とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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対策委員会VS小鳥遊ホシノ

 

 

 

 

 

 首に突き付けられた銃口が、容赦なく火を噴く。

 陸八魔アルを殺さんとするホシノの一撃。

 一切の躊躇も容赦も無く解き放たれた、文字通り必殺の弾丸。

 

 撃ち出された散弾はアルの喉に深々と全弾無数に突き刺さり、彼女に再起不能のダメージを与える。

 

 しかし。

 それは、その弾丸が無事に当たればの話。

 

「う、ああああッッ!!」

 

 極限の緊張状態、もしくは集中状態が成し得た技なのか、引き鉄に引っ掛けられているホシノの指が動いた直後、アルは頭を大きく左に振り倒した。

 

 直後。ゴバッッッ!! と、銃口から炸裂音が響いたのを耳元から感じた。

 間を置かず、チリ……と。通り過ぎた弾丸が彼女の首を掠め、僅かな熱を伝える。

 

 自分の首を自らへし折るのも厭わない動きは、しかしその動きをしたからこそ、散弾銃の魔の手から逃れることに成功した。

 首筋から走る痛みと熱さが、アルに生き残ったことを教える。

 だが、安心する余裕も、息をつく暇も無い。

 

 ホシノは、それを与えない。

 

 ドッッッ!! と、避けられたのを見るや否や、今度は右足を大きく振り抜き、ホシノはアルのわき腹に深々と己の右足を食いこませた。

 

 散弾銃の直撃を避けるのに精一杯だったアルに、攻撃を避けた反動で姿勢が大きく崩れていたアルに、その攻撃を避けるのは不可能だった。

 

「ぎっっっ!!」

 

 重すぎる衝撃がわき腹から走る。

 姿勢が悪すぎて踏ん張れないアルは、そのまま身体を蹴られた衝撃によって僅かに浮かされ、振り抜かれた勢いのまま右方向に大きく吹き飛ばされた。

 

「っ、ぁ……っ!!」

 

 骨まで響く一撃をまともに受けたアルは成す術なく数メートル吹き飛ばされ、床に叩き付けられた後も二回三回、ゴロゴロと転がってようやく彼女の身体は動きを止める。

 

 だが身体の自由を取り戻すことは出来ても、受けたダメージは消えない。

 早く起き上がらないと。

 頭では分かっていても、二転三転する勢いで転がされた身体は思うように動いてくれない。

 

 そうやってアルが懸命に藻掻いている間にも、悪魔は仕留め損なったアルの息の根を確実に止めんと、無慈悲に彼女目掛けて襲い掛かる。

 

 ホシノは爆発的な瞬発力を用いて吹き飛ばしたアルに一瞬で追い付き、彼女の頭上に立つ。

 自身が持つ散弾銃を、冷徹に突き付けながら。

 

「ッッッ!!!」

 

 速すぎるにも限度があるでしょうが! 

 瞬く間に頭上に移動して来たホシノに対し目を見開いて驚愕しながら、そう言いたげな顔をアルは浮かべる。

 でも、それだけだった。それが精一杯だった。

 全身に力が行き渡らない。起き上がる力も転がって避ける力も無い。

 全力で蹴り抜かれたわき腹から走る痛みが、アルが起こしたいと願う行動その全てを阻害する。

 上手く肉体を操れず、もぞもぞと地面を這いずる虫のように蠢くアルに向かって、ホシノは再び自身が持つ散弾銃をアルの後頭部目掛けて照準を合わせる。

 

 撃たれる。もう逃げられない。

 背中から冷たい汗が流れる中、アルが自分の未来を直視したと同時。

 

「させませんッッッッ!!!!」

 

 声が響いた。

 

 動けなくなったアルにトドメが刺される寸前。

 彼女の意識がホシノによって奪い去られる本当の直前に。

 余裕の無い表情を浮かべるノノミの荒い声がドーム中に迸った。

 

 ゴガガガガガガッッッッ!!! と、ノノミが叫んだのと時を同じくして途轍もなく短い間隔で銃撃が行われ始める。

 見ると、彼女の持つガトリング銃が、ホシノ目掛けて火を噴いていた。

 攻撃力だけならばこの場にいる誰よりも高いノノミの銃撃が、アルの方に視線を向けていたホシノに突き刺さる。

 

 しかし。

 ホシノは、ガトリング銃による射撃を一斉に浴びても、怯み一つ取らなかった。

 

「なっっっ!?」

 

 普通の少女なら一気に気絶まで持っていける程度には被弾している筈なのに一切怯まないその様子に、攻撃を仕掛けている側のノノミが信じられないとばかりにイヤな汗を流す。

 

