十兵衛ちゃんVS錦木千束~ラブリー眼帯の秘密~   作:ハピ粉200%

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オリジナルの息抜きに作成


第一話 柳生の剣に彼岸花咲く01

 

 どこかの時代、どこかの竹林にて。

 雷鳴轟く雨模様の中、二人の侍が刀を抜いて対峙していた。

 

 一人は隻眼、眼帯を付けた侍。

 もう一人は比較的若く、眦を吊り上げて相手を睨む侍。

 

「我が名は竜乗寺醍醐りゅうぞうじだいご

 柳生十兵衛、お前の父、柳生但馬守やぎゅうたじまのかみにより我が竜造寺新陰流りゅうぞうじしんかげりゅうはお取り潰しになり、陰に潜った。

 だが今日こそは柳生十兵衛……貴様を討ち果たし、真なる天下無双の剣を世に示す!

 覚悟ッ!」

「……貴様が我が十兵衛の剣を見る最後の一人となる」

 

 二人の交錯は一瞬。

 瞬く間に距離を詰めた二人はその刀を3合打ち替わし、そして隻眼の侍の刃が男を袈裟に切り捨てる。

 切り捨てた男を見ることもなく、隻眼の侍もまたその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 ───その後、隻眼の男は自らの寝屋である小さな庵で横たわっていた。

 その横には、従者である若侍が心配そうに汗を拭く。

 

「……鯉之助よ、儂はもう長くない。

 だが、この十兵衛の剣を継がせられんのは惜しい……」

「十兵衛様!」

 

 か細くつぶやく声には、もう力がない。

 従者───鯉之助にも、その身がもう死地にあることは察せられた。

 

 心配そうな鯉之助を他所に、十兵衛は懐から一つの奇妙なものを取り出した。

 ハート型、それも濃いピンク色である。

 両端に紐がついており、どうやらかろうじてそれは『眼帯』であると分かった。

 

「鯉之助よ……我が十兵衛の剣を継ぐ資格を持つ者に、このラブリー眼帯を渡せ。

 その者こそ、二代目柳生十兵衛となる」

 

 鯉之助は気力を総動員して主君が発した場違いな名称をスルーした。

 そして殊勝な顔を作ると恭しくそれを両手で受け取ったのだった。

 

「……は。

 して、その者とは?」

 

 真面目腐った顔で、鯉之助は主君に問う。 

 十兵衛は震えるか細い声で、答えた。

 

ぽちゃぽちゃの」

「は、ぽ、ぽちゃぽちゃ……?」

 

 そう。あくまで、真剣に……厳しい口調で。

 

ぷりんぷりんの」

「ぷ、ぷりんぷりん……」

 

 至極、真面目な表情で。

 

ぼんぼーん、じゃ」

「ぼん、ぼーん……」

 

 そう言い放ったのであった。

 がくり、と十兵衛の首が力なく垂れる。

 

「そ、それは一体!?

 十兵衛様、十兵衛様ぁーー!?」

 

 鯉之助はがくがくと身体を揺らすが、もう主君からそれ以上の言葉を聞くことは無かったのであった。

 

 

 

 ♡ ♡ ♡

 

 

 

 時は流れ、西暦2020年。

 日本の首都東京は大いに繁栄し、世界でも有数の平和な国、安全な都市として君臨していた。

 

 しかし、それは表向きの話。

 実際は貧困、社会不安によるテロ・暴動は頻繁に発生し、しかしそれらは秘密裏に処理されているのだ。

 

 ───リコリス。

 DAという秘密機関に所属するエージェントである少女達の手によって。

 

 

 で、まあ、それはそれとして。

 特に全く関係ない一般女子中学生である菜ノ花自由なのはなじゆうは、からからと自転車を押しながら知らない街を歩いていた。

 

「……迷った」

 

 自由の年の頃は中学二年生。

 二本お下げの少女は真新しいブレザー型の制服に身を包み、赤いネクタイを締めている。

 中学二年生らしからぬ発達したそのバスト、ヒップが制服を押し上げていた。

 

