「知らないわよ!」
霊夢と咲夜が言い合う中、車椅子を押すフランがぼそりと霊夢に耳打ちする。
「さっきね、咲夜のことママって呼んでた」
咲夜は、なんてことをと頭を抱えた。
霊夢はわざとらしく大きな声で叫びだす。
「あっアンタ、牛と例のアレをヤッたっての!?あっ嘘嘘ごめんごめん!イダイイダイ!アイアンクローやめて!美少女の顔ひしゃげちゃう!」
その声を聞いた魔理沙とレミリアが首を傾げ、ぼそりと呟く。
「「アレって、なんだぁ……?」」
咲夜と霊夢は言い合いをやめて、黙り込んだ。
この系統の話はこの二人の前でもうしない。言葉に出さずとも、そう固く誓った咲夜と霊夢であった。
紅い館の廊下を猛速で駆け抜ける五人の影。
「タフすぎだぜ、アイツ!」
魔理沙の言う通り、後ろから追いかけてくるミノタウロスは五人の攻撃を受けてもなお、何も無かったように迫ってくる。
実力者の五人が取った行動は、とにかく逃げること。
「オデ!! 『十六夜咲夜』殺す!! 邪魔するやつも、みんな殺す!!」
ミノタウロスの咆哮がすぐ後ろから聞こえてくる。
「というか、アイツ、なんで咲夜を殺したがってるんだ?」
「知らないわよ! 少なくとも、私のせいじゃない!」
咲夜はそう言い、ミノタウロスへとナイフを投げつける。ミノタウロスが、いとも
「んで! 逃げまくって、終わりって訳!?」
横に並んできた霊夢が咲夜に尋ねる。
魔理沙と霊夢に逃げる選択肢を取らせたのは、咲夜だった。
しかし、彼女が
「無論! どうにかするわよ!
フラン様、あそこです!!」
車椅子の上で、咲夜はフランに指示を出す。フランはナイフが刺さった所へと手を突き出し、能力を使う。
「きゅっとしてドカーン!!」
「咲夜! さっきから何してるの! こんな事しても、アイツには効かない!」
そう、咲夜は先程から、この行為を繰り返していた。
レミリアの言う通り、たった今も、何事も無かったように、ミノタウロスは瓦礫をはねのけ、這い出してくる。
その瞬間、ミノタウロスのすぐ近くに、妖精メイドが居ることに咲夜は気づいた。瓦礫と共に落ちてきたのだろうか。
ミノタウロスが、おろおろと立ち上がる存在に気づくと、棍棒を振り上げる。
「お前、邪魔」
振り下ろされる瞬間、咲夜は車椅子から飛び出し、妖精メイドの元へと駆け寄る。
それを見たミノタウロスは嬉しそうな顔になり、腕に力を込めていく。
だが、咲夜も同じく笑みを浮かべた。
「「「「咲夜ぁぁぁ!!!!」」」」
叫びと共に四人の蹴りが、ミノタウロスを吹き飛ばした。
再び、ミノタウロスが瓦礫の山に突っ込むと、四人は咲夜の元へと駆け寄る。
「咲夜、大丈夫!?」
「お前、ほんっとに無茶しやがるな!」
「ほんとよ! あなたが死んだら、私が殺してやるんだから!」
「この霊夢様を差し置いて、かっこいいことするんじゃないわよ!」
口々にまくし立てる四人に苦笑いで返すしかない咲夜だった。
「えへへへ……ごめんなさい。
ところで、あなたはどうしてここにいたの?」
咲夜は抱きかかえた妖精メイドに尋ねる。
なにか異変が起きれば、即座に逃げろと指導していたのにも関わらず、ここにいるのは、なにか逃げれない理由でもあったのか。
妖精メイドは、恐怖で震える手を必死に押えながら、窓の外を指さす。
外では、禍々しい何かと誰かが交戦していた。
「パチュリー様と……美鈴?」
そう、二人とも敵と戦っている。敵の正体は不明だが、あの二人が押され気味なところから、かなりの強敵とみて間違いないだろう。
次の瞬間、二人の頭上にありったけの短剣が降り注ぐ。美鈴のおかげでパチュリーは無傷だが、美鈴の身体からは、おびただしい量の血が流れてゆく。
思わず飛び出そうとする咲夜の肩を、魔理沙が掴む。
「お前の相手はあっちだぜ。
向こうには、私が行く」
魔理沙の指差す方では、再びミノタウロスが立ち上がろうとしている。
「何、この天才魔法少女を信じろ。死なせはしないさ」
魔理沙は
「魔理沙、パチュリーと美鈴をよろしくね」
フランが握った手を付き出す。
魔理沙はそれに拳を突合せ、飛び立っていく。
不安そうに外を見つめる咲夜に、レミリアが車椅子を持ってくる。
「さぁ行くわよ、咲夜。魔理沙の言う通り、私達はこっちを相手しないと」
そう、もう既にミノタウロスが立ち上がりつつある。
今にも向かってくるだろう。考えている時間はなかった。
咲夜は、妖精メイドに仲間を外に逃がすように伝える。そして、痕が滲む手のひらを強く握り、車椅子に座った。
「私に策があります」
◼
「以上が作戦です」
