とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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常識外の戦い

 

 

 

 時は、アビドス出発前の前日へと巻き戻る。

 

 一方通行はこの日、エンジニア部に会いにミレニアムまで赴いていた。

 目的は一つ、彼女達に自身の脳が損傷を受け、補助を受けて生きているという秘密を打ち明け、ここに対する打開策。つまりは脳の演算能力の補助が可能なアイテムが作成可能かどうかの相談である。

 

 先のミレニアムで起きた複数の戦闘において、一方通行はユウカ、ミドリ、ネルの三名を悪戯に負傷させた。

 彼女達の怪我は、一方通行が万全の状態。能力が使用可能だったならば絶対に防ぐことが出来た。

 

 最終的に死者こそ出なかった物の、少女達は今までにない重傷を負った。

 この事実が、一方通行に告げる。

 

 このままでは、また目の前で誰かが傷付くと。

 

 その打開を求めて一方通行はエンジニア部と連絡を取り、彼女達から指定された日、アビドス出張の前日にミレニアムまで赴き、エンジニア部の部室のドアを叩いていた。

 

「オイ、一つ聞いて良いか?」

「ん? 何だい?」

 

 部屋に入って、一方通行は唖然としたのが数秒。

 彼専用に設けられた椅子に座り、淹れられたコーヒーに口を付けたのが一分後。

 

 ゆっくりと口を開き、ウタハが反応したのが現在の話。

 

「俺の記憶が正しけりゃ、この部室はアリスによって半壊してなかったか?」

「ああ、当然直したよ。二日もあればこのぐらいはどうにでもなるさ」

「普通は無理だろ……つゥかオマエ等もそれなりの怪我を負ったって聞いたが?」

 

 ヒビキ、ウタハの両名は先の戦闘で耳にダメージを負ったと聞いた。

 一般常識で考えるならば、部室を修復するより先に自分達の怪我を回復させるのが最優先。

 

 なのに、この三人は優先順位を自分達よりも部室の方を上にしていた。

 呆れた気持ちと、それを優先させて欲しくない気持ちが同時に一方通行に降りかかる。

 

 しかし、肝心の怪我をしたウタハ達は、依然と変わらずケロっとした表情のままだった。

 

「耳のことかい? 心配しなくて良い。私達はそれなりに頑丈なんだ。次の日にはある程度聞こえて、今は殆ど全快だよ」

「療養しろって俺は言いてェンだがなァ」

「その時間が私達には無かったんだ。どうしても時間が惜しかった」

「時間って……、一体何の話をしてやがるンだ?」

 

 出来れば自分の身体を大事にして欲しい旨をオブラートに包んで伝えた一方通行だったが、その要望は全て訳アリの一言で棄却された。

 今更突っついても仕方の無い議論の中、まず自分の相談を持ち掛けるよりも、彼女が放った訳アリという一言が引っ掛かった一方通行は、話のついでがてらそのことについて聞こうとした所で。

 

「こう言う……こと」

 

 先に回答が提出された。

 一方通行の背後にいたヒビキが上着のポケットから何かを取り出すと、それを机の上に置く。

 見てくれは、マイクロチップのような物。

 

「こいつァ何だ?」

「先生が欲しがっている物の試作品だよ。これでも徹夜で仕上げたんだ。しかも二日で、壁の修復作業と並行してね」

 

 的を得ないウタハの発言に一方通行は疑問を深める。

 欲しがっているも何も、一方通行はエンジニア部に対し特に何かを作って欲しいとする要望は最近送っていない。

 つまりこのマイクロチップは、彼女達が共通見解だけで導き出した何かだった。

 

 益々、意味が分からなくなる。

 一体彼女達は、何を経てこれを作ろうとする思考に至ったのだろうか。

 それも話しぶりから考えて取り掛かったのは二日前、襲撃事件が終息してから直後。

 

 徹夜をしてまでこれを短時間で完成させなくてはならない心当たりは、一方通行には無い。

 少なくとも、彼女達には話していない。

 

「前々からおかしいと思ってたんだ、先生が引っ掛けているコードは何なのかって」

 

 トントン。と、ウタハは己の首を指で叩きながら彼を見やる。

 

「以前先生は音楽を聴いているからと説明、いや、はぐらかしていたが、その割には私達の声に気付かない日が一切ないのが気になっていたんだ。音量を落としていると仮定しても少しぐらい聞き逃したりはする物だろう? けど先生はそんな素振りは一切無かった」

