シンボリルドルフ達と泊まる話&他etc 作:how-kyou
申し訳ありません!短編で出してしまっておりましたが、内容というか、
文章内で明らか繋がっていました!続きとして出しときます。
こんな不慣れな状態ですが、久しぶりに小説というものを書いた気がします!
Twitterとpixivにも投稿予定。
もしよければ、感想など残してもらえますと幸いです。
短編 「雨宿り、肩寄せる湯の温もり」
『…ーナー君?』
どうしてこうなった?
彼はそう思い、目を上方に向ける。
その方向には、空。
空には、彼の表情をそのまま映したかのような、雨雲。
そして目の前には、雨、雨、雨。
『いわゆる、局所的豪雨なのだろう…どれだけ続くものかは分からないが』と、彼は考える。
(全く…なんて容赦のない)
あまり見かける事ないこの天気は、どこか圧し掛かってくるようで、息苦しさすらも覚えさせられる。
日々の生活であれば…たとえ、このような雨に見舞われても、持っているなら傘を差すか、少なくとも、憂鬱な気分と共に雨宿りをしてやり過ごすだけ。
そして日常に戻る。
そんな具合だったはずだ。
だが、今日は都合が違う。
「おーい、トレーナー君??」
声掛けだけでは留まらず、彼の身体が少し揺すられる。
その様子は、宛ら半分魂を出し、半ば茫然としてたも同然。
その状態が暫く続き、どうやら漸く戻ってきたようだ。
「すまん…現実を受け入れるのに時間がかかった」
彼は、声を出すことで、自分の吐息までもが湿気を帯びていることを自覚する。
空気はぬるいと言うのに、服の冷たさは嫌に骨身に染みてくる。
彼はなんとか回り出した頭を、二、三回物理的にも振り、気を取り直して状況を整理する。
〜〜〜
俺たちは…
学園から離れた場所に来ている。
そこは『○○』が有名で知られている。
訪れた理由は……そうだった。
確か、生徒の一人が意見箱にこんな声を入れたからだった。
『学園内で疲労を回復する手段がもっと欲しい』
そんな悲痛気味な声を、
たまたま目にしてしまったものだから(主に学園長が)、
一つ使命が下ったのだ(主に学園長から)。
〜〜〜
彼の状況整理は完了した。
さてさて、一つ『湯治』という言葉がある。
これは、『長期間温泉地に滞留して、疾病の温泉療養を行う』という意味を持つ言葉だ。
…察しただろうか?
…そう、つまるところ、ここは。
「…電車、もう来ないよな」
都会から「遠く」離れ、
彼らが視察に来た、『温泉地』というわけだ。
〜〜〜
駅前の店は、シャッターはすでに降りており、観光客の姿は見えなかった。
そのような中、彼女は言う。
「そうだね…どうやらこの路線は、20分ほど前から完全に停まってしまったみたいだ」
その言葉と現実を受け止めて、
男は微かな溜め息を一つ。
「…正直に言おう、学園に帰り着ける手段が思いつかないんだ」
なまじ、遠く離れた温泉地であるものだから『歩いて帰る』という選択は、彼らには無い。
更に言えば、雨脚はさらに強まっており、アスファルトには小さな川が出来ている。
「私もだよ。帰りたいのは山々だが…この雨は些かキツすぎる」
靴底からじわじわと冷たさが這い上がり始める。
記録的大雨……というほどではないのだが、
きっと、「地域密着型・今夜のニュース」には取り挙げられるだろう。
その証拠に、二人ともこの大雨に巻き込まれてしまい、既に濡れているように見える。
「だよなぁ……ん?。前にもこんなやり取りがあったような気がする」
