「パチュリー様、行きましたよ。」
咲夜達が、床に黒い二直線をつけて行ったのを見て、美鈴はパチュリーに声をかける。
パチュリーは、深く息を吐いた。それは安堵でもあり、これから起きる多難に対しての呆れでもあった。
「そうね。
はてさて、私達は招かねざる客人の相手でもしますか」
二人は茶をぐっと飲み干し、表へ出る。
最初の侵入は、一ヶ月前のことだった。それから、一週間も経たないうちに二件目。そして、咲夜とレミリアが倒れた直後の今回。
偶然なはずは無い。何かしら関係があるはずだ。
「パチュリー様、侵入者様がお帰りなようです」
美鈴は静かにそう言う。
『気を操る程度の能力』、それは館中にありふれる大気の流れ、種類、形の全てを認識することなど造作もない。
彼女は、この紅魔館の生きる
「やっぱり、下手な魔術より、あなたの方が信頼出来るわね」
パチュリーはそう言い、指を鳴らす。音が魔法陣を起動させ、館は魔法の障壁で覆われる。
パチュリーは、ここ数日間、ただ漠然と図書館の整理をしてた訳では無い。
二人が待ち構えていると、内庭の中心に赫いヒビが入った。
ヒビはどんどんと大きくなり、やがて人一人が通れる大きさへとなる。空間が砕け、中から現れるは、ヒビと同じ色のローブに包まれた例の影。
割れた空間から、影が内庭に足を下ろすと、大気の禍々しさは、より一層、濃いものへと変わる。
「美鈴、アレ、治せるかしら?」
「
美鈴とパチュリーは、その禍々しい大気の変化にも冷静でいた。
「
影がそう言うと、割れた空間の破片は動き出し、元の姿へと戻っていく。
「治してくれましたよ」
「あら、いい人なのかしら。
なら、ここに来た理由も、何をしてたかのも、正直に話してくれるわよね?」
微量の殺気を含んだ二人の威圧に対し、影はニタリと笑う。
「ここでの戦闘は、控えたかったんですけどね。特にあなた方、お二方とはね」
影はローブの袖からナイフを取りだした。それはとても見覚えのあるものだった。
一抹の不穏。それを噛み殺し、二人は身構えた。
◼
「それはどういう意味かしら?」
先手を打ったのは、パチュリーだった。彼女の能力、『精霊魔法を扱う程度の能力』を巧みに扱い、影の周りに大量の
魔法陣から火の精霊が現れ、影に向けて、一斉に火を吹いた。
「パチュリー・ノーレッジ。
相も変わらず、無詠唱魔術ですか。苦手なんですよね、それ。
タイミング読みづらいので」
影は、いつの間にか、二人の後ろに立っていた。
しかし、それに怖じける事無く、次は美鈴が飛び出す。
縮地で影の目の前に立つと、瞬時に拳を繰り出した。風はおろか、音すらも置き去りにするその一撃一撃を、影はするりと宙に舞う紙のように避けていく。
「紅美鈴。
門番になんてもったいない存在」
「余計なお世話です!!」
突如、美鈴はしゃがみ、大きく足払いをかける。が、影は飛び上がり、それも華麗に避ける。まるで、こちらの動きを知っているかのようだった。
「
「あなたも、なかなかですね」
美鈴がそう言うと、はるか後ろの庭木に一本のナイフが深々と突き刺さる。
「あら、私は無視?」
パチュリーの声が空高くから響くと、水流が彼女を乗せ、影へと飛び込んでくる。
後ろへと
パチュリーが手を出すと、庭木の枝を魔法陣が囲う。急成長し、幹のように太く頑丈になった枝は、いとも簡単にナイフを受け止めた。
影が動く間もなく、大枝は壊される。飛び出してきたのは美鈴の拳だった。
◼
確かに、美鈴の拳は影に当たったはずだ。
それなのに、なぜ美鈴の目の前にパチュリーがいるのか。
美鈴は
その瞬間、美鈴の背中に蹴られたかのような衝撃が走った。