 

「付け加えると、音楽を聴いているにしては、先生は音量や再生のスイッチらしい物を弄っている動作は私達の知る限りでは確認出来なかった……。聴いていないだけの可能性もあったけど、それならそもそも律義にコードを引っ掛け続ける必要なんて、無い。長時間使わないなら……普通に、外せば良い」

 

「最後に素朴な疑問から生まれた捕捉なんですが、いくら音楽が好きだからって毎日毎日コード引っ掛けて出歩きますかね? しかも先日ミレニアムで発生させた事件と、発生してしまった事件の二つがぶつかり合った大惨事の真っ最中でもです。ちょっと不自然ではと思ってしまうのもある種仕方の無い話です!」

 

 ウタハ、ヒビキ、コトリの三名から次々と一方通行が抱えている秘密の核心に迫る言葉が飛び出す。

 彼女達は、一方通行の所作だけで隠し事に気付いた。

 さらにその隠されている事は何なのかまで、恐らく推察し終わっている。

 推測と仮定だけで真実に限りなく近い正解を導き出している。

 その事実に、らしくなく一方通行は戦慄した。

 

 薄々と分かっていたが、彼女達の科学技術に関する観察眼は群を抜き過ぎている。

 刹那、まさかと一方通行はマイクロチップへと視線を落とす。

 

 彼女達はこれが先生にとって必要な物だと語った。

 そう言い放った真意について、一方通行の中で一つの心当たりが浮上する。

 

「結論だよ先生。どこまで行っても私達の推測に過ぎないけど先生は身体の重要な部分、恐らく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。違うかい?」

 

 さしずめその首のチョーカーが補助装置の本体かな。と、ウタハは自信に溢れた顔で回答を述べる。

 先生にとっていつか必要になる時が来る。そう踏んで私達は作成に取り掛かったとも。

 

 …………。

 …………どうしようもないくらいに、正解だった。

 

「誰かを恐ろしいと思ったのは久しぶりだなァ。…………この事実は他言無用で頼む」

「心得てるよ、まかり間違っても口外しないさ」

 

 以上のやり取りでこの話題は一区切りが付いたのか、マイクロチップを指差し改めてこれの説明をしよう。と、ウタハは前置いた。

 

「このチップをCPUに接続すると特殊なアプリがインストールされる。マイクロチップが抜かれれば即座にアンインストールされる特殊なアプリがね。そのアプリを起動すると、脳の電気信号とマイクロチップの間で特殊なネットワークが形成され、CPUが先生の行動を補助してくれるようになる。どこまで補助できるかは、CPUの出力次第だけどね」

 

 サラっと。

 サラっとウタハが何でも無さそうに説明しているが、彼女達が作り上げた成果物は途轍もない物であると本人達は自覚しているのだろうか。

 この技術は、ミレニアムが持つ科学技術だけでは到達出来ない領域であると。

 それの意味することは一つしかない。

 彼女達は、エンジニア部は。

 一方通行からの知識を吸収して辿り着いたのだ。

 

 キヴォトスではなく、学園都市に匹敵する科学技術を。

 

 天才。

 その一言では納められない才能を最大限活用し、完成させてしまったのだ。

 数十年先にしか無い、未来技術の一端を。

 

 一方面のさらに一方面。

 尖りに尖った局地的。

 その他の部分はミレニアム基準の科学領域を出ない。

 

 だがこのマイクロチップに限っては。

 ことこの場面に限ってだけは。

 

 エンジニア部は、学園都市と比べて遜色ない技術を披露していた。

 

「ですがそう上手い話ばかりでもありません。どうしても解消出来なかった欠点が二つあります」

 

 一転、申し訳なさそうな顔をしたコトリが右手の指を二本立てる。

 

「ネットワークが生成される範囲が著しく狭いんです。距離にしておよそ一メートル弱。こればっかりはどうしても解決することが出来ませんでした」

「つまり、超高性能なスーパーコンピューターから遠隔で補助を受けると言った芸当は出来ねェって訳か」

「はい……肌身離さず持っているスマホ等が接続先としては最適ですけど、それだと出力が高くならない欠点も生まれます」

 

 いくら装置が優秀でも、扱えるCPUが弱いならば本末転倒になってしまう。

 その欠点は如実にミレニアム技術の限界を現していた。

 彼女達が持つ技術は学園都市クラスでも、その他の技術が学園都市に追いついていない。

 

