東方時刻烈伝 〜夢見る緋時計〜   作:マデュラ

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「そういや、霊夢と魔理沙はまた呼ばれてきたの?」

美鈴に抱きかかえられた咲夜が二人に尋ねると、二人は不敵な笑みを浮かべた。

「残念、お泊まりさせていただきましたァ!」
「久々のふかふかベッドは気持ちよかったんだぜ!」

パチュリーが持ってきた車椅子に座らせられると咲夜は口を開けたまま、こめかみを押さえる。

「嘘でしょ……」

昨日、買ってきたのはあくまで()()()の食料だ。

「咲夜さん、冷蔵庫はほぼ空なので、後で買い出し行ってきます。」

美鈴が申し訳なさそうに、絶望に浸る咲夜を食堂へと連れていく。
こんな事になるなら倒れたままの方が良かったとひっそり涙を流す咲夜であった。


第二夜 信奉者のボレロ【中】

 

 事の始まりは、霊夢の余計な一言だった。

 

「1回泊まっちゃったし、あと何回泊まっても変わんないよね〜」

 

 食堂にある巨大なソファの上で寝転がる霊夢は、図々しく呟いた。

 しかし、それも無理はない。

 霊夢の家でもある博麗神社には、参拝客がほとんど来ない。閑古鳥も呆れるくらいだ。

 神社である以上、祀る神はいるのだが、知名度が低い上にご利益もあまり分からないため、歴代の博麗の巫女は財政難によく悩まされた。

 それは、霊夢も例外ではない。そんな彼女に食住が保証される場所が無料で、それも豪華絢爛とくれば、長居をしたくなるのも、仕方がないことだろう。

 それに、魔理沙と霊夢は咲夜の恩人だ。杜撰(ずさん)に扱っては、バチが当たる。

 いつもの事だと、紅魔館の皆は難なく了承する。

 そんな折、皿を洗う美鈴があることを思い出す。

 

「あっ、そういえばお二方、着替えはあるんですか?」

 

 当然、飛び出してきた二人に、そんな物持ち合わせてるわけがない。二人は示しを合わせたように、首を振った。

 美鈴はそれを見て、あることを提案する。

 

「地下に、咲夜さんの着れなくなった服が、幾つかあるので、それをお使いになってはどうですか?」

 

 それはまさに、最善で最悪の提案だった。車椅子に乗った咲夜が思わず、レミリアとフランのお菓子を落としかける。

 

「美鈴、余計なこと言わないでください!」

 

 咲夜は、慌てて霊夢と魔理沙を止めようとするが、二人はもう居ない。なんて速い奴らだ。急いで向かおうとするが、車椅子の車輪は思うように動かない。

 美鈴は手を止め、フランを呼ぶ。

 

「フラン様、咲夜さん連れて、霊夢さんと魔理沙さんを追いかけてあげてください」

「わーい、これフランが押していいの!?」

 

 フランが掴んだ車椅子のハンドルは、みしみしと音を立てる。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「追いかけるなら、フラン様の力をお借りするのが、一番ですよ。

 フラン様、この車椅子、()()()なので安全運転。お願いしますね」

「はーい!」

 

 元気よくフランが返事するが、咲夜の心は嫌な予感でいっぱいだった。

 そんな咲夜の膝の上に、レミリアがちょこんと座る。

 

「フランだけじゃ心配だから、私も行く。

 分かってると思うけど、フラン、安全運転でお願いね」

「はーい! 分かってるよー!」

 

 そう言うフランの足には、柔い幼子には似合わない血管と力こぶが浮き出ている。

 念の為と、咲夜は三本目の釘を刺そうとするが、暴走気味の原動機は聞く耳を持たない。

 

「目的地〜地下室〜地下室〜! んじゃ、出発進行!!」

 

 その声とともに、押しつぶさん限りの圧力がレミリアと咲夜を真正面から襲う。

 

「「あばばばばば!!!!」」

 

 気を抜くと意識どころか、命すらも持ってかれそうだ。

 しかし、この速さなら、余裕であの二人に追いつく。強風と共に、目まぐるしく流れる廊下の景色が、それを示していた。

 突風に慣れてくるとレミリアと咲夜は、その光景が非日常的で、少し心が湧く。

 

