ワンサマー? いえ、『,;゙ ・ω・;, 』です。 作:全智一皆
だが、その影には、天災と呼ばれ恐れられた、哀れな忌み子「篠ノ之束」の死と、「首輪付き」と同列に扱われる者が居る事を、後々に思い知らされる事となる。
■ ■
クラス対抗戦、その当日。
織斑一夏改め、「首輪付き」は専用機を使う事はなく、欠陥機の訓練用第二世代IS『打鉄』―――もとい、『影打』を使って挑む事となった。
相手の機体は中国が誇る第三世代IS『甲龍』。それを駆るのは中国の代表候補生である鳳鈴音。
手加減も躊躇も不要。例え相手が幼馴染であろうと、敵であるならば情けは要らない。
如何なる手段を用いても―――勝てば、それで良い。
「…」
観客の生徒達の歓声が、アリーナに響き渡る。
彼の眼の前には、獣のような不敵な笑みを浮かべている幼馴染にして、敵。
対して、彼女の眼の前には無表情だが鋭い眼光と闘争の雰囲気を身に纏う一人の傭兵が立っている。
本来の打鉄とは異なる黒鉄の鎧のIS―――欠陥機の打鉄こと、“影打”。
武装はブレードのみ。しかし―――寧ろそれが、彼を強くしているとは、誰も知らないだろう。
「やっとね。覚悟しなさいよ、一夏!」
「…あぁ、そちらも―――覚悟を決めろよ。」
開戦の合図が鳴った瞬間―――
ドゴッッッ!!!!
“甲龍が、突如として真っ直ぐ吹き飛ばされた”。
『―――は?』
全員が、口を揃えて、ただ短く、それだけを零す。
砂煙が立ち、時間が一時的に停止したような静寂がアリーナを包み込む。
だが、
「―――!」
「っ!」
ガギィッッ、ギィンッッッ!!!!!
鉄塊の拳と鋭い白鉄の打ち合い、鉄塊と鉄塊の撃鉄が引き起こした甲高い悲鳴が、空気を揺るがす。
「アンタ、初っ端から飛ばし過ぎでしょ! ていうか、アンタ蹴ったわね!?」
「闘争に言葉は不要だ。死なぬと言えど、これは戦いだ…!」
ギギギッ……!!!! と、首輪付きの刃が甲龍の拳を徐々に、しかし確かに押して行く。
殺す気の膂力。相手を確実に仕留めるという気持ちの在り方から繰り出される、身体能力の開放。
だが、それは決定的なものではない。
確かに、その気持ちの在り方によって現れる身体能力の開放、それから繰り出される圧倒的な膂力も代表候補生を呆気なく押す理由になろう。
だが、それ以前に―――“織斑一夏は、力の飲み込みが異常なまでに早かった”のだ。
ISの知識、技術、その使い方に至るまで。彼は、それらを飲み込み、扱えるようになるまでが異様に早かった。
(ちょ、ウソでしょ…!? 一夏って、こんな力強かったの!?)
彼のあまりの力の強さに、鈴は驚愕せざるを得なかった。
まるで、錨を持ち上げようとしているかのような、そんな感覚に陥られずにはいられなかったのだ。
だが、
「だからって、簡単には負けてられないのよ!」
彼女とて代表候補生。ただでは負けないのだ。
ヒュウゥゥゥゥゥ――――――と、大きな音を立てて大量の空気が甲龍の肩部へと吸い込まれていく。
否、正確には―――肩部辺りの空間が、圧力によって押し潰されて、悲鳴を上げている。
「ッ…」
それが何を意味し、何を引き起こすのかを即座に理解した首輪付きは、すぐに『疑似QB』を発動し、後方へと回避した。
その直後、パァンッッッ!!!!!! と、圧縮された空間が一気に爆ぜた。
強い衝撃が場を荒波の如く迸り、風圧がアリーナ全体に行き渡る。
(空気を圧縮した…? いや、空間自体に圧力を掛けたのか。となれば、それが砲身か…なら、引き金は翼から発生した衝撃だな。)
首輪付きは冷静に、先程の攻撃を見定め、解析し、そして答えへと至った。
肩部に着けられた武装は一見、空気を圧縮して放つ空気砲のようにも見えるだろう。
だが、実際はそんな優しいものなどではなかった。
肩部の武装は、空間そのものに圧力を掛けて其処を砲身とし、バックに着いた左右の翼から衝撃を砲弾として撃ち出す『空間圧縮衝撃砲』である。
不可視の砲身と砲弾、更には空間そのものに圧力を掛けるという、下手すれば重力場が発生しかねない危険極まる攻撃だ。
(乱発されれば厄介だな…至近距離だから何とか聞こえたものの、少しでも距離が離れていれば聞こえないし、何より砲身と砲弾の両方が不可視だ。)
「…ともなれば」
攻める距離はゼロ。完全なる至近距離。
離れるのではなく、相手の後ろや横に回って攻撃を回避する回避方法を確立。刃のみならず、己が腕脚も使って―――叩き潰す。
「――!」
再び、技術QBを使って甲龍の間合いへと身を投げ込む。
甲龍の両手に握られた二振りの青龍刀「双天牙月」が、天を指差すように大きく振り翳される。
だが―――それは、ただ隙を生んだに過ぎなかった。
大きく振り翳すなど、それはもはや狙ってくださいと言っているようなものだ。
首輪付きは、その刃が振り下ろされるよりも素早く―――鈴本体へと、拳を叩き込んだ。
ガァンッッ!!! と、鈍い音。そして、鈴の体には攻撃は通らない。
だが―――直接的なダメージが及んでいなかろうとも、彼女の体、その内面には衝撃という間接的なダメージが行き渡っている。
「っ…」
彼女の意識が揺らぐ。それを、首輪付きは決して見逃さない。
影打を素早く旋回させて甲龍の背後を奪い取り、そのまま翼共々、甲龍の背中へと力を込めた斬撃を叩き込む。
ザンッ―――!!!!!