 先細りの一点特化では、この欠点をカバ―出来ない。

 酷い言い方をしてしまえば、今の状況は宝の持ち腐れに近い。

 それでも、彼女達の叩き出した功績が凄まじい物には違い無い。

 

 ただただ、技術の飛び級をし過ぎてしまった弊害が立ち塞がってるだけなのだ。

 

「そして、スマホを使用することを前提とした場合に限り、解消される問題点があるの……」

 

 コトリの説明を引き継ぐように、今度はヒビキが一方通行に言葉を投げ掛ける。

 

「私達が作ったアプリは、使用すればするだけ先生の脳に負担が大きく掛かるの……。長く使用すれば廃人になるリスクが急激に高まる……でも、この点については接続先のバッテリーを敢えて大量消費させ、長持ちさせないことで無理やり解消した」

 

 時間にして、十五分。

 これ以上は許容出来ない。

 

 それ以上の使用は、先生の身に何が起きても不思議じゃないとヒビキが語る。

 

「要は外付けのバッテリー等で時間を延長するなって言いてェンだろ」

「スマホ以外にこれを接続しないで欲しいというお願いでもあるね。どんなリスクが先生に降り掛かるかは未知数なんだ」

 

 何が起きてもおかしくない以上、排除できる危険性は徹底的に排除した方が良い。

 日頃から余計な機能を付けて一見遊んでいるようにしか見えない道具を作っている彼女達でも、予め危険であると分かっている代物については手を加えることを良しとしなかったようだ。

 

 もしくは、これを使うのが自分達以外。

 失敗した際に、失敗しましたでは許されないという環境がそうさせたか、と一方通行は思う。

 

「さて先生、これを持って行くのも持って行かないのも先生の自由だが……どうするんだい?」

 

 選択権が、彼女達から委ねられる。

 危険と引き換えに能力を取り戻すか、安全を代償に千載一遇のチャンスを取り逃がすか。

 

 能力を取り戻す。

 その言葉だけならば聞こえは良いが、実際は何もかもが未知だ。

 

 一方通行は能力のことを彼女達に話していない。つまり、能力使用を前提としてのチップを使う行為は完全に彼女達の想定外の使い方となる。

 

 一万弱の少女達の演算能力を借りることで何とか体裁を保っていた物がこのチップ一つで補えるとも到底思えない以上、リスクだけが上乗せされているようにも思える。

 

 しかし。

 一方通行は元々そのつもりでエンジニア部の部室を訪れている。

 ここに来た時点で、腹は既に括られている。

 

 だから。

 

「ンなの、答えはとっくに決まってる」

 

 答えはもう、決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「超能力? スプーン曲げでも披露するつもりですか?」

 

 何を言い出したかと思えば超能力ですかと、小馬鹿にしたような態度をアコは見せるが、一方通行は気にする素振りも見せない。

 

「今に分かる」

 

 なので彼は簡素に言葉を返す。

 超能力について詳細を教える義理も無い。

 

「そうですか。では、さようならです先生」

 

 しかし、アコもさして超能力と言う物に興味は無いようだった。

 どちらにせよこの一撃で全てが終わる。

 

 鬱陶しげに一方通行を見つめるアコは、自身の意志を体現するべく、右手を彼の方に向けてゆったりと伸ばした。

 

 直後、彼女の掌の先から、パキパキと音を立てて一本の槍が精製され始める。

 その太さは拳大。

 心臓を穿つどころか人体に大きな風穴を容易に開けられるであろう極太の槍を虚空から作り出したアコは、

 闇々しく光る紫の槍を、一拍の間を置いた後、容赦なく一方通行に向けて射出した。

 

 瞬間、空気を切り裂く音と共に想像を絶する速度で槍が飛来する。

 音速に届く速度で放たれた槍を避けることなど、不可能。

 身体を左右どちらかに動かそうとした時点で、槍は一方通行の心臓に命中する。

 射出と初速の軌道から、そう一方通行は突き止めた。

 

(身体を捻って避ける。ンな物が通じる攻撃じゃねェな)

 

 まあ想像の範疇だ。と、一方通行は至極冷静に対応する。

 異能に対する戦闘経験は、キヴォトスの中の誰よりも上。

 不可思議な現象に眉一つ動かさず、一方通行はコンマ数秒にも満たない時間で槍がどこを着弾点としているかを瞬時に確定させる。

 

 当然、いくら予想が出来たとして、精度が完璧だとして、避けられなければ意味が無い。

 そして一方通行の身体能力は、その一撃を避けられる程の高さを有していない。

 