 自由はこの春、東京に引っ越してきたばかり。

 初登校になる今日この日、自転車で学校へ向かう道で迷っていたのだった。

 

 まずいことにスマホを家に忘れており、どこかに地図がないか探しながらゆったりと歩いていた。

 初日から遅刻するとはまずい気もするが、自由にとっては特に気にした風もなく。

 

「およ?」

 

 自由がとことこ歩いていると、ちょうど目の前に通りがかった喫茶店の前。

 鮮やか目な割烹着姿で白髪の少女が立て看板を出していた。

 

(か……可ぁ愛いーー!)

 

 割烹着の少女───錦木千束にしきぎちさとは一目でその少女に首ったけとなった。

 まだ少女特有の幼く純朴そうな丸い顔。

 それに反して豊満な胸、くびれとむちっとしたお尻に。

 

「お、お~……そこなお嬢さん、何かお困りかな?ん?」

 

 割烹着の少女は、にやにやと微笑む口元を袖で隠しながらも興味深げに少女に声を掛けた。

 

「私はここの喫茶店で働いてる錦木千束にしきぎちさとっていうの」

「あ、初めまして……センパイ?」

 

 じろじろと興味津々な瞳で自由を見回す千束に対して、自由はきょとんと返した。

 

「先輩、先輩かー、うん、まあそんな年よね。

 高校生?」

「あ、中学2年です」

「うそ!この身体でち、ちゅーがく生、だとぅ!?」

 

 両手を挙げて大袈裟に驚いて見せる千束に、自由は若干引きながら答えた。

 恐る恐る、道を聞く自由。

 

「あの……本剣越中ってどこか分かります?」

「本剣越中、本剣越中……あー、あそこね!分かった、送ってくよ」

 

 割烹着の帯を後ろ手で解きながら、明るく千束は手をグーパーさせてウインクする。

 急に決まった事に慌てながら自由は手を振って否定した。

 

「あ、そこまでは……お仕事もあるでしょうし」

「いーの、いーの。この時間はお客さん来ないから。最近物騒だしね?

 ……センセー!、ちょっとこの娘送ってくるからー!」

 

 どたばたと赤い制服に着替えた千束が、奥にいるマスター……ミカに声をかけて外に出る。

 自由の背をどんどん、と押しながら歩みを進める。

 仕方なく歩みだしながら、ふと自由が立ち止まる。

 

「……後ろ乗ります?」

「あー……いや、歩くよ。うん。美容にもいいしね」

「あ、はい」

 

 きょろきょろと左右上下に目を動かしながら考えた千束が、遠慮する。

 ちなみに半分以上乗り気だったが、警官やら同僚に見つかった時のことを考えて止めたのだ。

 

「あ、私は自由。菜ノ花自由って言います。

 パパは自由べぇ十兵衛って呼ぶけど」

「じゅうべえ!強そうな名前だね!」

 

 自己紹介する自由に、千束が屈託なく答える。

 こんな感じで、朝の初登校事、二人───自由と千束は出会ったのだった。

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 本剣越中学校にて。

 千束は「私はここの喫茶店にいるから、困ったら来なよー!」と言って別れ。

 学校に到着した自由はさっそく校長室で、校長と教頭に挨拶をする。

 ころころと丸く小さい校長と、ひょろりと細長い教頭が眼鏡をくいと上げながら挨拶した。

 

「菜ノ花自由です。よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします。

 ところで親御さんは───」

 

 ばん、と急に校長室の扉が開く。

 そこに入ってきたのは白スーツに紫のマフラー、グラサンを掛けて髪をオールバックにしたヤクザ風の男。

 驚く校長と教頭を横目に、自由はあっけらかんと手を挙げた。

 

「あ、パパ」

「パパぁ~!?」

 