「フランの馬鹿力も、たまには、悪くないわね」

「そうですね」

 

 フランは二人の会話を聞いてか、さらにスピードが上がる。

 

「トップギアで行っくよー!!」

 

 その言葉を最後に、咲夜とレミリアの意識は遠くに吹っ飛ばされた。

 

 

 ◼

 

「あれー? 魔理沙と霊夢いないよー?」

 

 フランの声で、咲夜の意識は現実に帰ってくる。辺りを見回すと、先に目覚めていたレミリアが、フランと共に地下に行ける唯一の階段を覗いていた。

 暗い階段からは、何も聞こえない。霊夢たちが着いていれば、何かしら声が聞こえるものだ。

 

「こりゃ、迷ったわね、あの二人」

 

 レミリアは、呆れたように後ろ髪をかく。咲夜も、安堵と呆気が入り混じったものをゆっくり吐いた。

 

「面倒ですね。あの二人が、あっちこっち行かれては、何をしでかすか」

「主に、本と食糧が被害に遭うわね」

 

 二人が迷子を探しに行こうとすると、暗い階段を覗き込んでいたフランが引き止める。

 

「あれ? なんか聞こえるよ?」

 

 その瞬間、轟音と共に、床が大きく揺れた。

 

「じっ地震!?」

 

 耳をつんざくような揺れはすぐに止んだ。

 一体、今のはなんだったのか。咄嗟に集まった三人は、恐る恐る暗がりの中をのぞき込む。

 暗がりは、吸血鬼の目でも、見通すことが出来ないほどだった。

 

「何かいるようには見えないけど……」

「お姉様が飼っていたチュッパチャプスじゃない?」

「フラン様、チュパカブラです。もし、そうだとしても、彼らにあんなこと出来ますかね?」

 

 そう、チュパカブラごときでは、館を揺らすことなど、到底出来るものでは無い。まるで、黒く塗りつぶしたかのような階段の先は、三人の恐怖と好奇心をくすぐる。

 レミリアと咲夜が、怖いもの見たさと理性で思い悩む中、フランが燭台(しょくだい)を持ってきた。どっかの部屋から剥がしてきたのだろうか。

 

「みんなで行けば、怖くなくない?」

 

 そういうフランの瞳は、冒険心で光り輝いていた。

 

 ◼

 

 狭い暗闇の中を進む燭台の灯りは、いつもの地下室の光景を照らしていた。

 しかし、そこかしこから漂う生暖かい鉄と獣臭さが、何者かの存在を証明していた。

 

「止まって」

 

 先頭を歩くレミリアが足を止めた。それを見て、フランは持ち上げていた車椅子を置く。

 そこは牢獄だった。何を幽閉していたのか、三人の記憶に存在しない牢獄。しかし、得体の知れない嘔気(おうき)が、舌先の記憶を掻きむしる。

 その瞬間だった。誰もいないはずの牢獄にゆらりと緋が照らさられる。(なま)めかしく光る緋は床にうずくまるように佇んでいた。

 異常を確認したレミリアとフランは、咲夜を守るように戦闘態勢をとる。

 その気配に気づいた赫はのっそりと立ち上がる。広大な地下室の天井に届かんばかりの巨躯(きょく)を三人が見上げると、こちらを見つめる牛がそこにいた。

 

「オマエら、だれだ? オデ、知らない」

 

 巨躯を持った牛の顔が三人に近寄る。その目は、殺気とは程遠い優しさを備えていた。

 

「あなたこそ、誰よ! 勝手に他人の家に入っといて名乗らないなんて! 

 人に名前を聞く時は自分からって、ママに教わらなかったの!?」

 

 まくし立てるレミリアの剣幕に、牛はあろうことか、おどおどと頭を下げてきた。

 

「オデの名前、ミノタウロス。ここ、ひとんち、知らなかった。

 ごめん……なさい」

 

 あまりにも、あっさりと謝罪してくる相手に、三人は唖然とする。敵だと思い込んでいたのが、恥ずかしくなるくらいだ。

 

「まっ、まぁ? ちゃんと謝るなら、いいわよ……ね?」

「えっ、えぇ、そうですね。謝れるって事はいい事ですし」

「ミノタウロスさんは、なんでここにいるのー?」

 