「単純ね、結構」
「でも、そんな上手く行くかな?」
「大丈夫よ、
四人の話し合いは終わり、顔面が腫れ上がった霊夢が前へと出る。
「ごめんなさい、もう降参。
もう行き止まりだし、この追いかけっこはあなたの勝ちよ。ユーウィン。アーユーオーケー?」
両手を上げ、降伏の意を伝えたが、ミノタウロスは聞く耳を持たない。
「オデ、十六夜咲夜、殺す。殺したら、終わり。邪魔するなら、お前も、殺す」
「あー、それなんだけど、なんで咲夜を殺したいの? それだけ、教えて欲しいなぁ……なんてね?」
一か八かの賭けは上手くいった。
作戦通り、ミノタウロスは霊夢の質問に動きを止め、少し黙った。そして、数分の沈黙の末、口を開いた。
「オデ、難しいこと、分からない。でも、十六夜咲夜殺すと、ママ笑ってくれるのは、知ってる」
後ろで聞いていた咲夜は、あまりにも幼稚で身勝手な理由に呆れ果てた。
「まぁ、だいたいわかったわ。
フラン!!」
霊夢が手を下ろした瞬間、何やら不穏を感じたミノタウロスは棍棒を振りかぶる。
しかし、霊夢がしゃがんだ事で、目標を失った棍棒は壁へとめり込む。そして、霊夢の後ろから、フランが飛び出す。フランは、ミノタウロスの地面へ向けて手を突き出す。
「きゅっとしてドカーン!!」
ミノタウロスは、その場から離れようとするが、崩壊していく足場から逃れることは出来なかった。掴むもの全てが引きちぎれ、そのまま 、落下していく。
すぐ下の階に到達すると再び床は抜け落ち、その下へと落ち、その下でも、その下でもと、落下は繰り返される。
咲夜が、今までフランに破壊させたのは、天井や壁ではなく、床と天井を繋ぐ柱だった。彼女達とミノタウロスが上に昇ってきても壊れない程度の小さな損傷だが、落下してくるとなれば、話は変わる。衝撃に耐えきれない廊下は、次々に抜け落ちていく。
やがて轟音と共にミノタウロスは、大地に打ち付けられた。
四人が落ちた穴を覗き込むと、奥で衝撃に呻くミノタウロスの姿があった。小さく
「やはり、思った通り、物理的な攻撃は効くようね。
お嬢様」
静かに咲夜がレミリアに先程の燭台を渡す。蝋が取れた燭台は、鋭利な武器だ。レミリアは、燭台を逆手に持ち、ミノタウロスの心臓、目掛けて投げつける。
槍のように鋭い燭台の針は、的確にミノタウロスの心臓を貫く。
ミノタウロスの断末魔が、館中を駆け巡った。それは赤子の叫びにも、荒々しい獣の遠吠えにも似ていた。
ミノタウロスの周りを深紅の海が包んだ。
◼
「体、動かない……オデ……死ぬの……?」
鼓動が薄れていくミノタウロスは小さく呟く。まるで今にも泣きそうな声で、細々と息をする彼の近くで、緋色の空間が開く。
中から現れたのはイザヨイだった。
彼女は上を見上げ、全てを悟った。
「まさか、自分の家を破壊してくるなんてね」
「ママ、ゴメン……
オデ……」
イザヨイは
「大丈夫よ。
でも、まだ仕事は終わっていない。分かるわね?」
イザヨイはそっとミノタウロスの胸に手をやる。
「死ぬのは、仕事をこなしてから。それまでは生き続けてちょうだい」
そう言い、突然、イザヨイはミノタウロスの傷に手を突っ込んだ。手はぐじゅぐじゅと音を立て、ミノタウロスの臓物を引き出す。それは心臓と呼ぶには程遠いものだった。カチカチと音を鳴らし、歯車が回るそれは、まるで時計。
だが、イザヨイはその摩訶不思議な臓物にも、愛しき獣の叫びにも気に止めることなく、袖から取り出したナイフを突き刺す。
ナイフは、有機物だとは思えないなにかを、柔らかく切り裂いていく。切り開いたそれに、イザヨイは小さな赫い石を埋め込んだ。
石は埋め込まれたのと同時に、臓物と一体化していく。
ミノタウロスは先程とは比べ物にならない叫びを上げ、全身が震え始める。最初は小刻みだったものが、どんどんと大きくなっていった。
骨はきしみ、肉や皮は筋を立て、意識という意識が赫く赫く染まっていく。
頭の中を駆け巡るのは、邪悪な悪意。恨みや恐怖の入り交じった殺意。自我という自我が書き換えられていく苦しみにミノタウロスは
「さぁ、第二ラウンドよ。暴れてちょうだい」
イザヨイはそう言い残し、肥大化していくミノタウロスを背に、再び、赫い空間の中へと消えた。
◼
「お家、ボロボロだけど、大丈夫?」
やっと終わった逃亡戦に深く呼吸してる三人にフランがぼそりと呟く。
レミリアがじっと咲夜を見つめるが、咲夜は遠くを見つめ、目を合わせようとしなかった。
「まぁ何はともあれ、終わったんだし、さっさと表の奴もパパっと倒しちゃいましょ。