男は、更に気落ちした様子で語り続ける。
「いつぞや、遠征先の視察に出ていた時だね。丁度、同じような激しい天気だったよ」
そう語りながら、屋根先から手を出すと、
彼女の手は、その豪雨を確かめる。
あまりの激しさに、耳まで飛沫が跳んできたのか、軽く動いている様子が確認出来る。
男は彼女の言葉で既視感は解消され、
徐々に鮮明になり、思いだす。
社会的には非常に望ましくは無いが、
致し方無く、二人で泊まった事を。
次に、男は考える。
彼女の発する言葉の意味を。
逡巡し、答える。
「…温泉地に来ていて『まだ』助かった、と言うことか」
その言葉に対し、
彼女もまた、理解が早かった。
その一言だけで『彼の同意を得ることが出来た』と受け取った。
「そうだね、私もそう思うよ」
彼女の声の若干の上擦りと、
彼女の耳の回転は、少しばかり増した様子、
それは高揚を示していた。
〜〜〜
また、たづなさんに怒られてしまった。
電話して、開口一番言われたのは『解っています♪』。
そして矢継ぎ早に『…「また」ですよね?』だった。
多分、電話口の向こう側では…悪鬼羅刹よろしく、さぞ恐ろしい笑顔をしていたことであろう。
ハスキーなお声で『重々、節度を持って行動してくださいね』と、言われてしまった。
多分、対照的に裏返った声で返答をしてしまったに違いない。
だが…幸い、学園長からの『お願い』で来ていることもあり、事情も考慮され、それほどキツい釘を打たれることはなかった。
ただ…パパラッチ等には、十二分に注意するよう、言われた訳だが。
そのお言葉は楔として心に打ち込み、携帯電話を仕舞う。
丁度、彼女も電話を終えたようだ。
「トレーナー君……この短時間で、ちょっと窶れたかい?」
まぁ、絞られたからね。
と、肯定する。
「それは災難だった。代わりに私がかければ良かったかな?」
まさか。
流石にそれは自分の仕事だよ。
と、笑ってしまう。
「もちろん冗談だ。さて、私の方だが…なんとか『それほど離れていない宿』を確保出来た」
この短時間で……だと?
流石だね。
大雨に対する絶望感のためか、
彼女を心の底から褒める。
「そこまで大層に言われるとむず痒いが、素直に受け取ろう…ありがとう。しかしだね…問題が有るんだ。分かると思うが、既にこの時間の宿は埋まっていることが多い」
つまるところ、
彼女はこう言いたいのだ、と捉える。
『この天候の為、誰かが急遽空けた所に、偶々運良く滑り込んだ』
そして、それは…
「分かってくれたかい?そう…一部屋しか取れなかったんだ」
〜〜〜
「〜〜、こちらがお部屋の鍵になります」
ありがとうございます。
そう伝えて鍵を受け取る。
「あ、あと申し訳ありませんが大浴場は天候の影響を受けて現在閉鎖しております…ですが、お部屋に備え付けの壺湯等はご利用頂いて問題ありません」
残念ながら、
おそらく目玉であった、露天風呂などは堪能出来ない。
しかしながら、立派なお風呂が備え付けられている…そんな「一部屋」に無事、チェックインを済ませることは出来た。
もしかしたら…時間を費やしさえすれば、別の部屋も空くなり、はたまた他の宿を見つける事が出来たのかもしれない。
だが…彼女の小さなくしゃみで、その選択肢は無くなった。
「ささ、トレーナー君。早く部屋に向かおう」
疲れているからなのだろうか…
何故かは分からないが、そのままフロントに有るお土産コーナーに目を奪われていた。
無事泊まることの出来る場所が確定し、気が抜けたのだろうか。
