戦いでボロボロになってヒロインちゃんを曇らせたい 作:銀髪巨乳清楚シスター
ケルットに借りたボウガンで狙いを定めて、茂みの中から見張りを狙撃する。弦の弾ける音と鈍い手応えが炸裂して、2人の見張りが地面に倒れ込んだ。
この前腹を狙撃されたやり返しだな。俺はケルットにボウガンを返してから、レイラと一緒に死体を隠し始める。アウレーネさんが祈りを捧げる中、俺とレイラは茂みの中に死体を放り投げた。
「それじゃレイラ、行くぞ」
「ん」
足音を殺しつつ古城内に潜入する。城というよりは要塞といった見た目のアジト。古くは領地の防衛拠点として使われていたためか、基礎の部分はまだ頑強な造りを保ったままである。
手探り状態で回廊を進んでいると、開け放たれた大扉の向こうで怪しげな集会を行っている邪教徒が見えた。蝋燭のみに照らされた闇の中、腰を曲げ膝を折って床に額を繰り返し叩きつける教徒達。その数、ざっと数えて数百人。少なくとも300人はいるだろうか。誰もが無言で祈祷を続けており、額と床のぶつかり合う音のみが支配する空間はあまりにも不気味だった。
俺達は顔を見合せて戦慄する。レイラは頬を痙攣させてドン引きしている。余程この光景を気に入ったようだ。俺ももちろん、アロス教徒が本心から主を崇拝していることが分かって、慈悲をかけなくても良いのだと嬉しく思う。
時々、俺と同じ人間の言葉を話す邪教徒がいるから嫌なんだよな。同じ生物だと思いたくないから、勘弁してほしいぜ。
「3人はここで待ってろ」
「ジークとあたしで敵を殲滅する。タイミングを見て臨機応変に動いてちょうだい」
レイラが自己強化の魔法を使用し、アウレーネさんも俺に補助と保護の魔法をかけてくれる。
情けは必要ない。アロス教徒は国が指定したテロ組織だ。殺さなければ殺されるという覚悟で挑まなければならない。
レイラが目にも止まらぬ速さで大広間に突撃したのを見て、俺もそれに続いた。デスサイズを構えるレイラの反対方向に走り、鞘に収まった剣をするりと抜き放つ。
消していた気配を出現させて、集団の懐に潜り込む。祈祷に夢中の邪教徒共。しかし、隣で祈っていた人間の首が飛んでいくのを見て、彼らは絶叫しながら立ち上がった。その声を掻き消すように剣を振るい、胴体を切り裂いて次々に敵を殺す。
他方、視界の奥では面白いように生首が飛び交っていた。一振で数十人の首を刎ね飛ばすレイラ。鬼神の如き戦いっぷりだが、彼女の代償を考えれば無理をさせるわけにはいかない。
レイラは代償なんて関係なく敵を殺しまくっているが、睡眠時間を削られすぎて死ぬなんてことも有り得る。俺が全員を殺し切る勢いで戦わなければ。
「――眠りなさい」
黒ずくめの少女が大鎌と共に踊る。その影に隠れて、俺は剣先で大動脈や内臓を的確に破壊していく。首筋を撫でて血を噴かせ、地面に卒倒させる。人体破壊の作業だ。ひとり殺せば、また次の敵が見えてくる。
対する敵は味方と密集しすぎているせいか、為す術なく切り倒されていった。魔法や矢は全く飛んでこない。時々嫌がらせ同然の弱い魔法が放たれるが、アウレーネさんの魔法によって事なきを得ている。
「ゲルゴロイ様っ、たすけ――」
「ゲルゴロイ様は何処に――」
気にかかるのは、怒号と断末魔の中に『ゲルゴロイ様』なる人物を呼ぶ声が聞こえること。恐らくこの古城の管理者か、それに準ずる邪教徒の幹部だろう。
レイラも『ゲルゴロイ様』という謎の人物に気付き始めたらしく、その名前を問いながら邪教徒を殺しまくっていた。
いよいよ数が減ってくると、狂気に堕ちた敵が味方諸共俺達を殺そうとしてくるようになった。猛毒の塗られた矢を乱射したり、瀕死の味方を盾に戦おうとしたり、大柄な邪教徒が周りの味方を殺しながら斧を振り回したり――まさに地獄絵図だ。
だが、レイラの大暴れのお陰もあって俺達の勢いは止まらない。自己強化の魔法によって疾風の如き速度で邪教徒を殺して回るレイラ。活きのいい邪教徒を先に殺し、敵の勢いを封じ込める俺。敵の攻撃を受けることが増えてきたが、その前に敵は全滅するだろう。
真面目に「もうアイツ1人で良いんじゃないか」と思う。しかし、敵が1人の場合と2人の場合では随分と違ってくる。俺も役に立っているのだと信じて、乱戦の中で必死に暴れ回った。
