ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。   作:全智一皆

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第四話「現世での在り方」

 

■  ■

 セシリア・オルコットとの決闘は、織斑一夏による―――否、「首輪付き」という圧倒的な強者による一方的な蹂躙によって終了した。

 クラスの代表を不本意ながら務める事となった一夏は、その華々しい勝利という結果に伴わない『専用機使用禁止命令』を受ける事となった。

「何故なんだ! 一夏は何も悪くないというのに…」

 寮の自室で、篠ノ之箒は激昂する。

 自分が好きな幼馴染は、実力によって勝利を手に入れたにも関わらず、自分の力である専用機を使用する事が出来なくなってしまった。

 これを、この理不尽な現実を、どう受け入れろというのか。

「…まぁ、妥当な判断だな。」

「一夏!?」

 だが、そんな彼女に対して、当の本人である彼は不満どころか、寧ろその選択が当然のものであると納得していた。

 それも当然。当たり前である。

 何故なら彼は、己が扱った専用機―――もとい、『ホワイト・グリント』がどれだけ危険なものであるのかを身を以て知っているからだ。

 ネクスト―――高速で動き回る環境破壊人型兵器。かつて世界を滅ぼした力、その一つであり代表的なものだ。

 ネクストに備わった、コジマ物質を利用した技術によるコジマ汚染によって、世界は荒廃の一歩を辿り続けた。

 彼は、それをよく知っている。それを、理解している。

 故に、自身の専用機使用禁止命令は実に当然で妥当な判断だと納得しているのだ。

「それに、ISそのものが使えなくなった訳じゃないんだ。そう気にする事でもない。」

「しかし…!」

 本人がそうは言えど、しかし箒は納得出来なかった。

 実力が認められていないも同然、どころか学園では織斑一夏が危険だという話すらも出てきている。

 そんな現実を、箒が認める訳がなかったのだ。

「俺の代わりに怒ってくれるのは、感謝する。だが、もう覆らない事だ。それに、俺は気にしていない。やり過ぎた代償だと思えば、これくらい安いものだろう。」

 だが、当の本人はこれだ。

 いつもの如く表情を変えることなく、ただ平然とその事実を受け入れ、落ち着いている。

 悔しくないのか、と言おうとしたが、口から出る寸前まで届いていたその言葉は自然と消えた。

 悔しいか、悔しくないか、など―――そんなことは、聞くまでもなく分かり切っていることだった。

 彼が、織斑一夏が―――そんな事を思う訳が、無かったのだ。

「…? どうした、何か言いたげだったが。」

「いや…納得したんだ。一夏が認めているなら、私からはもう何も言うまい。」

 今の今まで、織斑一夏と出会って、別れて、そして再会して―――織斑一夏は、決して変わってはいなかった。

 幼い頃から今に至るまで、一夏は変わっていない。強さや性格、その他諸々を含めてだ。

 彼女が憶えている限りでは―――彼は人生一度として、悔しがった事が無い。

「そうか。納得してくれたなら、良かった。」

 何故、悔しいという感情を覚えないのか?

 それは、彼が『本当の戦い』を生き抜いてきたが故である。

 相手を殺すか、それとも相手に殺されるか、その二択しか選択肢がない戦場で生きてきた傭兵。

 負けて悔しいと思う事などない。負けたらその場で死んで、終わりなのだから。

 故に―――彼は、悔しいという感情を知らぬのだ。

「それに―――取られた訳じゃない。」

 そう言って、彼は自分の首元を指でなぞる。

 彼の首に綺麗に填まった首輪―――それこそが、彼の専用機の待機形態だった。

 欠けた鎖が付けられた、黒い首輪。現代風に言うなればチョーカーだ。

(正真正銘、「首輪付き」か…俺が織斑一夏で居られなくなるのも、近いのかもしれないな。)