そんな自分の袖は引っ張られ、部屋へと向かい始める。
先導してくれる彼女の耳は、ピコピコと動いていた。
〜〜〜
部屋に入った途端、畳の香りと障子越しに未だ響く、雨音が迎えてくれる。
窓際にはそれなりの大きさ壺湯が据えられており、
今夜はここが寝床になるのだと実感させられる。
「ルドルフ、君はさっきくしゃみをしていただろう?身体を少しでも早く温めるんだ」
「き、聞こえていたのかい…。だけど、それを言えばトレーナー君、君もさっきから惚けているように見受けられる。このまま寝てしまう可能性もある以上、先に入るべきだろう?」
二人の会話は平行線を辿る。
互いを気遣う言葉が交錯する。
濡れた服を脱いだ時に広がる冷気、温泉の蒸気がわずかに混じる湿った空気。
その実、二人とも心底疲れ切っており、それでも相手を優先しようと、先に入るように言っているのだ。
やがてこの状況に、埒を明けたのは彼だった。
「…分かった。じゃあ自分から入るよ…すぐに出るから入浴の準備をしておくように」
自分が折れた方が早い。
そう判断した彼の動きは早かった。
〜〜〜
(聴かれていたとは…不覚だった)
彼女は少々顔を赤らめる。
事実、宿に着いて彼が支配人と話している時、小さくくしゃみをしてしまった。
それを把握されていたのが、
また、なんとも言い難い気恥ずかしさを覚える。
そうして、彼が入っていった脱衣所から目を逸らすと。
(…む、トレーナー君。…着替えの浴衣を持っていっていない)
いや、それだけではない。
備え付けられているバスタオルすらも、何もかも持っていっていないことに気付く。
私のことを慮って、それほど急いでいった…、
そうかもしれないのだが『それで、どうやって出てくるつもりなんだ』と、笑ってしまう。
耳を澄ませば、彼はどうやらシャワーを流し始めたようだ。
湯が床を打つ細かな音が、扉越しにも伝わってくる。
(…これならば、たとえタオルや着替えを脱衣所に持っていっても、鉢合わせする…なんてことはないはずだ)
私は、冷えた身体を二、三度摩る。
思っていたよりもすっかり冷え切っていて、ぞくりと小さな震えが走る。
(彼の身体もかなり冷えていたはずだ、忘れるのも無理はない)
………ならば、私の分も含めて持って行っておくべきだろう。
そうに違いない。
〜〜〜
念の為コンコンと軽くノックをして、ドアを開く。
「失礼するよ」
普段よりも縮こまって、脱衣所に足を踏み入れた私は、そそくさと持ち込んだものを置く。
ふと……彼が気になってしまって、思わずお風呂場を見てしまう。
脱衣所から、お風呂に向かっては
上に向かって、透明度が増す『磨りガラス』で遮られている。
見えるのは、彼の顔より上だけ。
雨に濡れて、垂れてしまった髪型とはまた違う…凛とした印象だ。
5秒程度なのか、はたまた30秒くらいは凝視していたからなのだろうか。
どれほどなのかはもはや分からないが…いずれにせよ、私は彼と目が合ってしまった。
あからさまとも言える二度見でこちらを見てきた。
その瞳に射抜かれた瞬間に心臓が跳ね、私は慌てて『タオルを持ってきたんだ!』と彼にジェスチャーをする。
納得した彼の表情を見て、胸を撫で下ろす。
綺麗に畳まれていたタオルは、もはや形が崩れてしまった。
私は、自分の行ったそれを目にする。
(…早くここを出た方が良いな)
思わず息を吐いて、
部屋に戻ろうと脱衣所のドアを開ける。
…寒い。
入った時は気にならなかったが…部屋の空調がかなり効いているようだ。
