とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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才羽ミドリ

一方通行が部活顧問を務めている連邦捜査部(シャーレ)には、午前午後のどちらか、もしくは一日中彼の書類事務のサポートとして働く『担当』と呼ばれる制度がある。

 

この担当を務める為には当然ながら連邦捜査部(シャーレ)に入部している必要があり、同時にそれは一方通行の呼び出しがあれば基本的に応じる。というある種の契約が為されている状態を意味している。

 

その代わりなのか、連邦捜査部(シャーレ)の担当として働いた際には、その時間、日数に応じた報酬が支払われる。

 

担当は志願制であり、望む者がいれば望むだけ連邦捜査部(シャーレ)に入り浸り彼のサポートに回ることが可能になる。

 

そう、だったのだが。

 

一方通行が当初多くて三名、四名程だと予想していた人員より倍近くの担当希望者が発生し、その全員が一日中の担当を希望し始めた。

 

さらに頭の痛い事に月から土曜までの六日間全てを希望する愚かな働き者が複数名も現れた結果、瞬く間に生徒全員の希望を叶えられない状況が完成し、見事連邦捜査部(シャーレ)設立数週間にして、志願制という一部の生徒にとっては夢のような制度は廃止された。

 

現在連邦捜査部(シャーレ)は志願制に変わって当番制を採用し、希望者全員をリストアップし、一方通行が午前か午後か、それとも一日かを決めてスケジュールを組んでいる。

 

しかし、生徒達の一日ここで働きたいという不満点は十分一方通行によって考慮され。半日担当した次の担当日は一日にするという妥協点が組まれており、現状はそれで何とか志願者全員を一週間で回すことに成功している。

 

ちなみに、一回の担当で二人以上を指名するという案を一方通行は過去に提案した事があるが敢え無く過半数、いや大多数に却下された為その案はお蔵入りとなった。

 

さらに余談として、日曜日は休みなのだが、何かと理由を付けて連邦捜査部(シャーレ)に顔を出してくる生徒も多いので一方通行はそこはもう気にしなくて良いかと半ば諦めの姿勢を取っている。

 

そんな一方通行の朝は基本的に他人次第である。

誰も彼を起こさなかった場合、午前中に起きるかどうかすら怪しい一方通行であるが、大抵は朝にやってきた今日の担当生徒に起こされてしまうので、大抵九時を過ぎた辺りから彼の一日は始まる。

 

しかし、何事も例外はある。

彼が満足いくまで睡眠を取り、気持ち良く朝を迎えられる日がある。

その例外が、才羽ミドリが一日を担当している日。

 

つまり、今日だった。

 

「……ッッ。……あァ……寝た……」

 

「あ、先生。おはようございます」

 

時刻は午前十時。一方通行が単独で起きるにしては随分と早い時間に目覚めた彼は、目が覚めたと同時そんな挨拶を貰った。

 

寝転がっているソファの上から視線だけ声がする方へ動かすと、名前の通り制服、カチューシャ等に緑色のカラーを混ぜるミレニアムのゲーム開発部に所属している生徒、才羽ミドリが事務用の椅子に座りながらこちらをじーっと見つめているのが見えた。

 

「……そォか。今日はミドリだったか」

 

どうりで穏やかな目覚めだった訳だ。

と、一方通行は一人納得する。

 

「そうです。先生がぐっすり出来る日です。の割には起きるの早かったですけどね」

 

普段よりなんと二時間近くも早いです。

と、壁に掛けてある時計の方に目線を向けながらミドリは一方通行の早起きを褒め。一方通行もミドリの動きに引っ張られるように時計を見、確かに時刻が十時を回り始めた頃であることを確認し、自分でも僅かに驚きながら、ググっとソファから身体をゆっくりと起こす。

 

そのまま軽く伸びをすると。

 

「毎日色ンな奴に起こされてるからなァ。早起きの習慣でも出来ちまったかァ?」

 

冗談めいた喋り口調で、欠伸がてら一方通行はそう独り言のように呟いた。

確かに起きる時間こそ早かったが、やはり自分で起きるというのは気分が良い。

 

