東方時刻烈伝 〜夢見る緋時計〜   作:マデュラ

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第四夜 矛盾のカノン

 時は、ミノタウロス討伐直後のことである。

 日も暮れ、七人は互いに健闘を讃えて、宴をして……いなかった。

 それよりも、失ったものの方が大きい。紅魔館という唯一無二の住処(すみか)を失ったのだ。

 戦いが終わり、静けさと共にその事実は、彼女たちの心に鋭い刃物のように突き刺さる。

 勝利したと言うのに、誰もが口を閉ざし、まるでお通夜と言わんばかりの空気だ。

 そんな紅魔館の住人たちに、霊夢は気休めでもと提案する。

 

「ウチくる?」

 

 しかし、紅魔館の住人たちは一瞥(いちべつ)したあと、再び、めそめそと泣きに戻る。霊夢の家に泊まるくらいなら、野宿の方がまだ食い扶持はあるだろう。

 

「はっ倒すぞ、ナレーター……!!」

 

 霊夢は、般若(はんにゃ)のような形相(ぎょうそう)で宙を睨む。

 およそ三十分の陰鬱な空気の後、紅魔館の住人達はスっと立ち上がった。

 その顔は晴れ晴れしていた。

 

「さて! どうしますか!」

 

 話し合いの結果、魔理沙の家にパチュリーが、美鈴はかろうじて無事な門番小屋に、残った三人は近場で宿を探すことになった。

 

「ちょっと! なんで私の家には誰も来ないのよ!」

 

 霊夢が駄々っ子のように地団駄を踏む。

 

「ご飯ないから」

「グハァ!」

 

 冷たく言い放つ咲夜の言葉に霊夢は大きく吹っ飛ばされる。ただ、正確に言えば、あるにはある。貰い物と家周りの雑草の天ぷらだが。

 一通りの茶番が終わり、各々旅立ちの準備を始める。

 

「館の立て直しは、明日からにしますね」

「明日の昼くらいには私も行くわ、魔理沙と一緒に」

 

 苦く笑う魔理沙の箒に乗り、パチュリーは遥か先へと飛び立った。その後ろ姿を、可哀想にと皆が手を振る。魔理沙は今日、寝かして貰えないだろう。

 

「んじゃ、私も行くわね。なんかあったら連絡ちょうだい」

 

 うんと背伸びをしたあと霊夢も飛び立つ。かと思えば、急旋回し戻ってきた。

 

「あっ、今回のギャラはまた今度貰うわね」

 

 無言で飛ばされるナイフの雨を華麗に避け、霊夢も遥か先へと消えた。

 

「咲夜さん、お嬢様、フラン様、今日はお疲れ様でした。

 館は明日から直しときますので、その間、皆さんゆっくり休んできてください」

 

 頬骨(ほおぼね)が突き出した跡が痛々しく残る笑顔を見せ、美鈴が三人を見送ろうとした。

 そんな美鈴にフランが抱きつく。

 

「美鈴と一緒に寝る!」

 

 美鈴はおもむろにフランを剥がし、その愛らしい金髪を軽く撫でた。そして、慈愛に満ちる母のような表情でフランに言い聞かせる。

 

「お申し出は凄く嬉しいですが、小屋は一人用なんです。フラン様は、咲夜さんとお嬢様のそばにいてあげて下さい。

 また今度、一緒に寝ますから」

 

 その言葉にフランは満面の笑身をうかべた。

 

「絶対ね! 絶対だよ!」

 

 フランはそういい咲夜とレミリアの元へと戻った。

 三人は、小屋に戻る美鈴に手を振り、館の外へと出る。日も落ちきった外は夜風が寒く、数多の星の光だけが辺りを照らしている。

 

「さて……あの二人が心配するから、適当に宿探すと言っちゃいましたが、どうしましょ」

 

 幻想的な夜空を打ち砕くかのような咲夜の発言に、二人は顎が外れんばかりに驚愕する。

 

「咲夜がいいとこ知ってるって言うから、ついてきたのに!」

「フラン、美鈴のとこ戻る!」

 

 そっぽを向き、美鈴の元へと戻ろうとする吸血鬼二人を咲夜が必死に引き止める。

 

「いやいや! いいとこ知ってますよ!」

 

 咲夜は近くにある妖怪の山を指差した。あそこは排他的主義な所である。到底、宿があるとは思えない。

 しかし、咲夜は悪魔にでも取り憑かれたような悪い顔を浮かべた。

 

「早苗の家とかどうです?」

 

 ◼

 

「それにしても疲れたなぁ、パチュリー」

「そうね」

 

 はるか上空、白黒の魔法少女は紫の魔法使いを乗せ、冷たい風の中を遊覧飛行していた。

 

「お前に二回もちゅーされるなんて思ってもいなかったぜ」

 

 恥ずかしげに魔理沙は語る。

 

「あれは魔力供給よ。もっと()()()()が良かった?」

 