反対に、お風呂場から更に暖かい空気が入る事実に、後ろ髪を引かれる。
寒さのせいだろうか。
私の…頭の中に奇妙な天啓が走った。
いや、走ってしまった。
私の理性は警鐘を鳴らしているにも関わらず、
身体が勝手に動いていた
〜〜〜
「!!?」
声にならない叫びと共に、
脱衣所に居る、彼女の姿を
思わず二度見をしてしまった。
一瞬『まさか…覗き!?』などと邪な考えが思い浮かんだが、
ブンブンと頭を振り、バスタオルを高く掲げて見せてくる彼女の姿に、そんな感情が霧散した。
彼女は自分が忘れた物を届けに来てくれただけだったようだ。
(自分も寒いだろうに、よく気遣ってくれるな…)
思わず苦笑してしまう。
急いでここから出なければ、彼女の身体が、より冷えてしまう。
そう思い、次に身体を洗おうとした時だった。
ガララ、と音が響く。
「失礼するよ…お背中、流そうかい?」
自分は今度こそ声をあげた。
〜〜〜
湯気が薄く漂い始め、
灯籠型の照明はぼんやりと光を落としていた。
白い湯気の向こうに、彼女の姿がにじんで見え、
さながら現実と幻の境が曖昧になる。
ガララ、と音が室内に響く。
え?、と振り返ればタオルを巻いた彼女が居る。
『なっななな!?ルルル、ルドッ!!!?』
彼は慌てふためいてる。
その顔はさながら喜怒哀楽が巡り巡る様。
「や、やぁトレーナー君」
一方彼女も…一時の気の迷いで、物凄いことをやってしまったんじゃないか?と、今日一番に頬を赤らめていた。
『でっでで出っ、もう出るよっ!僕ッ!』
そんな彼女の姿を見て、彼は居ても立っても居られなくなり、風呂場から脱出を計る。
が、それは。
「ちょっと待ってほしい…。やっぱりだトレーナー君、キミはまだ冷えてるじゃないか」
腕を掴まれ、あっさりと阻止される。
彼女の表情は真面目な顔に戻っている。
彼女は一つ咳払いをし、告げる。
「トレーナー君、私は考えたんだ。一緒に身体を温めた方が合理的だと…ね」
『いやでも、しかし、社会通念上というか…一般的に誰かに見られたり…』
先ほどの様に、彼の言葉は詰まらなくなったが…その実、考えはまだまだ纏まってない様である。
彼女の意思を否定しようにも、上手く言葉が繋げない。
「無論 私もこの様な行為は…リスクが有るということは理解している。だから、約束しよう…他言はしない」
(…ダメだ、この状況は…分が悪い)
と彼は考える。
彼女は…只管に彼の事を思い提案している。
理論立てて、その好意を否定出来るだけの言葉が、今の彼には備わっていなかった。
「大丈夫だ、トレーナー君。今は……二人きりだよ」
当の彼女は、彼を納得させるために、
再び、僅かな恥じらいを伴って微笑む。
『…分かった。けど、少ししたら…本当に僕は上がるからね?』
言葉を紡ぐことが出来なかった彼は、
ただ、それだけ言って…諦め、振り返る。
彼が見た彼女は、我儘を通して、
その表情は…僅かに勝ち誇ってて、
普段よりも幾分幼く含羞んでいた。
〜〜〜
ルドルフと…
半ば、強制的に湯浴みと共にすることとなった。
タオルこそ巻いているが…これ以上彼女を直視することはない、というか…
マズい事が起きそうで、出来ない。
彼女には、先に湯船に浸かってもらおう。
そう彼女を促して、自分は前に向き直る。
目の前には鏡が有った。
目を逸らしたはずだったのに…再度、彼女の姿が映った。
思わず下を向く。
(目のやり場は…一体、どこにあるって言うんだ!?)
