ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。 作:全智一皆
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IS学園、アリーナ会場にて。
「フッ!」
「っ! そこ!」
其処では、二機のISが互いの力を高める為に訓練していた。
鳳鈴音とセシリア・オルコット。
中国の代表候補生とイギリスの代表候補生という繋がりを持った二人だが、それとは別にもう一つの繋がりがあった。
(まだ…!)
(まだですわ…!)
(これでは、アイツ/彼に追いつけない…!)
二人は、奇しくもというべきか必然的と言うべきか、織斑一夏という存在と戦ったという繋がりがあった。
鈴の方は戦いこそすれ、決着が着いたという訳ではないが、セシリアの方は完膚なき敗北を味わった。
とはいえ、鈴も彼との戦闘を経験し、彼が代表候補生である自分よりも先に行っている事を嫌でも分からされた。
実戦経験、技術、判断力。それら全てにおいて、織斑一夏は彼女達の上を行っていた。
ISに触れて数年も碌に経ってないにも関わらず、彼は十分以上に強かった。
彼女達は、そんな彼に並ぶ為に互いを高め合っているのだ。
「甘いわ!」
ブルー・ティアーズが持つビームライフルから放たれた光線を、鈴が駆る甲龍はひらりと躱す。
甲龍の戦法はたった一つ―――とにかく、近付く事。
ブルー・ティアーズの武装は飾らずに言ってしまえば、どう考えても近距離戦には向いていない。
中距離や遠距離での戦闘を想定したブルー・ティアーズには、インターセプターというショートソードが有りはするが実戦的な代物ではない。
そもそも、搭乗者であるセシリアが射撃戦を主としている為に滅多に使用する事がないのだ。
故に、仕掛けるのは接近戦。距離を詰めて詰めて、斬り捨てる。それが、最も楽な攻略法だ。
だが、楽ではあれ簡単ではない。セシリアも自分の弱点を理解して立ち回っているからこそ、鈴が簡単に懐に入り込めていない。
そして―――そんな二人の戦いを、首輪付きはラウラと並んで見ていた。
「及第点と言うべきか。まだ身のこなしが甘いが、自らの武器を把握して隙無く戦っている。特に、鳳鈴音。奴の戦い方は貴様に似ている」
「…おそらく無意識だろう。鈴の中では、接近戦と言えば俺という認識がそうさせているだけだ」
「ブレードのみの欠陥機、だったか。自らそんな機体を選ぶとは…マゾヒストか何かか、貴様?」
「人を変態の様に言うな。変態と呼ばれるのは、ソルディオス・オービットだけで十分だ」
思い出したくもない…と、苦い思い出を振り返って顔を歪ませる。
ソルディオス・オービット。アクアビット及びGAEが建造した巨大兵器ソルディオスの砲塔部分を自律浮遊兵器に改修したもの。
単独での飛行が可能な上、高威力のコジマキャノンを少ないチャージ時間で連発する…だけでなく、クイックブーストやアサルトアーマーすら搭載しているというコジマ技術の塊だ。
有澤重工の雷電曰く―――『面妖な、変態技術者ども』。
全く以てその通りである。
「そる…? 何だ、それは」
「比喩でもなんでもなく、浮ぶ砲塔。環境汚染物質を垂れ流す、変態技術の塊だ」
「…それ以上は聞かないでおく」
「賢明な判断だ。あれは相手するだけで疲れる…と、そろそろか」
おもむろにアリーナの席から立ち上がり、首輪付きは欠陥機である黒鉄が置かれているIS待機室へと向かう。
セシリアと鈴の戦いは、あと少しで終わる。それを確信し、その勝敗を確かめる事もなく首輪付きはアリーナから去って行った。
その場に一人残ったラウラは、その首輪付きの背中を睨む様に眺めながら教室での言葉を反復する。
「国家の犬にさせるくらいなら、喜んで手を汚す…か。あれではまるで、自分が国家の犬だったかの様だが…」
織斑一夏は言った。自分の姉を国家の犬にさせるくらいならば、例え姉の名誉を汚す事になろうと自らの手を汚すと。
まるで、元は自分が国家の犬であったかの様な発言に、ラウラは疑問を抱いていた。
それ以前に、彼は戦場を経験したとも言っていた。だが、それはやはりおかしいと、ラウラは考える。
色々と噛み合わないのだ。織斑一夏が戦場を経験しているという事にも、国家の犬であった可能性にも。
仮に、織斑一夏という少年が幼い頃から国に雇われ、戦場を渡り歩いていたとしよう。
そうすれば、彼に戦場での経験がある事にも頷けるだろう。実力がある事にも納得がいく。
だが、残念ながらこの仮説はNOだ。絶対に有り得ない。
もしもそうならば、世界に名を轟かせていた筈だ。中学生にも満たない子供が、兵器溢れる戦場で活躍していたならば、必ず名が上がる。
だが、そんな存在の名は一度も聞いた事がない。戦場で活躍したならば、否応なく名は残るものであるにも関わらず。
そうして、考えに考えを重ねていくと―――どうやっても、非現実的で空想的な結論に辿り着く。
「“
それが間違いではない事に、ラウラは最後の最後まで気付く事はなかった。
それから少しの時間が空いた後、アリーナで対峙しているのは変わらず鈴とセシリア―――では、なく。
ブレードのみしか扱えない欠陥機の打鉄『黒鉄』を身に纏う首輪付きと、ドイツの第三世代IS『シュヴァルツェア・レーゲン』を身に纏うラウラだった。
「やはり私は、貴様を許せん。此処で貴様を倒す」
「…それでお前の気が済むのであれば、そうしろ。殺しているんだ、殺されもするさ」
「……」
やはりコイツは、人を殺めた事があるのか。
戦場を経験して、そこで殺人すら犯した事があるのか。
なら尚の事―――怒りが収まらない。
それだけの事が出来るのなら―――もっと最善の方法を実行出来た筈だろう…!