 紅魔館があった場所を遠く眺めながら、パチュリーは意地悪げに返す。

 

「んで、これからどうするんだぜ?」

 

 パチュリーは少し黙り、空をじっと見つめた。雲が流れ、満天の星空と共に鮮やかな満月が、空に佇んでいた。

 

「おぉ、今日は満月か! いいねぇ!」

 

 月明かりに照らされて意気揚々に話す魔理沙を横目にパチュリーはようやく口を開く。

 

「明日、考えるわ」

 

 揺蕩う月の中、パチュリーは魔理沙の頬にそっと口をつけた。

 

 ◼

 

 場所は変わり、小屋が一つだけ置かれた真っ白な平坦な世界。ここは幻想郷と外の世界の狭間。有るようで無い、無いようで有る、零と一の狭間。そんな、到底、ただの人間では侵入出来るはずがない場所に、霊夢はいた。

 

「ゆっかりんはお目覚めのようね〜。

 どこにいるのかしら〜?」

 

 ふらふらと小屋の方へと霊夢は近づく。

 小屋の直前へとたどり着いた瞬間、稲妻が走った。

 小屋の周りにうっすらとした無数の札が回転している。

 

「誰も来ないくせに、結界とは随分、警戒心がお強いことで」

 

 金属と金属がぶつかりあったかのような高音が狭間の世界に鳴り響く。

 霊夢の蹴りは、結界をいとも容易く破壊した。崩れゆく札の中を鼻歌交じりに霊夢はスキップする。

 そんな霊夢の前に、藍が現れた。

 

「何の用だ、博麗 霊夢」

 

 尾毛が逆立ち、低い声で尋ねる藍の気迫にも、霊夢は怖気なかった。

 

「Oh! これはこれはゆかりんの式神(ペット)の藍様で! 

 今日もご機嫌(うるわ)しゅう事で、何よりですこと」

 

 仰々(ぎょうぎょう)しい態度で不敵に笑う霊夢に対して、藍の目つきはより一層きつくなる。

 

「何の用だと聞いている。

 博麗の巫女であろうと、この地に足を踏み入れる事は禁じられているはずだ」

 

 怒りが増していく藍に霊夢は大胆に近づく。

 

「ゆかりんに会いに来ただけ。式神(ペット)に用はないんで、さっさと橙と遊んでな。(消えな)

 

 霊夢の顔から先程の笑顔が消え、女子とは思えない荒々しい目つきになる。

 

「紫様は現在、多忙だ。お前とおままごとしてる暇はない。お前こそ、さっさとクソして寝てろ(帰りやがれ)

 

 一触即発の空気の中、藍の隣にスキマが開いた。中から紫が顔を出す。

 

「あら、霊夢どうしたのかしら?」

 

 紫が地に降り立つと霊夢の顔が、雷雨上がりの晴天のように明るくなる。

 

「いやぁね、今日、紅魔館に行ったらバケモン退治になっちゃってお疲れだから、ゆかりんに元気をもらおうと思って」

 

 嘘だ。

 霊夢の上辺だけの笑いからは、洗練された刃物のような鋭さが見え隠れしている。しかし、紫とて幻想郷の賢者として、事を荒立てるような愚考はしない。

 丁寧に霊夢をあしらう。

 

「ごめんね、霊夢。私、()()()()()()()()。また今度でいいかしら?」

 

 霊夢はそれに従う訳もなく、目が笑わない笑みのまま、口を開く。

 

「まぁ、色々聞きたいことはあるんだけどね。

 なんで、私が橙よりも後の出演なのかとか、私が主人公じゃないのかとか。東方と言えば、博麗 霊夢、私でしょ! 

 何故に咲夜なのよ!」

 

 また訳の分からないことをと、藍はため息をついた。

 如何せん、この博麗の巫女は思考が読めず苦手な存在である。

 威嚇してきたかと思えば、急にお調子者へと変わる。

 ただ、確実に言えるのは霊夢は、()()()を何らかの敵だと疑っている。ふざけた口調ではあるが、確実な殺気が、彼女からは感じ取れた。

 

「どういうことか私には分からないけど、一つだけ確かなことは、あなたがそういう運命だったってことよ」

 

 紫のおもむろな言葉に合わせ、藍が拳を握ると、ふいに霊夢は人差し指を立てた。

 

「運命ね……まぁ、そんなことはどうでもいいのよ。

 まず、1つ目、しっつもーん。あの年がら年中寝てばっかりのゆかりんが起きてるのは、なんででしょう?」

 

 紫は不穏を抱きながらも、しっかりとした口ぶりで答える。

 

「ちょっとやることがあってね」

 

 霊夢は親指を立てた。

 

「2つ目、しっつもーん。昨日今日と緋色のバケモンの目撃情報があります。それと関係あるのでしょうか?」

 

 紫は静かに唾を飲み込んだ。そして、ゆっくりと嘘を吐く。

 

