戦いでボロボロになってヒロインちゃんを曇らせたい   作:銀髪巨乳清楚シスター

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 その夜。普段からセノン村教会内の個室に寝泊まりしていた俺は、隣の部屋にレイラを迎えることになった。特に変わったことはないけれど、教会が賑やかになった感じがして少し嬉しい。

 ただ、彼女はほとんど荷物を持っていなかった。黒いジャケットの下に僅かな必需品を持ち歩いているらしく――水筒、非常食、包帯、薬の入った小瓶だけが彼女の荷物であった。

 

 なお、その教会内には重傷(おれ)重症(アウレーネさん)がひとりずつ。村に来たばかりのレイラが実質的に俺とアウレーネさんの世話係になってしまい、彼女には多大な迷惑をかけまくって借りを作りまくっている。借りを返し切れる目処が全然立ってないんだが、レイラは許してくれるだろうか。

 

「アウレーネは寝てるの?」

「この通りぐっすりだ」

「そう……だったら良かった」

 

 隣室にデスサイズ含めた荷物やジャケットを置いてきたレイラは、ワイシャツのような襟付きの軽装を身に纏っていた。やっぱり、武器を手放すと同年代くらいの普通の女の子にしか見えないな。

 

 彼女が気にかけているアウレーネさんは、あれからずっと深い眠りに落ちていた。俺の部屋のベッドは無事占拠され、部屋の主は肩身狭く端の方に腰掛けるハメになっている。

 まあ、回復魔法を使い過ぎた代償でアウレーネさんは苦しんでいるわけだから、彼女を責めるなんて絶対できないしそんなつもりもないけど。

 

「そろそろ夜が更けてきたな。風呂の場所は分かるか?」

「村の人に教えてもらったわ。いい時間だし入ってくるわね」

「おう、行ってらっしゃい」

 

 レイラはそう言って部屋を退室した。部屋の中でアウレーネさんが寝息を立てており、多少気まずくなって俺も外に出ることにする。

 

 少し考え事をしたい気分だった。大量の血を失った直後であることに加え、脇腹の傷が回復しきっていなかったけれど、お構い無しに夜風に当たりに行く。

 アウレーネさんが今の俺を見たら、ほっぺを膨らませて「怪我人は安静にしててください!」なんてぷんすか怒るんだろうなぁ。ま、あの人も無理を押して俺を看病してくれたんでトントンだな。

 

 教会の外に出ると、外は少しだけ寒くて。星の綺麗な夜だった。セノン村の広場の前で座り込んで、そのまま適当に寝転んでやる。

 俺が考えたかったことは、邪教徒の拠点に連れていく村人の選び方だ。1番良いのは村人の立候補を待つことだが、この任務は間違いなく危険なものになる。アウレーネさんの護衛をするだけとはいえ、場面によっては俺達よりも危険に曝される時があるだろう。

 

 小さな村における若い男は、働き手としてだけではなく、村の未来のリーダーとしての期待も背負っている。おいそれと連れ出していい人材ではないのだ。

 だからこそ迷っている。作戦の成功率を上げるためとはいえ、村人を連れて行かなければならないのか……と。アウレーネさんは何やかんや戦闘経験が豊富だし、俺やレイラはザコ相手に強く出られるだろうし。やはり大きな迷いどころだな。

 

 星を数えて唸る中、俺の近くに足音が向かってくる。

 誰かと思えば、村で1番の力持ち・ケルットであった。

 

「ん、ケルットじゃないか。夜の散歩かい?」

「へへ、今夜はいい天気っすからねぇ。星空を見るために起きてきたんすよぉ」

 

 彼は俺の近くに腰を下ろす。

 ケルットはセノン村で1番力持ちなだけではなく、どんな危険にも臆することなく立ち向かえる勇敢な人間である。村の近くに出没した獣の群れを追い払ったり、武器を持った盗賊相手に素手で立ち向かったり、エピソードには事欠かない。

 

「先日はありがとうございました! ジークさんのお陰でセノン村の被害はゼロでしたよ」

「どういたしまして」

「大怪我をされたって聞いたんすけど、案外大丈夫そうですね」

「どこが大丈夫に見えるんだよ……」

「ヘヘッ、冗談に応えてくれるならやっぱり大丈夫っすよ!」

 

