戦いでボロボロになってヒロインちゃんを曇らせたい   作:銀髪巨乳清楚シスター

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 ぼんやりと浮上して形を帯びていく意識。いちばん最初に認識したのは、俺の全身を襲う寒気だった。

 寒い。凍りついてしまいそうなほど全身が冷たい。それなのに、脇腹には身を焦がすような熱が凝り固まっている。あまりの苦しさと不快感に、皮膚を抉って熱源を直接取り出したくなってしまう。

 

「……っ!」

 

 そんな悶えるような痒みと熱にうなされて、俺はベッドの中で目を覚ました。

 白い天井。包帯でぐるぐる巻きにされ、滝のような汗をかいた身体。頭を動かすと、視界に映る景色が二重にぶれて残像を残している。頭の中で鐘のような音が鳴り響く中、俺は身体を引きずるようにして布団から這い出た。

 

「あ、目ぇ覚めたんだ」

「君は……」

 

 そんな俺の様子をベッドの横で見ていたのは――邪教徒狩りのレイラである。

 俺も彼女の噂は小耳に挟んだことがあった。

 

 邪教徒狩りのレイラ。ある時期から頭角を現したこの女は、国中のあらゆる地域に根を張った【アロス教】の教徒を血祭りに上げ始めた。余程の恨みがあったのか、邪教徒狩りの活動は一度も途切れたことがない。彼女に目をつけられた地域のアロス教は瞬く間に全滅し、正教の関係者からは英雄として祭り上げられている人物なのだ。

 

 しかし……こうして目の前にしてみると普通の少女にしか見えない。

 桃色の髪をツインテールにして、蒼の双眸がこちらを睨んでいる。目の下には病的な濃い隈が刻まれており、口元は不機嫌さを表すかのように「へ」の字に曲がっている。耳は鎖や棘の刻印が入ったピアスで埋め尽くされている。黒いジャケットにスカートを着用していて、見た目はまさに「普通の少女」と言った感じなのだが――

 

 ――彼女の傍に置かれた巨大な大鎌が、少女の異質さを表していた。所々に刃こぼれや傷跡の残った鎌は、初めて見た俺でも「使い慣れている」という感想を抱いてしまうほど。

 

「……邪教徒狩りのレイラ」

「何かしら」

「いや、君は界隈じゃ有名人なんだ。お目にかかるのが初めてなんで、ちょっと興奮してる」

「ふ〜ん」

 

 邪教徒狩りのレイラと言えば、身の丈ほどのデスサイズを武器にしていると専らの噂だ。これで邪教徒の首を刎ねて回っているなんて、一度聞いたら忘れられないだろう。

 しかし、邪教徒を殺しまくり血祭りに上げまくりって話だから、てっきり狂人の類だと思っていたんだけどな。普通に意思疎通できるとは。

 

「なぁレイラ。俺が気絶してからどれくらい経った?」

「8時間ってところかしら。ほんと、よく生きてたわねアンタ」

 

 そう言われて脇腹を撫でると、傷口を中心として激痛が走った。声さえ出せない電撃の如き衝撃。喘ぐように呼吸して息を整える。そんな俺を見てレイラは肩を竦める。

 

「アロス教の奴らをぶっ殺した後、あたし達が必死こいて治療してあげたのよ。感謝しなさい?」

「……ありがとうレイラ。君がいなかったら俺は今頃――」

「あたしじゃなくて、アウレーネって言うんだっけ? あの銀髪女に感謝しなさい」

 

 黒く塗られたレイラの爪の差す先。俺の足元に縋るようにして真っ青な顔色のアウレーネさんが倒れ込んでいた。何事かと彼女の様子を確かめると、ただ寝ているだけで――ほっとして胸を撫で下ろす。レイラはフンと鼻を鳴らして目を逸らした。

 

「そいつ、何度も気絶しながら魔法を振り絞ってアンタを回復してたのよ。それでも塞がり切らなかった傷は縫合したりして……ボロボロなのはアンタよりむしろ彼女の方かもね」

 