後ろを振り返ると、なんとパチュリーがいた場所に影が居た。
吹っ飛ぶ美鈴はパチュリーを抱え、何とか着地する。
巡る疑問は沢山だが、美鈴は深呼吸で一切の疑念を消した。自身は博識な訳でも、天才的な
ならば、自身がやれることはなにか。
「あなたをぶちのめせば、万事解決ですよね!!」
美鈴は台地を蹴り、影の元へと駆け出した。
だがしかし、足が動きを止める。まるで、足先が固定されたかのように。
それはパチュリーも同じだった。パチュリーに至っては、全身が凍らされたように動かせなかった。
声なく驚く二人を影は
「何をしたんですか……!!」
睨みつける美鈴の眼光に、
「失礼、それは、私の能力のせいです。
私の能力は『空間を操る程度の能力』。誠に勝手ながら、あなた達の空間を固定させていただきました。
あなた方相手に、
影がそう言うと、ローブの袖から大量のナイフが落ちていく。その数は、とてもローブの中に隠せるほどのものでは無かった。明らかに、こことは違う、どこかから持ってきている。
「空間移動は、パチュリー様の魔術で出来ないはずじゃ……!!」
「これくらいなら、
それよりも、面白いものを見せて差し上げますよ」
影が指を鳴らすと、無数のナイフは勝手に浮び上がり始める。やがて、二人の頭上には、一面の刃の天井が出来上がった。
「さぁ、今日の天気は、晴れのち刃の雨。傘はお持ちですか?」
◼
影が手を下ろすと、刃は抵抗を失ったかのように、重力に従い始める。降り注ぐ刃は、不動の二人に襲いかかる。
美鈴は咄嗟に気弾を飛ばす。気弾はパチュリーの頭上にあるナイフを一掃した。
しかし、自身を守るほど時間はない。刃の豪雨に対し、美鈴は必死に拳で対抗するが、幾千の猛攻には耐えられず、全身に奥深く突き刺さっていく。
「……!!」
眼球すらも固定されているパチュリーは、ただただ、その光景を見ることしか出来なかった。
雨が上がると共に、力無く倒れていく美鈴に、奥歯を噛み締める。
「悔しいでしょう。でも、ご安心を。
あなたも、すぐ後を追えますから」
影がそう言うと、パチュリーの体は、影の元へと移動する。それはまるで、影とパチュリーの空間が削り取られたかのようだった。
「最近の鼠の被害はいかがですか?」
影はそう言い、逆手に持ったナイフを振り下ろす。
絶対絶命の瞬間、一筋の閃光が走る。
◼
「そこまでだぜ!!」
轟く声と共に、一筋の閃光が影の持つナイフを撃ち落とす。
影が見上げる先には、浮かぶ箒に乗った白黒の
「霧雨……魔理沙……!!」
「撃つと動く。もとい、動かなくても撃つ。今すぐだ」
魔理沙の八卦炉が変形し、少女の身には少し大きい機関銃へと変わる。回転する機関銃の光弾は、影に向けて放たれる。
しかし、影が手を動かすと全ての光弾は宙に停止した。
「弾が止まった……!?」
焦る魔理沙だが、あるものを見て、余裕を取り戻す。影をひきつけるため、演技を続ける。
それに気づかない影はニタリと笑いかけた。
「想定外ね。
ただ、
魔理沙へとナイフを投げつけようとした瞬間、影はとてつもない勢いで吹っ飛んでいく。
内庭の壁が壊れる音と同時に、パチュリーの固定は解除された。
「美鈴!!」
パチュリーは急いで、影を吹っ飛ばしてくれた功労者に駆け寄った。
両足は共に、先端が切り落とされていた。
流れる血の中、パニックになるが、よく見るとその歪な傷口は、
「美鈴、あなた……!!」
「名案だと思ったんですけどね」
苦笑いをうかべる門番の元に降り立つ魔理沙は、美鈴の頭蓋を力強くスリッパで叩いた。
「ほんっとに、ここの奴らは無茶しかしねぇな!!
