ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。   作:全智一皆

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織斑一夏はホワイト・グリントを我が物とし、望まぬ決戦の場へと駆ける。
そこで行われたのは決闘などではなく、ただただ一瞬の蹂躙に過ぎなかった。


第三話「白き閃光」

 

■  ■

 我が身にかつての強敵を身に纏うとは、何たる皮肉だろうか。

 そんな思いに浸りながら、織斑一夏は―――否、『人類種の天敵』首輪付きは、セシリア・オルコットが待つ戦場へと駆けた。

 晴れた空、現れた白い機体に騒ぐ観客達。

「全身装甲!?」

「綺麗…」

 白で統一された流線形のフレームが特徴的なIS―――名を白式改め、『ホワイト・グリント』。

 かつて、カラードランク1のリンクスであるオッツダルヴァと共に戦い、尚も苦戦した最強のネクスト。

 それが、この世界においては自分の武器となるとは。そんな事は、想像もしていなかった。

「全身装甲…いったい、何処からそんなISが…」

「…さぁな。」

 ISの中でも実に珍しい『全身装甲』ホワイト・グリントに驚くセシリアに、首輪付きは素っ気なく、そして曖昧な答えで返す。

 だが、それも当然だ。

 何故なら首輪付き自身も、何故、自分のISがホワイト・グリントに変化したのかはさっぱり分からないのだ。

 触れた瞬間に光に包まれ、目を開けば見知らぬ空間。独白の後に、ホワイト・グリントの『アサルト・アーマー』に包み込まれたと思えば場所は戻っていて、しかし白式はホワイト・グリントに変わっていて。

 何が起きたのか、何故こうなったのかは、全く理解出来ない。

 だが、今はそんな事を気にする必要も無い。

「遅れてすまないな―――もう、言葉は不要だ。」

 その瞬間―――周囲の空気が一変した。

 騒いでいた観客、その全員は静まり、空気そのものがまるで重りのように重たくなり、その場に居る誰もに謎の緊張が迸っていた。

 ブルッ…と、セシリアの体が震えた。

 突き刺すような殺意と敵意―――“本気で掛からなければ、お前は死ぬぞ”と言われたような、そんな気がした。

「見せてみろ、お前の力を―――」

 白翼が開く。

 V字に近かった翼から数多のブースターが姿を表し、更に展開してX状に近いものとなって―――

 ブォォォンッッッッッッ!!!!!!!!!!

 もはや高速戦闘機のものと変わらない、もしかすればそれ以上かもしれない程の轟音を撒き散らし、白き閃光は“1200 km/h”という馬鹿げた速度で、ブルー・ティアーズへと接近した。

「な、はやっ――!」

 常人であれば、視覚で捉えることすら困難な圧倒的スピードでの突撃に、軍人でもない彼女が反応できる理由も無し。

 防御は勿論、回避など論外。捉えることすらままならない。

 クイック・ブースト―――コジマ技術を応用した瞬間的超加速技術であるそれは、ネクストが使用すれば瞬間的ではあるが、時速1000kmなど軽く越える。

 そんなスピードで突撃されればどうなるかなど―――想像するのは実に容易い。

「…」

 一瞬にしてブルー・ティアーズの眼前にまで迫った首輪付きは、その右脚を振り上げ、ブルー・ティアーズの体へと勢いよく蹴りを放つ。

 ガァンッッッ!!!! と、鈍い轟音と共にブルー・ティアーズが物凄い勢いで、フィールドの壁側へと強く打ち付けられる。

 時速1000kmを越えた速度の勢いが乗った蹴りを喰らえば、幾らシールドが貼られていようともISも、その搭乗者も只では済まないだろう。

「…」

「くっ、うぅ…」

 ISには、操縦者を守る為に『シールドエネルギー』というものが存在し、それがゼロになるか、もしくはそれを突破する程の攻撃力であれば操縦者本人に直接的なダメージを与える事が出来る。

 更には絶対防御という、エネルギーを多く消耗するものの操縦者の死亡を防ぐ能力すらもが備わっている。

 だが、考えてみれば。

 超加速による脚撃は、ISのシールドを破壊してセシリア・オルコットそのものへとダメージを与えた。

 シールドを突破する程の攻撃によってエネルギーは減少し、音速に達した一撃が操縦者に加われば死亡は免れない為に絶対防御も使用された。

 であれば、今のブルー・ティアーズはどうか?

 答えは簡単―――瀕死寸前である。

「…」

 だが―――見逃す訳には、いくまい。

 右手に持ったアサルトライフルの銃口を彼女へと向け、首輪付きは地に落ちた彼女を見下ろす。

 呆気ない―――あまりにも、呆気ない。

 いや、違う。そうじゃない。

(これはネクストじゃない。ISだ。コジマ粒子は無いし、何よりAMSが無いんだぞ。なのに、何故クイック・ブーストを使う事が出来た?)