 僅かな困惑と寂しさを感じながら、彼は自室へと戻っていく。

 待機形態が首輪である事。そして、ISがホワイト・グリントに変化した事。

 それ即ち、自身が『人間』織斑一夏ではなく―――『リンクス』首輪付きという存在への逆行、その一歩。

 IS操縦者の織斑一夏ではなく、AC操縦者の織斑一夏など、もはやそれは本来の―――《人類種の天敵》、「首輪付き」と何ら変わらないではないか。

「もし、そうでなかったとしても…ISが、この綺麗な世界を破滅させるというのなら、俺は」

 自ら再び、人類を―――

 

□  □

 あれから、数日ばかりが経過した。

 セシリア・オルコットはその怪我を回復させ、そして彼がクラス代表であるという事が認められた。

 そして、彼の専用機ISの使用禁止命令を下された事に関して、次は怪我をさせられた本人であるセシリアが、その件について不満を言い出した。

「何故なのですか!? 彼は実力によって勝利を勝ち取りました! にも関わらず、そのような扱いなど…!」

「いい加減にしろ、オルコット。貴様がなんと言おうと、覆る事はない。」

 重たい溜息を吐き捨てながら、千冬はやや苛立たしげに、事実が覆る事は無いと断言する。

 彼女としても、自分の弟の実績が有耶無耶にされてしまうというのは憤りたい程の事実だが、しかし、自分はIS学園の教師であり大人である。

 そんな自分が怒ってはいけない。故に抑え、封じ込めて平静を保っているのだ。

「セシリア・オルコット。もう止せ。」

「しかし…!」

「姉さんが言った通り、もうどうにもならない事だ。」

 彼が落ち着くように言うが、しかしセシリアはそれでも納得がいかなかった。

 というか、それ以前に。

「何故、本人である貴方自身がそんなに落ち着いているんですか!」

 そう。彼が冷静でいる事に納得がいかなかった。

 普通、少しは残念そうにしたり悔しそうにするでしょう、とセシリアはやはり彼への疑問を抱かずにはいられなかった。

「何故、と言われても…気にしていないからだが?」

「それこそ何故ですか! 普通は気にするでしょう!」

「妥当な判断だからだ。ただでさえ凡人には理解不能なISが、通常なら有り得ない進化を行ったんだ。恐れて使用を禁止するよう命令するのは、企業側の判断としては当然というものだ。」

 人類の大半を死滅させた本人ではあるが、それでも一応、あの世界では企業連からの依頼をそれなりに請け、多少の信頼は得られていた《企業連》のリンクスだ。

 企業が如何なる思考を持つかは、何となく理解出来る。

「俺は納得している。だからこれ以上は何も言うな。」

「っ…そう、ですね。本人である貴方がそう言うのであれば、飲み込みます。」

 力強く拳を握り締めるセシリアに、「ありがとう。」と、彼は短く感謝を述べた。

「…すまないな、一夏。お前の実績を取り消すような形になってしまって…」

 千冬は申し訳ない表情を浮かべながら、彼へと謝罪をする。

 彼の教師として、そして彼の実の姉として、弟の実績が無かった事にされる事を黙認しなければならないという現実は、怒りを抑え込む中でもやはり生まれるものだった。

 だが、やはり彼は気にしていなかった。

「良いんだ、姉さん。最初から分かり切っている。」

 ホワイト・グリントという“ISの形をした環境破壊人型兵器ネクスト”が使用を禁止される事など、最初から分かり切っていた事だ。

 生前から、理不尽には慣れている。

 理不尽に襲われるのも、理不尽を仕掛けるのも。そのどちらも、何度も経験した。

 故に、何ら問題は無い。

(束さんが何か手続きをしてくれたのだろうな…感謝しなければ。)

 例えこの先、彼女が彼を再び人類種の天敵にする事が有っても。

 ソレは今ではない。

 彼が、この世界における―――『最初の黒い鳥』に成るには、まだ早いだろう。

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