 ずんずん、と肩を怒らせながら入ってくる男に校長と教頭は気圧されて声を発する事ができない。

 男は自由の肩を持ちながら、二人に向けて挨拶した。

 

「どうも。菜ノ花彩、自由の父です」

「……はあ、校長です」

「……教頭です」

 

 つられて思わず自己紹介する二人に構わず、自由の父───彩は続けた。

 

「我ら親子二人、故あって故郷を離れこの東京にやってきました。

 男手一人で育ててきましたが、娘の自由はほれ、この通り。

 実に女らしく育ってくれました」

 

 自由の背を押し、自慢するような彩に校長と教頭の目が向く。

 中学生らしからぬ豊満な自由のボディーには、二人も男として目が向いてしまうのだ。

 そして、彩は二人の肩をぐいっと組み、顔を近づけて言った。

 

「惚れんなよ」

 

 めいいっぱい凄んで見せる彩に、二人は息を吞んで何も答えられない。

 

「ジョーク!ジョーク!

 ……失礼、私、物書きをやってる者で、昨日も徹夜のせいで何ともハイテンション」

「ほう、小説家でいらっしゃる」

「では、私これから仕事がありますので、これで……自由をよろしく!」

 

 びゅん、と嵐のように彩はドアを開けて駆けて出て行った。

 急に気の抜けた雰囲気になる校長室で、教頭がぼそっと言った。

 

「……じゃあ、教室に案内します」

「はい」

 

 

 

 ♡ ♡ ♡

 

 

 

 本剣越中学校、2-B組。

 そこが新たに自由の転入する教室だった。

 

「今日から皆と一緒に勉強してもらう、菜ノ花自由君だ」

「よろしくお願いします」

 

 自己紹介して頭を下げる自由に、おー、とぱちぱちという拍手が響く。

 担任の尾崎先生は、そのまま空き机を示す。

 自由が歩いてそこに座ると、前と後ろから女生徒二人が話しかけてきた。

 

「よろしくー。うちら転入生同士仲良くしよやー」

「……よろしく」

 

 明るく関西弁の少女と、無口で長身の女生徒。

 二人は自由の机に集まっていた。

 

「転入生なんだ?」

「そう。うちら3人で転入生ラブリーズ結成や!」

「そんなものは結成してない」

 

 謎のチーム結成を宣言する少女に、突っ込む長身の少女。

 二人の仲良さに、自由は相好を崩した。

 

「うちは丸山翔子、まろって呼んで。

 そのこのっぽは遠山 幸でさっちんや」

「さっちんじゃねぇ。さっちゃんだ」

 

 関西弁の元気少女がまろで、無口の細目のっぽがさっちゃん。

 名前を覚えることが苦手な自由も、何とか二人を記憶した。

 

「ああ、そうや。

 昨日イケてるあんみつ屋見つけたから、そこで転校生ラブリーズの結成式をやるで!」

「あんみつ屋じゃねぇ。喫茶店だ」

 

 基本的にボケと突っ込みで完成されている二人。

 入っていけるのか少々不安だったが、自由は結構乗り気になった。

 

「あ、でも今日はちょっと……。

 パパが心配だから早く帰らなきゃ」

 

 昨日まで三日徹夜して、今日走って来たパパの事である。

 どこかで倒れていても不思議ではないと、結構自由は心配していた。

 

「そか。本当は今日がええんやけどな。

 まぁ、明日でもええやろ。ほな明日な」

「うん」

 

 そんな感じで、自由は初日の授業に入っていくのだった。

 

 

 

 ♡ ♡ ♡

 

 

 

「あれ、また迷った」

 

 下校時。

 寝不足で走って帰ったパパの様子が気になる自由は、授業が終わるとすぐ家路についた。

 しかし行きと帰りでは風景が違うもの。

 途端にまた道に迷ってしまったのだ。

 

 なんだか通学路も外れ、住宅街も通り過ぎ、名前も知らない川に掛かる橋にまで来てしまった自由。

 引き返そうかと自転車を押そうとしたところに、声を掛ける男が一人。

 

