かつて、幻想郷入りした彼女たちには居場所がなかった。
彷徨い、拒まれ、迫害され、悩み苦しむ彼女たちがやっとの思いでたどり着いた場所。
そこにあったのは、流れる血よりも紅く、燃ゆる炎よりも荘厳で、どんな魔物でも受け付けない気高さを持つ館だった。
彼女たちは逆境を乗り越え、手に入れたものに大きく高笑う。
『緋色の館……ようやくたどり着いた……』
主のいないはずの館の扉がおもむろに開く。
中に入ると薄暗い館に火が灯る。
それは歓迎であり、祝福だった。館も主を求めていた。
主はそっと呟く。
『居場所のない魔物が住む紅い館……今日からこの館の名前は【紅魔館】よ』
灯った火が盛大に燃え上がる。与えられた名に歓喜するかのように。
崩れゆく我が家を見て、紅魔館の住人は様々な記憶が脳裏に浮かぶ。どれも
印をつけた柱も、練習で傷ついた壁も、後悔で濡れたベッドも、初めて手に入れた本棚も、幼子と共に学んだ調理場も、みなそれぞれの想いが確かにあった物があっけなく、そしていとも容易く崩れ去った。
奥歯を噛み締める音が、咲夜の耳で反響する。にわかに立ち上がり、巨大な獣を睨みつける。
「奴の狙いは、私です。
私が囮になるので、みんなは逃げてください」
勝算など一切ない。それどころか、何分稼げるか分からない。しかし、やらねばならない。
鈍く痛む左腕からは一筋の赤が滲む。
「おあいにくだけど、敵前逃亡ってのは霊夢ちゃんらしくないのよねー。
それに、まだかっこいいとこ、見せれてないし」
霊夢は
「そうね。スカーレット家の辞書にも、逃亡の文字はないわ。
あるのは
レミリアも霊夢と似たような表情で、咲夜の横に立つ。
「お家はまた建てれば、大丈夫だもんね!」
フランはレミリアに抱きつき、久々の壊しがいのある玩具に歓喜する。
「力仕事はこの美鈴におまかせあれ! ね、メイド長?」
わちゃわちゃともつれ合う二人の頭を撫でる美鈴が咲夜に微笑む。
その隣にパチュリーが現れ、すまし顔で魔法陣を指から飛ばす。
「本と下着は無事だし、あとはアレをぶちのめすだけよ」
そう言うと、魔法陣から大量の本と大量の下着が降り注ぐ。事前に本だけでなく、館の住人全員の下着にも転移魔法の印をつけていたらしい。
皆が口を開け呆れ果ててると、霊夢の横に魔理沙が箒片手に立っていた。
「はぁ……やれやれだぜ。ほんっとにバカしかいねぇんだな、ここには。
でも、私もバカだし、最後まで付き合うぜ」
深く被った帽子の隙間から、魔理沙の苦くも興奮でほころんだ口元が見えた。
七人はざっと揃い、巨大な緋色の怪物を睨む。
ミノタウロスもそれに気づき、呼応するように辺りに轟く唸り声を吠えた。
戦いの火蓋が今にも切られん時、魔理沙が思い出しかのように呟く。
「ところであいつ、どうやって倒すんだ?」
全員は押し黙った。沈黙が道化師のように踊る。
「ターイム!! 作戦タイム!!」
◼
霊夢の一言を律儀に守る怪物とそれを横目に作戦会議してる七人は、
「……以上が作戦よ」
「わかったわ、パチェ。それで行きましょ」
皆レミリアの言葉に頷いたが、一人、白黒の魔法少女だけは乗り気ではなかった。
「嘘だろ!? 冗談にも程があるぜ!」
「魔理沙、いいからしなさいよ!」
嫌がる魔理沙を皆が掴み、羽交い締めにする。
「さぁ魔理沙、魔力供給の時間よ」
唇を突き出したパチュリーがどんどんと迫る。
「一日に二回もチューされるなんて聞いてねぇぜ!」
「何、喜びなさいよ。なかなか無いわよ、パチュリー様から口付けして貰えるなんて……。まぁ喜びなさいよ……」
魔理沙に忌々しく睨みつけられる咲夜はそっと目を逸らした。そんな中、パチュリーの手が唸る魔理沙の顔を優しく包み、自分の方へと向けさせる。
「やるなら優しく……ね? 優しくだぜ?」
弱々しく語る魔理沙を他所に、パチュリーは青い炎のような熱い情熱的な
情熱的過ぎて、魔理沙の顔が青ざめていく。
「パチュリー様! あまりやり過ぎると魔理沙さん死にますよ!」
美鈴の言葉で、ようやく魔理沙は解放される。新鮮な酸素を取り込み、死にかけていた脳細胞が息を吹き返す。
