狙いを定める。

 

が。

 

ドドドッッ!! と、横腹に無数の銃弾が突き刺さる衝撃が迸り、彼女の身体がくの字に歪み、少しばかり吹き飛んだ。

 

「あ、ぐッッッ!!」

 

またしても不意の一撃だった。

空いた右手で受け身を取り、地面を転がり衝撃を殺しながら、シロコは状況が悪化している事実を認識する。

ズキリと痛む横腹を押さえて体勢を立て直せば、今度は対面するオートマタがシロコにマシンガンを撃つ様子が見えた。

 

「くっっっ!!」

 

標的を慌てて対面するオートマタに変更し、アサルトライフルの火を吹かす。

マシンガンとアサルトライフルの撃ち合いは、シロコの方が正確性に優れていた。

 

アサルトライフルから射撃音が迸った瞬間にはもう、シロコと相対していたオートマタの胴体が破壊されていた。

 

撃破した最中、チラリとシロコは校門へ。ノノミがいる方向へ視線を映す。

そこには四方八方から、上から真正面からひたすら銃撃され続けている光景が広がっていた。

 

ノノミの姿は無い。

しかしチラリと見える制服から、彼女は今、校門の影に隠れて銃撃をやり過ごしているのをシロコは知った。

 

だが、彼女が隠れている事実は同時に、ノノミの援護射撃が途絶えていることを意味していた。

それはつまり、ノノミに意識を割くオートマタが減っていることと同義であり。

 

「ッッッ!!!!」

 

煙幕が晴れてしまったのも相まって、数えて五体のオートマタが、シロコを標的に見据え同時に銃を構えてしまったのも必然だった。

 

当然、上からもシロコ目掛けての射撃は続いている。

 

このまま棒立ちは危険。

かといって上を片付ける時間は今は無い。

 

どうする。

どうするのが正解と、次の判断をシロコが決めあぐねていた刹那。

 

「させないッッ!!」

 

シロコを地上から狙っていたオートマタに飛び掛かりながら、セリカが妨害に挟まった。

飛び掛かりながら一体の首元に両腕を絡ませて地面に薙ぎ倒し、自身は身体を伸ばすように一回転を挟んで走る勢いをなるべく殺さずに立ち上がると、続けざまにいたもう一体の横腹目掛けて細く白い脚を叩きつける。

 

流れる動きで次の一体に右の拳を激突させんと振りかぶった刹那。

二階、三階にいるオートマタから雨のような銃弾がセリカ目掛けて降り注いだ。

 

「くっっっ!? この、ちょっとッ多す、ぎッッ!!!」

 

上階から降り注ぐ殺戮の雨に攻撃の手を止め、顔を庇いながらセリカは呻く。

シロコに迫っていた危機から一転、今度はセリカが追い詰められる。

 

だが。

 

「……あ」

 

彼女目掛けての銃撃に巻き込まれるように、セリカの近くにいた兵士が味方からの銃撃を受け、見るも無残な塊へと変貌していく様子を見ていたシロコは、小さく声を零した。

 

気付く。

 

近接戦闘を繰り広げるセリカ。

そのセリカ目掛けて叩き込まれる無数の銃弾。

その銃弾に巻き込まれるセリカの近くにいるロボット兵士。

 

僅かな時間傍観する余裕が与えられたシロコは、その光景を見届け、辿り着く。

 

カイザーの兵士は、同士討ちを気にしていないことに。

圧倒的兵力に物を言わせる為、一体一体を重宝せず使い捨てる作戦を取っているのか、同士討ちを一切鑑みていないことにシロコは気付く。

 

「セリカ!!」

 

シロコは彼女の名を叫びながら顎をクイっと校門部分を指すように上げて意思を示した。

同時、勢い良く彼女は走り出す。

 

その最中、上階を見上げてアサルトライフルの照準を無理やり合わせると、手当たり次第に発砲した。

当然、精密に狙いを定めていない彼女の銃撃が全て当たる筈もなく、撃破したのはせいぜい数体。

 

代わりに待っているのは彼女目掛けての銃撃。

走るシロコを追いかけるように、銃弾が上から注がれ始める。

 

狙い通りだと、シロコは武器を背中に収めながら加速に集中力を注ぐ。

勢いを付けたシロコが見つめている先にいるのは校門へ、ノノミに攻撃を注いでいるオートマタ。

 