「死ねぇ侵入者ぁ!!」
「ゲルゴロイ様をお守りしろぉぉ!!」
味方の死体を盾にして死に物狂いで近付いてくる邪教徒。死体の向こうの敵ごと串刺しにして黙らせる。しかし、肉に挟まれて剣が抜けなくなる。反射的に剣の柄を手放し、死体が持っていた刀剣を手に取る。
敵は死の恐怖に囚われていた。血走った目で常軌を逸した行動を繰り返し、腕を切り飛ばされてもまだ立ち向かってくる。
戦闘開始直後よりもむしろ、戦いは激しさを増していた。敵の思考が変わったのだ。「自分が犠牲になっても、仲間が敵を殺してくれるなら儲けもの」とでも言うような行動原理。死の寸前まで往生際悪く俺の足を掴もうとしてくるのだ。こうなると迂闊に接近戦を挑めなくなってきた。
大広間の入口付近では、ケルットとドアンが少数の邪教徒相手に勇敢に戦い抜いている。お陰でアウレーネさんの補助が途切れない。アウレーネさんの魔法が俺の生命線だ。彼らに手伝ってもらって正解だった。
「レイラ! そっちは大丈夫か!?」
「何とかね! でも上手くいかなくなってきたわ!」
「つーかゲルゴロイ様って誰だ!?」
「あたしも知らないわよ!」
背中合わせにぶつかり合って、俺とレイラは状況を報告し合う。レイラのデスサイズは血を吸って赤黒く発光しており、彼女が支払うことになる代償の重さを表しているかのよう。
レイラは口に出さないが、もうなるべく例の武器に血を吸わせたくはないはずだ。敵は残り20名。周囲を取り囲まれた。俺がやるしかあるまい――
「……その武器、俺も使える?」
「えっ? だ、代償さえ払えば問題なく使えるかもしれないけど――」
「じゃあ借りるぞ! 伏せてろ!」
レイラの手から大鎌をひったくり、逆に刀剣を押し付ける。そのまま大きく振りかぶって――
「――ぁあああっ!!」
右足を軸にして、一回転。一斉に襲いかかろうとしてきた敵の胴を横薙ぎにした。崩れ落ちる奴らの下半身と、滑り落ちる上半身。大理石の床は血の海に満たされ、俺達の周囲は静かになった。
「……もう終わり? あたし1人でも問題なかったんじゃない?」
「ふぅ……どの口が言ってる。この数を1人で殺し尽くしてたら、眠れなくなって死んでたぞ」
「あぁ……ハイになってて代償のことを忘れてた」
アウレーネさんの方に向かっていた邪教徒も、2人が何とか対処してくれたようだ。俺は武器を突き返してから、レイラから刀剣を返してもらった。
「アウレーネさん! ケルット、ドアン! そっちは大丈夫か!」
「大丈夫です! 皆無事です!」
アウレーネさん達と合流して傷の具合を確かめ合う。俺とレイラ以外は無傷で、被害は皆無と言っても差し支えなかった。その俺とレイラも軽傷だし……。
こうもあっさり成功してしまうと不安になってくる。もちろん、俺達の実力を適正に評価したからこそ成功したんだろうけど――
「……流石におかしいわね。『ゲルゴロイ様』も見当たらないし、手応えが無さすぎる……」
「レイラの言う通りだ。城の中は探索し切れていないし、まだ何かあってもおかしくない」
かつてアジトに立ち入った傭兵が返り討ちにあったという噂が立つこの場所。何年も手を出せなかった敵の拠点なんだぞ? 『ゲルゴロイ様』はまだこの城にいる。そいつの姿を確認しない以上、作戦成功とは言えないだろう。
「……主よ、我らの罪をお許しください」
大広間に積み上がった死体の山に祈りを捧げるアウレーネさん。レイラ・ケルット・ドアンと話し合った結果、俺達は城の2階部分を探索することになった。放っておいたらずっと祈り続けてしまいそうなアウレーネさんを呼ぼうとすると、俺はとある異常を目撃した。
「お〜いアウレーネさん、城の探索を――……ん?」
――死体の山の、その一部。不自然に盛り上がっている。
何だろう。偶然か? そう思って見つめていると、突如として骸の山が崩れ落ち――血肉を被った邪教徒が現れた。
強烈に嫌な予感がした。レイラや村人2人は大広間の外に注目していて、アウレーネさんは祈祷に夢中。敵は、これまでの有象無象とは訳が違うオーラを纏っている。それに、被り物を被っていない邪教徒は初めて見る。この壮年の男性――まさか奴が『ゲルゴロイ様』なのか?