未だ視線は、彷徨い続けていた。
〜〜〜
一人悶々としている、そんな中、
意識外から、背中に触れられる。
「言っただろう?『お背中、流そうかい』と」
静かながら
浴場に立ち込める湯気を震わせるような錯覚を覚える。
そのような、唐突な声が落ちた。
思いがけない申し出に、
心臓が早鐘を鳴らし、喉の奥には言葉が詰まる。
断るのは簡単だ。
そう頭では理解しているのに、背後の気配がえらく真剣で、
それは『揶揄』ではないことが分かってしまう。
「………じゃあ、頼む」
なんとか捻り出した。
結局、その一言を口にするしかなかった。
「では、失礼するよ」
〜〜〜
彼女は桶に湯を汲み、石鹸を泡立てて、
躊躇うことなく、再度背中に触れてきた。
ぬるりとした泡が肩に広がり、
指先が背骨に沿い、ゆっくりと動く。
初めの瞬間は、思わず反射的に身をこわばらせたが、その後は…何故か、妙な安堵が広がっていく。
(……思ったよりも、悪くないな)
ドギマギとしていた、強張った感情と共に、
雨に打たれて、押し込めていた疲れが、少しずつ解けていくような感覚。
それ力強すぎず、けれど丁寧で。
今の彼女には皇帝としての威厳も、
余計な遠慮も、
今だけは存在しなかった。
「力加減はどうだろう?」
「…あ、…あぁ、丁度いい」
答えると、背後で
「そうか、良かった」
と、かすかに笑った気配がした。
それだけで、不思議と胸中も和らぐ。
そんな具合で、彼女の持った手桶で泡を流されると、身体を洗われただけなのに、どうにも…肩から腰にかけて纏わりついていた重みがふっと軽くなった。
〜〜〜
「次は――私の番だね」
ふいに背後から告げられ、思わず振り返る。
「……番、とは?」
「………私の髪を、洗ってはもらえないかい?」
思考が止まった。
彼女が、自ら、そんな頼みを口にすると、全く予測出来なかったからだ。
「いや、それは……」
なんとかして、断ろうとした。
だが、自分の背中を流してもらった手前、
否と応えれば、それは不誠実に聞こえるのではないだろうか。
そのような感覚に支配され、
視線を逸らそうとした。
しかし、湯気に濡れた睫毛の奥で、彼女の瞳が一瞬だけ揺れた。
その迷いを押し隠すように、穏やかな声音が「頼む」と続いた。
結局…自分は小さく呟いた。
「……分かった」
場所を空ける。
彼女は言葉を聞くや否や、腰掛けた。
先ほど使われていた、桶に湯を張り手に取る。
濡れた彼女の茶髪が湯に広がり、
湯気の中でしなやかに揺れた。
その髪に触れると、絹糸のように柔らかく、
指先に吸い付くように絡む。
濡らした髪に、泡を含ませ、根元から梳かすように指を通していく。
彼女は目を閉じて、静かに身を委ねていた。
「……どうだい?」
「そうだね…常套句しか出てこないが、非常に……心地良い」
彼女は、穏やかな声を返してきた。
そこには、皇帝としての神威を魅せるような硬さはなく、どちらかと言えば…一般的な、ただ一人の少女の声音だった。
耳元から後頭部、そして首筋へ。
湯が泡を洗い流すたび、その茶髪は光を宿したように、艶やかに、さらさらと流れていく。
気付けば彼の心臓も、落ち着きを取り戻していた。
(…綺麗だ)
思わず口が、動く。
彼の小さな呟きは、シャワーにかき消され…ウマ娘の耳にも届くことはなかった。
普段の彼女からは到底想像出来ない
そんな姿が、そこにはあった。
「……ありがとう、トレーナー君。満足だ」
髪を流し終えた彼女は、ふと微笑んだ。
湯気の中でも分かるくらいに、
その笑顔は…
やけに柔らかく見えた。
〜〜〜
やがて、二人は並んで壺湯に身を沈めた。
熱が全身を包み込み、冷えた外の世界を曖昧にする。
シャワーを浴びた熱のせいか、湯面に映る灯りが揺らめき、まるで炎に包まれているかのように見える。
その光の中で、彼女の横顔だけが、
やけに鮮やかに映えていた。
「……ふぅ」
吐息と共に彼女が、自分の肩に寄りかかってくる。
濡れた髪が触れ、頬に微かな熱が伝わった。
「少し……寄りかからせてもらうよ」
もうここまで来れば…拒む理由はなかった。
むしろ自然と力を抜き、その重みを受け止めていた。