 弾幕の厚さによる鬱陶しさは与えることが出来たのか、ホシノは流石にアルに対する攻撃こそ止めた物の、回避行動は取らず、攻撃を放つノノミの方に虚ろな視線を向けた後。

 そのまま一気に、ノノミとの距離を一直線で詰めた。

 

「う……ッッ!!」

 

 左右に動いて弾道を散らす等の小細工無し。

 被弾前提で最短距離でホシノは一気に距離を縮める。

 無茶に無謀を重ねた突撃を、ホシノは自身の身体能力で実現させる。

 

 五メートルは開いていたノノミとホシノの距離を、ホシノはたったの一歩で詰めた。

 

「は、や……ッ!?」

 

 恐るべき速度で迫って来る様子を目で追うのがギリギリだった。

 だが、出来たのはここまで。

 

 ホシノは、そんなノノミに向かって飛び込む勢いそのままに拳を振りかぶる。

 速度の乗った一撃が、彼女の顔面に叩き込まれる。

 一瞬で迫って来る彼女の拳に、反撃や迎撃するだけの反応は出来ない。

 自分達とは超越する力を振りかざすホシノに対抗するだけの力は、ノノミは持ち合わせていない。

 

 だから。

 

「ならッッッ!!」

 

 そう、小さく叫んで。

 ゴトリと、ノノミはガトリング銃を放り捨てた。

 

 そうして両手が自由になり、かつガトリング銃を装備していた時とは比べ物にならない身軽さを得たノノミは、右手を僅かに引き、腰で溜める。

 

 そして、ホシノの一撃が顔面に叩き込まれる直前。

 

「ッッッッ!!!」

 

 ダンッッッ!! と、彼女も地面を強く踏み抜き、生み出した爆発力で一歩分、前へと飛び出した。

 恐るべき速度で突撃してくるホシノに合わせるように、自身も脚力を爆発させて自ら激突するように前へ踏み出す。

 

 互いに速度が乗った状態。

 あまりに危険さが増大した状態で、容赦なくホシノの一撃がノノミに繰り出される。

 当たれば間違いなく意識を消し飛ばされるであろう一撃を、自分から飛び込む形に持って行ったノノミは、ホシノの拳が自分の顔面を捉えた直後。

 

 グッッッッ!! と、彼女は大きく身を屈ませた。

 

 刹那、彼女の頭上を、破壊の一撃が素通りする。

 ホシノの一撃を限界の限界まで引き付けて引き付けて、ギリギリで躱した。

 それは、同時にノノミがホシノの懐に潜り込んだことも意味していた。

 

 相手の一撃を躱したノノミは、自身の飛び込む勢いも、飛び込んできたホシノの勢いも利用して、腰で溜めていた右手の力を解放する。

 

 持てる力の全てを叩き込むようにノノミは右手の掌を広げて。

 そして。

 

「はッッッッッッッ!!!!」

 

 ドッッパァァアアアアアンッッッッ!! と、肉体に驚異的なダメージを与える音と共に、ホシノの胸部にノノミの掌底が突き刺さった。

 

 それぞれの速度が乗った状態で的確に急所目掛けて叩き込まれた決死の一撃は、乱雑に撃ち込み続けていたガトリング銃のそれとは比較にならない一撃をホシノの小さな体躯に叩き込む。

 

 ホシノの一撃が必殺になる理由が、恐るべき速度で迫りながら振り抜かれていたからであるならば、同様の条件で放たれたノノミの掌底もまた必殺になる。

 目で追うことが不可能なホシノの一撃を寸での部分で避ける。

 考えれば考える程分が悪い賭けを、ノノミは勝ちで通した。

 

 その成果は、背中まで突き抜けて行ったのが目で見える程に走った衝撃と、ホシノの身体がくの字に折れ曲がり、動きを止めたことが表している。

 

「は……っ、は……っ」

 

 死闘を潜り抜けた実感に襲われながら、ごめんなさい。と、ノノミは小さく呟く。

 本当はこんなこと、したくなかった。

 痛い思いを、させたくなかった。

 

 理由も無しにホシノは自分達を襲う少女では無いことをノノミは知っている。

 知っているから、この凄惨な状況を作り出したのはホシノの意思では無いこと気付いていた。

 けど、話し合いに持って行くだけの余裕も無い。

 理由はどうあれ、経緯はどうあれ、ホシノが剥き出しの牙をこちらに向けて来た時点で、こうしなければならなかったのだ。

 

 とりあえず、静かにはさせた。

 気絶させることには成功させた。

 後は、皆でどうするかを話し合わなければならない。

 