 ケルットは大きな口を開けて笑うと、ふと冷静になった。

 

「……ジークさん。今この村に邪教徒狩りのレイラが来てますよね」

「それがどうかしたか?」

「いえ。……あれって本物なんすか? 見た目はすげ〜可愛い普通の女の子っすよねって感想を共有したくて」

「アレは本物だよ。間違いない」

 

 邪教徒の標的にされるような集落では、邪教徒狩りのレイラは有名人だ。敵を殲滅して回っているヒーロー的存在なのだから、逆に有名でなければおかしな話である。

 

「で、何で邪教徒狩りのレイラがここに来たんすか? 偶然?」

「それ自体は多分偶然だな」

「嬉しいっすね! ジークさんとあの子がいればセノン村の周りは安泰っす!」

「……そのことなんだが」

「なんすか?」

「俺とアウレーネさんが回復したら、レイラと一緒にアロス教の拠点を攻めに行く予定なんだ。この地域の邪教徒を一掃する作戦でさ――」

「えっ!? 参加させてください!! オレも行きたいっす!!」

 

 全てを言い切る前に、ケルットは目を輝かせて俺に肉薄してくる。

 

「邪教徒マジ許せないっす! 邪教徒狩り最高! 一緒に殺しに行きましょう!」

「わ、分かった分かった……丁度アウレーネさんの護衛を探してたところだから、ケルットには護衛として同行してもらうよ」

「アウレーネ様の護衛を!? 光栄です!!」

 

 ケルット含めたセノン村の住人は、アロス教の拠点の場所を知っていながらこれまで何年間も手を出せずにいた。余程鬱憤が溜まっていたのだろう、ケルットは鼻息荒く腕をぶん回し始める。

 

「つ、ついでにもう1つ頼んでいいかな?」

「なんすか!?」

「もう1人か2人、アウレーネさんを護衛できそうな人を探してきてくれないか。いつ出発になるかはまた伝えるから、その時までに用意してくれると嬉しいな」

「あ〜いいっすよ! 今すぐ探してきます!」

「いや、急いでるわけじゃ――」

 

 あっという間にケルットは遠くへと走っていった。

 ……突風のような男だった。

 

「……ま、まぁ、これで準備はできたのかな」

 

 護衛のための剣やボウガンは、これまで倒してきた敵がたんまり落としていってくれた。そしてケルットがアウレーネさんの護衛を任されてくれて……あの調子ならもう1人くらいはすぐに見つかるだろう。

 作戦的には奇襲を想定している。大規模な人数を連れ立って動くことはできないから、もし立候補が多ければレイラと俺で選ぼうかな。

 

「…………」

 

 星空を眺めてしばらく。松明の近くでゆったりしていたとはいえ、次第に冷え込んできて傷口が疼き始めた。鋭い針によって肋骨の裏を弄り回されているような不快感と痛み。服を捲って脇腹を見下ろすと、包帯に血が滲んでいた。

 

 言いようもなく、ぞくりとする。まさに生きている気がした。

 

「いっ――」

 

 緩んでいた包帯を外し、薬品と体液の滲んだガーゼを取り払う。見えるのは黒々とした穴。黄色っぽい組織液が滲み出ており、触れれば激痛が走るはずなのに――人差し指で抉り返したくなる。

 したらダメだと分かっている。けれど、落ちている枝の先で傷口を拡げたくなる。もっと強い痛みを感じたいと思ってしまっている。

 

 やはり俺は異常者なのだろうか。

 ……いや、違う。誰しも経験したことがあるはずだ。死にたくないはずなのに、崖の下を見下ろして「ここから落ちたらどうなるんだろう」と生唾を飲み込んでしまうことが。鋭い刃物を持って、生肌に押し当てて、勢いのままに引いてしまおうかと考えてしまうことが。

 

 俺はその好奇心が人より強いだけなのだ。人が死にやすすぎる環境にいるから、それが助長されているだけで……きっと普通の範囲内の人間だ。

 