 黒いタイツを履いた脚を組むレイラ。アウレーネさんの目の縁には涙が溜まっており、そして彼女の足元には血まみれの布や医療道具が散乱していた。俺の傷の治療に使った物のようだ。更に、俺が受けた矢にも毒が塗られていたのだろう――解毒薬が入っている瓶も辺りに転がっていた。

 

「なぁ、何で俺生きてるんだ?」

「知らないわよ……」

 

 よく見るとレイラの指にも僅かに血がついていた。黒い爪の隙間に赤い滓のようなものがあって……恐らくアウレーネさんに手伝わされたんだろう。

 

「……名前からしてもっとイカれた奴だと思ってたんだけど……君、結構優しいんだな」

「ハァ!? 別に優しくなんかないけど!?」

「俺の治療、手伝ってくれたんだろ」

「なわけないじゃん」

「じゃ、爪の辺りについた血は何だ?」

「……返り血よ。落としきれなかったの」

 

 ぷい、とそっぽを向きながら言うレイラ。

 ……そういうことにしておこう。

 

「自己紹介をしてなかったな。俺はジーク・ウィゼアン……教会に雇われたしがない傭兵だ」

「……レイラ・リオルージュ。趣味で邪教徒狩りをやってるわ。短い付き合いになると思うけど、まぁよろしく」

「はは、趣味って――痛っ!」

 

 手を差し出して握手を求めようとしたが、脇腹が鋭く痛んで怯んでしまう。呆れたように溜め息を吐いたレイラは大鎌を持って立ち上がり、厚底のブーツを鳴らしながら扉の方へ歩いていく。

 

「ど……どこに行くんだ?」

「何って……これ以上アンタと話してもしょうがないじゃない。敵を殺しに行くの」

「ま、待て。敵のアジトの場所は分かるのか?」

「これから探す。アンタは知ってるの?」

「……それらしき場所は知ってる。だけどセノン村の拠点は規模が大きすぎるんだよ。いくら君でも単騎は無理だ」

 

 その言葉にピクリと反応したレイラは、部屋から出ることなくこちらに振り向いた。

 

「何でアンタみたいな雑魚に指図されなきゃいけないの?」

「俺はこの村で1ヶ月くらい戦い続けてる。……だから分かるんだよ。あのでけぇアジトに手を出す時は()()()()()()()()()()じゃないとヤバい」

 

 レイラはセノン村からすれば部外者だが、そんな事実は邪教徒にとっては些細な問題だ。もし敵のアジトを壊滅させられなければ、奴らの報復を受けるのはセノン村の人間になるだろう。

 もしアジトに控えている教徒が10名程度であったなら俺でも殺し切れる。それを出来ないのは、セノン村のアジトが稀に見る大規模なものであるからなのだ。

 

 俺がいるセノン村に大規模な軍勢を寄越さないのは、その拠点がセノン村以外の集落にも抵抗を受けているからだ。つまり、奴らが人員を平たく分配しているから俺達はギリギリのところで抵抗できているわけで――セノン村はそのバランスによって生かされていると言っても過言ではないのだ。

 

 そして、アジトへの攻撃はバランスが壊れる理由となってしまう。加えて、仮にセノン村が滅んでしまったら……他の集落に割ける人員が増えてしまうのだ。これは俺達だけの問題じゃない。それを強く伝えると、レイラは足を止める。

 

「なるほどね。理解はできたわ」

「よ、良かった――」

「でもあたしは妥協しないわ。邪教徒は全員殺す。今すぐ殺す。慈悲はないわ。セノン村のアジトも破壊する。一般人に被害が出ても関係ない。あたしはひとりでやらせてもらうわ」

「ま――待てっ!」

 

 俺の言葉を無視して出ていこうとするレイラ。彼女を行かせるのは本当にまずい。ギリギリのところではあるが、セノン村を救い続けてきた意味が無くなってしまう。

 しかし、邪教徒狩りを主目的にするレイラをどうやって止めればいい? どんな言葉で彼女を引き止めればいい? 言葉に窮する中、とにかくレイラを行かせまいという気持ちだけで彼女に向かっていく。

 

「せめて俺が完全に回復してから――数日後、一緒にアジトに行くのはどうだ!? 今の君はアジトの場所を知らないし、ひとりで奴らを相手にするのは難しいはず! どうだ!? 数日待ってくれたら、俺も協力する! 成功確率を上げたいんだ! だから今敵を刺激し過ぎるのはやめてくれないか……!」

