ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。 作:全智一皆
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教室内で壮絶な戦いを繰り広げた首輪付きとラウラ・ボーデヴィッヒは、織斑千冬から数枚の反省文提出を要求される事となってしまった。
報告書の作成は全てオペレーターに任せていた首輪付きにとって、反省文を書く事は初めての体験だった。
ある意味、新鮮ではあった。前世においては、例えどれだけ人を殺したとしても、依頼だからの一言で片付ける事が出来たのだから。
オペレーターである彼女が作成していた報告書も、《企業連》に属していた時はその殆どが周囲の環境被害などではなく、ネクストのフレームや武装に関する事ばかりだった。
故に、自身の行いを反省し改める事を自ら記す『反省文』という書類作成は、首輪付きにとって実に新鮮なものだった。
「織斑くん、ちょっと良いかな?」
首輪付きが言葉を選びながら反省文にペンを走らせていると、聞き覚えのない声で呼び掛けられた。
顔を上げてみれば、机の前には転入してきたばかりの男子生徒「シャルル・デュノア」が居た。
「デュノアか。どうした?」
「そろそろIS授業の時間だよ。着替室に行かないと、遅れちゃうよ?」
首輪付きは視線を時計に映し、その言葉が事実である事を確認し、「そうか。ありがとう」と短く礼を言い、ペンを置いて立ち上がる。
「なら急いだ方が良いな。」
「え、どうして?」
「ほぼ女子しかいないこの学園に、男子専用の着替室なんてものは無い。つまり、遅れれば俺達が着替える時間は極端に狭まる。」そうなった場合、女子から黄色い声が上がる。
首輪付きは教室のドアをスライドし、廊下へと顔を出す。すると、廊下には―――
『………………………』
二人が出るのを今か今かと待ち続けているクラスメイト達が居た。
まるで、飢えた獣のような目付きだ。
首輪付きはすぐに顔を引き戻し、思考を巡らせる。
相手は人の群れ。波のように広く、蜘蛛の巣のように絡まる人間網。
ISで突破する事は出来ない。何せ、今はISが使えないのだから。
シャルルを置いて先に行く? 方法としては有りだが、態々教えてくれた彼を置いて行くのは気が引ける。
「……デュノア、少し失礼するぞ。」
「へ?」
首輪付きはシャルルの首の後ろと膝の後ろへと手をやり、力を込めて抱え上げた。
戸惑うシャルルを他所にし、首輪付きは小さく息を吐いて―――
「ッ!」
即座に、教室から廊下へと抜け、真反対の方向へと駆け出した。
『お姫様抱っこ!?』
黄色い歓声が上げられたが、しかし首輪付きはそれを無視して廊下を駆ける。
数段以上も有る階段を飛び、衝撃を殺すように心掛けて着地する。自分ではなく、シャルルに衝撃が行かないように。
「逆回りで更衣室に辿り着く。更に飛ばすから、しっかりと捕まっていろ。」
「う、うん…」
速度が増す。今よりも、更に加速する。
風が二人を叩く。頬を、顔を、強く叩く。
首輪付きに羞恥は無い。幼い頃から、というよりは前世から。
戦いに明け暮れた人間の精神に、そのような感情は存在していない。
ただ生きるか死ぬかの境目を渡ってきた傭兵に、ソレは不要なものであったが故に。
対して、彼は少しばかり気恥ずかしいようだった。いや、これこそが普通の反応なのだろう。
だが、そんな事を気にしているのも束の間だった。
シャルルが気付いた時には、既に更衣室は眼の前だったのだ。
「着いたな。さっさと着替えるぞ。」
「う、うん。そうしよっか。」
□ □
IS学園のグラウンドにて。
首輪付きはISを纏う事もなく、他の生徒達を置き去りにして外周を走っていた。
ISを使っての授業は、ISを使う以前にまず準備運動から始まる。これはISの授業というよりは、そもそもとして何かしらの運動をする際に必ず行う事だ。
準備体操をした後に外周を走り、その後にISの訓練。これが基本だ。
それを、首輪付きは他の生徒達を軽く追い越して走っていた。
「くっ…! 速いな、織斑一夏…!」
だが、ラウラ・ボーデヴィッヒだけは、そんな首輪付きに食らい付いていた。
特殊部隊の人間という事もあって、ラウラの体力はそこらの人間に比べてみれば圧倒的な差が有る。
だが、そんなラウラですらも追い付くだけで追い越す事が出来ないのは、ひとえに首輪付きの体力が桁外れであるが故。
これは首輪付きが、ネクストを駆るリンクスであったからではない。
首輪付き―――より正確に言うならば、首輪付きの魂が宿った依代である「織斑一夏」の特性だ。
「…流石は現役の軍人だな。正直、付いて来れるとは思っていなかった。」
外周を終わらせ、平然とした態度でラウラに賞賛を掛ける首輪付き。
それに対して、首輪付きを追い越そうと体力を消耗してしまった為に息を切らしていたラウラは、
「はぁ、はぁ…慰めなど、いらん…! はぁ、はぁ…」と、鋭い目を向けて言い放った。
恐らく、慰めに聞こえたのだろう。もしくは、その言葉に煽りを見出したのか。
だが、どちらも不正解である。
「何を慰める。俺はただ、正直にお前の実力を評しただけだ。」
「はぁ…はぁ…。ふん、貴様なぞに褒められたところで、何とも思わん。」
息を整え、ふんとそっぽを向くラウラ。
そんな彼女に対して、首輪付きは、
「そうか。」
とだけ言って流し、すぐにISである「影打」を装着し始めた。
「チッ…よく分からん奴だ。」
舌を打ち、皮肉も罵倒も通じない首輪付きをよく分からないと言って、ラウラもまたISを装着したのだった。
先の褒め言葉が、織斑一夏として生きる首輪付きのものではなく、一人の傭兵としての言葉である事に気付く事もなく。