ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。 作:全智一皆
だが、ホワイト・グリント―――かつて世界を破滅させた力の一つを抑え込むという彼らの判断は、ある意味では正しいものだったのかもしれない。
しかし、それはすぐに破られる事となる。
第五話「もう一人の幼馴染」
■ ■
織斑一夏がIS学園での生活に慣れ始め、それと同時に周りからの『強さへの憧れ』の視線と『強さへの恐怖』の視線にも気にしなくなり始めてきた今日この頃。
彼は他のクラスメイト達が仲良く話し合っている中、自分の席で静かにISの参考書と教科書に読み耽っていた。
専用機がネクストという、かつて使い慣れた環境破壊兵器になってしまったが為に自身のISが使えず、学園が所有するISに余りが無ければISを使う事すら出来ない。
そんな彼にとって、ISとは結局のところ理解が及ばぬ代物だったのだ。
故に、彼は真面目にISについて勉強していた。
「…」
それに、このISの勉強が、何故、自分の専用機であった筈の『白式』が『ホワイト・グリント』になってしまったのかが分かる切っ掛けになるかもしれない。
そう思えば、自然とやる気にもなるものだ。
前世では大して勉強をしてこなかったものだから気付かなかったが、勉強というのは意外にも楽しいものだった。
「“おりむー”、勤勉だね〜」
ISのコア、エネルギーの供給といった事を考えていた思考が止まり、考え事に漬け込んでいた意識が顔を出す。
やたらと袖が余った制服とキツネを模した着ぐるみで髪を二つに結んでいるクラスメイトの少女―――「布仏本音」。
のほほんとしながら、彼女はおりむー(織斑一夏のニックネーム)は勤勉だと、褒めているのか揶揄っているのか分からない具合で言ってくれる。
「ISについては初心者だからな。それなりに読み耽っているつもりだが、まだ理解出来ていないところが多い。」
「真面目だね〜。わたしでもそこまで読み耽る事ないよ〜?」
「やりたい事に浸かるのと同じだ。それはそうと布仏、2組に中国の代表候補生が来たという話しは本当か?」
女子達の会話が嫌でも耳に入るこの教室において、彼はそうでありながらも参考書と教科書の両方に読み耽っていたのだが、その中で気になる事があった。
隣のクラス、2組に中国の代表候補生が転入してきた―――と。
「らしいよ〜。ねねっ、おりむーはどう思う?」
どう思う? というのは、恐らく『イギリスの代表候補生を倒したクラス代表は、中国の代表候補生の事をどう思う?』という事だろうか。
代表候補生―――その国の代表者、その候補に数えられるIS操縦者。
操縦者としての腕は間違いなく、それは専用機の性能を抜きにしても高いものである筈だ。
初心者である自分との差は、まさしく天と地のだろう。
「…さぁな。どちらにせよ―――
敵に回るというのなら、例え相手が誰であろうと、容赦無く叩き潰すだけだ。」
仮にもクラスの代表になったのだ。
クラスの面子を潰さぬよう、そして世界最強の姉である織斑千冬の弟として恥じぬよう―――誰を相手にしようと、容赦はしない。
首輪付きとしてでなく、織斑一夏として、ISで以て相手を潰す。
そのくらいの覚悟はしている。
「大きく出たわね、一夏! でも、私はそこまで弱くはないわよ!」
バンッ! と、強い音と共に教室の扉が勢いよく開かれる。
クラス全員の視線が、自然とその扉の方へと向けられる。
立っているのは、学園の制服を着た少女。
茶髪をツインテールで結んだ小柄に八重歯が特徴的な少女―――
「……鈴?」
椅子から立ち上がり、改めて少女を見る。
見覚えがある少女。見覚えしかない少女。
幼馴染である篠ノ之箒が引っ越しによって小学校を去ったのと入れ替えのように小学校に入り、そして友となった―――謂わば、二人目の幼馴染。
その少女の名を、「鳳鈴音」。
「久しぶりね、一夏。知らぬ間にISまで動かしちゃって、あんたとんでもない事したわね?」
「…そうだな。そのお陰で、色々と苦労した。大変な事もあった。だが、それより―――久しぶりだな、鳳鈴音。」
