戦いでボロボロになってヒロインちゃんを曇らせたい   作:銀髪巨乳清楚シスター

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突然嘔吐したりして女の子に心配されたい。こういう性癖なんて言うんですか?


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 ――女の子から心配されるのが気持ちいい。そのためなら、己の身体をどれだけ破壊されても構わない。

 そんな異常な性癖を持つようになったのはいつからだろうか。

 

「ジークさんっ、大丈夫ですか!?」

 

 気がつくと、俺は涙を流しながら胃の内容物を吐き出していた。焦点の合わないぼやけた視界の中、ばしゃばしゃと音を立てながら足元に落ちていく吐瀉物。

 耳元で俺を心配してくれる声がした。鈴の音のような声。いつも俺を支えてくれる女性の声だ。

 

「だいじょ――うっ、おぇ――」

「っ……!」

 

 びしゃびしゃ。喉奥からせり上がってくる不快感を、痙攣と共に思いっ切り外に吐き散らす。固形物混じりの吐瀉物が出なくなり、やっと終わったかという油断の直後、再びの寒気と共に嘔吐してしまう。

 お腹の中にそんなに入るんだ、という他人事みたいな感想を抱く中、アウレーネさんは俺の背中をずっと撫でてくれていた。

 

「か、は――はあっ、はあっ――」

 

 嘔吐の直前や最中はとてつもない不快感があるものだ。しかし、喉元過ぎれば何とやら――嘔吐し切った俺は、どこか清々しい気持ちと僅かな快楽に包まれていた。

 

 猫背をやめて口元を拭おうとすると、アウレーネさんが手拭いと水を差し出してくれる。彼女の顔は沈痛な面持ちであった。

 俺はゾクゾクとした愉悦を感じながら、しかしその表情を表に出さず手拭いと水を受け取る。

 

「……す、すまん……見苦しいものを……」

「いえ、私は全然大丈夫です……ジークさんこそ大丈夫ですか? お水で口の中をちゃんとゆすいで、落ち着いたら今日はもう横になりましょう」

 

 口元に付着した液体を拭い、口の中に水を含んで吐瀉物を一掃する。胃液の余韻じみた酸っぱい味は残っていたが、だいぶん気持ちは楽になった。

 

「かなり楽になった。ありがとう……」

「……ご飯、全部吐いちゃいましたね」

「……すまん。折角の晩飯を……」

「いやっ、責めてるわけじゃなくて……。とにかく今日はしっかり寝て、明日村に帰りましょう。そこで改めて治療もしますので……」

「あぁ、分かった……」

 

 弾けるような音を立てて火の粉を散らす篝火。その傍には先程食べていたスープの鍋が残っていたが、今食べ物を見ると吐き戻してしまいそうなのでやめた。

 和やかな晩餐が一変、嘔吐によって雰囲気がかなり気まずいものになってしまったな……。

 

「…………」

 

 俺は地面に広がった吐瀉物を土で覆い隠すと、数時間前のことを思い出していた。

 

 ――数時間前、俺とアウレーネさんは邪教徒の集団と戦っていた。

 所謂カルト教団のイカれた連中。影でコソコソやる分には問題ないのだが、奴らは自らの信仰以外を攻撃的手段によって排除したがる傾向にある。そんなわけで、俺は小さな村の教会を護衛するという名目で邪教徒と戦っているわけだ。

 

 アウレーネさんは修道女で回復魔法の使い手。彼女には俺の戦闘を安全な場所から見守ってもらいつつ、遠距離からの補助をしてもらっている。俺は教会に雇われた傭兵で、給料を貰う代わりに邪教徒を捕まえたり場合によっては殺したりしている。

 

 今日どうして野宿をしているのかと言うと、敵との戦闘が長引いて森の中に取り残されてしまったからだ。運良く洞穴を見つけて火を起こせたのは奇跡に近い。

 そして、俺が嘔吐してしまった理由は邪教徒と戦った際の傷によるものだ。奴らは魔法や呪いの他、刃物に毒を塗るなどして容赦ない搦手を使ってくる。邪教徒は自分達の考えを理解できない者を容赦なく殺しにかかってくるので、こちらも本気で対応しないといつ殺されるか分からない。

 

 つい先程の嘔吐は……恐らく切り傷から入った毒で体調不良になったと考えるべきだろう。この村の周辺には多様な植物が生息しており、粘膜に触れるだけでも死に至る猛毒を作ることも可能なのだ。

 

 ただ、死に至るような猛毒への対策として、アウレーネさんの保護の魔法がある。じゃあ何で吐いたんだよという問いへの回答としては、魔法にも限度があるといったところか。

 魔法をかけたから死にはしないけど、体調は悪くなっちゃうよ……って感じだ。今は解毒薬の持ち合わせがないので、ひたすらに耐えるしかない。

 

 俺は篝火の傍に寄り、地面に布を敷いて胡座をかいた。そんな俺の隣で、アウレーネさんは不安げに目を伏せている。

 