 けれど、俺が更に酷い怪我をしたら――周りの人間はもっと心配してくれるのだろうか。もし俺が死んだら、アウレーネさんはどんな顔をするのだろうか。なんて考えることは時々ある。

 

 だから、この前ボウガンで狙撃された時、俺は無意識に悦びを感じていた可能性がある。なんなら今だって、この満身創痍な状況を「悪くない」と思っている時点で割と……。

 

 つくづく、厄介な性癖と精神構造だなと思う。正義感はあるし、常識もあるけれど、破滅願望と自傷願望を持ち合わせているなんて。

 

 結局、傷口を弄ぶようなことはせず、俺は教会に帰った。黄色い体液が染みついていたガーゼを交換して、包帯を巻き直す。圧迫のために思い切り包帯を締め直すと、じゅくじゅくとした痛みが広がった。

 

「やっぱり痛ってぇ……」

 

 身体に風穴が空いていたらしい戦闘直後に比べれば、俺の傷は治りかけも治りかけ。明日アウレーネさんの体調が復活していたら魔法をかけてもらおう。それで傷は完治するはずだ。

 

 ということは――出発は明日か明後日の夜になるのかな。

 それまではゆっくり休んで英気を養うとするか。

 

 ただ、俺のベッドはアウレーネさんに占拠されている。隣で寝るのは至上の幸せだろうが、そんな勇気はないな。普通にソファで寝ることにしよう。

 

 そうして部屋の灯りを消そうとした時、部屋の外からツインテールを解いたレイラが訪問してきた。耳につけまくっていたピアスも外しているし、完全にオフって感じだな。

 

「ジーク。あんたどこほっつき歩いてたの? 探したのよ」

「村を歩いてた。で、アウレーネさんの護衛をやってくれる男を探してた」

「む……それは助かるわ。で、見つかったの?」

「1人だけ。ケルットっていう元気な兄ちゃんだ」

「無理矢理やらせるわけじゃないわよね?」

「そりゃ当然! というか、むしろ向こうが是非やらせてくれって感じだったぞ」

「へぇ……結構骨のある奴ね。普通は歯向かう精神力すらないはずなのに」

「この村の人間はアウレーネさんのおかげで元気なんだよ」

 

 レイラは俺の真正面の椅子に座る。俺はソファで毛布を被り、脇腹を庇いながらあくびをした。釣られてレイラもあくびをする。彼女は気まずそうに目を逸らした。

 

「ケルットと話した感じ、もう数人集まりそうな雰囲気だった。パーティメンバーはちゃんと揃いそうだな」

「そ。なら良かったわ」

「ふぁぁ……こうしてゆっくりできるのは、今日か明日で終わりだな……」

 

 もう一度あくびをかましていると、レイラは腕に着いた顎を突き出して唸った。

 

「……あたし、今朝邪教徒を殺したせいで、あと30分は眠れないのよ。眠そうなアンタを見てるとムカつくからやめて」

「八つ当たりだろ……」

 

 そうか……俺が狙撃されたのは早朝のこと。それから昼下がりに目を覚まして、今は夜。まだ1日も経っていないから、狙撃者の首を刎ねてデスサイズに血を吸わせたレイラは今夜代償を支払わないといけないのか。

 

「眠れなくなる代償ってどんな感じ?」

「そのまんま。寝たくても寝たくても絶対に眠れないのよ。……意識が途切れる寸前、瞼の上に水滴を落とされるような感じ。本当に最悪……運悪く大量に血を吸わせた日には文字通り一睡も出来ないわ」

「もしかして、敵の首を刎ねて殺すのは、その武器に血を吸わせたくないからなのか?」

「ええ。本当ならメッタ刺しにして殺したいんだけど、不眠の代償がキツすぎてやってないわ。やるにしても時間の無駄だし」

「はは、ヤバ」

 

 俺自身アロス教に対してただならぬ殺意を抱いている自覚はあるが、レイラも結構どす黒いモノを持ってるな。代償のことで愚痴ってはいるが、殺したくて堪らないという感じ。

 

 そんな彼女の様子を見て、ふと疑問が頭の中に浮かんだ。どうせならと思って、俺はレイラに質問をぶつけてみることにした。

 