「なんでフルネームなのよ!」
くしゃりと笑いながら、鈴は左手を上げる。
首輪付きもまた、答えるように右手を上げ―――
パンッ、と、良い音を鳴らして。
「ただいま。」
「おかえり。」
懐かしき友との再開を、ただ純粋に―――「首輪付き」は、喜んだ。
□ □
IS学園の食堂で、織斑一夏は三人の女性に囲まれていた。
「…」
「…」
「ご愁傷様ですわ、一夏さん。」
片方は鳳鈴音。
片方は篠ノ之箒。
そして前方はセシリア・オルコット。
形式としては三人だが、セシリアはただ鈴と箒に挟まれている一夏を笑っているだけなので実質的に二人に囲まれている。
「何がご愁傷さまなんだ?」
しかし、そんな中でも、女子二人に挟まれている中でも、織斑一夏は平然と昼食を取っていたのだ。
「いいえ? ただ罪な男ですねと思っているだけです。」
「…? 何が罪なのか分からないが…」
「…まぁ、そうですわよね。貴方はそういう事には疎そうですし。」
呆れたような表情をしながらオムレツを口へと運ぶセシリアに、彼は首を傾げながら箸で米を運ぶ。
擁護するなら、別に、彼はそういう面―――もとい、恋愛面に関して疎い、という訳ではない。
ただそもそも―――そういった感情を、誰かを女性として好きになるという事を、知らないし覚えた事が無いという―――ただ、それだけの事なのである。
彼が自らの恩師に覚えたのは、あくまでも親愛である。決して、女性としてのものではなかった。
それは彼女も同じだっただろうし、それ故に、彼女は最期の最期まで優しかったのだ。
「で、一夏よ。コイツとは、どういう関係なのだ?」
箒が物凄い形相のまま、彼へと問い掛ける。
無論、そんな箒の形相を気にする事などなく、彼はただ短く、
「幼馴染だ。箒とは別のな。」
と、端的に答える。
「別の、とは…?」
「箒が引っ越したのと入れ替わるように、鈴は越してきた。…まぁ、最初はかなり険悪だったがな。」
「仕方無いじゃない。言っちゃあなんだけど、あんた小学生じゃなかったし。」
抗議するようで、それでいて険悪な仲であった事を恥ずかしく思うように、鈴は言う。
そしてそれを聞き、箒は「あぁ…まぁ、確かに。」と、鈴の言葉に同感した。
「え、まさか小学生の頃からこんななのですの?」
「…こんなとは、失礼だな。」
「いや、妥当よ。」
「うむ。」
こればっかりは、二人も完全同意である。
小学生の頃から現在に至るまで、織斑一夏は小学生の精神性など持っていなかった。
というか、生まれた時からコレである。
「いじめっ子の集団を一瞬で熨すとか、千冬さんの攻撃防ぐとか躱すとか。あと妙に達観してて。」
「勝っても負けても、殴られても蹴られても表情を一切変えないから気味悪く思われもしていたな。」
「あぁ、やっぱそうなのね。…箒、あんたも苦労してたのね。」
「あぁ…お前もな、鈴。」
互いに彼を好きになり、そして互いに彼の異質さに苦労した者同士、早くに絆のようなものが芽生えたらしい。
彼としては、好き放題に罵倒されている為に良い気持ちではないが。
まぁ、しかしそれが事実である為に仕方無いと言えば仕方無い。
「想像を絶しますわ…お二人共、大変だったでしょうに。」
「今も変わらずよ…」
「全くだ…」
「ご馳走さまでした。」
え!? と全員が彼へと視線を向ける。
既に全ての食器が空となっており、彼は食事を終え、丁寧に手を合わせてご馳走様をしていたのである。
「箸が進んでいないが、腹が空いていないのか?」
戦場では時間が限られる為、食べれる時に出来るだけ食べるが基本である。
故に彼は食事が早い。そして、その食べた分が全てトレーニングで消え失せる。
「ほら、この通り。」
良くも悪くもマイペース、もしくは物事に鈍感なのである。
正確に言うならば、『知らない』―――か。
「そういえば、鈴。あの約束の事なんだが」
「!? な、なに?」
「勝手ですまないが、内容を少し荒く変えてもらえないか。」
残念な事に。
彼には元より、平和など―――有りはしない。