その一体の方へ走り、接触する寸前、シロコはおもむろに腕を横へと伸ばし。

 

「んっっっ!!!!」

 

すれ違うと同時、首元に二の腕を叩きつけた。

走る勢いを全く殺さずに放った一撃は、数十センチ程オートマタを浮き上がらせ頭から地面に落下させる。

 

一体を戦闘不能に持ち込んだシロコは、その近くにもう一体のオートマタがいることを視認するや否や、腕を叩きつけた反動で自分の身体も僅かに浮いているのを利用し、右足を軸に身体をグルリと一回転させた後。

 

ゴッッッ!! と、遠心力を乗せた裏拳を相手の顔面に直撃させた。

そうしてノノミを狙い撃ちしている戦場にやって来たシロコは、二体のロボットを立て続けに撃破すると、数メートル前方に次に狙うべきオートマタ数体を見つけ、しかし今度はそのロボットの合間をすり抜ける様に走り去る。

 

ドパパパッッッ!! と、走る軌跡を追うように上から銃弾が降る音が聞こえ、破壊されていく音が連鎖的にシロコの耳に届いた。

言葉には出さず音だけで自分が描いた通りの結果が出ていることを察したシロコはこのままノノミが狙われ続けている状況を打破する為、次は足を一端止めて上からの狙いをより正確にさせる為、自力での撃破を前提に拳を握る。

 

彼女の近くを、大きな物体が飛んで行く瞬間を見届けたのは丁度そんな時だった。

 

「わっっ!?」

 

反射的に視線をその方角に向けると、シロコと同じく全速力で走って来たであろうセリカが勢いそのままに飛び蹴りをオートマタの胸元に放ちながら戦場にやって来ているのを目撃する。

 

「吹っ飛びなさいよッッ!!」

 

叫ぶ彼女の言葉通り、蹴り飛ばしたぶ方向に丁度存在していた一体のオートマタを巻き込んで彼方まで吹き飛ばしたセリカは、着地後も足を止めることなく次々と手当たり次第敵に近づいては手足を用いて戦闘不能に陥れていく。

 

「ノノミ先輩無事ですか!? もう少し待っててください今終わらせますからッッ!!」

 

ゴスッッ!! と、重い一撃と共にまた一機を蹴り壊しながら、セリカは隠れているノノミにメッセージを送る。

 

彼女の言う通り、ノノミを地上から狙うオートマタはシロコ、セリカ両名の反撃により半分以上数を減らしている。

上から狙われている数こそ減っていないが、ノノミを襲う弾幕の数は目に見えて減っていた。

 

だから。

 

「シロコちゃん!!」

 

チラリと半身だけ身体を出したノノミが、もう大丈夫だと暗に言いたげにシロコに指示を送った。

彼女の視線は、二階、三階へと注がれている。

 

ノノミの声に反応したシロコは校門の方に視線を向け、彼女の視線が二階に向いているのを目撃し、一瞬だけノノミの方に焦る表情を向ける。

 

が、迷いを振り切るように首を一回だけ左右に振った後。

 

「セリカ! こっち!!」

 

走りながら簡潔にセリカに付いて来てと指示を出した。

戦闘を中断して一緒に来てという声は戦闘中の彼女にもしっかりと届いたらしく、セリカは相対していたオートマタを二回の右フックと一回の全力右ストレートで撃沈させた後、シロコの後を追う。

 

「嘘!! そんな無茶な!!」

 

そして、信じられないとばかりに悲鳴に近い声を上げた。

シロコが向かっていたのは校舎の壁際。

 

その場所で、腰を落とし両の掌を合わせてセリカを待っているシロコが映る。

彼女の姿勢は、自身の手を足場にしてセリカを二階へと押し上げようとする体勢だった。

 

「来て!!」

 

走りに迷いが生まれたセリカの覚悟を決めさせるように、一際大きい怒号が飛ぶ。

滅多に、否、一回も聞いたことが無いであろうシロコの声量にセリカは一瞬目を見開き、そして、叫んだ。

 

「思いっきりお願い!!!」

 

コクリと、セリカの意志表明に小さくシロコは微笑みながら頷く。

走る勢いのままセリカは跳躍し、シロコが作った足場に片足を乗せる。

 

同時、シロコの身体が僅かに沈んだ後。

 