 フランの言葉に、ミノタウロスはその巨躯に見合わない細々とした声をだす。

 

「オデ、ママに頑張れって言われた。でも、何を頑張るのか、忘れた。だから、ここで、思い出してる」

 

 あまりの唐突な発言に、三人は困惑する。この巨躯の親となったら、どれほどの大きさになるのか。いや、そんなことより、この牢獄で何を頑張る事があるのか。

三人はありったけの知識と記憶を使ったが、あまりにも当てはまらないパズルの答えは一向に分からなかった。

 三人と共に、頭をひねるミノタウロスは、ふと頭を上げ、咲夜を見つめる。そして、思い出したかのように、咆哮に近い爆音で叫んだ。

 

「ママぁ!」

 

 思わずの爆音と豪風に三人は吹き飛ばされそうになるが、有り得ない一言の方にふためいていた。

 

「咲夜! あなた、こんな大きい子供いたの!? コウノトリさん、何匹雇ったのよ!」

「パパは誰ー? 牛さん?」

 

 二人に詰め寄られる咲夜は当惑の中、再度、ミノタウロスを見つめる。

 ミノタウロスは、曇りのない下卑(げひ)た笑いで咲夜を見つめ返す。

 

「もしかして、あの時の……! 

 

 な訳あるかァァ! 

 レミリア様、フラン様、よく考えてください! 私は牛と致すほど、ふしだらじゃありません! 

 それにほら、似てない!」

 

 咲夜が言い放つと、レミリアとフランは少しの沈黙の後、深く点頭する。

 

「わっ分かってたわよ、当然じゃない! 

 咲夜のことは、私がよくわかってるもの!」

 

 糸のように細めた咲夜の視線から逃げるように、レミリアは目を逸らす。

 

「咲夜?」

 

 ミノタウロスは聞こえてきた単語が引っかかっるようだった。

 三人はそれに気づくと、先程のことで自己紹介していなかった事を思い出す。

 

「そうだよー! 私がフラン!」

「紹介が遅れたわね、私がレミリア・スカーレット。フランの姉で、ここの主よ」

「そして、私がここのメイド長を務めております、十六夜 咲夜です」

 

 三人の紹介を黙々と聞いていたミノタウロスの様子が、変わっていく。

 最後に聞こえた名前をブツブツと繰り返し、夢の記憶を取り戻すかのように、緋色に染まった目は確かな殺意を持ち始める。

 一瞬だった。

 ミノタウロスは、その剛腕で棍棒を振り下ろす。大地は砕け、暗い地下通路はおろか、館が再び揺れる。

 しかし、ミノタウロスの一撃は誰も殺していなかった。棍棒が(ひし)めき、音を立て砕け散る。

 フランだ。ミノタウロスの殺意を感知した彼女は、瞬時に棍棒を受け止めていた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

 フランの叫びに呼応するように、砕け散る破片の中、レミリアが飛び出す。武器を失った敵の腹めがけて、全身全霊の蹴りをお見舞いする。

 吸血鬼のフルパワーを受け、ミノタウロスはいとも簡単に吹き飛ぶ。が、牢獄の壁にめり込むも、動きが止まる事はない。

 瓦礫(がれき)をはねのけ、三人を睨みつけていた。そこには、先程の間抜けな愛嬌は一切ない。純粋な殺意。(よど)みも腐りもない殺意の巨躯は、近くに落ちていた仮面を拾う。

 それは、レミリアと咲夜が見たことあるものだった。昨日の襲撃者達と同じものだ。

 

「フラン!!」

 

 レミリアが声を上げる前に、不穏を察したフランは能力の用意をしていた。

 フランの能力、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は、対象物の()さえ認識出来れば、触れることなく対象を破壊できる。

 フランの目が、ミノタウロスの()を捉えた瞬間、突き出していた手を握る。

 

「きゅっとして、ドカーン」

 

 ミノタウロスの体は砕け散る。はずだった。

 ありえない事に、仮面を被ったミノタウロスの体に、傷はひとつもない。破壊された棍棒も破片が集約し、元の姿へと戻っていく。

 

「フラン、『破壊』……したんじゃないの?」

 

 レミリアの問は(もっと)もだった。フランの能力で破壊できなかったものなど、これまで一つとてない。しかし、その問いを最も感じていたのは、フラン自身だ。

 

「なっなんで!?」

 

 取り乱し始めるフランやレミリアを差し置いて、ミノタウロスは狙いを定める。隆起した筋肉が脈動を始め、荒い鼻息が加速する。

 

「オデ、殺す! 