「ジークさん」

「……はい?」

「……貴方はいつも身を呈して私を守ってくれますね」

「アウレーネさんを守るのは当然のことだよ」

 

 基本的に対邪教徒の戦いは俺が前線に出る。後衛で補助するのはアウレーネさんの担当なのだが、邪教徒も腕の立つ俺だけを狙うほどバカじゃない。むしろ非力なアウレーネさんを進んで狙ってくる。

 

 そうして降り注ぐ危険からアウレーネさんを守ってあげるのも俺の仕事なのだ。彼女が祝福によって保護されているとはいえ、やはり祝福にも限度はあるからな。

 

 先程の戦いでは、暗闇から飛び出してきた敵の刃が彼女を掠めるという場面があった。ギリギリのところで彼女を庇うことはできたが、背中をばっさりと斬られて死にかけたのである。

 

「私、傷つくジークさんを見るのが辛いんです」

「俺は敵に苦しめられるアウレーネさんや村人を見る方が辛いね」

「……もし本当に辛くなったら、この村から逃げても良いんですよ?」

「俺は逃げない。教会にも金を貰ってる」

 

 安い金額ではあるが、教会と契約を結んでいる以上傭兵としては逃げ出すわけにはいかない。村人やアウレーネさんを守りたいという感情もある。死なない限り俺は逃げてやらないさ。

 ……それに、個人的に邪教徒には恨みがあるからな。特に言うつもりはないけど。

 

「ですが……」

「邪教徒相手に戦いたい奴なんて俺以外にいないだろ。俺がいなくなったら誰がこの村を守るんだ? アウレーネさんひとりじゃ村は守れんでしょう」

「…………」

 

 修道服をぎゅっと握り締めるアウレーネさん。本気で俺のことを心配してくれているらしい。

 しかし、現実問題として邪教徒が村を襲撃しまくってくるという事実がある。だから俺は戦い続けないといけないんだよなぁ。全部あいつらが悪いよあいつらが。

 

「……今日は寝よう。割と限界なんだ」

「あっ、すみません。そうですよね……おやすみなさい」

「うん、おやすみ……」

 

 俺は篝火をぼうっと見つめながら、岩壁に寄りかかって瞼を閉じた。隣りで布が擦れるような音が響くと、辺りは静かになった。どうやらアウレーネさんが横になったらしい。

 

 今日失った血はかなりの量にのぼる。魔法で血は補えないため、飯を食って新たな血を作る必要があるのだが――俺はその飯のほとんどを吐いてしまった。とにかく寝て身体を休めることが先決だ。

 

 瞳を閉じてしばらく。ぱちぱちと燃え盛る音によって意識が微睡む中、俺は自分の身体が誰かに触れられていることに気付いた。

 一瞬、敵襲を予感する。だが、その手はあまりにも優しくて――

 

「……ジークさん。いつもありがとうございます」

 

 ――そんな声がすると同時、その手によって身体が傾く。意識が闇に落ちる寸前だった俺は、抵抗する術を持たなかった。

 

 ぽすんという音がして、頭の側頭部が柔らかいものに辿り着く。身体は横倒しになって脱力し、俺の意識は微かな温もりと鼻腔をくすぐる甘い香りに包まれた。

 

「私はこんなことしか出来ませんが――貴方を支えられるよう、これからも全力で尽くさせていただきます……」

 

 もしや――俺は今、膝枕をされているのか?

 修道女の膝枕……男なら誰しもが憧れ――うお、もしかして今頭撫でられてる?

 

 ぎょっとして意識が覚醒しそうになるが、ギリギリのところで押さえつけて寝たフリを続けた。

 アウレーネさんの小さな手が、俺の頭をくすぐるように髪の毛を撫でている。労わるような、慈しむようなその手つきは、覚醒しかけた俺の意識を再び眠りに誘い始めた。

 

 ――最近判明したのだが、俺は彼女のような美しい女性に心配されることが性癖になっている節がある。簡単に言えば、ボロ雑巾みたいになるまで虐め抜かれたあげく、誰かに介抱されたいと願ってしまうのだ。

 

 もちろん死にたいわけじゃない。傷つけられるのは痛くて苦しいし、戦闘で受ける傷の痛みや嘔吐も堪らなく辛かった。ただ、女性に心配されることによって全ての苦痛がプラスに変わってしまうというか。

 度重なる地獄のような日々に光を見出すため、俺の精神がそういう風になってしまったという方が正しいかもしれない。

 

 だから、実際のところ俺は今の生活に満足している。

 死ぬのはマジで勘弁だし、痛いのも本当は嫌なんだよ?

 俺が傷つくことによってアウレーネさんの手を煩わせているのも理解しているし、少なからず彼女の精神に影響を与えてしまうことはもちろん申し訳なく思っている。

 

 ただ、まぁ――役得だよな。

 身体を張って邪教徒共と戦っているんだから、多少のご褒美くらいあってもいいじゃん。そうだろ?

 

 完全に狂人の思考なのだが、本心だから仕方ない。

 俺はアウレーネさんの優しさに包まれながら、意識を手放した。

 

 

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