私が撃つ瞬間に、回復魔法かけてなかったら、死んでたかもしんねぇんだぜ!!」
ヒリヒリと痛む頭を抑えながら、美鈴は怒る魔法少女に礼をする。
「ありがとうございました、隙を作ってくれて。
でも、妖怪はあの程度じゃ、死にませんよ」
「あっそ! 勝手に死ね!」
魔理沙はそう言い、美鈴に切り落とした足首を投げつける。ついでに、中指も突き立てる。
「私からも言いたいことはあるけど、大体は魔理沙と一緒よ。
死にたきゃ勝手に死んでちょうだい。
でも、あの子たちが悲しまないとこでねっ!」
パチュリーは、回復魔法でくっついた足に大きく張り手をかました。
応急処置に近いが、美鈴の回復力があれば、すぐに治るだろう。ただ、激痛が伴うが。
「いったぁっ!」
そんな一時の平穏をなし崩すかのように、おぞましい気配が息を吹き返す。
◼
「ふふふ、切った足でこの威力とはね。ほとほと驚くことばかりだわ」
瓦礫を能力でおしのけて、影は土煙の中から現れる。
「こっちも驚くことばかりだぜ。美鈴の蹴りを受けて生きてるなんて、人間じゃねぇな」
魔理沙がきつく睨むが、影はなんて事ない様子だ。
「ところで美鈴、気づいた?」
「えぇ、あの能力、限定がありますね」
パチュリーと美鈴は、あの能力に長く縛られていたおかげでその性質を理解しつつあった。
影は全て自分に近い物体にしか、能力を使っていない。
つまり、あの能力は、
「近距離系ね。それも半径二メートル程度」
パチュリーは冷静に分析しつも、それがどんなに厄介なことかを痛感していた。
しかし、
「美鈴、動けるかしら?」
「猛攻とはいきませんが、ある程度なら」
痛々しい笑みを浮かべる美鈴に小さく頷きを返す。
傍から見れば、充分とは言える状況ではない。
しかし、手はある。
パチュリーは、おもむろに魔理沙の方へと近づく。そして、二人の唇はごく淡白に触れた。
◼
「なっなんだよ、パチュリー! この状況下で発情期ですかコノヤロー!」
いきなりの出来事に頬を赤く染める魔理沙だが、パチュリーは至極冷静な顔だった。
「これで、魔力供給が出来たわね。
さぁ、二人とも、惚けてないで、第二ラウンド始めるわよ」
「乙女の唇奪っといて、その言い草はないだろ」
「大胆過ぎませんか、パチュリー様」
ぶつくさと呟きながらも、魔理沙と美鈴は戦闘態勢に入る。
三人の雰囲気が変わったことを察した影は、再び、袖からナイフを取り出す。
「さて、そろそろお暇させていただきます。土産として、三色の饅頭を頂いてね」
影が動き出す。先程までの
それを受け止めるは、美鈴。
くっついたばかりの足を駆使し、影の猛攻を技で返していく。
両者ともに激しい攻防戦の中、パチュリーは口頭詠唱魔術の準備に入る。
「空間は操らないんですか?」
「能力の酷使は、次の日の疲れになるんで、ね!」
美鈴が避けた隙を狙い、影はパチュリーの元へとナイフを投付けた。
突き進むナイフは、パチュリーの脳天を狙うが、上空にいた魔理沙によって、撃ち落とされる。
鳴りゆく金属音に紛れ、影は小さく舌打ちをする。
「三人相手ってのは、厄介ですね」
そう言い、影は再び、能力を使おうとする。
その瞬間を、パチュリーは見逃さなかった。
「美鈴!! 離れなさい!!」
美鈴が後退したのを合図に、館を覆っていた魔障壁は、急激に縮小していく。
やがて、魔障壁は影を取り囲う檻へと変わった。
◼
檻に閉じ込められた影は、不敵な笑みを浮かべる。
「追い詰めた。と思ってます? それは残念。能力の使い道は色々あるんですよ。
例えば、こういうふうにね!」
影は、そっと魔法陣に触れる。圧縮される空間に耐え切れない魔法陣は、次々に細かく小さな破片へと砕けていく。
ただ、影は嘗めていた。パチュリー・ノーレッジという存在を。
パチュリーは、その光景に眉一つ動かすことなく、魔理沙に合図を送る。
「待ってました!!」
魔理沙がそう言うと、手に持った八卦炉が展開され、狙撃銃へと変わる。
「マスタースパークッ!!」
引き金とともに、撃ち出された煌めく黄色の閃光は影の頭部へと真っ直ぐに突き進む。
影は手を突き出し、弾を止めようとするが、弾は寸前で無数に分かれた。そして、無数の光は魔法陣へと吸い込まれていく。
影はようやく気づいた。三人の狙いに。
しかし、もう遅い。光を吸収した魔法陣は形を変え、一本の縄となり、影の身体に巻き付く。
影は手足を動かすが、どうにも動きそうはない。それもそのはず、空間移動を阻害するほどの遮断性を持った魔法陣が巻きついているのだ。それに、魔理沙の魔力も加わった。
縄は動くという行為すらも遮断する。
「魔理沙との口付けはこれをやるためですか?
