ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。   作:全智一皆

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第一話「躊躇知らず」

 

■  ■

 クラスの代表を決める。そんな事をしなければならない。

 姉である千冬の、誰を推薦するかという言葉を聞けば、その場の誰もが彼、織斑一夏を推薦した。

 だが、推薦された当人は特にその意味を理解していなかったし、そもそも推薦されようと代表になるつもりなどなかった。

 代表になったとして、得られるものが有るのかを考えてみても、そんなものは一切無く、彼にとっては面倒臭いものでしかなかったのだ。

「ちょっとお待ち下さい!」

 すると、セシリアが立ち上がり、その決め方に異議を申し立てた。

「そのような決め方、いえ、そもそも男をクラスの代表にするなんて納得がいきませんわ!」

「…そうだな。」

「えぇ、その通…え?」

 セシリアへと向けられていた全員の視線が、再び彼へと変わる。

 今、彼はなんと言った? そうだな、と言ったか?

 自分が代表になる、いや、そもそもとして『男性が代表になる事は可笑しい』という女尊男卑の意見を、肯定したのか?

「俺はISを扱った事が無い。謂わば初心者だ。そんな俺よりも、代表候補生であるセシリア・オルコットが代表を務めた方が、理に適っている筈だ。」

 淡々と、彼は理由を述べていく。

 自分は、ISなど碌に扱った事が無い初心者であり、そんな未熟者の自分が代表を務めるのは可笑しいのではないか、と。

 自分のような初心者なんかが代表を務めるよりも、イギリスという国家の代表、その候補生の一人である彼女――セシリア・オルコットが代表を務めた方が理に適っている、と。

 それは実に一般的で、それでいて的を射抜いた結論だった。

 前世でネクストという環境破壊兵器を扱ってきた彼にとって、ISという物は理解出来ない代物だ。

 そもそもとして動かした事すらないのに、そんな自分が代表など務められる訳も無し。

 しかも推薦理由が男だから、とか珍しいから、とかそんな理由ならば、尚更、代表になんて成れる訳がない。

「という事で、俺はオルコットを推薦する。」

 彼の意見に、騒いでいた全員が押し黙った。

 それは、彼の意見は正しいものであったからに他ならなかった。

 それを見た彼は、良かった、これで自分が代表にならずに済む。と、心の中で安堵していた。

 だが、

「ふむ…では、決闘で決めれば良い。」

 と、非情の言葉が放たれた。

 自分の正しい意見により、セシリアが代表で決定。そう思っていた彼の思惑は、姉の言葉によって呆気なく崩れ去った。

 決闘。即ち、闘争だ。

「本当にオルコットの方が上なのか。それを確認する事も出来るだろう。」

「…織斑先生。お言葉ですが、代表候補生である私よりも、彼の方が上の可能性がある、と?」

 聴き逃がせないといった彼女の言葉に、しかし千冬は堂々と「有る。無論、身内贔屓を抜いて、だ。」と、断言した。

「一週間後、オルコットと織斑で決闘を行い、勝った方をクラスの代表とする。」

 そんな彼女の言葉と共に、学園のチャイムが教室に鳴り響く。

 丁度いいタイミングで、今回の授業は終了。各自、寮の部屋へと戻る事となるのだった。

「…」

 心の底から、うんざりとしたように彼は肩をすくめた。

 だが、ISを使っての戦闘を行う事が出来るというのは、彼にとってもありがたい事ではあった。

 ノーマルでもネクストでもない、未知の兵器―――「インフィニット・ストラトス」。

 未だ扱った事がないその兵器を扱い、知る知識で言うところの、カラードに属するリンクスとの戦闘をしなければならないという、その現実には―――かつての理不尽さを、彷彿とさせた。

「一夏」

 聞き慣れた声で、名を呼ばれる。

 振り向けば、其処には自分の幼馴染にして、姉の親友の妹である「篠ノ之箒」が、心配するような表情をして立っていた。

「箒か。どうした。」

「いや、難しそうな表情をしていたからな…やはり、緊張しているのか?」

 緊張している、というのは、恐らくセシリア・オルコットとの決闘について、だろう。

 緊張、緊張…いや、無いか。

「緊張は、していない。ただ、不安ではある。」

「不安?」

「あぁ―――」誤って、仕留めてしまわないか。それが不安だ。

 経験が無いのは、あくまでも『IS』を使っての戦闘、である。それ以前として、彼はアーマード・コア『ネクスト』を駆けていた『リンクス』であり、史上最も多くの人命を奪った個人である。