「行ってセリカ!!」

 

ありったけの力でもって、セリカの身体が真上へと打ち上げられた。

彼女の身体は、二階部分をあっという間に飛び越えて三階部分へと向かっていく。

空へと飛び上がったセリカは真下をもう見ない。

 

その視線は上へと、こちらに銃を向けている三階にいる一機のオートマタに集中している。

 

「なッッ!?」

 

空中に飛び上がったセリカから一気に距離を詰められている機械仕掛けの兵士から、驚愕の音声が零れる。

だが、対するセリカは一切動じることなく、その距離をゼロまで縮めると。

 

「でやぁぁあッッ!!」

 

ゴキンッッッ!!! と、全力の膝蹴りを当てて首を吹き飛ばしながら三階廊下の侵入に成功した。

勢い良く窓から侵入を果たしたセリカは、突入した勢いを殺す為、ゴロゴロと廊下を数度転がった後、担いでいたアサルトライフルを装備する。

 

刹那、そのまま射撃を開始した。

 

体勢を立て直しきれず、準備不十分の中で発砲を開始したセリカの前方には、侵入してきた自分を迎撃すべく今まで窓の外から自分達を撃ち続けていた十体あまりのオートマタが一斉に侵入を果たしたセリカ目掛けて銃を構えている様子が映る。

 

だが、それらはほぼ例外なくセリカの先制攻撃によって物言わぬ鉄屑と成り果てた。

 

体勢を立て直し、万全な状態で攻撃を仕掛ける為の時間を作っていれば、先に攻撃を受けたであろう状況を、セリカは反射と勘で覆した。

 

彼女の行動が本当に正しかったのかついての是非は分からない。

ただ、結果としてセリカは無駄な傷を負うことなく十機ものオートマタを撃破した。

 

「シロコちゃんも二階に行って!! ここは私が引き受けるから!!」

 

ふと、校門の方から声が聞こえて来た。

一戦を終えて少しの間だけ静けさを取り戻した三階廊下の窓から外の様子を窺えば、シロコ、セリカの活躍によって反撃する余裕が生まれたノノミが、ガトリングガンを構えて襲って来る軍団を蹴散らしつつそうシロコに指示している姿が見える。

 

その直ぐ後、シロコの姿が一階部分の窓へと吸い込まれるように消えていくのをセリカは目撃した。

どうやら、シロコは一階から階段を使って二階へと上がるらしい。

これにより、三人は別個に散らばることとなった。

 

校庭に一人。二階に一人、三階に一人。

単独行動は相手の戦力を分断させる効果的な一手であり、味方こそ周囲にいなくなったが、その分一度に相手する数は等しく三分の一になった事実は大きい。

 

だからこそ、ここから先は信頼を胸に秘めて進まなくてはならない決断をセリカは強制的に下された。

シロコ先輩なら、ノノミ先輩なら絶対に勝つという信頼を持たなくてはならなくなった。

 

助けに行けばこの状況が崩れる。

相手の戦力がまた一堂に会し始める。

 

それだけは避けなくてはならない。

その為にも、二人のことは考えず自分のことだけに集中すると、セリカは心に決める。

 

「さて、中にどれだけいるんだか」

 

少なくもここまでの戦闘で二十は、三人の撃破総数を大まかに換算するとおよそ百体弱は倒しただろうが、その程度で全滅できたとは微塵も思っていない。

 

まだまだ戦闘は始まったばかり、ここから続々と集まって来るであろうことは容易に想像出来、この静かな時間はもう二度と来ないだろうなとセリカは心の内で断じた。

 

僅かな時間休憩を経たセリカは少しだけ自分の身体を軽く動かし、先の戦闘で受けたダメージによる影響は問題無いことを認識すると、連中の殲滅を始める為歩き出そうと、一歩目を踏み出す。

 

その一歩の音が、廊下に響き渡った瞬間。

 

「そ~~~れッッ!!」

 

静けさを切り裂くような、背後から響く場違いに明るい声が否応なくセリカの耳を刺激した。

 

え? と思って振り向いた彼女の視界に広がったのは、視界を覆う程にまで自分の近くに投擲されている鞄だった。

 

何。と、自分目掛けて投げられた鞄の存在に、不可思議でしかない現象にセリカの思考が一瞬止まった。

どうしようもなく、身体が硬直した。

 

でも。

でも。

 