「レイラってさ、俺達と結構コミュニケーションを取ってくれるよな」

「は? どういうこと?」

「いやさ、結構フレンドリーに接してくれることが単純に疑問だったんだ。てっきり復讐が主目標で、人と馴れ合う気なんてサラサラ無いんだと思ってたから」

 

 レイラはむすっとした表情のまま、前髪で顔を隠す。

 

「……まともな人と会うの、久しぶりだったのよ。ここ1年、邪教徒と死体ばかり相手にしてきたから……」

「…………」

「人間の言葉を忘れないようにしてるだけよ」

 

 レイラは俺のように防衛を基本にしているのではなく、邪教徒を探して襲う攻撃的なスタイルで各地を転々としてきた。それ故に、敵に滅ぼされた集落や街を何度も見てきたのだろう。

 

「勘違いしないで。あたしは同情なんか求めてないわ……」

「……良いこと思いついた。この戦いが終わったらさ、俺と一緒に邪教徒狩りの旅をしないか?」

「は?」

「俺だけじゃない。アウレーネさんも連れて行ってさ――あぁでも彼女は無理か――とにかく、レイラが人間の言葉を忘れないよう俺が話し相手になるし、一緒に邪教徒を殺してやるって話だよ。どうだ、悪くないだろ?」

 

 口からの出任せではあったが、自分でも悪くはない未来だと思った。セノン村付近の敵を殲滅すればザリア正教からの任務は達成となり、俺は自由の身となる。アウレーネさんと別れることになるのは寂しいが――レイラと共に復讐の旅を続ける方が余程魅力的だ。

 

「なにそれ、バッカみたい。まぁ、でも……話し相手がついてくるのは……少し嬉しいかもね」

 

 レイラがくすくすと笑う。俺も口元を歪める。

 俺の思い込みかもしれないが、レイラとの友情が深まった気がした。

 

 

 

 そして、2日後の未明。

 分厚い曇によって星空が覆い隠される中、例の作戦が決行となった。

 

「アウレーネ様……頼みましたよ」

「お任せ下さい。私達の背中には主がついておられますから」

 

 村人全員に見送られて、作戦遂行のためのメンバー5名が村を発つ。最低限の明かりで足元を照らしながら、俺はアロス教の拠点へと仲間を先導した。

 

 メンバーは、アウレーネさん、俺、レイラ、そしてケルットとドアン。ドアンはケルットが見つけてきた男で、足の速さに自信があるらしい。

 構成は、俺とレイラが前衛。俺達の補助をするアウレーネさんと、それを守る男2人が後衛。ケルットとドアンにはボウガンとロングソードを持たせ、防具も着させてある。

 

()()()()要領で敵に剣を叩きつけるんだ。奴らを同じ人間だと思うなよ」

「当たり前っすよ……任せてください」

 

 言葉少なく行進を続けていると、闇夜の中に異質な建造物が現れた。

 ――邪教徒の拠点。数世紀前に放棄された古城である。出入口付近に特徴的な被り物を被ったアロス教徒が控えており、今も拠点として使われているらしい。

 

「ビンゴだ……みんな、明かりを消そう。これから突入するぞ」

 

 松明を地面に投げ捨て、明かりを消す。俺の心にあった緊張と興奮と期待の感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、動悸が抑えられなくなる。このままではまずいと思った俺は、レイラを呼び止めて小声で話しかけた。

 

「レイラ」

「なに?」

「薬あるか?」

「何の薬?」

「ハイになれるやつ」

「あるけど」

「1つくれないか」

「ハァ?」

「今回ばかりはキメてないと無理だ」

「しょうがないわね。これ貸しだから」

 

 そう言ってジャケット内の小瓶から錠剤を取り出すレイラ。それを口に含んで飲み下した瞬間、視界と思考が恐ろしいほどクリアになった。

 なるほど、これは良い。そりゃハイになりたくなるわけだ。

 

「よし……行くぞ」

 

 俺は背後につく4人に呼びかけて、古城へと進んでいく。

 

 さぁ行こう。復讐と正義と破滅願望のために。

 

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