 実力差? そんなものは天と地の差だ。空で何億もの人間を殺したのは、他ならぬ彼自身なのだから。

「そ、そうか…」

 そんな彼の言葉に、箒は若干戸惑いながらも、「…だが、確かに、そうかもな。」と、同意するように言った。

 彼女は幼い頃から、織斑一夏という人間の『強さ』を知っている。

 転んでも、叩かれても、一夏は表情を変えることは無く、また泣くことすらも無かった。

 それらを含めて、織斑一夏は子供とは思えぬ程に、強かった。

 小学生の時、箒が数人の同級生にいじめられていた時、一夏は真っ先に駆け付け―――

 表情を変えることなく、そして容赦無く、リーダー的存在の顔面へと拳を振り抜いたのだ。

 リーダーが吹き飛ばされ、他の子供が唖然としている間にも、一夏は動き出した。

 一人は足を払われ、態勢を崩して地面に倒れた。

 一人は腹に膝蹴りを喰らい、苦しそうにしながら倒れた。

 一人は喉を掴まれて押し倒された。

 一夏は、小学生の時から、まるで“数多の戦場を渡り歩いた歴戦の軍人”のような、確かな強さを持っていた。

「だが、油断はするなよ。相手は代表候補生、それに専用機持ちだ。」

「…そうだな。」

 油断は、禁物だ。

 戦場において、僅かな油断は死を招く。一瞬たりとも、油断なぞ許されない。

「…専用機、か。」

 きっと、いや恐らく―――“彼女”が、関わっているのだろうな。

 

□  □

「あ、織斑くん。」

 家に帰ろうと廊下を歩いていれば、クラスの副担当である「山田真耶」が、彼の元へと近付いてきた。

「丁度良かった。実は、織斑くんの寮部屋についてなんですが…」

「…部屋に空きが無いから、暫くは家から通う事となっていた筈だが。」

 IS学園は寮制であり、それには情報漏洩を防ぐ為という目的も含まれている。

 今の世界にとって、ISというのは強大な兵器に他ならず、それ以外の物として判断する人間は数少ない。

 それこそ初期の段階、『宇宙へ進む為』という夢を理解している人間は、指で数えても少ないだろう。

 彼はその数少ない人間の一人であり、それ故に寮制も受け入れるつもりでいた。

 だが、寮には空き部屋がもう無いらしい。だから暫くは家から通う、という手筈になっていたのだが。

「はい、その通りだったのですが…やはり、情報漏洩防止の為、同室という形で寮に入ってもらう事になります。」

「…監視の意味を含めて、か。」

 徹底的だな、と思いながら、彼は呟いた。

「え!? い、いえ、そういう訳じゃないですよ!?」

 その呟きが聞こえたのか、山田真耶は慌てながら、監視といった意味が含まれているという訳ではない、と否定する。

 そんな彼女の反応に、彼は首を傾げた。何をそんなに慌てているのか、という点もそうだが、監視の意味合い以外に何があるんだ? といった疑問を抱いたのだ。

「私は、その、織斑くんが無闇矢鱈に他の人に情報をバラす事はしないって信じてますよ?」

「ほぼ初対面の人間を信用するのも、それはそれでどうかと思うが…」

 彼女の言葉に、彼は若干の戸惑いと呆れを覚えた。

 何故、ほぼ初対面の人間に対して信用しているなどと言えるのか。この人は、随分と人が良いらしい。

 自分であれば、初対面の人間を信用したりなどしない。傭兵の世界で、他者を信用するのは難しいものだと知っているから。

「そ、そうですか?」

 しかし彼女にとっては、それがよく分からないようだ。

「副担当を困らせるな、馬鹿者」

 いつの間にか背後に立っていた実姉が、そう言いながら手を振り上げたのを察知する。

 もはや、これも慣れたものだ。

 手を振り上げ、その掌を自身の脳天へと振り下ろす、強い一撃を見舞うのを先読みし、彼は彼女が手を振り下ろした瞬間に動き出して一撃を回避する。

 左足で彼女の右足を抑え、右手で振り下ろされた彼女の手首を抑え込んだ。

「…相変わらず、馬鹿げた身体能力だな、お前は。」

 敵わないよ、といった表情を浮かべながら、降参だ、と彼女は左手を上げる。所謂、ホールドアップだ。

 足を退け、抑え込んでいた右手を開放し、彼は後ろへと身を引いた。

 だが、決して間合いからは外れなかった。

「…すまない、姉さん。また反射で」

「タメ口を利くな。それと、織斑先生だ。」

「…はい。すみません、織斑先生。」

 未だ、敬語には慣れない。

 そもそも、前世の事も付加するならば精神年齢的にも肉体年齢的にも彼の方が年上である。

 まぁ、それは特に気にする事でもないか。

「お前の荷物は、簡単に私が纏めておいた。今頃は部屋に届いている筈だ。」

「ありがとう…ございます。」

「良し。部屋の番号は…」

 部屋の番号、荷物、その他の説明を受け、彼は「失礼します」と言って礼をし、寮へと向かって行った。

「あ、あの、織斑先生…」

「ん? なんだ、山田くん。」

「えっと、こういう質問をするのは、失礼な気もするんですけど…織斑くんって、本当に学生なんですか?」

 山田の質問に対して、千冬は「あぁ…」と、遠い目をした。

 よくされたよ、その質問。小学校から中学校に至るまで、何度もされた。

「さっきの、織斑先生の攻撃を先読みしたり、織斑先生を抑え込んだり…正直、私には織斑くんが学生には見えなくて…」

「…まぁ、そうだな。そこは、私にも分からない。姉として、こんな事は言うべきではないのだが…」

 

 一夏は、普通の人間ではないのは、確かな事だ。

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