相手がミドリだからこそ堪能できる時間だった。

これがユウカならばそうはいかない。

 

彼女は寝ている一方通行を見かけるや否や早く起きて下さいを連呼しながら身体を揺すり続ける、さながら人間目覚まし時計と化してしまうので、それを相手に格闘しなければならない関係上朝から気分は最低の一言に尽きてしまう。

 

だが、一方通行的にそれ以上に酷い目覚めをプレゼントしてくる相手がいる。

それがミドリの双子の姉であるモモイだった。

 

彼女は最悪な事に一方通行が起きないでいると物理的攻撃による覚醒を試み始める。

先生起きてと叫びながら強く身体を揺するのは最初の数秒だけ。それを過ぎると今度は寝ている自分目掛けて跳躍からのダイブを決める超が付く程の問題児だった。

 

当然目覚めは最低を下回って最悪。起きて最初の行動は彼女へのお仕置きと相場が決まってしまうのが、彼女が担当する日のお約束だった。

 

以上の事から、ミドリが担当する日だけが一方通行にとって現状ほぼ唯一と言っても良い、穏やかな朝を迎えられる貴重な一日となっていた。

 

「もう十時ですけどね。私としては早く起きてくれて嬉しいですけど」

 

右手に持っていた携帯ゲーム機をポケットにしまい込みつつ、彼女はそう一方通行に微笑む。

 

「別にミドリに俺を起こすなとは言ってねェンだがな」

 

「でも起こすと少しの間機嫌悪いじゃないですか。その点担当が私だと先生は気持ち良く目覚められるので、こういう風に朝のお話が出来る。お互いに良い事だと思いません?」

 

「午前の時は早々と起こすだろォが」

 

「それはそれです。先生とこうやって会話……いやお仕事しなくちゃいけませんし」

 

別に会話する時間ぐらいはいくらでもあるだろうに何故取り繕いをしたのか、イマイチ一方通行には分からなかったが、まあ体裁という物は大事かと適当に納得しながら彼はソファから起き上がり、首元のチョーカーのバッテリーを充電するデバイスをコンセントから取り外す。

 

バッテリーが最大近くまで充電されているのを確認した一方通行は、改めて右手首に装着している収納スペースから杖を伸ばし、本格的に行動を開始した。

 

「先生、音楽を聴いて寝る気持ちは分かりますけど、耳が悪くなるのであまりオススメはしないですよ?」

 

「……音量には気ィ付けてる。気にすンな」

 

充電器を取り外したのを見ていたミドリからふとそんな事を口にされる。

 

一方通行の最大連続稼働時間は四十八時間。これを超えると彼の身体は本来あるべき廃人へと戻ってしまう。

喋る事、話を聞く事、歩く事。立つ事、考える事全てが出来なくなり、再びチョーカーのバッテリーが回復するまでそれが永続する。

 

それを防ぐ為にチョーカーのバッテリー管理は一方通行にとって死活問題であり、協力を要請しなくてはいけない事柄ではあるのだが、彼はこのチョーカーから伸びている電極による補佐がないと生活できなくなる事を一部の例外、エンジニア部を除いて隠している。

 

別に黙っていなくても問題は何一つないが、ユウカ、ミドリを筆頭にこの事を喋ってしまえば必要以上に身体の心配をし始める生徒達が一定数いることから吐露する必要も無いと判断し、彼は黙秘を貫いている。

 

電極は途中で二股に別れ、耳の後ろ側に接続されている為、傍目には音楽プレイヤーを引っ掛けているようにしか見えない。

 

ある程度の誤魔化しが通じる様に敢えてそう設計されている演算補助デバイスは、その実態を隠しつつ、ミドリ達に適切な誤解を与える事に成功していた。

 

だが、この話題が続くのもあまり好ましくない。

そう予感した一方通行は。

 

「つーかよォ、普通に志願して来たからこォしてスケジュールに組ンだけどよォ。お前等双子は最近忙しいンじゃなかったのか」

 

