十兵衛ちゃんVS錦木千束~ラブリー眼帯の秘密~   作:ハピ粉200%

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第二話 柳生の剣に彼岸花咲く02

 

 ───喫茶リコリコ。

 

 DAの支部となっているのこの喫茶店では、歴代一のリコリスである錦木千束と本教官であるミカがいた。

 おまけで元DA情報部である中原ミズキ。

 3人が午後のピーク時間を過ぎた暇な時間に、カウンターに座って駄弁っていた。

 

「ねぇ、センセー。

 これ聞いちゃっていいのかあれだけど……センセって結構体中切り傷多いよね。

 男の勲章ってヤツ?」

「ん?ああ……別に隠すもんでもないが」

 

 カウンターに頬を付きながらマスターである先生ことミカに尋ねる千束。

 二人はほぼ親子みたいな関係である。

 ミカはDA以前、傭兵だっただけあって経歴は世界中で色々な戦歴がある。

 

「こりゃあ……侍ってやつとやりあった傷だ。

 結局仕留められなかったしな」

「え、マジ?サムラーイ?どこで戦ったの?」

 

 ミカの意外な答えに、千束の好奇心が疼く。

 急に目を輝かせてぶんぶん、とエア素振りをしだす

 

「DA内だよ。竜造寺の連中だ」

「リュウゾージ?」

「ああ、竜造寺新陰流。

 DAになる前の前身機関の一つよー」

 

 二人の会話に、ダルそうにスマホを眺めていた中原ミズキが口を挟む。

 

「DAって機関になる前、公式非公式問わず色んな機関が一緒になったの。

 歴史を遡ると、結構長くてね。

 その一つに300年前から続く竜造寺新陰流って言う家?剣術道場?……みたいのがあんのよ」

「へぇー、さっすが元情報部」

「確かリリベルの母体の一つだったかな」

「んげ……」

 

 ミズキの言葉にミカが顎を撫でながら補足を加えると、千束は露骨に嫌そうな顔を浮かべた。

 リリベルとは男の子版リコリスのような組織であり、主に国外対処関連を中心に活動している秘密部隊。

 国内担当のリコリスとはある意味商売敵、時には敵対することもあり得る。

 

「新陰流ってあれでしょ、柳生の?」

「そっちは徳川将軍家の剣術指南役。

 竜造寺新陰流は、当時の柳生の当主である柳生但馬守がお取り潰しにしたみたいねー。

 でも、竜造寺は諦めなかった。

 江戸を離れ京の公家に近づいて、裏の実行部隊として今のDAみたいなことしてたんだって」

 

 ミズキがつらつらと調べた経歴を述べると、千束は感心した目を向けた。

 普段酒ばっか飲んでる印象があるが、その伝手と手腕は衰えていない。

 

「そりゃー、何ともなげー歴史だことで」

 

 DAの血生臭い歴史を知ってうへっと嫌そうに舌を出す千束。

 ミズキもそれ以上調べる気が失せたのか、スマホを放り投げてどっこいせと立ち上がる。

 どれ久しぶりに立て看板でも何か絵を描いてやるかとドアを開けた。

 

 びゅん、と。

 その目の前を高速で自転車に乗った女の子が通り過ぎる。

 同時に、それを必死に追いかける紋付袴で刀を差した謎の男。

 

「───あ」

 

 千束の優れた動体視力は、自転車を飛ばしながら走り去る女の子が菜ノ花自由である事を見て取った。

 そして表情から追われている事も。

 ばん、とカウンターに手をついて立ち上がった千束が割烹着を解きながら笑う。

 

「どっちにつく?