「行くぞ、織斑一夏!」
「…言葉など不要だろ」
先に仕掛けたのはラウラだった―――が、首輪付きはそれを追い越した。
瞬間加速を用い、首輪付きと黒鉄は一瞬でラウラの懐へと入り込み、その刃をラウラ本人へと振るったのだ。
絶対防御という機能がある為、その刃がラウラを斬り裂く事は決してない。
だが、それでも驚愕と僅かな恐怖は湧き上がる。
此奴は本気だ。殺す気で挑んでいる―――この戦いを『殺し合い』だと認識している。
「くっ…! なめるなぁ!」
「……」
両腕から展開されたプラズマ状のブレードが、虫を振り払う様に薙き、首輪付きを襲う。
早い。だが、避ける意味すらない。
そう判断した首輪付きは、自身に振るわれたブレードを左手であっさりと受け止めてみせた。
だが、襲い掛かる刃はそれだけではない。首輪付きを斬り裂かんとする刃はまだ、右からも迫っている。
が―――それが首輪付きに当たるよりも、首輪付きの蹴りの方が早い。
右脚を振り上げ、首輪付きはシュヴァルツェア・レーゲンの顔面へと容赦なく強い蹴りを叩き込んだ。
ガンッ…! と、鈍い音と共にシュヴァルツェアが吹き飛ぶ。
が、流石は軍人と言うべきか。吹き飛ばされた瞬間に態勢を立て直し、ラウラは先程よりも速く首輪付きへと襲い掛かる。
先程よりも速いその突撃を、しかし首輪付きは躱す事もなく真正面から迎え撃つ様に、ブレードを構えた。
剣が来る。刃で返し、勢いに乗じてその腕を斬る。
ワイヤーに繋がれた剣が来る。剣を弾き、ワイヤーを掴んで肩を斬る。
瞬速の剣を、数多の武器を、一本の剣で丁寧に捌き、受け流しながら、針に糸を通す様に小さな攻撃を何度も繰り返す。
(ワイヤーブレード…随分と効率が悪い武装だな。掴まれたら意味もない)
「くっ…!」
傍から見れば、織斑一夏は防戦一方。ラウラが優勢に見えるのだろう。
だが、実際は少し違う。ラウラが攻めてこそいるものの、追い詰められているのはラウラの方だ。
攻撃は全て受け流され、カウンターでエネルギーも少しずつ削られていく。
少しずつ、しかし確実に、ラウラは焦燥していた。このままでは負ける…と。
「……」
対して、首輪付きは無表情だった。
この戦いにも、目の前の敵にも、何かを思う事もなく、ただ静かだった。
戦いに言葉は不要。戦場で言葉など、意味をなさない。
嫉妬から来る恨み。恨みから来る憎悪。それらをラウラから向けられても、しかし首輪付きは何とも思わなかった。
恨みも、憎悪も、既に慣れていた。仇討ちも全て―――知っていた。
傭兵だから、恨みは買う。金に雇われ、任務のままに全てを壊す。
騙される事もあった。だが、その度に敵を殺してきた。
恩師に泥を塗った事がない訳ではない。寧ろ、最初の頃は幾度も『彼女』に迷惑を掛けた筈だ。
彼女の怒りは尤もだ。理解は出来る。だが―――それは今、この戦場には必要ない。
「…!」
大きく弾き返し、剣を振り翳した瞬間―――黒鉄が止まった。
「AIC、起動!」
「…これは」
AIC。ISのPICを応用した、シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵器。
指定した範囲に触れた物体の動きを強制的に停止させるという、一対一では無類の強さを発揮する兵器だ。
黒鉄の動きは完全に停止した。首輪付きはもう動けない。
「終われ、織斑一夏!」
右肩部に備わった大型のレールカノンの砲塔が、黒鉄を捉える。
だが、首輪付きは焦る事も驚く事もなく―――いつも通りの無表情で、それを受け入れた。
ドォンッッッッ――――――と、閃光が黒鉄を容赦なく殴り飛ばし、黒鉄は投げられたボールの様に呆気なく壁側へと叩き付けられた。
「はぁ、はぁ…」
AICを停止させ、ラウラは肩を上下させながら息を整える。
勝ったのか…? 私は、織斑一夏に勝ったのか?
歓喜が湧いたその直後―――ブースターの快音が鳴った。
黒い影が、目にも止まらぬ捷さでラウラを通り過ぎ、その背後を取る。
疑似オーバード・ブースト。ISのエネルギー量からすれば、二回も使えばエネルギー切れになる程の消費量となるが、そのメリットとして音速にも達する速度を得られるブースト。
本来ならばネクストに備わっているシステムを―――首輪付きは使って、背後を取った。
「―――」
銀色の剣が、黒い雨を振り切った。