話の流れを切るように、ミドリ中心の話題へと持って行った。

そう、今こうして連邦捜査部(シャーレ)に顔を出しているミドリはこの時期、一方通行の仕事を手伝っている暇は無かった筈だと、過去にユウカと過去にやり取りした記憶を引っ張り出す。

 

ミレニアムプライス。

ミレニアム中の部活が各々の成果物を競い合う、ミレニアムで最大級のコンテスト。

 

この賞に選ばれなければゲーム開発部は廃部。

部員もいない。評判の良いゲームも開発しない。

 

しまいには校内を大改装してギャンブル大会を始めたりと言った迷惑行為や襲撃行動も頻発した結果。そんな部に予算を払っていられる余裕はない。部室も他の有益な部に明け渡して貰う。というのがユウカ、もといミレニアムの生徒会『セミナー』会計の判断らしい。

 

だが、それはミレニアムプライスに選ばれる様な成果物を出せなかった時の話。

 

簡単な話、自分達が学校にとって有益であることを証明すれば良いのだ。

その手っ取り早い手段がミレニアムプライスで入賞する事。

そうすれば、廃部の判断を下す必要はどこにもない。問題なく部活動を続けられる。

 

こんなことになる前からもっと早くあの子達がちゃんと部活動を全うしていれば、プライスに入賞するって言うあまりにも高いハードルを越える必要なんか無かったのに。と、彼女が愚痴っていたのを思い出す。

 

ミレニアムプライスまで、残り一か月を切っている。

なので、事情を大なり小なり知っている一方通行からすれば、連邦捜査部(シャーレ)の仕事よりゲーム開発部を守る為の活動をした方が良いのではないかと思うのだが、

 

「お姉ちゃんが絶不調なんです……お姉ちゃんがシナリオ、というか全体的なゲームの方向性を決めてくれないと、ユズや私が動けなくて……。なので現在ゲーム開発は難航中です。それも超が付く程の」

 

お姉ちゃん途轍もない遅筆なので……。と肩を落としながらミドリは一方通行に自分達の現状を伝える。

一方通行は今まで聞いたことが無かったので知らなかったが、聞く限りゲーム開発部はしっかりとゲーム開発をする為の役割がそれぞれ分担しているらしい。

 

その中の最初の一歩目、及びそこからの導線を担当しているであろうモモイが初っ端から躓いている。

それが今もミドリが連邦捜査部(シャーレ)に顔を出している理由らしい。

 

「部室にいてもお姉ちゃんを焦らせるばかりだし、だったら今まで通り先生の仕事に顔を出して、お姉ちゃんの集中力を無理やりにでも上げようと考えてるんですけど……」

 

「なンならモモイも普通に来やがるしなァ。ここに来る余裕があるぐらいだからてっきり順調に進ンでるもンだと思ってたが……ま、ゲーム開発にどれだけの時間が必要なのか詳しくは知らねェが、時間は大切に使えよ」

 

今、彼女達に出来る最大限の忠告をしながら、一方通行はデスク用の椅子へと座る。

 

さァて、今日の仕事はどんな物だと一方通行は机に積み上げられた書類の山に手を伸ばそうとして、向かいにいるミドリが肩を落とし、しゅんと落ち込んでいる様子を目撃した。

 

どうやら、先程の言葉は予想以上にミドリの心に突き刺さってしまったらしい。

俯いたまま、ミドリは顔を上げずに肩を震わせ、

 

「そう、ですよね……。普通はここにいるんじゃなくて、部室でお姉ちゃんと一緒に頭を悩ませないとダメですよね……」

 

か細い声でミドリは今日の自分を悔い始めた。

ああ、これはダメなモードに入ったな。

不穏な様子から直感でそう気付いた一方通行と、それが正解だった事を証明するかのようにミドリが口を開く。

 

だが、

 

「先生、やっぱり私今日は──」

 

「ミドリ」

 

やっぱり今日は帰ります。

そう言わんとしていたミドリの口を、一方通行が先読みで塞いだ。

 