 自分が行った事が不可解であり、不可思議な事であった事を認識した首輪付きは、銃口を彼女に向けたまま思考する。

 ネクストを操作し、数多のネクストを撃墜してきたのは、彼の技術もそうだが、ネクストに備わったコジマ技術やAMSによるものが大きい。

 AMS―――それは、ネクストに備わったマシン・生体制御システム。

 脳と機械の制御装置を接続し、操作を思考によって行う非常に高速かつ精密な機体制御が可能となっている。

 クイックブーストもコジマジェネレータの莫大なエネルギー供給だけでは実現不可能で、このAMSがあって初めて使用する事が出来る技術だ。

 そうであるにも関わらず、しかし彼はクイック・ブーストを行う事が出来た。

 これはホワイト・グリントの姿をしてはいるが、ISだ。決してネクストなどではない。

 ISには『瞬時加速』という技術が確かにあるが、『瞬時加速』は軌道が直線のみなのだ。

 故に、先のは違う。瞬時加速ではない。

 となれば、残る答えはクイック・ブーストのみなのだが、AMSが無いにも関わらず、何故クイック・ブーストを使う事が出来た?

(まさか、中身まで変化したとでも言うのか? 有り得ない…だが、もしそうなのだとしたら…)

 コジマ粒子によるコジマ汚染の可能性も、低くはない。

「なら、手早く済ませた方が」

「まだ、終わっていません…!」

 思考が、停止する。

 青い銃口が、此方へと向けられている。

 思考に耽っていた所為で、彼女の動向へ割いていた意識が無くなっていた。

 何たる失態だ。最悪の可能性を恐れたがあまり、失念していた…!

 何より、甘く見ていた。存外、彼女がしつこかったのだ。

(と言っても、この一撃でブルー・ティアーズはエネルギー切れになってしまいますが…けれど、代表候補生として、そして男に、一撃も当てれないまま終わらせるなんて出来ませんわ…!)

 青い閃光が、首輪付きの方へと真っ直ぐに飛んでいく。

 回避は出来る。だが、中身までも入れ替わっているならば、コジマ汚染の可能性が出てくる。

 受ける? だが、中身が変わっているとするならば、このまま攻撃を受けたとしても最悪プライマル・アーマーが発動してしまう。

 

(―――仕方ない、か。)

 思考を切り替える。

 迷いは必要無い。迷えば敗れる。

 周囲を気にしてばかりでは、勝てる戦いも勝つことは出来ない。

 綺麗な世界を汚す事は忍びないが、仕方無い。

 何より―――相手は、ただの「敵」だ。遠慮する必要など、無い。

「―――」

 体が開く。

 翡翠色の粒子が、世界を汚す。

 

 

翡翠の爆発が、雫を消し去った。

 

□  □

「説明しろ、あれは一体なんだ!?」

 学園の屋上で、女性の怒鳴り声が響き渡る。

 怒鳴られている相手は電話越し。しかし、その怒鳴りはまるで眼の前に居るのではないかと錯覚させてしまう程の気魄があった。

『そ、そんなに怒鳴らないでよー、“ちーちゃん”。私にも、あれが何なのかさっぱり分からないんだって!』

「分からないだと!? アレを作ったのはお前だろうが!」

『そうだけど、本当に分からないんだって! あれは「白騎士」のコアを流用して、確かにいっくんに合ったISに仕上げたけど、それが全身装甲で、尚且つISとはかけ離れた性能を持ったものになるなんて…束さん、考えてもなかったんだよ!?』

 そう。

 怒鳴ったのは織斑千冬、そして怒鳴られたのはISの生みの親である「篠ノ之束」である。

 セシリア・オルコットは重体となり、彼女を怪我させた当人である織斑一夏には、学園側から専用機の使用禁止命令が下された。

 一夏の専用機を作ったのが束であると知っていた千冬は、その事を束に問い詰めていたのだ。

 だが、その束ですら、ISの創造者である『天災』篠ノ之束ですら、アレは予想すらしていなかったのだと言う。

『あれは本当に想像外なんだよ、ちーちゃん。束さんも、あんなの初めて見たよ。』

「…お前ですら見たことが無いものだった、というと…」

『うん。あれは正しく「イレギュラー」―――天災である私の想像を遥かに越えた代物だね。事実、もうコアに干渉が出来なくなってる。あれはもう、束さんのものじゃなくて、いっくんの物になってる。』

「…一夏は、どうなる?」

 千冬の声は、少しばかり震えていた。

 束ですら把握する事が出来ない現実。イレギュラーな事象―――そんなものを直接操ったとなれば、織斑一夏の処遇は優しいものではない。

 一夏の処遇、その想像など、実に容易いことだった。

『優しくて監禁生活、最悪の場合は実験体かな。勿論、白式も回収されるだろうね。』

「……そうか。」

『で・も! そこらへんはダイジョーブ! 束さんが回してあるから、いっくんの心配は無用だよ!』

 元気な声で、千冬を安心させるような言葉を掛ける束。

「…そうか。ありがとう、束。」

『はうっ!? ちーちゃんからありがとうが聞けた!? これは永久保存版だね、間違いない!』

 わー、わー、と嬉しさのあまりいっそうと騒がしくなる束に、馬鹿者が…と呆れる千冬。

 

 しかし着々と、天敵は獲物へと近付いていた。

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