ただの残党ではない。むしろ、アイツこそ
「アウレーネさんっ!」
祈っているアウレーネさんの服を引っ張り、後ろに放り投げる。同時、アウレーネさんが座り込んでいた位置に黒い靄のようなモノが出現した。
――その正体は分からなかったが、強烈な怨念の込められた呪いの類であることは理解できた。
「レイラ! ケルット! ドアン! 『ゲルゴロイ』が居たぞ!」
俺の叫び声を聞いてレイラが戻ってくる。ケルットとドアンは床に倒れたアウレーネさんを後方に引き連れていく。
「よく気付いたなボウズ。だがオレの呪いは貴様の左手を掠めた。5分もしないうちに貴様は死に至るだろう」
「……お前は何者だ?」
「……ゲルゴロイだ」
それだけ言うと、白髪短髪の男は俺に見向きもせず踵を返した。
「これ以上の会話は無意味だな」
「は……?」
ゲルゴロイが大広間の奥の祭壇へと向かっていく中、俺は自分の左腕に強烈な違和感が宿っていることに気付く。
それは、黒い靄だった。
ゲルゴロイの言葉を思い出す。
“5分もしないうちに貴様は死に至る”。
――ウソだろ? その言葉を信じられずに左腕を掴むが、黒い靄は勢いを増しながら俺の手を呑み込んでいく。
「ま――待ちなさいっ!! あたしがそう簡単に敵を逃がすとでも!?」
「辞めておけ。そこのボウズを見ろ……」
「……!? ジーク、左腕が……!?」
「ヤツに呪いをかけた。残りの5分間は、オレと戦うよりも仲間との別れの時間に当てたらどうかな? お嬢さん」
「っ――!」
ゲルゴロイの元に向かおうとしたレイラは、奴の言葉で足を止めてしまう。彼女が迷っている間にもゲルゴロイの背中は離れていく。そして祭壇の奥の扉を押し開いて、男の姿は消えてしまった。
唖然とする後衛の3人。歯を食い縛ったレイラはゲルゴロイを追跡することを諦め、俺の元へと駆け寄ってくる。
「ジーク!! 大丈夫!?」
「あ、あぁ……たぶん……」
「アウレーネ! ジークの呪いを解呪するのよ!」
「あっえっ、は、はいっ!」
左腕の黒い靄は1秒ごとに増大していく。左腕の小指の爪から始まった違和感はたった30秒ほどで手首を覆い尽くし、肘までを巻き込もうとしていた。
ぱくぱくと口を開けるケルット。慌てて解呪の詠唱を始めるアウレーネさん。しかし、詠唱を終えて手を振りかざしても、何の変化も起きない。
「あ、ぅ……で、できない……解呪ができません……」
「っ……!」
首を振りながら涙声で呟くアウレーネさん。ギリギリと歯軋りしたレイラは、呆然とする俺に向き直る。
「……ジーク。落ち着いて聞いてね」
「あ、あぁ……何だ?」
「アンタに残された道はふたつにひとつ。その呪いで死ぬか――左腕ごと呪いを切り離すか。
「……?」
黒い口紅を塗ったレイラの唇から放たれる、切迫した言葉。その言葉はあまりにも非現実的で、俺の頭を右から左に流れていった。
呪いで死ぬ……?