 目が覚めた時、ホシノが正気に戻っているかどうか確証が持てない以上、非常に不本意だが、ドームのあちこちから向けられている銃器を根こそぎ破壊した後で彼女が拘束されていたであろう十字架に再び繋ぎ止める必要もあるかもしれない。

 そんな風に、今後のことを考えていたノノミの腕に。

 

 突然、圧力が加わる。

 

「っっっ!?」

 

 ググ……。と、胸部に深くめり込ませた筈の右手が押し返され始める。

 まさか。と、思う物の、既に事象は発生していた。

 ホシノの身体が、ゆっくりとノノミへと迫る。

 

 あり得ない。そう言いたげな表情がノノミに刻まれる。

 どう考えても、先の一撃は耐えられる物では無かった。

 逃げ場なく叩き込んだ掌底は意識を奪うのに十分な一撃だった。

 

 その筈、なのに。

 

 ノノミの腕が、ゆっくりと押し戻されていく。

 ただの、前進運動のみで。

 

「そん……な……っっ!!」

 

 どれだけ右手に力を入れても押し返せない。

 完全に力負けしている、なんて生易しい物では無い。

 

 ホシノは、片手すら用いて無い

 腕力勝負にすら、持ち込んでいない。

 ノノミの渾身の全力を、ホシノはただ歩くだけで踏み潰す。

 ズッッッ!! と、ホシノの顔がノノミの顔に肉薄する。

 

 頬の筋肉、その微細な動き一つ一つすら繊細に読み取れそうな距離にまで近寄られたノノミは、彼女の力に屈したかのように表情を強張らせた。

 

 怖い。

 そんな感情が、ノノミを侵蝕する。

 

 何をどうしても、どう話しかけても、どう攻撃しても無表情、無反応を示す彼女の空気に、自然とノノミの足が震えた。

 

「う……っっ!!」

 

 勝手に、身体が勝手に後方へと飛び退こうと動く。

 その、一瞬前。

 

「させない!!」

「暴れるのはここまでよホシノ先輩!!」

 

 セリカとシロコから、援護射撃が入った。

 動きを止めたのを好機と見て、そして彼女と戦う覚悟を決めた二人の銃が火を噴き始める。

 

 二人の攻撃は的確にノノミを避けてホシノにのみ命中する。

 こめかみ、首、背中、足。

 ありとあらゆる部分に、二人の銃弾が突き刺さる。

 

 だが。

 

「全然怯まない……ッ!」

「痛みを感じてないの……!?」

 

 ホシノは、ダメージを受けている様子を相も変わらず見せなかった。

 どれだけ撃っても、どこに撃ち込んでも、反応一つ零さない。

 その様子に、攻撃を仕掛けている側である筈のセリカとシロコの方が焦りの声を迸らせていた。

 

 対してホシノは何発も被弾しているのに顔色一つ変えず、鬱陶しさを覚えている筈のシロコとセリカの方には見向きすらせず、ただジッと目の前にいるノノミにのみ光の無い目を向けている。

 

 無言だからこそ生じる、威圧感を押し付けながら。

 

「ぁ…………」

 

 その瞳に、その空気にノノミは敗北した。

 彼女の生気の無い瞳と目を合わせるのが、たまらなく怖くなってしまった。

 これ以上は、自分の心が耐えられ無いと、ノノミはホシノと距離を取る。

 

「後ろに退いちゃダメ!!!!!!!」

 

 突然、便利屋の可愛らしい少女の声が響く。

 しかしもう、声が聞こえた時にはもう既にノノミの身体は背後へと飛んでおり。

 

 そんな飛び退いたノノミを追いかけるように、ホシノの散弾銃がトン……と、彼女の右肩に置かれた。

 直後、発砲音が迸る。

 

 それは、彼女の肩を真っ向から叩き潰す一撃だった。

 

「あ、がっっああああああああッッッ!?」

 

 今まで味わったことの無い骨ごと肩が潰されていく痛みに絶叫する。

 ノノミが後方へと飛び退いた瞬間を狙いすまして撃ち込んだホシノの散弾銃は、ノノミの身と心を完膚なきまでに砕く。

 

 あれではもう、ガトリング銃は握れない。

 握れたとしても、左手一本では射撃の際に生じる反動を制御できない。

 

 吹き飛ばされ、焼けるような痛みが押し寄せて来る右肩をうずくまるように抑えて呻くノノミの様子を見ながらシロコ、セリカ、ムツキの三人は思い知らされる。

 