 ───女ぁ!」

 

 そして千束は大泥棒とガンマンの小芝居を挟みながら、手早く装備の入った鞄を拾い上げ、その後を追ったのだった。

 

 

 

 ♡ ♡ ♡

 

 

 

「あ、パパ」

「むにゃむにゃ……」

 

 なんとか鯉之助の追跡を逃げ切った自由は、どこかの公園で木に抱き着いて寝ている父親を見つけた。

 案の定徹夜が祟ったせいか、ぐっすりと眠ったまま起きようとしない。

 

「もう……」

 

 よっこらしょ、となんとか身体を持ち上げて自転車に乗せた所で、自由は後ろを振り返る。

 そこには、あの眼帯を持つ一人の侍がいた。

 

「自由殿ぉぉーー!」

「嫌ぁぁぁぁ!」

 

 振り切った鯉之助が追い付いてきたのだ。

 思わず絶叫を上げながら自転車を漕ぐ自由。

 

 しかし、今度は謎の白い戦闘服を着た人物が複数現れて行く手を遮る。

 自由はぶつかる!と急ブレーキを踏んで止まったが父である彩がぴょいんと落ちて地面に転がった。

 

 まだぐうぐう寝息を立てる父に少し安心するものの、謎の人物達に囲まれた自由。

 鯉之助は自由を守るように男たちの間に立つ。

 

「何者だ?」

 

 問いかける鯉之助に対し、男たちの包囲が割れて、長髪の男が進み出る。

 長髪の男もまた、袴姿で腰に一本の刀を差している。

 

「柳生十兵衛殿とお見受けする。

 某、尾崎幸四郎。竜造寺新陰流が一人。

 是非とも一手お相手願いたい」

 

 名乗る長髪男の名前と顔に、自由は気が付いた。

 あれ、担任の先生じゃん、と。

 

 また鯉之助は竜造寺新陰流という名前に引っ掛かりを覚えていた。

 300年前にお取り潰しになり、既に存在しない流派であると。

 

「……先生?」

「おお、菜ノ花。貴様が柳生十兵衛だったとは」

「確かに自由殿は柳生十兵衛その人であるが……」

 

 勝手に答える鯉之助に、自由は怒りの声を上げた。

 

「その人じゃねー!いや、違うんです。確かに私はパパに自由べぇ十兵衛って呼ばれてるけどそれはあだ名というか、本名じゃなくて」

 

 必死に言い訳する自由に構わず、尾崎幸四郎は腰の刀を抜いて自由に向けた。

 

「さあ、剣を抜け、柳生十兵衛!」

「自由殿、これを!」

 

 鯉之助が再び自由を庇うように立ちながら、ラブリー眼帯を自由に差し出す。

 自由はまたそれか、と辟易しながら受けとらない。

 

「おお、それは天下無双の剣士の証ラブリー眼帯

 この尾崎幸四郎、必ず手に入れて見せる!」

「あ、ほら、この眼帯欲しがってるよ。あげちゃおうよ」

「ダメでござる!

 このラブリー眼帯は300年間爪に火を灯してでも守り通した掌中の珠!

 自由殿に引き継ぐためにあるのでござる!」

 

 尾崎幸四郎の言葉にあっさり引き渡そうとする自由だが、鯉之助が口角泡を飛ばして反論する。

 そして焦れたのか、刀を大上段に振りかぶって走り寄ってくる。

 

「自由殿!ラブリー眼帯を、自由殿!」

 

 一撃、二撃、と鯉之助が自由を庇いながら右に左に剣閃を避ける。

 しかし自由を庇ったままで避けきれず、手足に刀傷を増やしていった。

 

「……ッ!」

 

 そして3度目の剣閃を避けた時に二人は倒れこみ、勢い余って刀は寝ていた自由の父、彩を掠る。

 

「パパ!」

 

 思わず鯉之助を突き飛ばして父に駆け寄るが、こんな修羅場でもまだ眠りこけている彩。

 その呑気な姿に少しだけ自由は安堵するが、今までとは違って厳しい目を尾崎幸四郎に向けた。

 

「御免」

 

 そして自由の後ろから、鯉之助がラブリー眼帯を自由の左目に掛ける。

 

 ───その瞬間、ラブリー眼帯から光が発する。

 

 光の中で渦を巻くような風の中で自由の姿が変わってゆく。

 黒く頑丈な手甲、濃い紺色の忍びのような戦装束へと。

 

 垂れ目だった自由の眦は吊り上がり、右目は鋭く細い眼光が尾崎幸四郎を睥睨する。

 光が収まった先に居たのは、先ほどまでのぽやぽやした中学二年生の菜ノ花自由ではない。

 