美鈴も、口頭詠唱も、ブラフ。
本命は、魔理沙って訳ですか」
影は不気味なほど冷静だった。
「御明答。
思った通り、手を対象に向けないと扱えないようね、その能力」
三人は、恐る恐る影に近づく。確かに能力で固定されることは無かった。パチュリーの読み通りだ。
「さて、これで何をしてたのか、何が目的なのか。そして、あなたが何者か教えていただけますね」
影は、顔を隠すように、うなだれる。
「さぁ、その隠した頭、見せやがれ!!」
魔理沙は覆われた布を取り払う。
影の素顔が、今、白日の元に晒される。
◼
ありえない。それしか言う言葉が見つからない。
「「「咲夜!!!」」」
そう、ローブに隠れたその顔は皆がよく知る顔だった。十六夜咲夜と瓜二つ。唯一違うとすれば、いつも見る
「バレちゃいましたか」
三人は、目の前の現状に理解できないほどに驚愕していた。動くことも忘れ、事実の整理に戸惑う。
咲夜の血縁関係は、とうの昔に途絶えているはずだ。ならば、なぜ目の前の敵は咲夜と同じ顔を持っているのか。
その答えを探している暇はなかった。
咲夜の顔をした少女が喋り出す。
「ところで、能力の行使に手を使うという読みは間違いではないです。
ただ、それを私が理解してないとでも?」
ローブの袖から、少し見える腕輪が赫く光り出す。
「みんな、離れて!!」
パチュリーの指示と共に、全員がその場から離れた。
「楽しかったですわ、あなた方との勝負」
少女を縛る魔力の紐は、徐々に圧縮され、消えていく。
「嘘でしょ……!!」
現状で、最強の拘束が、いとも簡単に破かれる。それは、彼女達の死を意味していた。
美鈴が、二人の前に立つ。勝てる見込みは無いが、二人を逃がさなくては。
しかし、少女は拘束が解けた事を確認すると攻撃をする訳でもなく、ひかる腕輪をかざす。彼女の後ろで、徐々に崩れゆく空間の先は、彼女の目よりも赫い赫が広がっていた。
「この勝負、あなた方の勝ちですわ」
少女は三人に手を振り、赫の先へと進もうとする。
「おい、こっちの勝ちなら、景品くらいよこすんだぜ」
美鈴の後ろから飛び出した魔理沙は、震える声で吐きつける。
足を止めた少女がゆっくり振り返ると、魔理沙はそのおびただしい殺気に悲鳴を上げかけた。
少女は、それを見て屈託のない笑みを浮かべる。
「それもそうよね。
なら、教えてあげるわ。私の名前はイザヨイ。
この世界を終わらす者たち。この狂った世界をね。
では、お忘れなきことを」
イザヨイは赫い闇の中へと消えた。
三人は急いで飛び込むが、時すでに遅し。
空間は閉じ、飛んだ三人は地面と熱烈な
「イッタァ……!」
「パチュリー! 重いから、この状態で抱きつくんじゃないぜ!」
「魔理沙、さっきの台詞ものすごくかっこよかったわァ!」
◼
「これでよしと……。あんま動かすなよ、取れっかもしれないから」
包帯を縛り終わった魔理沙に、たった数十分の出来事の疲労がどっと来る。それはパチュリーと美鈴も同じだった。
「なんだったんでしょうね……イザヨイって言ってましたが、咲夜さんとどういう関係が……?」
「まぁ、そのうち分かることよ。ところで魔理沙、なぜあなた一人だけ来たの?」
魔理沙はハッと思い出す。
「実は……かくかくしかじか四角い豆腐……」
魔理沙が事情を説明した、その瞬間、大地が大きく揺れた。
そして、悲鳴によく似た獣の咆哮。
「何!?」
「館からです!」
美鈴の言う通り、異常事態は館からだ。
館は犇めき、崩壊を始めていた。三人の脅威は加速していく。
やがて、紅魔館は破壊された。
唖然と立ち尽くす三人が見たのは、緋色の異形。
「オデ、十六夜咲夜コロスウゥッ!!」
本当の第二ラウンドが今始まる。
《続く》
はい、どうも、マデュラです。
タイトル変えてから、初投稿ですね
まぁ、あのタイトルも悪くなかったんですが、如何せん読みにくかった笑
そんな話はさておき、やっぱりバトルシーンはどうしても字数が多くなってしまい、困っております笑
もっと語彙力を鍛えなくては……
もし、アドバイス等ありましたら是非ください笑
それ以外にも質問や感想お待ちしております!ネタバレしない範疇でお答え出来たらと思います!
ではまた、後ほど笑
もしかして、Twitterアカウントは必要ですかーッ!?
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