 

 勢いだけの時間稼ぎ。脇腹の痛みを捩じ伏せながら、意味が通っているかどうかなんて考えずに喋りまくった。いくら邪教徒狩りのレイラといえども、300人規模のアジトから無傷で脱出するなど不可能だ。それに、呪いや精神操作系の魔法ばかり操る陰湿な魔法使いを相手にした時、仲間がいなければその対応は非常に難しい。

 

 俺だって、成功しそうならアジトを攻撃してもらって構わないと思っている。それができないかもしれないから説得しているんだ。

 気持ちが前に出過ぎて、ベッドから転げ落ちてしまう。あまりの痛みに床を転げ回っていると、レイラが鬱陶しそうに溜め息を吐いた。

 

「……っ、あ〜もう見てらんないわね! 手ぇ貸してあげるからっ、ほらこれで立てる!?」

「あぁ、ありがとう……痛ぇ……」

「そりゃ、脇腹に穴が開通したんだもの。痛くないわけがないわよ」

 

 彼女は白い手を俺の腰に添えて、ベッドへ戻ろうとする俺を補助してくれた。こめかみに手を当てて舌打ちしたレイラは、本気でウザそうな表情をしていた。

 

「……はぁぁ。アンタの気持ちは分かったわよ。ジークが動けるようになるまでは待ってあげるわ」

「ほ、本当か!?」

「うっさいわね。でも約束よ? アンタが動けるようになるまで回復したら、アウレーネと一緒にアジトをぶっ壊しに行く。いいわね?」

 

 何故かアウレーネさんが巻き込まれることになってしまった上、敵のアジトに突撃することになってしまったが――とにかくレイラを止めることはできた。不満げな表情をしたレイラが部屋から出ていったのを見て、俺はゆっくりとアウレーネさんを見下ろした。

 

「……名前、呼んでくれたな……」

 

 ……怪我人が目覚めた直後にする話じゃねぇぞ。ただ、セノン村周辺のアジトを完全に潰すことができたならそれは大きな進歩だ。

 ――邪教徒狩りのレイラ。彼女には借りがあるし、俺も頑張らなくっちゃな。

 

 息を整えてから、ベッドの上に広がったアウレーネさんの銀髪に触れる。俺の手は震えていた。途方もない不安が胸の奥に詰まっているみたいだった。このまま村の防衛を続けるのも、邪教徒の拠点に向かうのも、どちらも嫌で堪らない。アロス教なんて滅びてしまえばいいのに。そんなことばかり考えている。

 ……考えてもしょうがない。この道を選んでしまった以上、当たって砕けろだ。

 

 ベッドに齧り付くようにして眠るアウレーネさんを見て、彼女もちゃんとした寝床で横になった方が良いのではないかと思い始めた俺は、外に出たレイラに声をかける。だが、既にレイラは声の届く範囲にいなかった。

 

「声出すだけで脇が痛ぇ……」

 

 そうして脇腹をさすっていると、俺の足元で可愛らしい吐息が聞こえた。アウレーネさんが起きたらしい。相変わらず顔色は絶望的に悪く、俺よりも重症なのではないかと思えてしまう。

 

「……ジークさん?」

「ん……起きたみたいだな」

「――ジークさんっ!? 良かった、もう目が覚めないんじゃないかと思って心配したんですよ!? ――痛っ、頭が……」

「アウレーネさん、あんた寝た方がいい。俺はもう大丈夫だから、自分の部屋に行って寝ててくれ」

「それは出来ません。所詮、魔法を使いすぎただけですから……」

 

 ……寝起きで悪いが、アウレーネさんには話しておかないとな。レイラと一緒に邪教徒のアジトを攻撃しに行くことになったことを。

 

「すぐにお水とお食事を用意しますね!」

「あ、ちょっと――」

 

 俺が声を掛けようとする前に、アウレーネさんは小走りで部屋の外に出ていってしまった。今日1日で色々なことが起こりすぎて、頭がどうにかなってしまいそうだ……。

 

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