肉を与えられ、力を与えられたが、その愚鈍な脳みそでは空虚な心を癒せなかった。
やがて彼の者は一人の御使いに与えられた。御使いは彼の者を見て、優しく微笑み、誰も触れることのなかったその身体をそっと撫でた。
『あなたの名前はミノタウロス。勇猛なる戦士よ』
それは、彼の者に未経験の摩訶不思議な感情を湧かせた。孤独の隙間が少し埋まった瞬間だった。
さあ歌えや、殺せ、認識せよ。我が名はミノタウロス。我らが理想郷の為にその剛腕振るい、時計を進ませよ
「大丈夫ですか、フラン様!!」
小脇に抱えたフランは、小さく頷く。
しかし、安心もつかの間、大きく揺れる咲夜達へと再びミノタウロスの手が伸びる。
咲夜は
標的を失ったミノタウロスの腕は空を掴む。
それは、
ミノタウロスへと無数の札が張り付く。霊夢が印を結ぶと、札から無数の鎖が飛び出し、次々に地面へと突き刺さる。
ふわふわと浮かぶ鎖を踏み台にし、美鈴が躍り出た。
ミノタウロスが、鎖の自由の中で棍棒を動かそうとするが、突如飛んできた緋色の槍がミノタウロスの棍棒を撃ち砕く。
振り向いた先にはレミリアが流れる血を使い、槍を再生成していた。
ミノタウロスが鎖を引きちぎり、レミリアに向かって走り出そうとした瞬間、
衝撃は、そのままミノタウロスの半身を上へと持ち上げる。
「「ぎゃあああ!!!!」」
「あっ、二人いたの忘れてました……」
咲夜とフランの悲痛な叫びの中、パチュリーが魔理沙に合図を送る。
「やれやれだぜ。
マスタースパーク発射ァァッ!!」
魔理沙が狙撃銃に変化した
「霊夢ちゃんもいること忘れないでね!!」
煌めく閃光が発射されたのと同時に霊夢は印を結び変えると、ちぎれた鎖は再構築され、ミノタウロスの体をより強固に縛る。
「グオオオオォォォ!!」
迫る光弾はミノタウロスの胸へと衝突する。
膨大な魔力の衝突はミノタウロスの体を焼いていくが、パチュリーは違和感を感じていた。
「あれだけ食らっても倒れないの……!?」
そう、ミノタウロスは倒れていなかった。パチュリーの魔力供給により、数十倍にも跳ね上がった魔理沙の一撃でも耐えている。
皮膚が焼け、内臓が
おかげで、魔理沙の攻撃を受けない宝石は難なく、死にゆくミノタウロスの体を超再生させている。
「チッ、抜かりのないヤツね……」
パチュリーは全力で思考をめぐらすが、魔理沙の叫び声で中断される。
「大丈夫!? 魔理沙!?」
急いで駆け寄ると八卦炉を握る腕から音を立て、血と共に魔力が漏れ出している。
「これ……あんまり持ちそうにないぜ……!!」
それもそのはず、到底、人間の体では制御しきれない膨大な量の魔力を受け取ったのだ。魔力の暴走は魔理沙の身体を徐々に、そして確実に蝕んでいく。
必死に悲鳴を噛み殺し、痛みを勇気に変え、魔理沙は死にものぐるいで八卦炉を握る。
大トリを任されたのだ。そう簡単に折れては、恥が着く。
そんな魔理沙の腕に、そっとパチュリーが触れる。
「魔理沙、痛む?」
初歩的な回復魔法、それは痛みを自身の体に移し替えること。徐々に、パチュリーの身体からも激痛が走る。
しかし、そんなことよりもパチュリーにとっては、魔理沙の方が大事だった。
「いいんや……全然!!」
パチュリーの想いを承け、魔理沙は魔力を使い切る勢いで、腕に力を込める。
より力の増した閃光はミノタウロスの巨躯を更に焼くが、宝石は未だ砕けない。
むしろ、超再生の方が順応していき、やがてミノタウロスは、地面に刺さる鎖を引き抜き始める。ゆっくりと、焼かれながらも魔理沙達の方へと進み始めていた。
一歩ずつ進む中、突如、ミノタウロスの身体はがくんと動きを止める。
抜けた鎖を霊夢、美鈴、レミリアが掴んでいた。
「行かせませんよ、そっちには!!」
「さっさとくたばってちょうだい……!!」
「ファイトォ……いっぱぁぁつ!!」
しかし、幾らこの三人と言えど、巨大化したミノタウロスの動きを止めれるほどの力には至らない。一時は止まるミノタウロスだが、その歩みは再び動き出す。
三人の腕が悲鳴をあげていく。手の皮が向け、血が流れていく。しかし、離す訳にはいかない。離してなるものか、その一心で鎖を掴む。