「基本的にお前達の問題に対して俺が出来ることは何もねェ。ゲームに関する知識はハッキリ言って知識でしか知らねェからな」

 

知識として知っているだけじゃなく、体感と体験を得る事が出来たのは、本当にここ最近。

キヴォトスにやって来て、ミドリやモモイと知り合って、ユズと出会ってから。

彼女達の遊びに、強引に付き合わされてから。

 

そんな自分がゲームの開発に口を出す事は出来ない。

手伝えるものではない。戦力にすらならないだろう。

 

しかし自分はキヴォトスで『先生』をやっている存在である。

キヴォトスにおける『先生』は何をするべきなのか、何を為すべきなのか、それはまだ一方通行にも掴めていない。

 

それでも。

 

困っている生徒を前にして、事も無げに見捨てるのは違う。

それだけは、確信が持てる。

 

「けどよォ。お前達三人が何に苦しんでるのかの相談くらいは乗ってやる。それにまだ一か月もあンだろ。言い出したユウカだって無茶を言いたくて言ってる訳じゃねェ。追い出しはしてェのかもしれねェが、非情な奴じゃねェのは俺が良く知ってる」

 

本人達の前ではキツイ言葉を並べ、憎まれ役のような立ち回りをしているユウカだが、その裏、ここ連邦捜査部(シャーレ)ではなんだかんだで彼女達の事を気にかけているのを一方通行は知っている。

 

立場上無理やり廃部にすることも可能な筈だが、ユウカはそれを決行してはいない。

最大限の譲歩を彼女はちゃんとしている。

後は、ゲーム開発部のメンバーがそれに応じれるかどうかだけ。

 

しかし応じれる雰囲気を現状纏って無さそうなのは、第一に解決すべき問題ではある。

 

とは言え、状況の解決に必要な第一人者であるモモイがいない今、ここでそれをミドリ相手に言及しても意味がない事は分かっている一方通行は彼女の気を紛らわそうと。

 

「それにここも頻繁に来れる物じゃ無くなったしなァ。今日は気分転換の日だった。って事にしとけェ。オラ仕事すンぞ。ここは遊び場じゃねェンだ」

 

ここでの話はこれで終わりだと仕切り直しをしつつ、適当に積み上げられた書類を手に取り、パラパラとさながら漫画の如く素早く一枚一枚を流し見しては、不要な物と若干検討が必要な物に分け始める。

 

「あれ先生、さっきユウカ……って……」

 

「あぁ。アイツがうるせェんだよ。お前等のことをミドリ、モモイと呼んでるって言ったら急に突っかかって来てよォ。あまりにもしつこいンで俺が折れた」

 

「ふーん……」

 

書類から目を離さぬままミドリとやり取りする一方通行は、ユウカの名前を出した途端ミドリの声が僅かに低くなった事に気付く事はなかった。

 

「なんだか滅茶苦茶上げて少し落とされた感じがしました。嬉しさと苦しさが同時に襲って来た気分です。それぞれ加点六十、減点二十ですね」

 

「そりゃ随分と愉快な気分だなァ。今の会話でそんな面白ェ流れがあったようには思えねェが」

 

「当番制になってしまった時点である程度分かっていた事実ではありましたが、実際に聞いてしまうと……本当に知ってる敵も知らない敵も多いです……先生」

 

「敵? 敵が誰なのか分かンねェが、そりゃミレニアムプライスの賞を全部活が狙ってるんだからなァ。全員が敵だろォよ」

 

「いやそう言う訳じゃ……まあ全員が敵という点ではそうかもしれないですが」

 

「あァ?」

 

ゴニョゴニョと自分には聞こえない声で何かを呟き始めたのと、今までの会話が妙に噛み合ってない気がする事に疑問を浮かべる一方通行だったが、ミドリの方からも特に訂正が入らなかったので、それ以上特に気にすることなく、書類整理を恐ろしい速度で進めていた所で、

 

「…………」

 