セリカが今まで鍛え上げた反射神経は、身を守る為にしっかりと反応を示した。

バシッッッ!! と、気付けばセリカの腕が勝手に動き、迫りくる鞄を受け止めるのではなく窓の外に弾いていた。

 

その一秒後。

 

ゴッガアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!  と、弾いた鞄が空中で轟音と閃光を迸らせながら破裂し、周囲一帯を吹き飛ばす程の爆発を生じさせた。

 

刹那、爆破の衝撃によって周囲の窓が一斉に粉々に砕け散っていく。

 

「き、きゃあああああああああああッッッッッ!?」

 

隠れる。

そう咄嗟に判断し、かつ実行できたのは、先程働いた条件反射能力がまだ生きていたからに違いない。

 

爆発が起こった直後、自分でもどうやって出したのか分からない程の大声と共に慌てて身を屈め、壁に隠れた事で生じた爆風からセリカは身を守ることに成功する。

 

爆破が収まった後、目を閉じていたセリカはゆっくりと目を開けて廊下の方に視線を動かし。

 

鞄を投げたと思わしき赤い服に身を包んだ一人の顔立ちの幼い少女が楽しそうにしている様子を目撃した。

 

「くふふ。面白い子み~~つけた。今ので終わると思ったのにな~~」

 

あれだけ大規模な爆発が起きたにもかかわらず、少女は背中に身の丈はありそうな銃を握りつつ、小悪魔のような笑みを浮かべてカツカツと靴音を鳴らして近付き、未だ屈んでいるセリカを見下ろす。

 

その少女は、新しい玩具を見つけて目を輝かせているとしか思えない目をしていた。

 

「ア、アンタ……急に何を……ッ!」

 

身体を持ち上げながら、困惑に満ちた表情と声でセリカは少女に向かって質問する。

だがそれは決してしてはいけない質問だった。

 

気付くべきだったのだ。この場に誰かがいる違和感に。

この学校を取り返したいのは先生を含めた自分達アビドスの面々しかいないことに。

 

目の前で笑うこの少女が味方ではなく敵であると、セリカはすぐさま察知しないといけなかった。

それが出来なかったのは、今の今まで相対してきたのは全てオートマタであることに由来する。

 

どこかの学園の生徒がカイザーに加担している可能性を、セリカは考えもしなかった。

そんな未来があるとすら思っていなかった。

 

想像すらしていないから、セリカは先程見せたような先制攻撃が出来なかった。

 

「くじ引きは外れだったけど、見つけた以上逃す訳にもいかないからさ」

 

予想出来ていなかったから、少女が放つ言葉の意味を理解するのに遅れが生じた。

 

だから。

だから。

 

セリカは、浅黄ムツキと正面から激突せざるを得なくなる。

 

「それじゃ、始めよっか!」

 

そのことに彼女が気付くのは、ムツキが持つ銃、『トリックオアトリック』の銃口がこちらに向けられてから。

 

先制攻撃を、受けてからのこととなる。

 

アビドス分校。三階廊下。

間もなく発生するで四つの戦闘の内の一つが開幕する。

 

その火蓋を切ったのはムツキから。

 

「とりあえず楽しく行ってみよう~~!!」

 

銃口が、火を噴き始める。

それは、学校を取り戻す上で絶対に避けられぬ戦いだった。

 

 

 

 

 

 

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無数の弾丸がゴリゴリと建造物を抉る音が無慈悲に響く。

いつ破壊されるか分からない未知の恐怖と背中合わせな目に会うというのは、有り体に言ってしまえば不幸な出来事なのではないか。

 

「はぁ……」

 

物陰に身を潜ませながら、そしてビシビシと背中から伝わる着実に破壊が為されているのを肌で覚えながら彼女、鬼方カヨコは恨めしそうに嘆息する。

 

「逃がしませんよ~~~~!!!」

 

壁の向こうにいる、配られた写真の中で最もスタイルが良かった少女が、数多のオートマタ軍団を持ち前のガトリングガンで逐一潰しながら、しかし隠れているこちらにも満遍なく弾丸をばら撒いている。

 

勘弁してよと、カヨコは収めているハンドガンを一瞥し、もう一度嘆息しつつ呟いた。

自分の獲物である『デモンズロア』とあのガトリングガンは壊滅的に相性が悪い。

 