そんな皆の頑張る姿をミノタウロスの頭上で、咲夜とフランは見ていた。
強く拳を握るフランに咲夜は近づく。
「フラン様、私に策があります。
◼
「お嬢様!! 咲夜さんがなんかしようとしてます!!」
美鈴の言葉で、レミリアはミノタウロスの頭へと目を向けた。
そこでは、フランを抱えた咲夜が飛び立とうとしている瞬間だった。
「何をしようとしているの……!!」
レミリアが二人の名前を叫ぼうとした瞬間、咲夜は飛び降りる。
腰に着けた銃からは、火花が散るほどの勢いでロープが伸びていく。
咲夜は、同時に左手の
だが、咲夜の狙いはそこではなかった。空間に制止した札の鎖は、より強固にミノタウロスの動きを制限する。縛る鎖はミノタウロスの身体にくい込んでいく。これで少しは止まるだろう。
そのまま落ちていく咲夜は、ミノタウロスの身体を焼く閃光へナイフを
ナイフは閃光を裂き、二人が通れるほどの穴を作った。
「よしっ!! 第一関門突破!!」
咲夜は射線上の中に入ると、再び竜頭を押す。
「きゅっとしてドカーン!!」
フランの声が聞こえた。が、宝石には異変は無い。
熱線は穴を塞ぎ、動き出す。
ミノタウロスは口角を上げ、勝利を確信した。
しかし、穴が塞がる刹那、二人は熱線の下へと降りていく。
ミノタウロスはようやく気づいた。
フランが壊したのは宝石でも、それを守る魔障壁でもない。
咲夜の手から離れ、閃光の中で停止していた咲夜のナイフだった。細かく砕けたナイフは閃光の流れに沿って進んでいく。
魔法しか防げない魔障壁を、細かな刃はすり抜け、宝石を刺す。刺さった刃は、後ろから来る膨大な魔熱によって、更に細かくへと爆発していく。
連鎖する爆破は、臓物のように柔らかい宝石を
ズタボロになった宝石は、やがて魔障壁の構築もできないほどに力を失った。そこに追い打ちをかける熱線。
一瞬にして宝石は砕け散り、ミノタウロスの胸を焼き尽くす。
「「やったァァァァ!!!!」」
フランと咲夜は成功にお互いを抱きしめる。
だが、直ぐに気づいた。
自分たちは落ちているのだ。
重力は二人を下へと引っ張る。
「「ぎゃあああああああああ!!!!」」
地面がもうそこの所で、滑り流れてきた美鈴とレミリアによって、何とかキャッチされる。
「無茶しすぎです!!」
「このバカッ!!」
胸が焼き消され、頭部だけとなったミノタウロスが最後のあがきとして、大口を開け、突っ込んできた。
「オデ、十六夜咲夜、殺す!! 殺せば、ママ笑ってくれる!! オデのこと、褒めてくれる!!」
彼女たちに
隕石のように刻々と近づく中、フランがあるもの気づく。レミリアと美鈴も続くように目を見開いた。咲夜も自身の左手を覗く。
そこにあったのは、紅く染まった懐中時計だった。左腕から流れる深紅の血よりも紅く、
「……やっちゃえ、咲夜!!」
レミリアの言葉と共に、咲夜は天高くその手を突き出す。
迫るミノタウロスの顔が時計に触れた瞬間、触れた箇所から砂のように
「ママ……ごめん……。忘れそ……忘れそ……」
シャボン玉が弾けるような儚い声でミノタウロスの体は消えていく。
まもなく、ミノタウロスが存在していた証拠は全て塵となって消えた。
「きっ消えた……」
皆あまりの出来事に呆気に取られ、静寂に霊夢の言葉だけがこだまする。
だが、それは脅威が去った証でもあった。やがて、皆の頬が綻び始め、勝利に歓喜する。
「「「「「「「やったァァァァ!!!!!!!」」」」」」」
皆、咲夜の元へと駆け寄り、喜びを分かち合う。長い長い一日がようやく終わる。皆の顔には疲労と滲んだ血でいっぱいの笑顔で溢れていた。
一人ずつ代わる代わる胴上げがされる。
最後の咲夜の番になった時、霊夢が一言。
「んで、アンタらどうやって寝んの?」
皆急に黙り、直立不動になる。
飛び上がった咲夜はそのまま地面へと激突した。
よろよろと立ち上がった咲夜は霊夢の肩を掴み、叫んだ。
「それ……今言うことかァァッ!」
◼
「んで、うちに来たってわけですか」
事の
「……ダメかしら、
申し訳なさそうに尋ねる咲夜に対し、早苗と呼ばれた女性は笑顔で返す。
「全然! 大丈夫ですよ! むしろ、家族が増えた感じで楽しそうですし!