7人もいりゃ、ちょちょいのちょいよ」
霊夢がうんと伸びをして、飛ぶ為の準備体操をしている。しかし、レミリアとフランは
「外、まだ昼間なんですけど」
「私たち朝日に弱いからなぁ……」
そんな二人に咲夜は近寄り、近くの部屋を指さす。
「 美鈴たちの援護は、私と霊夢が行くので、お二方は部屋で待っててください。
必ず、戻ってきますから」
そう言い、咲夜と霊夢は外に出ようとした瞬間、館はおろか、空気すらも振動する程の叫び声が、四人の耳を襲う。
思わず耳を塞ぐ四人だが、それでも耳がつんざくほどの大音量だった。しばらくして、耳鳴りが収まった頃、四人は急いでミノタウロスが落ちていった穴を覗き込む。
下では、ミノタウロスが再び立ち上がっていた。しかし、こちらに気づく様子は無い。むしろ、
「まだ、立ち上がるなんてほんっとしつこいヤツね!!」
咲夜はナイフをかまえ、狙える急所を探している内に、あることに気づいた。
だが、それはとてもじゃないが、遅かった。
ミノタウロスの体は、歪な速度で巨大化していた。徐々に迫ってくる巨体に彼女達は攻め場所ではなく、逃げ場所を探すべきだと気づく。
あたふたとしてる内にも、館を破壊していくミノタウロスの体は迫ってくる。
「レミリア!! 傘もってる!?」
レミリアたち三人は、なぜ今そんなことをと困惑した表情だが、霊夢はそんなことお構い無しに、傘を探す。
しかし、ここは紅魔館の最上階。傘なんてものは、置いてあるわけが無い。
「ほら! 3人とも、カモン!!
死にたかないでしょ!!」
空いた口が塞がらない三人だが、霊夢の言われるがままにする。
霊夢は、全員の体とシーツの四隅に札を貼り付け、それぞれが端を持つよう指示を出す。
「霊夢、これ何すんの?」
「飛ぶのよ、みんなで」
全く訳の分からない三人だが、もう時間は無い。先程まで居た廊下も、音を立てて壊れてゆく。
「さぁ、飛ぶわよ!」
霊夢の掛け声とともに、四人は窓へ向かって走り出した。後ろからは、肥大化していくミノタウロスの体が迫ってくる。先頭を走る霊夢と咲夜が、窓を蹴破った。
部屋が巨大な肩で破壊されていく中、四人は窓から飛び出す。
「縛!!」
宙に浮いた瞬間、霊夢が貼った札によって、四人の体は一点へと集中し、シーツの四隅も光の紐で繋がれる。
これまで長年住んできた館が、たった一体の敵によって、壊れてゆく様に言葉も出なかった。
「オデ、十六夜咲夜コロスウゥッ!!」
突如、ふわふわと浮かぶ彼女達の上から、館の時計塔の一部が突っ込んでくる。
「「「「嘘ーん!!」」」」
落下傘は操作しずらい、今までよく瓦礫にぶつからずに済んだ方が不自然なのだ。
四人を浮かすシーツに時計塔の針が穴を開け、今まさに咲夜に刺さろうとしたその瞬間、瓦礫は木っ端微塵に砕け散った。
破片の隙間から見えるは、翠のチャイナ服に包まれた門番の姿だった。
しかし、喜びの束の間、抵抗を失った彼女達の体は地へと落下していく。動こうにも、霊夢の縛りのせいで、動くにも動けない。
「霊夢! 何とかしなさいよ! これじゃあ!!」
「OH! MY! GOD!
次に真っ赤になるのは、あたしらって事ね!」
不運は重なるように穴の空いたシーツが彼女達の上に覆いかぶさり、視界も塞がれる。
目をつぶったその時、四人の体はがっしりと何者かに捕まれ、どこかへと移動していく。
美鈴は、落ちゆく瓦礫の中を蹴り、飛び上がる。
館から離れた庭木の影に着いた彼女達は、もぞもぞとシーツの中から這い出ると、崩れ去った我が家の上に立つ絶望の象徴にただただ、唖然とするしか出来なかった。
「こんなの、どうやって倒せってゆうのよ……!!」
ミノタウロスの体は、今にも太陽に届かんばかりだった。あまりの巨大さに誰もが見上げたまま、動けなかった。
絶望と恐怖に愕然とする中、ポケットの中で、例の時計が輝き始めていた。
《続く》
はいどうも、マデュラです。
気づいたらなんの手入れもせずに予約投稿したまんまだったので、急いで手直ししてきました……
なんか間違いとかおかしいとこあったら、コメントや感想で言ってください笑
まぁ何はともあれ、ようやく第2夜が終わりました……いやぁ長かった。とにかく、イザヨイとミノタウロスで文字数がオーバーになって……笑
ん?まだミノタウロス倒れてないじゃないかって?
それは、第3夜でのお楽しみに……笑
では、また、いつか
もしかして、Twitterアカウントは必要ですかーッ!?
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