 だから。

 

 数十メートルの距離を一気に詰めて来る一撃必殺の槍を前にした一方通行が取った行動はただ一つ。

 

『右手を、前方に突き出すだけだった。

 

 刹那。槍と右手が激突する。

 本来ならば一方通行の腕を易々と貫き、彼の心臓ごとまとめて穿つ威力を秘めていた槍はしかし。

 

 バチィイイイイイイイイイイッッッッ!!! と、彼の右手に触れた途端、轟音と共に()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッッッッッッッッッ!?!?!?」

 

 不自然な現象を目の当たりにしたアコが信じられ無い物を見たとばかりに目を見開き、動揺の表情を見せる。

 

 それは、一方通行の背後にいるヒナも同様だった。

 

「な、に……今……の……ッッ!?」

 

 彼が死んでしまうと、正直にヒナは思っていた。

 この一撃で、先生の身体が貫かれてしまうと。

 

 咄嗟に、見たくないと目を瞑ってもいた。

 そうするまでに、覚悟してしまっていたのだ。

 

 だが、彼は何のダメージも無く立っている。

 襲って来た槍を、別の物質に変化させ、無力化している。

 

 理解出来る現象では、無かった。

 そしてその思考は、アコも同様。

 

「な、何を……! 今、何をやったんですか……!?」

「超能力って言っただろォがよォ」

 

 ジジ……と、周囲に飛び散った紫電が音を鳴らす中、一方通行は何でもなさそうに簡素に返答する。

 彼の手に触れた途端、槍が紫電となって四散する。

 

 それは起きる筈だった現象とはかけ離れた光景。

 アコが放った槍は、一方通行の身体に触れた途端そのままアコの身体に跳ね返らなければならない。

 

 それこそが一方通行が持つ超能力『ベクトル変換』の力。

 受けた力を、そのまま反射する絶対的な防御能力。

 

 しかし、現状はまるで違う現象が発生している。

 反射が出来ていないばかりか、槍の性質までもが根本から変化している。

 明らかに予定外の結果なのに、堂々とした振る舞いを彼は見せる。

 

 そればかりか、むしろ彼は口角を上げていた。

 

(狙い通りだ……! コイツの一撃を俺は反射出来ねェ! これで天雨に致命傷を与えずに戦える!)

 

 反射が上手く作用しなかった現象の再発に、一方通行はロシアで襲って来た謎の連中を思い出す。

 水の槍を生成して攻撃した連中の一撃を、一方通行は反射できなかった。

 

 性質そのものを変化させて、弾くだけに留まったのだ。

 

 第三次世界大戦の戦火にいたあの時は厄介事を多数抱えていたのも相まって、一方通行は目の前で起きた現象についてそれ以上深く考えようとしなかったが、今ならばあの時、何が起きていたかが分かる。

 

 あれは自身が知っている既存の法則とは違う法則を用いての攻撃だった。

 理解をしていないからこそ、反射が十分に作用しなかった。

 

 一方通行は、その性質を利用した。

 何一つ理解出来ないアコの攻撃を、理解出来ないまま受け止めれば、彼女に攻撃を跳ね返さずに自身の身を守れることが出来ると。

 

 自身とアコの身を守れることは把握した。

 ならば次の段階。彼女を物理的に止める為の行動へと入る。

 

「く!! ならばもう一度!!!」

 

 一方通行の姿勢が前のめりになったのと同時、先の現象を信じられないとしたアコがもう一撃を追加で放ち始めた。

 

 射出された槍の本数は二本。

 ガギガギと四回、五回と直線状に折れ曲がり、複数の角度から一気に一方通行に迫る。

 

 二度目の攻撃に、僅かに一方通行は舌打ちする。

 アコの思考は単純。

 彼からすれば見え透いていると言っても良い。

 

 ただ速いだけの攻撃ならば簡単に対処された。

 ならば、どこを狙おうとしているかの予測を困難に、かつ複数個所から同時に攻撃を仕掛ければ、防御することは出来ないだろうと考えての多角攻撃。

 

 明け透けの単純な考えに、やはり一方通行は舌打ちするしかない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(いずれにせよまずは距離を詰めねェと話にすらならねェ!!)