 触れたら切られんとばかりの剣気を宿す、一介の剣豪である。

 

「これを!」

 

 脇に控えた鯉之助が、自由───いや、柳生十兵衛へ背負った刀を両手で差し出す。

 その黒拵えの刀の銘は三池典太。先代柳生十兵衛が愛刀である。

 

 それを左手で受け取った十兵衛は一息に鞘を抜き捨て、正眼に構える。

 尾崎幸四郎はその姿を見て、歓喜に震えた。

 そして、遠慮なくその実力を発揮して十兵衛へ切り掛かる。

 

「おお……行くぞ、十兵衛!竜造寺300年の恨み、ここで晴らさせて貰う!」

 

 中段に構えてからの、左袈裟、切り払い。

 上段から牽制を入れてからの薙ぎ払い。

 尾崎幸四郎の剣術は、現代に存在しない戦国を引き継ぐ剣術である。

 

 虚と実を交えた高速の剣閃は、余人から見ても異様とも言える速度。

 踏み込みにより大地に罅すら入れる威力。

 それはフルオートの銃撃にも劣らぬ一気呵成の剣戟である。

 

 ……しかし、自由───二代目柳生十兵衛は動じない。

 

 虚と実を完全に見切った上で避けるものは避け、逸れるものは逸らし。

 避け得ぬ一閃は強力な足腰で踏み込んで、刀で受ける。

 

 打ち込んできた力を利用してふわりと飛び上がった十兵衛は、敢えて隙を晒しながら剣戟を誘う。

 そこへ打ち込んできた尾崎幸四郎を剣腹でいなし、右足で踏み込んだ十兵衛が右下段から切り上げる。

 

 一閃。

 

 ぶん、と背を向けたまま血振りする十兵衛。

 尾崎幸四郎は暫く立ったままで、そして崩れ落ちた。

 

 果し合いは終わりを告げたが、今だ男たちの包囲は解けない。

 敗れた尾崎幸四郎に動揺こそあるものの、男たちもまた懐から拳銃を取り出すと十兵衛に向けた。

 

 鋭い眼光でそれらを睥睨する十兵衛が刀を向けようとした時───突如横合いから、銃撃が飛んできた。

 十兵衛にではなく、男たちへ向けて。

 

「何!、ぐあッ!!」

「はーいはい、大人しくしてね……っと!」

 

 ぱんぱん、と男たちの胸部に赤い花が咲く。

 それは非殺傷弾───威力を低減し弾頭が着弾時に崩れる特殊弾頭による着弾の跡である。

 

 突然の乱入者に驚いた男たちは手に持つ拳銃を構え、赤い制服を着た白髪の少女に向けて発砲する。

 彼らの構え、照準動作は明らかに訓練されたものであり、そこらのチンピラのような甘いものではない。

 しかし、逆にそれが乱入者───錦木千束にとってはやり易いものであった。

 

「よ、ほ、は!」

 

 奇妙な掛け声とともに、命中重視の胸部への照準動作から避ける。

 異常発達した視力でそれを見て取った千束には、その先の動きが見えているのだ。

 

 結果、数十と向けられる銃撃には一発も被弾すること無く。

 その全てがひらりと避けられてしまう事になった。

 

 そして接近した千束が腰だめで容赦なく非殺傷弾を撃ち込むと、その半数以上が打ち倒される。

 

「まさか……錦木千束か!」

 

 男たちは、赤い制服を着た白髪の少女の正体に思い至る。

 それはかつて電波塔占拠事件にて、一人でテロリストを制圧した最強のファーストリコリス。

 DAと言う組織に残る、伝説である。

 

「……退け!」

 

 不利を悟った一人の男は、手を挙げて撤退を指示。

 倒れた男たちを担ぎ上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 

「あ、ちょいちょい待ちーな。

 って、こちらさんも居たか」

 

 千束は急に逃げに転じた男たちを追うか迷うが、残る最後の危険人物に目を向けた。

 日本刀を所持する黒装束の少女───十兵衛に。

 

