ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。 作:全智一皆
序章「ただの獣」
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IS―――正式名称《INFINITE STRATOS》 という、女性専用スペース・マルチユニットによって世界は劇的な変化を遂げた。
日本は平和主義であった筈の立場を放棄し、強力な武力を持った強国として列に成り上がった。
世界は、大戦当時のような『男尊女卑』とは真逆の『女尊男卑』という思想が根付き、徐々に男性価値の低下が明らかになってきていた。
「…」
そんな世界で、彼は――「織斑一夏」は、唯一無二の男性操縦者だった。
世界最強のIS操縦者である織斑千冬の実の弟にして世界初の男性操縦者である彼が、IS学園に入学するのは実に必然なことだった。
「あ、あのー…お、織斑くん…?」
考え耽っていた意識が這い上がり、閉じていた瞼を、幕を上げるように、ゆっくりと開く。
眼鏡を掛けた緑色の髪の女性と、周囲の女子生徒達が此方を見つめていた。
先程まで何をしていただろうか、それを思い出そうと、彼は再び瞼を降ろす。
“ネクスト”、“リンクス”、“企業連”―――違う。これは今は関係無い。
「織斑くん! 自己紹介をお願いします!」
女性が叫び、彼は漸く思い出した。
あぁ、そうだ。そうだった。確か、自己紹介をしなければならないのだったか…と。
彼は椅子から立ち上がり、
「織斑一夏。好きなこと、嫌いなことは、特に無い。…以上だ。」
それだけを言って、彼は椅子へと戻った。
「もっと親しく話せんのか、馬鹿者。」
そんな彼の前には―――教板を持った黒髪の女性が、いつの間にか立っていた。
そして、その女性は手に持ったそれを、勢い良く彼の頭へと振り下ろした。
ブンッ! と、風を切る良い音が鳴り―――
「…」
次の瞬間、バンッ! と、壁を強く叩いた時のような派手な音が鳴り響いた。
彼女達は目を開き、その行動を直視した―――彼の姉にして世界最強の女、織斑千冬の一撃を、彼が掌で以て、受け止めて防いだという現実を。
「また防ぎおって…」
「…ごめん。だが、すぐ暴力を振るう姉さんもどうかとは思う。」
「此処では織斑先生だ。タメ口も使うな。分かったか?」
鋭い目付きで、突き刺すように言う実の姉。
彼は彼女の攻撃を防いだ手を引き、「…分かりました。」と、無表情のまま答えた。
「良し。では諸君」
そこからの会話を、彼は聞いていてはいなかった。
何故ならば、話しを聞く事よりも、考えるべき事柄があったからだ。
(…この世界は、とても綺麗だ。)
彼は、織斑一夏では無かった。いや、『存在』自体はちゃんと織斑一夏なのだが、しかしその『存在』を成り立たせる『魂』は、全くの別人なのだ。
かつて、ネクストと呼ばれる動く環境破壊兵器を操り、数多の依頼をこなし、その果てに人類の大半を死滅させた者。
『首輪付き』―――またの名前を、『人類種の天敵』。『最初の黒い鳥』とも。
そんな彼にとって、この世界は、元居た世界よりも実に綺麗だった。
建物は並び、空は青く、海も青い。空気だって、とても新鮮で清いものだ。
だが―――
(闘争だけは、消えてない。)
闘争の火種は、決して消えてなどいなかった。
IS―――それが、それこそが、ネクストに代わり、またも世界を破滅の道へと進めるものであると、破滅と荒廃が繰り返される世界を生きた経験者…即ち彼は、確信していた。
(その時は、また――)
また、人類の大半を死滅させる個人となろう。何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる鳥へと成ろう。
彼は、そう心に決めていた。
人類の手によって、再び闘争が繰り広げられ、世界が破滅へと進むのであれば、世界が滅ぶ前に人類を滅ぼそう―――と。
「ちょっと、よろしくて?」
姉の親友にして、自分の幼馴染の姉にして―――ISの開発者である「篠ノ之束」には悪いが、これもある種の仕事だ。
理不尽に生き、理不尽に死んだ筈の自分が再び闘争が存在する世界に生まれた、役目のようなものだろう。
「ちょっと、聞いてますの?」
此処は綺麗な世界だ。決して腐ってなどいない。壊れてなどいない。
ISが闘争を生み出すのであれば、ISをも破壊しよう。
誰もが邪魔をするならば、誰もを殺し、何もかも焼き尽くす。前の通りに、いつもやっていたように、ただ仕事をこなすだけだ。
例え壁が姉であろうと、幼馴染であろうと、関係無く―――ただ、好きに生きて、好きに死ねば、それで充分だろう。
「ちょっと!」
独白が止まり、暗かった視界に光が差し込む。
既に姉と教師は居らず、気が付けば眼の前には、不機嫌を包み隠さず顕にしていた金髪碧眼の少女が映り込んでいた。
「…セシリア・オルコットか。」
見覚えがある顔だった。
記憶を探ってみれば、案外早く答えは出てきた。
イギリスのIS操縦者代表、その候補者―――「セシリア・オルコット」だった。
「ようやく目を向けましたね…」
「すまない。考え事に耽っていた。それで、俺に何か用か?」
「まぁ、なんて礼儀の成っていない聞き方。やはり極東は皆こうなのですか?」
いやだいやだ、といった風に口をきくセシリア。
大方の者は不快感を得るか、もしくは言い返すかのどちらかを選ぶだろう。
だが、彼はそうではなかった。
「そうか。それで、何の用だ?」
ただ流し、何かを変える訳でもなく再び問い掛けたのだ。
不快感を表す訳でも、言い返す訳でもなく、ただ無表情のまま、再び同じ問を投げただけだった。
(な、なんですの、この人…)
セシリアは、面食らった。
嫌味を言ったにも関わらず、特に何か言い返す訳でもなく、ただ無表情のまま同じ問を投げてきた彼に、セシリアは絶句した。
ここまで無表情になれるものか? ここまで何も感じずにいられるものか?
人間である筈なのに、しかし眼の前の男が人間であると、セシリアは思えなくなっていた。
「…何も用は無いのか?」
既に瞼を降ろし掛けながら、彼は絶句するセシリアへと用は無いのか? と、確認する。
「ちょっと! また耽らないでください!」
「特に用は無いんだろ?」
「有ります! ちゃんと有りますから!」
「あと少しで休み時間は終わるが、問題無いか?」
「えっ!?」
彼の言葉を聞き、すぐに時計の方へと首を向ければ、確かに彼の言う通り、あと少しで休み時間が終わる頃合いだ。
「っっっ――! ま、また後で来ますわ!」
「あぁ。」
恥ずかしそうにしながら、セシリアは自分の席へと戻って行く。
そして、彼はまた深く考え込むのだった。