「……ありがとう」
閉じた瞳のまま、彼女が小さく告げる。
殆ど、何も纏っていない…包み隠すものが何もない、そんな場所だからか、やけに饒舌だ。
彼女の髪先から滴る雫が、肩を伝って湯に落ちていった。
小さな波紋が広がるたびに、
胸の奥に静かに、
一種の痛みのような温もりが残った。
「こうして私の言葉を聞いてくれる。君がいてくれるから、私はやっていける。本当に……感謝している」
彼の立場を考えるならば、
直ぐにでも出ていくか、こうならないように止めるべきだ。
しかし彼は…ただ静かに頷く。
湯気に包まれ、
その鼓動は彼女に伝わってしまいそうなほど、
心臓はやけに大きく響いていた。
〜〜〜
(…いつもより、安心する)
彼女は、本心を独白するように思った。
今日までの日常を振り返ると…ここまで気持ちを吐露する事はなく…例えるなら、皇帝としての仮面を被り続けているようなものだった。
しかし今は違う。
彼の肩に凭(もた)れるその重みが、信頼であり、彼の赦しであり、求めていた拠り所だった。
常に「皇帝」であらねばならない。
嫌でも、一挙手一投足が注目され、
自惚れではなく、振る舞い一つに目を向けられる。
(その緊張を誇りとして背負ってきた。でも……それでも時に、ほんの少し、苦しく思う)
誰にも告げることの出来なかった弱さを、
今だけは、彼の肩に預けることが出来る。
こうして彼といる時だけ、
ほんの少しだけ、
昔の…ありのままの、自分に戻れるような気がする。
(ありがとう、トレーナー君…)
だが――今、これ以上を望んではならない。
それは、私自身もよく分かっている
踏み越えてしまえば、日常に戻ることの出来ないラインが有る。
……だからこそ、この寄り添いの一瞬だけでいい。
今、それだけで救われるのだから。
〜〜〜
彼にとって、過ぎゆく時間は…まるで別物だった。
肩の重みが、心地よく胸を満たしていく。
彼は自覚していた――自分は彼女を「冠を掲げる皇帝」ではなく、一人の○○として受け止めているのだと。
(こんな風に、ただ隣に座っているだけで、こんなにも、気持ちが和らぐなんて…)
学園での日々。
重圧を背負う彼女を支えようとするたびに、
其処は彼と無い、無力感に苛まれていた。
だが今、彼女は…自分の肩に身を預けている。
それに、何よりの証明を求める。
(『俺』がここにいて、何か意味はあるのだろうか…?)
半ば自嘲のような問いが浮かぶ。
(―だが彼女は、俺の肩に寄りかかっている)
その答えは彼女の安らかな横顔が示していた。
時が止まったような静寂があった。
湯気に包まれ、外界の音は遠ざかり、ただ呼吸だけが重なっていく。
(もし赦されるなら…ずっと、このままでも……)
そう願いそうになり、彼は首を振った。
それは今、許されぬ願いだから。
〜〜〜
そして――彼女にとっても、この時間は重く意味を帯びている。
(こんなにも…重く、寄りかかるなんて…ね)
己が行為戒めながらも、
この温もりを手放せなかった。
いや「したくない」という我儘が勝った。
今だけは。
この瞬間だけは。
(キミの…私の立場も責任も、この一瞬は忘れさせて欲しい。今の私は……ただの一人の○○として、君の隣にいたい)
心の奥底で、温泉よりも熱く、炎のように燃える想い。
それを理性で抑え込みながら、彼女は目を閉じる。
今、口にしてしまえば、全てが壊れてしまうと分かっているから、だからこの願いは、
なんとかして胸の奥に沈めるしかない。
この湯気の向こうから、もう直ぐ現実は戻ってくる。
だがその時までは――
窓を打つ雨音さえも遠ざかり、湯気の帳が二人を現実から切り離す。
二人は黙して、互いの温もりを手放さなかった。
二章もエタっててすいません。
考え直します。
完全外伝を
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このまま加えても良い
-
イチャつくならおk
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別で連載しろ
-
早く本編書け