「あなたもその物騒なものおいて、ね?悪いようにしないから」

 

 十兵衛の鋭い眼光を向けられた千束は、背中が疼くような感覚を覚える。

 彼女の雰囲気は明らかに一般人ではない。

 まるで何十人、何百人と切り捨ててきたかのような、そんな気迫を。

 

「……ッ!」

 

 気当たり。

 十兵衛が発した気配だけで、千束は切られた。

 いや、切られた幻影を見せられた。

 異常発達した視力と先読みを持つ千束を……である。

 

 思わず防御反応として銃を向けた千束に、十兵衛が刀を中段に構える。

 二人はお互いに銃と刀を向け合いながら、睨みあった。

 

 ───銃と刀。

 最強のファーストリコリスと、最強の剣豪。

 二つの気迫が交錯する。

 

「……え、もしかして……自由べぇ十兵衛ちゃん?」

 

 そして、剣気に曇っていた目を凝らした千束はようやく気付く。

 銃を向けている少女の顔、髪型は今日知り合った少女───菜ノ花自由であることを。

 

 まるで別人である。

 お日様のようにぽやぽやした天然少女だった自由はそこに居ない。

 その気迫、その威容は全てを切り捨てる剣豪であった。

 

 しかし、ふらり、と。

 

 自由の名を千束が呟いた途端、十兵衛は剣気を解いて急に倒れ込んだ。

 控えていた鯉之助が、自由の身体を受け止める。

 

「……殿、お見事にござる」

 

 優し気に声をかける鯉之助の腕の中で、十兵衛はゆっくりと意識を落としていったのだった。

 

 

 

 ♡ ♡ ♡

 

 

 

「ここは……私は、一体……」

 

 むくり、と路地裏で寝かされていた長髪の男が気が付き、立ち上がる。

 長髪男は尾崎幸四郎、先ほどまで十兵衛と果し合いをしていた男である。

 仲間であるリリベルに引っ張られて路地裏に寝かされたが、タイミング悪く誰もいない時に気が付いた。

 

「そうだ……歌手に、なりたい」

 

 そして、そんな事を宣った。

 憑き物が落ちたかのような晴れやかな顔で、尾崎幸四郎は立ち去るのだった。

 

 

 

 同時刻。

 

 気が付いた自由は自転車を押しながら、隣を歩く鯉之助と千束に挟まれて家路についていた。

 父である菜ノ花彩は鯉之助に背負われている。

 

「うーーん……やっぱりただの眼帯だーこれ」

 

 千束は自由に貸してもらったラブリー眼帯をひっくり返したりして観察するが、特に何の変哲もない。

 はいこれ、と千束は自由に返すものの、自由は雑に自転車の籠に入れる。

 

「うーん……あれ、ここどこ?」

「ここどこじゃねっつの。死ぬところだったんだから」

 

 背負われていた父、彩が目覚めると、ぷんすかと怒った自由が父を殴る。

 

「アハハ、大袈裟だなぁ、自由べぇ十兵衛ちゃんは。

 ……で、この人誰?」

「は。拙者、小田豪鯉之助と申すもの。

 故あって自由殿にお仕え申すことになり申した。

 これからよろしくお願いいたしまする」

 

 自分を背負っている男に不思議そうに指さしながら聞く。

 鯉之助は早口で自己紹介するが、彩は寝ぼけ頭で「ふーん」としか返せなかった。

 

「……じゃあ、そちらさんは?」

「どもども~。喫茶リコリコの看板娘こと錦木千束って言いますー。

 この先の喫茶店だから、何時もでも来てくださいね~。暇だから」

「はぁ……あ、いっけね!」

 

 二人の自己紹介を右から左に流しながら瞼を擦る彩は、急に覚醒したのか慌てだした。

 

「締め切り過ぎてんだよ、また今日も徹夜だ」

「身体壊すよ?もう……」

「んでもよ~……」

 

 さらさらと優しい風が流れる中、奇妙な4人がゆっくりと街を歩いて行くのだった。

 

 

 




番太郎と大猿小猿?
奴らは死んだよ(プロット的に)
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