普通の相手ならば武器の重さに目を付けて攻め入る余地はあった。

けれど今回の相手は例外としか言いようがない。

あんな重々しい武器を軽々と振り回している存在相手には、流石に自分一人では手に余る。

 

「貧乏くじだよもう……」

 

と言うか、自分達の学校の校舎の壁なのに容赦なく撃つよね等と、この場においては割とどうでも良いことを頭の中に思い浮かべて現実逃避に近い思考を始める。

 

あの手の相手には社長かムツキが適任だ。

でもムツキは既に残りの誰かと会敵しているのをカヨコは先程上空で発生した爆発で知った。

 

社長も校庭にはやって来ないだろう。

残るはハルカ一人だが、自分と同じくアレとは相性が悪いことをカヨコは知っている。

カヨコが武器の選択で不利が生まれているならば、ハルカは戦闘スタイルからアレとは相性が悪い。

 

彼女が都合よくこの場にやって来たとして、立場を交換することは憚られる。

 

「やっぱ私がやるしかない、か」

 

そういうことなんだろうね。と、カヨコは武器を構えていつでも飛び出せる準備を始める。

結局、ここで逃げることは許されないのだ。

 

勝たなければならず、あの相手とまともに戦える相手が自分しか残されていないなら、それはもう覚悟を決めるしかない。

 

「しょうがない、やれるだけやってみよう」

 

立ち上がるカヨコは声こそ気怠げだが、その表情は重い。

結果はどうあれ、カヨコは彼女の相手を任される形となった。

 

なれば、その思いに応えない訳にもいかない。

任された仕事を、任された通りに遂行する。

 

それ以外の道は残されていないし、カヨコも考えていなかった。

 

「仕事をしようか」

 

その言葉を最後に、カヨコは一人飛び出していく。

二つ目の大きな戦いが、始まろうとしている。

 

それは、両者の覚悟と覚悟が激突する逃げ道無しの戦いだった。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

校舎に入ってからも、オートマタの軍団の数は多く、彼女の存在を視認するや否や片っ端から襲い掛かって来ていた。

ノノミの言葉に従い窓から校舎に飛び込んだシロコは、それらを盛大に歓迎するしか無く、延々と休みない戦闘を強いられている。

 

でも、それも終わりに近づこうとしていた。

 

「っっっっっ!!」

 

ガンッッ!! と言う音と共にシロコの銃が火を噴き、正面にいたカイザーのロボットが破片を零しながら倒れる。

 

この場にいた中の、最後の一体だった。

 

「ふぅ…………」

 

前方から敵影が消え、振り返っては今まで倒した軍団から起き上がって来る存在がいないことを確認したシロコは、流石に疲れたのか小さく息を吐く。

 

三十は超えたかな。と、窓に飛び込んでから撃破した数を大雑把に計算する。

まだまだ休んでいられるだけの数は撃破していない。

 

自分が戦闘を回避しようと動けば動いた分だけ、残りの二人に負担が掛かる。

 

「よし、行こうか」

 

二階へと続く階段を見つめるシロコは、そう言って自身の気を引き締めながら昇っていく。

昇っている途中の襲撃を予想していたシロコだったが、以外にも待ち構えているオートマタはいなかった。

 

目線をもう一度上に向け、耳を澄ませる。

音は静かで気配は感じられない。

何かが潜んでいる時に聞こえる特有の音の流れも無い。

 

だが、静かすぎるからこそシロコは訝しんだ。

敵地のど真ん中なのに、数はまだまだいる筈なのに。

 

(…………、……)

 

スッと、自然と武器を両手に持ち身構える。

どのタイミングで襲撃が起きても応戦出来る姿勢を整えたシロコは、ゆっくりと階段を昇り終わり、勝手知ったる二階部分の廊下に出る。

 

二階の教室一つ一つを順に制圧していこうかとシロコが目標を定める。

 

その、刹那。

 

彼女のすぐ真横から銃口が飛び出し、容赦なく発砲された。

 

「ッッッッ!?!?!?」

 

ゴバッッ!! と言う音と共に頭目掛けて飛び込んでくるその銃弾を咄嗟にしゃがんで避けることが出来たのは事前に襲撃を予見する心持ちがあったからに他ならない。

 

だが、だが、先制攻撃を受けた。

誰の気配もしなかったのに、攻撃を受けた。

 