「はぁはぁ……あれ? 魔力が全回復してる? いや、むしろいつもより力がみなぎってくる……!?」
魔理沙の握る拳には、黄と紫の入り交じった魔法陣が浮び上がる。制御するのも一苦労な程の魔力だった。
「私の現存する魔力をほぼ全てあなたに注ぎ込んだわ。最初は大変だけど、すぐ慣れるわ」
普段から
しかし、心配してる暇はもうなかった。
大地が大きく揺れる。
「いつまでだ。いつまで待てばいいんだぁぁぁぁ!!」
ミノタウロスが
「律儀なヤローね。ここまでバカ正直に待ってくれるなんてさ」
霊夢の言う通りだが、それも限界のようだ。
ミノタウロスは近くの岩盤をはぎ取り、こちらに投げつけてくる。
「全員、死ねぇぇ!!」
轟く声と共に巨大な岩盤は七人を襲う。
が、この程度で、彼女らが倒せるはずがない。
岩盤は、美鈴の蹴り一つで木っ端微塵に砕け散った。崩れゆく岩盤を咲夜と霊夢が踏み飛んでゆく。
「霊夢!!」
「おうともよ!!」
咲夜の叫びに合わせ、霊夢がミノタウロスに向け、何枚かの札を投げつける。
先行する札をただ受け止めるほど、ミノタウロスも間抜けではなかった。棍棒の一振で大地を抉り、舞い上がった土砂が到達寸前の札を叩き落す。
ミノタウロスがしてやったりの表情で咲夜達がいた場所を睨むが、二人はそこにいなかった。
右往左往する中、殺気を感じ思わず下を向く。
「探し物はなんですか〜?」
「見つけにくいものですかッ!!」
咲夜はヒラヒラと舞い落ちてくる札に向かってナイフを飛ばす。ナイフは札を突き刺し、ミノタウロスの顔面へと飛んでいく。
ミノタウロスは防ごうと手を差し出すが、一手遅かった。
巨大な指をすり抜け、ナイフはミノタウロスの顎へと突き刺さる。
「ンッンー、いい角度!
爆!!」
爆発の衝撃はミノタウロスの頭をかち上げる。途端に辺りを照らす太陽に雲が差し掛かった。パチュリーが残った魔力で作り出した雲によって、辺りは薄暗くなる。
「よくも館をぶち壊してくれたわね!!」
爆風を掻き分け、水色の吸血鬼が拳を突き出す。その一撃は巨大化したミノタウロスの体をいとも容易くよろめかす。
ぐらりと仰け反るミノタウロスだが、一歩のところで持ち堪える。そして、手にした棍棒を大きく振り回した。
紅魔館を破壊するほどの巨体から繰り出される棍棒の一振は暴風をうみ、少女らをいとも容易く吹き飛ばす。
「美鈴!!」
パチュリーの一言に頷いた美鈴は大地を駈け、二人が庭の壁に衝突する寸前で受け止めた。
美鈴がパチュリーの方を見ると、レミリアは木のつるでしっかり受け止められていた。
「しっかし、レミリアの全力パンチでもあの程度とはただ単にデカくなった訳じゃなさそうね」
抱きかかえられた霊夢が不安そうにミノタウロスを見つめると、ミノタウロスは大きく膝を曲げる。
「ねぇ、あれってさ……」
「ヤバいですね……」
「走って!! 美鈴!!」
美鈴は再び大地を蹴ったが、ミノタウロスは大きく飛び上がり、美鈴の目の前へと降り立つ。吹き上がる砂煙が美鈴達の視界を阻む。
突如、美鈴は脇に抱えた二人を投げ捨てた。
次の瞬間、大きく横から緋色の棍棒が飛び出してくる。全身で受け止めた美鈴だが衝撃に耐えきれず、何本かの骨が折れ、皮膚を突き破る。衝撃は内臓にも達したのか、久々に口から血が垂れた。
「美鈴!!」
うら若き巫女の声が一瞬遠のいた意識を引き戻す。
ミノタウロスは嘲笑うかのように仮面の下から醜悪な笑みを浮かべ、棍棒を高く振り上げた。
「まずは一人」
防御しようとする美鈴だが、迫る棍棒には間に合わない。皆も美鈴を救うため駆け出すが、振り下ろされる一撃の速度には遠く及ばない。
誰もが目をつぶりかけた瞬間、咲夜の声が轟く。
「おーいバカ牛!! こっちだよ!!」
美鈴達とは遠く離れた場所に、正門の近くに咲夜はいた。片手に持つ懐中時計には竜頭に指が添えられている。
咲夜の声を聞いたミノタウロスは美鈴の頭上で棍棒を止め、咲夜の元へと走り出す。
だが、咲夜はなんの考えもなしに正門に来た訳では無い。
そう、ここにはアレがある。
咲夜は迫り来るミノタウロスに向け、