甲龍のシールド・エネルギーが減少する。だが、未だゼロではない。
「――」
蹴り上げる。
ぐらついた機体に、爪先で容赦無く蹴りを入れ込み、その体を上空へと勢い良く蹴り上げる。
加速し、天を取る。
ブースターからエネルギーが出る瞬間にエネルギーをプラズマ化させ、爆発的な加速によって蹴り上げた彼女よりも素早く上空へと登る。
握り締めた刀を振り上げ―――
「此処で沈んでくれ。」
容赦無く、振り下ろした。
《オペレーション・スタート。戦闘モードへ移行します。》
そして、この場に―――本来ならば存在しない筈の未来の形が現れた。
□ □
場所は大きく変わって、ドイツ。そのIS研究所。
もしくは…地獄。
《良い働き振りだったよ、
『……』
《相変わらず無口だなぁ、君は。いや、でも…そういった所を含めて、君も、そしてあの獣も、皆等しいって事なのかな?》
炎が散っている。地面が荒れている。
コンクリートは所々が抉れ、凹み、壊され、そしてその上には人間だったであろう肉塊が、燃やされながら倒れている。
其処は、もはや戦場と言えるような場所ではなかった。
誰かが戦い、誰かが死に、誰かが勝つような場所ではなく―――ただ一人が幾多を悉く踏み荒らし、燃やし尽くしただけの蹂躙場、屍山血河の処刑場でしか無かった。
『……』
そして、其処に佇むのは――――――超高出力且つ超高密度な熱線の刃を放ち続けている巨大な筒を右手に持った、黒い“死神”と、もはや瀕死のIS操縦者だ。
「あ、あぁ……!!」
眼の前に立つ死神を直視し、その女は短くも、酷く感情が籠もった小さな悲鳴を上げるばかりしか出来ない。
エネルギーは既に無く、仮に有ったとしても眼の前に立つ死神が持つ武装は、そんなものを無視して悉くを破壊する代物だ。
『……』
死神が、右手を上げる。
右手に持った巨大で武骨な漆黒の筒、その入口から、
ブォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
と、熱線の刃が吹き出し、獣のような雄叫びを、遠吠えのような轟音を、曇った空へと解き放つ。
「いやぁ、いやぁ…! やめて、やめてぇ…!!」
嘆きと懇願、涙を流しながら情けなく声を発する。
だが、死神は聞き入れない。
死神は手を止めない。
死神は鎌を降ろさない。
死神は目を逸らさない。
ただただ無情のまま―――その鎌を、死者へと振り下ろす。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
劈くような、稲妻の雷鳴と共に、
ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
大きな熱の柱が、周囲ごと女を燃やし尽くし、そして無残に斬り裂いた。
《これで任務は完了だ。こうなれば、ドイツとやらも君を、そして君が扱う力と同じ力を持ったあの獣を無視する事は出来ないだろうね。》
『……』
《篠ノ之束も殺す事が出来た。後は、あの獣の実態が世間に知り渡り、そして、この“力”が広まれば、また世界は闘争と荒廃の一歩を辿る。》
オペレーターという立ち位置に立つ男は、実に愉快に、そして憎らしそうにしながら、その現実を嘲笑する。
『……』
《例え如何なる世界であろうと―――人は、人によって滅びる。それが必然だ。そして―――
黒い鳥を殺す事が出来るのは、黒い鳥だけだ。》