左腕を切り落とす……?
お、俺に……俺に選べと?
こんなの、選択肢なんかじゃない。
生き残るためには、左腕を切り落とすしかないじゃないか。でも……左腕――俺の左腕――何十年も当たり前のように在った左腕が無くなるなんて、考えられない。考えたくもない。
究極の選択肢を突きつけられて、俺は思考回路を停止させてしまう。そんな俺を現実に引き戻したのは、目の色を変えたレイラの行動だった。
「――分かったわ。アンタにこんな選択を押し付けたあたしが悪かった。……
「っ!」
呪いが全身に及ぼうとする中、突然俺を組み伏せるレイラ。レイラは俺をうつ伏せにさせた上で馬乗りになり、呪いの根源たる左腕を地面に押し付けてくる。そして背中に担いだデスサイズを俺の目前に差し出してきた。
あまりにも鋭い刃。妖艶な曲線を描く大鎌の切っ先が、光を反射して鈍く輝く。その刃に、俺の表情が映った。
現実を理解できていない顔。
しかし、レイラはやる時はやる女だと俺は知っている。最善策を選ぶことに長けているからこそ、邪教徒狩りを続けられたのだと知っている。この状況下では、俺を救うための最適解が左腕の切断だっただけ。レイラはあまりにも冷静で、恨むべき対象などではなかった。
そんなことは分かっていた。分かっているけれど……悲痛な声で反対するアウレーネさんやケルット――この2人と敵対しているかのような言動のレイラが、まるで俺達の敵なのだと思えてしまうのだ。
「ま、待ってくださいっ!! そんなことをしたら、傭兵としてのジークさんは――!!」
「そっそうっすよ!! ジークさんの左腕を、きっ、切るなんて、そんな――」
「うるさい――うるさいっ!! ならアンタ達はこの男が死んでも良いの!? あたしは嫌!! 嫌だから言ってるの!!」
「ですが、他に案があるかも――」
「じゃあ今すぐ出しなさい!! 出せないなら邪魔をしないで!! 呪いが広がって
「そ、そんな……ジークさん……」
狼狽えるアウレーネさんとケルット。しかし、アウレーネさんは腰のポーチからすぐさま頑丈なロープを取り出し、止血の用意を始めていた。さすがは天才シスター、最適解が分かってしまうようだ。
「へ、へへ……やるなら一瞬で……い、痛くないよう……に……」
引き攣った笑いが漏れる。本当に腕を切られるのかという焦燥と、経験したことのない絶望のあまり、裏返った感情が高揚していた。
俺は嬉しがっている? 怖いはずなのに期待しているのか? 随分おかしなことになっている。
腕をぶった切られるなんて人生に1度あるかないか。貴重な経験であることは確かだ。でも、本当に? 俺は左腕を本当に切られるのか? 夢――夢じゃないのか? あまりにも信じがたい。あまりにも恐ろしい。奇妙な期待と、今までの人生で味わったことの無い恐怖が膨らむ。
左腕を切断されるという現在の状況も、それからの未来も。
その全てが、死ぬことよりも遥かに怖かった。
何故なんだろう。
腕が無くなるより、死ぬことのほうが、よっぽど怖いはずなのに。
覚悟を決めたケルットに腕と肩を押さえつけられ、服を捲られる。背中の中心と鼻の頭に脂汗が滲む。ドアンが俺の口元に布を差し出し、噛ませてくる。
「わっ……分かってるわよ。ここに連れてきたのはあたし――あたしが一瞬で……痛くないように切り取ってあげるから――」
「わ、あ、あぁ、ぁああ――……」
――俺は、こんな状況でも悦んでいる? それとも『悦んでいる』と自認することによって自分を客観視し、狂気から解き放たれようとしている? 他人事のように、傷つく自分を観察し、安寧を得ようとしている?
全部、ぜんぶ、分からない。恐怖と絶叫で満たされる。
「――ジーク……ごめんっ!!」
レイラの無念そうな声が響く中、左腕の肘の先に衝撃が走る。誰もが目を反らし、涙を流していた。
だけど、俺だけは目を逸らせなかった。心臓は不気味に高鳴っていた。