引き金を引くと破裂音とともに飛び出した鉤爪がミノタウロスの目を突き刺す。
「ぎゃあああああああああ!!」
耳をつんざく程の絶叫が辺りにこだまし、あまりの声に皆耳を塞いだ。
ぼだぼだと流れる体液が大地を赫く染めていく。思いがけない痛みにミノタウロスは身を捩り、暴れ出す。それに合わせ、索発射銃のロープは引っ張られ、やがて甲高い金属音とともに限界値へと達した。すると咲夜はあっちへこっちへとまるで
目まぐるしく回転する咲夜を見て、魔理沙が耐えきれず声を荒らげた。
「おい、本当にまだなのかよ、パチュリー!!」
「まだよ!! まだ撃たないで!!」
伝達魔法から聞こえてくる魔理沙の焦りを押さえ、パチュリーは必死に
◼
数分前の作戦会議に話は戻る。
『先程の魔理沙の話からして、奴は能力による攻撃や制限は効かない。けど、物理的なものに関しては有効。
間違いないわね、咲夜』
『そうです。巨大化する前も、最上階から突き落とせば、動けなくなるほどのダメージを食らってましたし、お嬢様の一撃も致命傷だったはずです』
咲夜と一緒にいた三人もコクコクと首を動かす。
『ここで大事なのは、能力であっても、魔法や気による物は物理的な物としてダメージを与えてるという点ね』
パチュリーはそう言い、ミノタウロスの体を指さす。
『あいつの身体にはいくつかの魔法攻撃による火傷のあとがあるわ。恐らく魔理沙の攻撃によるものでしょう』
確かにミノタウロスの体には軽い火傷のような薄く脱色した痕が点々とある。
『つまり、ヤツに特大の魔法を打ち当てれば……』
『倒せるかもしれないってわけね』
レミリアの一言にパチュリーは大きく頷いた。
『まずは撹乱。奴が油断してる間に私とフランが弱点を見つけ、そこに特大魔法をぶち当てる』
単純明快な作戦だが、疑問が一つ。
『で、誰がどうやってその特大魔法を撃つんだぜ?』
全員の視線が、呑気に質問する魔理沙の方へと向く。
『わっ私か!?』
『アンタ以外に誰がいんのよ』
『私は魔法扱えませんし』
『フランはきゅっとしてドカーンしか出来ないよー』
『私も射撃魔法は苦手なのよ。槍投げは得意だけど』
『私もナイフ投げしか出来ないからね』
『つまり、この中で射撃に長けてるのはあなた』
皆から期待の眼差しを受ける魔理沙だが、心に一抹の不安を抱えていた。
『つまり、あれをやるのか……?』
パチュリーがニタリと笑う。
『以上が作戦よ』
◼
パチュリーの狙いはミノタウロスの胸の宝石だ。フランが言うには、落ちゆく太陽よりも明々と輝くあの宝石が核だ。パチュリーも魔眼でそこから膨大な魔力が発生していることは分かっていた。
しかし、少女の瞳よりも小さいあの宝石をどうやって撃ち抜くか。暴れるミノタウロスの胸を撃ち抜くのは、信頼している魔理沙の技量があっても難しいだろう。
パチュリーが考えに考えをめぐらせ好機を狙う中、魔理沙から
「フランが飛び出した!! 止められるか!?」
パチュリーは急いで魔理沙の方を向くと、確かにフランがぎこちない羽の動きでミノタウロスの方へと飛んでいく姿が見える。
「フラン!! あなたは魔理沙のサポートよ!!」
叫ぶパチュリーの声を聞くことなく、フランはミノタウロスに向け、拳を握る。
「みんなを……美鈴を傷つけるなぁァァ!」
フランの一撃はミノタウロスの腹部へと捻り込むが、膝を着くくらいで倒すまではいかない。物理攻撃の耐久も上がっているのだろう。ミノタウロスは気味の悪い
フランは逃げようとするが、ぎこちない羽は浮かぶので精一杯だった。
握り潰されるその瞬間だった。
「アーアッアー!!」
ターザンのように揺れる影が一つ現れる。
《続く》
どうも、こんにちはマデュラです。
予告無し、しかも中途半端の投稿すいませんでしたァァッ!!
いやぁちょっとサボりすぎて、投稿がギリになってしまいました……
いつも通り、手直しをしましたので、何卒楽しんでいただけると幸いです。
ではまたー
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