その事実は、少なからずシロコに動揺を与える。

本能的に、撃ってきた相手の方に目が動く。

 

そしてさらに、シロコは目を見開いた。

撃ってきたのは、オートマタでは無くどこかの学校の生徒だったから。

 

「死んでくださいッッ!!」

 

しかし、シロコが動揺する間にも相手は的確に彼女を仕留めに掛かる。

その少女が持つショットガンが、屈んだ影響で姿勢が崩れているシロコに容赦なく向けられ、放たれる。

 

「ッッッ!!」

 

瞬間、シロコは即座に武器を捨てると、床に当てた両腕を勢い良く伸ばし、身体の伸びを延長させて相手の腹部を全力で蹴り抜いた。

 

「あぐッッッ!!!???」

 

突然の反撃は予期出来なかったのか、蹴り抜いた反動でショットガンの狙いは僅かに逸れ、シロコの頭上付近の床を吹き飛ばす。

 

助かった。

危機的状況を急場の判断で脱したシロコは捨てた武器を素早く拾い上げ、照準が定まっていないのも構わず発砲を始めながら立ち上がる。

 

姿勢が不利な今、相手を怖気付かせる時間が欲しい。

そう思っての発砲。

 

なのに。

 

シロコの銃撃に対して、少女は一切回避行動を取らず、一身に受けたままショットガンをシロコに向けていた。

 

(ッッ! ちょっと面倒……ッッ!!)

 

不意打ちで蹴り抜いた時はよろめかせられたが、撃ち合いになると分かっているならば腹を据えて相対してくる生徒。

 

相手が持つ特性を瞬時に見抜いたシロコは、咄嗟にアサルトライフルでの射撃を止め、しゃがんだ格好のまま、後ろへと全力で飛ぶ。

 

シロコが立っていた場所に正確にショットガンの弾が飛んで来たのはその直後だった。

 

「死んでください死んでください死んでください!!!!」

 

二発、三発、四発。

絶え間なく撃たれるショットガンの弾を、転がってシロコは避け続ける

 

そうして数えて五度目の射撃を当たる寸前での回避に成功した時、突然追撃の手が止まった。

 

(今ッッ!!)

 

何故手が止まったのか。

その部分に引っ掛かりを覚えない訳でも無かったが、状況を立て直すには今しかないと、シロコは転がる反動を利用して身体を持ち上げると、今一度アサルトライフルを構え攻勢に転じる構えを見せる。

 

ショットガンの弾を撃ち尽くしたかそれとも別の要因か。

何にせよ降って湧いたチャンスを利用するのはここしかない。

 

そう思い、反撃を開始する直前。

シロコの視界の隅に、廊下の窓際に赤く点滅する黒い箱が設置されているのを捉えた。

 

「え…………」

 

声が、飛び出す。

それが困惑の声であることは、彼女ですら判断出来なかった。

 

「終わって下さい!!!」

 

名も知らない敵対生徒の声が響き渡り、刹那、光が迸る。

彼女がショットガンによる攻撃の手を止めたのは、シロコが爆発物の直撃範囲に入り、起爆させる為に手を空ける必要があった。

 

相手の思惑と真実にシロコが気付いた時にはもう、彼女の身体は閃光に包まれていた。

直後、二階廊下にて巨大な爆発が発生する。

 

学校の一角を吹き飛ばす規模の爆発は、勝負の決着を早くも物語っているようだった。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

シロコとハルカ。

ノノミとカヨコ。

セリカとムツキ。

 

それぞれがそれぞれの相手と激突する中、唯一誰とも遭遇していないアルは一階にある何もない教室に陣取りながら一人楽しそうに笑っていた。

 

「フフ、当たりを引いたのはやっぱり私のようね」

 

机も無く、椅子も無く、教卓も無い。

あるのはデカデカとした黒板だけの部屋の中心でそう笑いながら、アルは教室の扉を開けた来客に向かってそう語り掛ける。

 

チッッと、来客から舌打ちが響いたのはアルがそう言葉を放った後だった。

フフ、と、対するアルは余裕の笑みを崩さないまま、振り返って来客の方に身体を向ける。

 

予想通りの人が、そこに立っていた。

真っ白な髪。真っ白な肌。真っ白な制服。

 

何もかもが白尽くしで、でも目だけが真っ赤に染まっている人を、アルは正面から見据える。

 