 

 どう手段を取るにせよ、どの道接近しなければ勝ち目が無い一方通行は、迫りくる槍に気を配らず、アコとの距離を一気に詰めようと足に力を込める。

 

 そうして力任せに走り出そうとした。その二歩目で。

 

「がっっっっ!?」

 

 ガクンと、彼の足が不自然につんのめった。

 まるで突然足が言うことを聞かなくなったみたいに、次の一歩が踏み出せずそのまま砂の地面に身体を倒れさせる。

 

 ギチリ……と、倒れた隙を突くように、上と右から槍が迫る。

 折れ曲がる動作が入っていることにより先の一撃より速度は落ちているが、起き上がり、回避する余裕は無い。

 

「先生逃げて!!!!!」

 

 ヒナの悲痛な声が聞こえる。

 彼女が叫ぶ通り逃げに回りたいが、足の自由は未だ取り戻せていない。

 

 攻撃を防ごうにも、多方向からの一撃を回避するのは今の彼には難しい。

 

 だから一方通行は。

 

「ク……ソがッッッ!!」

 

 バスンッッ!! と、力任せに右腕を砂漠の地面に叩き付けた。

 途端、彼の身体が何かに引っ張られるように前方へと吹き飛んだ。

 

 距離にして、二メートル程。

 右腕で己の身体を持ち上げ、前方に跳躍するという力任せな動きで上から注ぐ一本の槍を砂漠に埋もれさせて凌いだ一方通行は、勢いを利用して身体をグルンと反転させ、計算が正しければ必ずここに飛んでくるであろうと導き出した場所、頭部を貫く軌道線上に、右手を予め置くように伸ばす。

 

 刹那、狙い通りアコの槍が飛来し。

 彼の右手が槍と接触した後、再び閃光が迸り、槍は紫電となってたちどころに霧散した。

 

「チ……ッ! このポンコツが……! 言う事聞きやがれってンだ!!」

 

 攻撃をまたしても防いだ事実に一瞬の安堵もせず、地面に再び倒れ込んだ一方通行はガンッッ!! と、足を叩きながら起き上がる。

 

 この初歩的なミスを続ける訳にはいかない。

 足では無く頭で足を動かす意識を割かせ続けるんだと、彼は自分自身に言い聞かせる。

 

 前提から、認識を改めろと。

 

「なんだ、杖を仕舞った時は今までずっと足が不自由なフリをしていたのかと思いましたが、ただ無理してるだけでしたか」

 

 一連の動きと、不自然に転倒した様子から一方通行の足は不自由のままであることをアコにあっさりと見抜かれる。

 あそこまで無様に転べば答えに辿り着かれるのも当然か。と、一方通行は内心毒づく。

 出来れば、もう少しだけ明るみに出したくなかった。

 

 手の内を暴かれるのは避けられない事態にせよ、これは少々早すぎる。

 

「それに無理に体勢を動かして右手で攻撃を防いだ状況……。どうやら右手で触れなければ私の攻撃を防げないようですね。成程、それで杖を仕舞って無理して立っている訳ですか」

 

 殺害に躊躇しなくなる程に精神のリミッターがぶっ壊れているのに、どうやら頭の切れだけは健在らしい。

 最も隠したかったハッタリが芋づる式に紐解かれたことに、思わず皺が眉間に寄る。

 

 そう、彼が取り戻せた能力は完全には程遠い。

 シッテムの箱による出力を用いても、足を満足に動かす自由すら取り戻せなかった。

 

「確かに、俺の足は動かねェままだ。杖無しで動けてるのはミレニアムの超が付く天才共が作った補助輪による物には違いねェよ」

 

 なので一方通行は追加でエンジニア部に要請を出した。

 万が一の事態に備え、要請した物資を受け取る為にミレニアムに戻った。

 

自動歩行(オートオーダー)

 

 コトリが開発した、次にどう動きたいかを頭で思考することによってその通りに動かすことの出来るサポート器具。

 

 これを用いることによって、一方通行は杖や能力に頼らず二足歩行出来る力を得た。

 だがその扱いは難しく、未だ補助能力を彼は使いこなせていない。

 けれど、大分慣れて来た。

 

(要は将棋とチェスを同時に動かすイメージだ。能力の演算に使う脳のリソースと歩行する為に使う脳のリソースを切り分けて動く。大分感覚は掴めて来た)

 

 失敗によって、どう考えればどう足が動いてしまうのかを、一方通行はその身体で知っていく。

 同じ過ちは、二度と犯さない。

 

「だが、二度同じ失敗をするとは思わねェことだ。さっきので俺を仕留められなかったのは痛かったなァ、天雨」

 

