飛び散る血しぶき、いや血煙は彼女の漆黒の鎧を穢すことはなく。
先ほどまで村を蹂躙していた騎士たちの心を叩き折るばかりであった。
彼女の剣が正しく人を切り裂いたのは最初の一回、騎士たちの隊長の首を刎ねたときのみであり。
それ以降は、とても人の所業とは思えないないような惨劇が繰り広げられていた。
「ひ、ひえああああああ!!」
「……」
剣に無尽蔵なほどに多い魔力を纏わせ、いや纏わせているのではない。
竜の吐息のように、噴出させているのだろうか。
その赤黒い極光は容易く騎士の鎧と血肉と骨格を吹き飛ばす。
別に腸や手足が地面を埋め尽くしている、といった惨状はどこにもない。
ただ、そこにあった人間が煙になって散っていっているだけ。
だがそれに耐えられないのが騎士たちだった。
あの極光に触れたら、痛いのか痛くないのか、熱いのか冷たいのか、だけどこれだけはわかる。
死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!
逃げようが魔力で強化された脚力で追いつかれる。立ち向かおうが待ち受けるのは魔力で強化された膂力と魔力そのものの極光。
「逃げるな、マスターの命だ。貴様らには……すでに結末が用意されている。慈悲は……」
汚れた星の聖剣、今もなお魔力があふれるソレに更に、更に、炉から魔力を送り込み漆黒の騎士は言う。
「期待するな」
「デ、デス・ナイトよ! そこまでだ」
威厳に満ち溢れたその声に、生き残った騎士と村人、そして目を隠した少女が顔を上げた。
ゆくりと降りてくる威厳ある御方は言う。
「初めまして、諸君」
騎士が慄く。
村人が首を垂れる。
「私はアインズ・ウール・ゴウンという」
「諸君には生きて帰ってもらう。そして諸君の上司、飼い主に伝えろ。このあたりで騒ぎを起こすなら今度は貴様らの国にも死を告げに行く、と」
その言葉が騎士たちの前にいるマジックキャスターの口から出た瞬間、騎士たちは剣と盾を投げ捨て逃げ出した。
◇
◇
◇
目を覚ました時、正直言って、困惑した。
……自分でいうのもなんだが、あの死に際で生き残るというのはそれこそあり得ない。
というか、死んだのだろう。
視線を巡らせて見えるのはよく言って牧歌的、悪く言って田舎臭い西洋風の民家が見える。
……もしかして死んだのは夢で、俺はそういう雰囲気のテーマパークに来ているのだろうか。
なにか、アトラクションで順番待ちしているのだろうか。ほら、目の前に大きなコートを着た男の人、
「この村が襲われているのが見えてね、助けに来たのだ」
……なにかのショーの演者なのだろうか。
「君たちはもう安全だ安心してほしい。だがタダというわけにはいかない」
マスターのその声に、マスターの目の前にいるであろう聴衆から安堵の声が聞こえる。
エキストラの演技も教育しているのだろうか???
「対価の話は、後からで構わない」
そういってマスターが勢いよく振り向き、俺の肩を勢い良くつかんだ。
「話を、聞かせてもらうぞ」
「へ」
俺の視界は光に埋め尽くされ、次の瞬間には森の中にいた。
確定した、確定してしまった。
これほどの非現実をまざまざと見せつけられてしまったのなら認めるほかない。
友人に見せてもらった『異世界転生』のライトノベルと同じ現象が俺に起こるとは思わなかった。
しかも、彼女の姿を借りて。
「さて、なにから聞こうか」
「アインズ様? 尋問をしましょうか?」
「待てアルベド。いまはまだ、話し合いができる。そうだろう?」
アインズと呼ばれた仮面をつけたマスターがこちらを見て言う。
なんでこんな状況になったのか俺が知りたい。
威圧されても困惑は深まるばかりだし、どうしたらいいかわからない。
「さて、まず聞きたい。君は何者だ? デス・ナイト、ではないのだろう?」
「お、俺は、北条 景、です。目が、覚めたら、こ、ここにい、いて」
「ホウジョウ ケイ……」
俺が名乗り、その名前をマスターは咀嚼する。
嚥下に時間がかかっているようだ。
まああちらの理解が得られるかわからない回答ではあるけれど、これ以外の回答を今のところ用意できない。
なんで彼女の容姿を自分が真似ているのか、ここがどこなのか、てかこのマスターってだれ。
「北条 景??!」
そういってマスターは俺の肩につかみかかった。
力つよい。
「き、君は、日本からやって来たのか?」
「え、えーと、死んだときは日本にいました」
自分ののどから鈴を転がしたような声が出てくる。
なれないけど彼女と一緒になったみたいでうれしく感じる。
マスターが考え込んでいる。
返答が不自然だっただろうか? 言い方が見つからなかったから許してほしい。
「君はすでに死んでいるのか?」
遠慮するそぶりすら見せずにデリケートな領域に踏み込んでくる。
俺も気にせずに対応した。
「はい」
「死因は」
「彼女に殺されました」
「彼女?」
「あ、すみません。名前は知らないんですけど、今の俺の見た目と同じ女の子に殺されました」
そういって改めて確認する。
漆黒の鎧にドレス。
黒く染まった剣に、黒い眼帯?
視界を遮るものではないのだろうか、感触はあるのに見える。
その視界の隅にはくすんだ金髪が見える。
ここまで一緒ならば間違えようがないだろう。
「? ……まて、現代日本に君のような少女がいるというのか?」
「自分も驚きましたが、直接殺されたんですから、信じるほかないでしょう」
「君のいた日本と私のいた日本は別物、ということか? こうしてユグドラシルから別世界に来たのだから驚きはしないが……」
ここまでセリフを進め、マスターは気づいたように俺に問いかける。
「君はユグドラシルを知っているか?」
「すみません、マスター。俺はゲームはあまりしないほうなので……」
「そうか……いやマスターって」
「……?」
「いや、ああ、いい」
そのときの残念そうな雰囲気に少し申し訳なくなったが、正直に言ってそれよりも後ろで威圧的な態度を隠そうともしないアルベドと呼ばれた人が怖かった。
よろです