「色々と質問してェことがあるな」

 

久しぶりに聞いた声は、変わらず低い声だった。

ドスが効いているとも、優しさに溢れているとも取れる懐かしい声に、今一度アルの鼓動が高まる。

 

彼の手には拳銃が握られている。

恐らく、ここに来るまでの道中で使用してきたのだろう。

しかし、その拳銃は現在使うべき対象であるアルに向けられていない。

 

カイザーに征服されたこの学校に何故か我が物顔で君臨している自分。

その理由に彼は間違いなく辿り着いていると言うのに、一向に彼は武器をこちらに向けようとしない。

 

答えを認めたくないのではない。

認めた上で向けないことを彼は銃を突きつけないことを選択している。

 

どこまでも甘すぎる選択だった。

でもだからこそ、アルは嬉しさを抑えられなかった。

 

「私は無いわよ。先生を撃退するだけの仕事なのに、聞きたい物がある筈ないじゃない」

「随分と面倒なことになって来てるじゃねェか。じゃァさっきから響く爆発はムツキ達の仕業か」

「ご名答。皆もう始めてるみたいね。目当ての先生に会えたのは私だった訳だけど」

「ハッッ!! 人気者は世知辛ェなァオイ」

 

下らない世間話が始まる。

けれど、そこには真意は無い。

 

二人とも心からの本心で会話しているが、裏で始まっているのは探り合いだ。

尤も、探っているのは彼だけで、アルは彼を探る気などサラサラないが。

 

「要はカイザーに雇われたってクチか。クソッタレが、ハプニングにも程があンだろォが」

「それは私達を評価してくれているのかしら?」

「はァ……勝手に受け取ってろ」

「フフ。先生、話が違うって顔をしてるけど、先生だってあっちに介入してるじゃない。私達の違いはそれだけじゃないかしら?」

 

先生がアビドスに仕事で付いた。

アル達便利屋68はカイザーに仕事で付いた。

 

そこに特別な違いは一切無い。

ちょっとボタンが掛け違えられただけ。

言ってしまえばそれだけでしかない話。

 

だからここからは、その延長線の話だ。

 

「このままここで長話。も悪く無いけれど、仕事は仕事。世間話は終わりにしましょう?」

 

スッ……と、目を細めながらアルは銃を彼に向ける。

 

「残念だけど殺害が許可されているわ。手加減、しないわよ」

 

本気の言葉をアルはぶつける。

その意思を感じ取ったのか、対する先生もここに至ってようやく銃をアルに向ける。

 

「言っておくが」

 

この話が最後だ。とばかりに彼が言葉を紡ぎ始める。

 

「俺に勝てると思ってンじゃねェぞ、アル」

 

それは、思わず頬を緩めてしまう言葉だった。

アルと呼ばれた。

アルと呼ばれた。

 

この状況でも、彼女は自分達を名前呼びしている。

甘すぎて、甘すぎて。

自分の中で築いた『悪党』との定義が彼の存在で崩れていく。

だから憧れてしまう。

 

だから彼女は銃を向ける。

彼に失礼の無いように。

信念を、掲げる為に。

 

この戦いは、結果の発表会だ。

 

自分達が作り上げた、先生によって補強された『悪党』を発表する時間だ。

その結果、もう二度と会えないことになっても。

それその物が掲げた誇りであると、便利屋68は咆哮する。

 

「いいえ、私達が勝つわ。先生」

 

アビドスを巡る攻防。その大きな四つ目の戦いが、始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











先週分はここまでを書きたかったんです。と言う意思表示を掲げて更新です。


今回のお話は滅茶苦茶書きたかったシーンてんこ盛りです。

前半の戦闘シーンで『RUN THIS TOWN』が脳内で流れた方は仲間です、握手しましょう。他の曲が流れた方も握手しましょう。
前半優勢、中盤不利、後半逆転。そして幹部戦に移行。うん! よくある不良物の映画の戦闘展開そのものですな!! 
サブタイを『ハイorロー』にしなかった自分を褒めたい。



アルちゃんは今回ばっかりは格好良くを貫いて欲しい。そんな気がするこの頃です。
次回は一体どうなるんでしょうか、来週もよろしくお願いします。





所で一方さんどうやってあそこまで辿り着いたんでしょうね。それも次回で分かるのかな?
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