 故に、強気に彼は振る舞う。

 遅かれ早かれ種は割れてしまう物だ。

 

 それが少し早まっただけ。

 取り巻く環境は、何も変わらない。

 

「痛手かどうかは、先生が決めることでは無いですよ」

 

 対するアコも、一撃目を防がれた時に見せた動揺は既に治まりを見せていた。

 防御されることは想定外だったが、その方法も限定的であるの相まってか、再び彼女は余裕を見せ始める。

 

 一方通行としては、あまりよろしくない展開だった。

 直情的になってくれていた方が、攻撃の対処はしやすいのは自明の理。

 

 今のアコは、冷静だ。

 どうすればいち早く彼に致命傷を与えられるかを、考える余裕がある。

 

「どんな原理で私の攻撃を弾いているのかは存じませんが、防ぐ手段が右腕しかないとなれば、対策はいくらでもありそうです」

 

 その答え合わせとでもいうべく、アコの背中からバキバキと音を立てて幾重にも折れ曲がった槍が姿を覗かせる。

 

 その数、八本。

 

 まるで蟲の足かの如く展開されたそれらが、一斉に降り注ぎ始める。

 対して、一方通行が行う行動はただ一つ。

 

 ギチリと、己の右拳を強く握ることだけだった。

 

 異次元の戦闘は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 一方通行と天雨アコ。

 この世の物とはとても思えない二つの力がそれぞれ激突する戦闘を、遠くから観察している者がいた。

 

「超能力、神秘。超能力、神秘」

 

 観測者の名は、五十六号。

 カイザーPMC理事の片腕の、洗濯機のような見た目をした自律思考型ロボットである。

 

 五十六号はしきりに超能力、神秘と連呼する。

 何を思って、その音声を流し続けているかは分からない。

 

 だがしかし。

 

 超能力と言う科学も。

 神秘という原理不明の力も。

 

 五十六号には、全てが理解しがたい物であった。

 このロボットの寿命が尽きるまでには、決して立ち会うことは無かったであろう集大成だった。

 

 だが、それらが今、事象として顕在化している。

 数十年、もしくはもっとそれ以上先の未来の力を、五十六号は相対した。

 

 五十六号の中に眠る、知識的欲求を湧き上がらせた。

 もっと探求したいと。

 探求する為に、活動したいと。

 

「もっと、もっと……知、りたい」

 

 本来ならば、思い至らない可能性の筈だった。

 何も知らなければ、ただのロボットのまま朽ち果てていく筈だった。

 

 一方通行と言う、超能力者が現れなければ。

 神秘の暴走という、天雨アコという成功者がいなければ。

 

 きっと、何も起きなかった筈だった。

 だが、目撃してしまった。

 

 新たな力を、観測してしまった。

 それは、五十六号に大きな欲求を与える。

 

 彼に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「実験がしたい……!! 科学を知る為の、神秘を科学で再現する為の実験が……!!」

 

 先端に取り付けられた単眼の赤い目が輝く。

 彼が何を思い、その言葉を吐き始めたのか。

 

 その真意は、まだ誰も知らない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












この作品の一方さんの能力は、ゲームよろしくアンロック式になっております。
現状出来ることはここまでですね。

何だ、大したことないじゃん。と思われるかもしれませんが、『白翼』『黒翼』という殺さずに戦う方が難しい力に頼ることなく前線に立てる武器を得たことは出力の大小にかかわらず大きいのです。

加えて、アロナちゃんがアビドス編から良く喋るようになった理由もここで開示です。
直接コミュニケーション取れるようになったらそりゃ浮かれます。沢山話しかけます。可愛い。

首にコードを引っ掛けているのをはぐらかし続けるのも不可能だよね。と言うお話も今回で提示されました。
完璧に理由を推察してみせたエンジニア部が優秀過ぎるのは置いておくとして、事情を知らない少女達がどこに行ってもずっとコード首からぶら下げてる見たらどうしても不審に見えるよねって。

そんな訳で次回もアコちゃんとの戦闘編です。
手の内の殆どがバレてしまった一方さんはどうするんでしょうね。


感想、良いねいつもありがとうございます。
皆様の応援が執筆の助けになります!

次回は来週の日曜……までには更新したい……!!


それでは、次回までまたしばしお待ちください!






あれ、一方さんその戦闘スタイルはどういう訳? 厄介なファン第一号の面目躍如ですか?
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