 先のホシノの行動は、思考が混じっていたと。

 腕力を使わず、身体の動きのみで真正面からノノミの腕力を下し、肉薄すれば自ずとノノミは恐怖し、逃げるように飛び退くと。

 そのタイミングで銃撃すれば、確実に戦闘不能に追い込めると。

 そう、確信しているが故の行動だった。

 

 ホシノは考え無しにここまでカヨコ、ハルカを撃破し、ノノミとアルを一時的ないし長期的な戦闘不能に追い込んだ訳ではないということを。

 

 未だ無事な三人は、思い知らされる。

 そして、暗に、言葉にせずとも告げられる。

 

 次に狙われるのは、自分達の内の誰かだと。

 

「セリカ!! ムツキ!」

「ええ……ええッッ!! 行くわよシロコ! それにムツキ!」

「やるしかないよねもう!!」

 

 言いながら、今まで傍観するだけだったムツキが鞄をホシノ目掛けて投擲した。

 小鳥遊ホシノは救出対象。

 その対象を無理やり黙らせるのを目的とした戦闘に参加して良いのかどうか、部外者だからこそ迷っていたムツキだったが、二人がホシノを倒す決意をしたのを見て、真っ向から対峙する道を選んだのを見て、それじゃあ私も暴れちゃおうかと意気込み、己も戦線に加わる。

 

 投擲した鞄は、ノノミが無事だった時は彼女を巻き込んでしまうからと使えなかった手法。

 

 しかし、ホシノがノノミを吹き飛ばしたならば話は別。

 

「アルちゃん起爆!!!!」

 

 端的にムツキは叫ぶ。

 その指示に応えるように。

 

「伏せなさい三人とも!!」

 

 痛むわき腹を片手で抑えながらも、いつの間にか立ち上がっていたアルが愛銃『ワインレッド・アドマイアー』を構え、ムツキの鞄を狙撃し、

 

 ホシノを覆い尽くす程の爆発を轟音と共に発生させた。

 ムツキの爆発とアルの爆発を掛け合わせて生み出した二重爆破。

 いくら打撃や銃撃にタフであろうとも、圧倒的爆風による畳み掛けには無傷でいられる筈が無い。

 

 それを証明するかのように、爆発音の裏で、何かが壁に激突する音が響いたのをシロコの耳は聞き逃さなかった。

 

 無論、これで倒れないであろうことは予想済み。

 この一撃が決定打になるとは、もうシロコ達は思っていない。

 

 だから、この攻撃は体勢を整える為の時間稼ぎだと、割り切る。

 その中で。

 

「何でこんなことになってるのか分かんないけど、勝負が望みなら買ってあげるわよホシノ先輩!」

「ん。話が通じないならまずは力尽くで黙らせる」

 

 シロコとセリカの二人は、ムツキとアルに自身の意思を表明した。

 遠慮はいらない。

 仲間だからって遠慮しない。

 

 ここから先どう動くにせよ、まずは彼女を、小鳥遊ホシノをぶっ飛ばす。

 こちらに殴りかかって来た理由も、何もかもは全部後で聞き出す。

 

 今は、彼女の安否を一切考えず、勝つことだけを優先すると、部外者であるからこそ遠慮するであろうアルとムツキに釘を刺す。

 

 手加減したら、こっちが蹂躙されるぞと。

 彼女達の言葉に、ムツキとアルは互いに顔を合わせた後。

 

「良いね、面白くなってきたじゃん」

「いくら攻撃に無反応でもダメージは確実に蓄積してるわ。攻撃を続けるわよ」

 

 ムツキとアルは、それぞれ別の感情を含ませて笑った。

 

 

 

 

 

 











週刊連載の漫画にたとえると今週のお話は20ページ分の4ページぐらいになります。
予定していた引きとは結構、いやかなり遠い物になったのは遺憾ですね。


でも投稿出来る最低ラインに達したタイミングで更新しないといつまで経っても投稿できない事実に気付きました!!

本来想定している部分まで時間を見つけては書いてをしていると、投稿までリアルに一か月経ってもおかしくない予感がしたので、しばらくはこんな感じに短い話になるかと思います、ご了承ください。


いつ書けるか分からないのなら書けるときに書いて上げられる時に上げるしかない! 
8月に迫るにつれその時間も段々と少なくなってくるのか多くなるのかは不明ですが、どうかしばしこの状況にお付き合いください。


コメント、良いね、どれも励みになっております。
皆様の応援が執筆の糧です、いつもありがとうございます!


それでは、また次回の更新までしばしお待ちください。
本日もありがとうございました。






ノノミはやっぱりグーで殴るよりパーで打つのが似合うと思います。ビンタじゃなくて掌底なのが良いと思います。私のキヴォトスでは掌底は少数派です。


 
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