ピタリと、彼は一枚の紙を前にして、突然書類を捲る手を止めた。

目に留まったのは数多の書類の中に混ざっていた一見変哲のないチラシ。

 

『未来塾で一緒に勉強しませんか』

 

でかでかと大文字で書かれたそれを一方通行は凝視し、そのまま目線を下へと流していく。

 

「? 先生?」

 

一方通行が動かなくなった事、そして一枚のチラシを長々と読み始めたことに首を僅かに傾げながらミドリがどうかしましたかと聞いてくるが、一方通行は彼女の言葉に返事をする事なく、懐からキヴォトスで新たに購入した携帯を取り出し、とある人物を呼び出し始める。

 

『……先生? 先生から連絡して来るなんて初めてだね』

 

数回のコール音の後、電話に応じたのは一方通行が『エンジニア部』、『ゲーム開発部』と同様にミレニアムで交流を持つ事になった『ヴェリタス』の一員。小鈎ハレ。

 

キヴォトス随一の、ハッカー集団の一人である。

 

「小鈎。今はミレニアムにいるか?」

 

『藪から棒だね。私は当然ミレニアムにいるけど。それがどうかした? 声がいつもより真面目だけど』

 

電話口の相手は、平坦とした声で一方通行の質問に答え、かつ彼が急ぎの用事で掛けてきたことを察する。

ハレの察しの良さに、一々話す無駄が省ける。と、一方通行は詳細を何も告げず。

 

「今から調べて欲しい事がある。急ぎで頼む」

 

要件だけを彼女に突きつけた。

 

この未来塾。何かが引っ掛かる。

一方通行の勘がそう告げている。

無数の書類の中に混ぜられた一枚のチラシ。

一見してもじっくり読み進めても、ただの勧誘チラシにしか見えない。

だが、それだけで片づけて良い内容ではない予感がひしひしと伝わってくる。

 

学園都市にいた時の、闇にいた時の自分が語り掛ける。

何か臭う。と。

 

これが間違いなら間違いで良い。まだ自分から毒が抜け切っていなかっただけ。

しかしもしそうじゃなかったら。

一方通行が秘めている一つの『決意』に従って、動かなければならない。

 

『急に電話してきたと思ったら突然だね』

 

これが一般生徒ならば話を進める前に色々と前段階を踏まなければいけなかっただろう。

状況の説明。頼んだ理由。もしかしたら見返りの話にもなったかもしれない。

 

しかし、この状況でわざわざ自分に連絡を取って来たことの意味。

その本質をハレは分かっており。対する一方通行も、ハレがそう判断してくれると理解しており。

 

『でも良いよ。なんたって先生の頼みだもの』

 

今からどこで何をすれば良いかも聞かずに、ハレが二つ返事で了承するまで、二人の会話は止まることなく流れる水のように進んでいた。

 

「悪ィな。調べて欲しいのはゲヘナにある未来塾っての内情だ。どォも引っ掛かる」

 

『了解。何か分かったら連絡するけど。何が欲しい?』

 

「何もかもだ。分かった物全て寄越せ」

 

『三十分以内にまた掛けるよ』

 

プツッと、彼女の言葉を最後に通話が終了すると、一方通行は携帯をしまいながら徐に立ち上がり。

 

「出るぞミドリ」

 

と、一方通行が話していた内容、もとい電話の声が全く聞こえなかったミドリに結論だけを伝えた。

 

「え? え? 小鈎って、ヴェリタスの小鈎ハレ先輩? 先生さっきの電話で何を……」

 

突然立ち上がりオフィスを出て行こうとする一方通行の行動に困惑の表情を浮かべながらも、慌てて一方通行の数歩後ろをトコトコとミドリは追い始める。

 

あ、なんか先生の三歩後ろを歩くのって良いな。等とどうでも良い事を考えている彼女の思考内容を知らぬまま、ミドリと共にオフィスの外へ出た一方通行は『シッテムの箱』を取り出し、

 

トントントン。と、三回軽くタブレットの表面を指先で叩いた。

 