『十六夜 咲夜』、殺すッ!」

 

 ミノタウロスが、咲夜目掛けて走り出した。

 フランが再び手を突き出すが、動揺を隠せない腕では照準を合わせられない。

 ミノタウロスは、咲夜のすぐ近くに辿り着くと、仮面の下から見える下卑た笑みと共に、再び剛腕を振り下ろす。

 フランと咲夜の目の前が砕け割れ、二人はとてつもない速度で後ろへと突き進む。二人が振り返ると、そこにはレミリアがいた。

 レミリアは、地下室の入口へと全速力でその翼を動かす。吸血鬼の速さに、ミノタウロスはどんどん距離を離されていく。

 ようやく、三人は地下室を飛び出て、館の廊下へと辿り着く。

 ミノタウロスの姿は見えない。振り切ったのだろうか。

 レミリアは上がる息を整えるが、あまりにも理解の追いつかない展開に声を荒らげた。

 

「何よアレ!? フラン、ミスったの!?」

 

 フランは押し黙っていた。ミスをした覚えは無い。確かに()を見つけ、握り潰したはず。それなのに何故。深まる疑問は、次第に得体の知れない恐れへと変わる。

 沈黙を破ったのは、咲夜だった。

 

「恐らくですが、奴ら、私たちの能力が効かないみたいです。

 先程、奴が仮面を拾った時に時間停止を行いましたが、奴は()()()()()()()()()()()()()()()()、難なく動いていました」

 

 その言葉を聞いたレミリアの顔は、信じられないと言わんばかりに引きつっていた。フランもありえないと思ったが、現にミノタウロスは未だに生きている(破壊できなかった)。信じざるを得ない状況だった。

 しかし、謎を考える暇はない。

 止まっていたおかげで、追いかけてきたミノタウロスが唸り声を上げ、現れた。狭い階段の壁を破壊しながら、無理やり、よじ登ろうと迫ってくる。

 張り付いた品のない笑みが、理解の追いつかない三人を嘲笑(あざわら)うかのようだ。

 

「見つけた。見つけた!『十六夜 咲夜』見つけたァ!!」

 

 ◼

 

 霊夢と魔理沙は、迷っていた。

何回も来たことのある紅魔館だが、いつも図書室か食堂、寝床のいずれにしか行かない故に、迷ってしまった。

 

「なぁ霊夢、なぁーんで地下だっつーのに、私たち上に来てんだぜ?」

「そうじゃないと話進まないからね」

「相変わらず、意味のわからん事を……」

 

 食堂でくすねてきた肉にかぶりつく霊夢を他所に、魔理沙は大きくため息をつく。

 

「はぁ、せっかく、咲夜の私服でも見てやろうと思ったのに。こんな事になるんだったら、パチュリーんとこから本の一冊でも盗んでくる(借りてくる)んだった」

「なに、本より、面白そうな事が起きるわよ。ほら、今にもね」

 

 霊夢が指差すと、その先にはレミリアがいた。その後ろから、猛スピードで車椅子を押すフランがいる。三人とも、必死な形相でこちらに向かってくる。

 

「何してんだ、アイツら?」

「んー、強いて言うなら、鬼ごっこ?」

 

 魔理沙は首を傾げたが、その意味がすぐにわかった。壁を破壊し、突き進んでくる緋色の何かが、フランのすぐ後ろに見えたからだ。

 

「何だよ、ありゃぁ!!」

「そりゃ、決まってんでしょ。敵よ!!」

 

 

《続く》




はい、どうも、マデュラです。
お待たせいたしました、第2夜中編です!
いやぁ、なかなか削るところが多く手間取ってました笑
下編はもう少し早く上げれるよう頑張ります……
今更ですが、コメントや質問はいつでも大歓迎なので、ぜひ!
んじゃ、第2夜下編でお会いしましょう。バハハーイ

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