「なんのことかしら?」

 

 返答までの間に霊夢は気を止めることなく、中指を立てる。

 

「3つ目しっつもーん。これで最後だよーん。

 てめぇ、何隠してやがる?」

 

 立てた中指で紫を指さし、ドスの効いた声が静かに鳴り響く。陽気な彼女から出たとは思えないその声は、まるで別人のようだった。

 解答者の間に息が詰まるほどの重圧がのしかかる。

 

()()()()。それが答えよ」

 

 紫に手を出そうと瞬間、ねじ伏せる気でいた藍だが、霊夢はそんな素振りを見せることなく、むしろ再び無邪気な笑顔に戻る。

 

「あら、そうなの? あっちゃー、霊夢ちゃん勘違いしちゃったわね」

 

 わざとらしい態度を見せる霊夢に、今度は紫が尋ねる。

 

「霊夢、あなたは、ここにどうやってきたのかしら?」

 

 霊夢の答えは至極単純だが、理解不明だった。

 

「うーん、強いて言えば勘? いや、そうなるよう、誰かさんがしたのかも? 

 でも、そうなると私の勘は誰によるものなのかしらね?」

 

 妙にはぐらかす霊夢に、紫は不信感を抱いた。しかし、なぜだか、それを問いつめる気は起きなかった。むしろ、これが彼女だと納得してしまった。

 

「やはり、貴方は()()()()()()ね。今まで勘でここに来た博麗の巫女は見たことないわ」

「おぉ! やっぱり霊夢ちゃんは天才なのかしら?」

 

 (とぼ)ける霊夢に紫は苦笑いを浮かべる。しかし、単なる人間では無いことは確かだ。油断ならない雰囲気の中、突如、霊夢は(きびす)を返す。

 

「まぁいいわ。忙しい所、邪魔したわね。

 では、お仕事ガンバって」

 

 去ろうとする霊夢は振り向き、ついでと言わんばかりに言葉を付け足した。

 

「あっそうそう、言い忘れてたわ、ゆかりん」

 

 そういう霊夢の目には、再び鋭さが戻っていた。

 

「テメェが何を隠そうが、私の知ったこっちゃない事だけど、私の友人が危ないとこにあったんだ。

 いつまでも隠せると思うなよ。

 んじゃ、グッバーイ」

 

 霊夢はそう言い残し、狭間(白い世界)の先へと歩いていく。

 遥か遠く、霊夢の姿が消えた頃、ようやく藍は大きく息を吐く。

 

「なんですか、あいつは……!? なんで、(よわい)十代前半の小娘が、あんな尖りまくった空気を出せるんですか!?」

 

 藍の疑問はもっともだった。明らかに霊夢の重圧は常軌(じょうき)を逸していた。彼女には、まるで大妖怪、いや大神(おおかみ)を相手してるかのような緊張感があった。

 

「いや、むしろあの歳まで()()()()()()()()()()()()()からこそよ」

 

 紫はそう言い、壊された結界の修復を済ませる。

 博麗の巫女は代々、短命だ。その理由として、博麗大結界の中核であることが原因である。

 大体は膨大な量の霊力の制御に耐えきれず、十をすぎた頃には床に伏すか、生命力までも吸い尽くされ干からびるかのどちらかである。

 あそこまで頑強で剛胆なのは、数少ない。

 人間ならざる人間とも言うべきか。

 しかし、彼女が味方であるうちは希望がある。味方であるうちは。

 

「とにかく紫様、霊夢はこちらに不信を抱いている以上、例のことを隠せないのでは?」

 

 藍は似合わない心配そうな声で紫に尋ねた。しかし、紫はささっと結界の修復を終えるとため息混じりに答えた。

 

「大丈夫よ。あの子は空気を読める子だもの。

 友達が怪我をしたことに苛立ってただけ。それに、やぶ蛇をつっつくほど、バカじゃないわ」

 

 紫は藍にそう言うと、小屋の方へと向かう。藍もそのあとを追いかけた。

 紫が小屋の戸を開けた瞬間、遠くから声が聞こえる。

 声の方向を向くと、霊夢が全速力でこちらへとやってきた。二人はまだ用があるのかと眉をひそめる。

 霊夢は戻ってくるなり、一言。

 

「ゴメン、帰り道、教えて!」

 

 藍と紫は示しを合わせたかのようにズッコケた。

 

「藍、前言撤回。やっぱりバカかも、この子」

「……私もそう思います」

 

 

《続く》

 




はい、どうもマデュラです。
いつもより文字数を減らしての投稿です。
ちょっと今回は休憩回でありつつ、色んなところに意味深をばらまいてみました笑
ちなみに霊夢のキャラがかなり原作とは変更されてますね。何があったんでしょ笑
まぁ、赤い巫女さんは休んでいただいて、次回からは緑の巫女さんを活躍させたいなってところです。お楽しみあれ!
ではバハハーイ

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