それに、人助けはヒーローのすべきことですから!」
ぐっと親指を立てる彼女は
ちなみに人里のヒーロー【サナトラマン】は彼女だ。信仰を増やす為と言ってはいるが、実際のところ本人が楽しむ為であることは、ここだけの話である。
そして、そんな事実を知らないレミリアが、我慢できず立ち上がる。
「これってDXアイスワッガーでしょ!!」
そう言い、壁にかかっている大きな帽子を指差す。
アイスワッガーとは、サナトラマンが被っている帽子状の
「あっ! こっちにはDXカナコレットブーメラン!」
これもサナトラマンの武器だ。敬愛するヒーローの玩具が至る所にある守矢家は、レミリアにとって
興奮のあまり、あっちらこっちらと玩具を物色し、嬉しさのあまり飛び跳ねている。
「あなた、もしかして……」
と思えば急に立ち止まり、静かになる。
ようやく真実を知ったかと咲夜は思っていたた。
「サナトラマンのファンね!」
どうやら、レミリアが真実を知るのはまだまだ先らしい。あながち間違いでもない発言だが、もっと気づくべきとこあると咲夜は、心の中でツッこんでいた。
「そうなんですよ!」
早苗も子供の夢を壊すわけにいくまいと真実に蓋をした。
二人がサナトラマン談笑をする中、フランが
「ヒーローなんてバカみたい」
そう言い残し、部屋を出ていく。いきなりの発言に残された三人に沈黙が流れる。
はっと我に返った咲夜は慌てて、フランの後を追った。
レミリアはあまりの発言に
「れっ、レミリアさんは行かなくていいんですか?」
早苗が恐る恐る尋ねるが、レミリアはふいっと向こうをむく。
「知らない」
そう告げ、再び
早苗は、
◼
「忘れそ……忘れそ……」
ミノタウロスが崩れゆく姿。それはイザヨイは遠く離れた木の上から確認していた。
「あなたはよくやったわ、ミノタウロス」
イザヨイはそう言い、空間の中へと消えていく。
空間の先では、浮遊する紅い時計がその長針を進めているところだった。
長針が奇怪な歯車な音を立て、二の時字へと到達する。すると、時計の中央に瞳が現れた。まるで出目金のように飛び出した瞳は回転し、イザヨイの姿を捕える。過ぎた一の時字が形を変え、口のように歯を剥き出し開く。
「我ラがイザヨイ。全てハ【しなりお】通りに事は進ンでいルか?」
重複する声はけたたましく、不快な音を刻む。
イザヨイは即座に時計に向け、頭を垂れ、膝まづく。
「イエス、
全ては【しなりお】通りに。我らが主の思いのままに」
イザヨイがそう答えると時計の口は邪悪に曲がった。
「ヨいぞ、よイぞ、実によいゾ。さァ歌え、殺セ、認識せヨ。我らガ理想郷の為ニ」
紅い世界を邪悪な笑いが包み込む。
悪夢は始まったばかり。
《続く》
はいどうもマデュラです。
いやぁ連続投稿は骨が折れますね……笑
まぁこんなことにめげずに頑張って生きます笑
それにしてもようやくミノタウロス編が終わりました……長い!!笑
もっと語彙力を勉強せねば……話がどんどん長くなってしまう!!笑
ではまたーバハハーイ
もしかして、Twitterアカウントは必要ですかーッ!?
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