直後。バツン、バツンと言う音と共にオフィスの電気が次々と消え、やがて全ての電気が落ちる。

前触れなしに起きたその光景にビクッ! とミドリが軽く跳ね上がり、オフィスの方へ視線を反射的に映すと。それに合わせるかのように独特な電子音が鳴ると同時、扉がロックされた。

 

その後畳みかける様に扉の上から『ただいま外出中』と書かれたお札が一枚天井から釣り下がる。

 

それは彼が連邦捜査部(シャーレ)から出掛ける際にアロナに命令している事の一つなのだが、ミドリにとってそれを目撃するのは初めてな為、いきなりの出来事の連続に驚きの反応を彼女は示し続けていた。

 

そんなオロオロと戸惑っている彼女の気配を背中で感じながら一方通行は小さく笑い。

 

「さっさと行くぞ。俺の足じゃそこそこ時間が掛かっちまうからよォ」

 

ミドリに一切の説明をする事無く、一方通行はエレベーターを起動させ、下に降りる準備を整えていく。

 

「い、行くって、先生今からどこに何を……」

 

「決まってンだろ。今からここの特権を使うンだよ」

 

「だ、だから話が見えないんですってば……!」

 

「行先はゲヘナだ」

 

ポーン。と言う音と共にエレベーターが到着し、一方通行とミドリは揃ってエレベーターの中に入る。

一階。と押されたボタンに従い下降し始めるエレベーター内で、一方通行はミドリに最低限の説明を施し始める。

 

一方的に彼によって振り回されかと思えば、今度は次々と今からの目的を伝えられているミドリは目まぐるしく動く展開に付いていけないまま、僅かに残った冷静な部分で、でもこうやって振り回されているのも、悪くないかも。等と脳内がややお花畑に染まった思考をしていたが、それもまた一方通行が気付くことはなかった。

 

「え。でもさっきの話だとまだその未来塾って所がダメな所なのかどうか分からないんですよね? ならどうしてハレ先輩からの情報を待たずに行くんですか?」

 

頭の中がフワフワに寄り始めた中でも一方通行の話はしっかりと聞いていたらしいミドリから最もらしい質問が飛んだ。

 

先生の話を聞いた限りでは、未来塾はまだ白か黒か断定していない。

それを知る為にヴェリタスのハッカーであるハレ先輩が頑張っているというのに、どうしてもう既に行動しているんですか? 

 

尤もな言葉が一方通行に投げかけられる中。

 

「ミドリ。良い事を一つ教えといてやる。怪しい物を見つけた時はなァ」

 

一方通行はコキッと、首の音を一度鳴らし、言い切る。

 

「先んじて動くぐらいが丁度良いンだよ」

 

 










一旦区切りが良いので投稿です。半分ぐらいで千切れました。

連載を開始する前から、ミドリかモモイのどちらかはヒロインとして扱うことは決定していました。

彼女達ならば自然な流れで名前呼びが出来ること。
それをきっかけに他の特定のヒロインにのみ名前呼びする流れが作れること。
そして彼女達がメインストーリーに普通に絡んでくれること。

以上のことからこれを使わない手は無いなということでこの二人はヒロイン筆頭候補でした。

個人的に話を作りやすいという意味でもモモイがヒロインにした方が色々と扱いやすいんですが、ミドリに対して申し訳ないなと言う気持ちがずっとあり、やっぱりガチ勢がガチ勢しててこそでしょと言う訳でミドリがヒロインレースに名乗りを上げることになりました。


しかし悲しいかなこの物語は酷いお話なのです。

ヒロインになれたことが嬉しいことになるとは限らないのです。
この物語はいかにして一方さんに絶望を与えるかがテーマとして存在しています。

私はヒロインより主人公が酷い目に会っているのが好きです。
なので主人公が酷い目に会うので結果的に曇ります。

一方さんの腹が銃弾で撃ち抜かれた時にミドリがどうなるか。私はちょっと見てみたい。見てみたいので書きます。まだ遠い先のお話ですけど。



次は日曜に更新……出来たら良いな……過度な期待だけはしないでください……。


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