「遂に、見つけ申した。

 ぽちゃぽちゃぷりんぷりんぼんぼーん……。

 この時を300年間待っていたでござる」

「……ござる?」

 

 その男は、自由から見てかなり意味不明な不審者であった。

 紋付袴と呼ばれる服を着て、背には刀を差している。

 ちょんまげこそ無いが、後ろで髪を縛ってポニーテールにような髪型である。

 昔の若侍などがよくしていた髪型で、どちらにしても現代では早々見ない。

 

「拙者、小田豪鯉之助と申すもの。

 主君である柳生十兵衛様より、名を継ぐに相応しい者を300年探しており申した」

「300年て」

「そなたこそ、真、その資格を持つ者に違いない。

 どうか、どうかこのラブリー眼帯を付けてくだされ!」

 

 膝を付いて話し始めたかと思うと、懐から妙なものをすっと自由に差し出す鯉之助。

 それはどピンクのハート型をした『眼帯』?……と首を傾げそうなものであった。

 

「これこそ、柳生十兵衛様その人が自らお作り給うた天下無双の剣士の証。

 どうか……どうか、お付け下され!」

「うーん……付けるだけ、でいいんですか?」

 

 どうにも引き下がる様子の無い鯉之助に、自由は諦めて付けるだけなら……と妥協した。

 

「おお……お願い致しまする!」

「1回だけ……なら」

「1回だけでも、構わんでござる!」

 

 そのハート型の眼帯を受け取り、デザインのアレさに流石にう……と暫く早まったかと後悔する自由。

 勢い込んでえいや、と眼帯を左目に付ける。

 

 ───その瞬間。

 

「おお……」

 

 鯉之助の目に涙が溢れる。

 鯉之助の目には、かつての主君柳生十兵衛その人の幻影が見て取れた。

 そして、その後継たる少女が二代目として活躍するその姿を。

 

 自由もまた、奇妙な感覚に襲われて立ち竦んでいた。

 見知らぬ隻眼の侍、その人がどこかに居るような気がして。

 

 二人が幻影を見た時間は数秒も無かったかも知れない。

 しかし、鯉之助は確かな実感、確かな感触を得てようやく……気が抜けていた。

 

「はっきり見え申した……。

 拙者このラブリー眼帯を継がせるまで死んでも死に切れぬと気迫だけでこの300年間生き永らえてき申した。

 ついに……ついに、積年の願いは成就したのでござる……」

 

 感極まって涙を流す鯉之助に、自由は引き気味に鯉之助を見る。

 

「そういえば、名前も聞いておりませなんだ」

「あ、菜ノ花自由って言います」

「自由殿。

 其方は今日より二代目柳生十兵衛を名乗られよ」

 

 いや確かにパパは自由べぇ十兵衛って呼ぶけど……と答えようとした時。

 ぱき、ぱき……と謎の音が鯉之助から聞こえてくる。

 

 不思議に思う自由を他所に、鯉之助はまるで穴の抜けた風船のようにぷしゅー、と小さくなり一気に老けていく。

 20台頃だった見た目は一気に老爺になり、ついでにひょろひょろと空を飛んでざぶんと川に落ちた。

 

「えぇ!……」

 

 流石に驚いた自由は変なポーズで固まってしまう。

 しかしやがて落ち着いた後に改めてラブリー眼帯を取り、それを川に放り投げた。

 

「いらない」

 

 とぷん、と小さい波紋を立てて沈むラブリー眼帯。

 静かにさらさらと流れる川の音を聞きながら、自由は投げたポーズのまま固まっていた。

 ───その後。

 

「捨てんで下されぇぇぇ!」

「いやぁぁぁぁぁ!?」

 

 再び若返った鯉之助が、涙を流しながら眼帯を持ってざばりと川から現れる。

 絶叫した自由は、全力で走り去るのだった。

 

 

 

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