優しいアヒルと醜い仔   作:クエゾノ

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上下話です。


小学二年生 お化け屋敷の靄祓い 上

あれから三年程経ち、小学二年生になった。

あと一、二ヶ月で小学三年生である

 

小学生になって自由時間が減り、拘束時間が増えた。

 

転生者としては歓迎できないがこれも仕方がない。

 

小夜ちゃんとは一年生の時に偶然同じクラスで、クラス替えは二年に一回でかつ、仲がいいのでもうすぐ離されるかなとも思っているが、今は保育園時代と同じ様に、二人で靄祓いをする日常を過ごしている。

さすがにあの魔法少女コスプレはもうやめたが、

 

幸いにもあのスライムとやらと出会ったり、猿田山の様なおかしな空間に取り込まれたことは今のところ無い。

 

そんなことを考えていると、

 

「どうしたの?」

 

隣で歩いている小夜ちゃんが声をかけてきた。

 

いつもの黒っぽい落ち着いた服を着て、赤いランドセルを背負っている。

 

 

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「ちょっと昔のこと考えてただけ、」

 

「そうなの。」

 

小夜ちゃんとはだいたいいつもこうして二人で登校している。

 

 

二人で、二年三組の教室に入ると何か騒がしかった。

 

まあ小学生の同輩が騒がしいのはいつものこととしてもなにやら様子がおかしい。

 

「おはよー」

 

「おはようございます。」

 

自分に対してはくだけた口調の時が多いが小夜ちゃんは母親の影響か丁寧語で話すことが多い。

 

小学三年生でこれはどうなのと思わないでもないが、どうやら彼女流のカッコつけらしいので放っておいている。

 

それはとにかく、妙な教室の雰囲気の原因を確かめるべく、知り合いのクラスメイトの高口圭に声をかける。

 

「どうかしたのか?なんか変だけど。」

 

「津島か、

きいてないのか?」

 

保育園時代は皆名前呼びだったが、小学校に入ってからはなぜか皆名字呼びになった。

 

「何を?」

 

「中田たちいるじゃないか、」

 

「あいつらか、」

 

中田たちというのはこのクラスの三人組のグループで、なにかとやらかす事の多い、所謂悪ガキ連中である。

 

この間、ダストシュートに潜り込もうとして壁穴状態で抜けなくなっていた記憶は真新しい。

 

ちなみに個人的には以前小夜ちゃんのスカートを捲ろうとした件で絶許対象で制裁(彼らの親に連絡)済である。

 

このクラスに悪ガキ共はいてもメスガキがいないのはバグだと思う。

 

それはとにかく、

 

「また何かやらかしたのか?」

 

「きのう、帰ってきてから様子がへんで、みんな休んでるらしい。」

 

「三人全員が?」

 

「そう。」

 

「・・・拾い食いでもしたのか?」

 

さすがにやらないとは思うが、

 

「いや、なんかお化けやしきに行ってたらしい。」

 

「お化け屋敷?遊園地にでも行ってたのか?」

 

まだ肌寒いこんな時期に?

 

「そうじゃなくてたんけんに行ってたみたい。」

 

「探検か・・・」

 

それを言われると、日常的に小夜ちゃんと変な所をほっつき歩いている以上、あまり人のことを悪くは言えない。

 

「きのう、お化けやしきを見つけたから、行くってもり上がってたぞ。」

 

「そうか、ありがとう。

どこに行ったかって分かるか?」

 

「それは、教えてくれなかった。

ナイショにしてたからな。」

 

「ありがとう。」

 

まさかな・・・

 

「なあ、そういうのくわしんだろ?

お化けのたたりとかって本当にあるのか?」

 

「あいにくと見たことはないな。

ただ、悪い場所にいくと体調崩したりおかしくなることはあるな。」

 

「わるい場所?」

 

「人通りの無い裏路地のさらに狭いところとかが多いな。

あと放棄された小屋とか」

 

そういう場所に黒い靄が出ることがある。

 

結局のところあれはなんなんだろうなぁ・・・

 

 

実験用に小瓶に入れて保管しようとしたが、小夜ちゃんに見てもらったところ発生地点から離れるに従い徐々に消えていったりといまいち判然としない。

 

秤に置きっぱなしにして消えた前後での重量変化を調べたが観測されず、

それどころか、吸い込めない靄を無理矢理後ろから注射器に入れたところ、ただの空気を同じだけ入れた注射器と重量は変わらず、靄が消えたあとも体積や圧力の減少を観測できなかった。

 

黒い靄には重量がなく、気体分子とは干渉しない。

だが、固体とは干渉する。

 

それならとビニール傘を裏返して突撃したところ、あっさり透過してきたりと訳がわからない。

 

じゃあ液体はどうなのかと思っておもちゃのバケツで水をぶっかけたところほんの少し薄くなったという。

 

体にまとわりついたり生体とは反応するようなので、自分の血を溶かし込んだ水をぶっかけたところ、

小夜ちゃんが狂った様に水たまりに数珠を打ち付けた。

 

曰く、一気に靄が集まって怖かったとのこと、

 

そんな実験を行っているがいまだに小夜ちゃんのいう黒い靄の正体には迫れない。

 

霧と同じで、空間で何かの条件が整ったときだけ、空気中の何かが黒い靄として現れているだけとも思えるが、それだと辰砂朱玉数珠で消滅させられる理由が判然としない。

 

本当になんなんだろうなぁ・・・

 

いっそ小夜ちゃんの幻覚だと考えた方が合理的にも思えるが、心霊現象の正体にそんな簡単に迫れたら苦労はない。

 

一応オカルト本を読んでこうすれば霊視的な能力が身につくというのを試して訓練してみたが、小夜ちゃんにも見えない明らかな幻覚が見え始めたので止めたりもしていた。

 

『ピンクの象の顔部分が前世の知り合いになってるのが寝起きで現れたりと当時はヤバかったな・・・』

 

そんな事を思い出す。

 

「でも俺の父ちゃん、仕事で空き家こわしたりしてるけど、なんともないぜ、」

 

「まあそんなには悪いところってあんまり無いし、大人は頑丈だからな。

調子悪かったり、気分暗くなったりする位で済むみたい。

すごく悪いところはまた別だけど、」

 

小夜ちゃんが以前行ってた幼稚園に小夜ちゃんと一緒に潜り込んで、以前彼女が言っていた問題の小屋を見たことがあるがあそこはヤバかった。

霊感的な感覚は無いのに、近寄った時にあのときの猿田山の様な不気味な感覚がした。

 

怯えた小夜ちゃんが数珠を振り回す度に空気が良くなっていくのを感じて、小夜ちゃんて女神の類いかなとも思ってしまった。

 

調べたら、そこの幼稚園では過去、数人、自殺者や病人が出ていた様だ。

 

「じゃあ、すごくわるいところに行っちゃって、それで休んでるのか?」

 

「その可能性はあるな。

まー単にそこの汚れた水とか飲んで体調崩しただけの可能性も高いけど、」

 

「・・・あいつら、見てくれないか?」

 

「といっても僕にその手の能力はないぞ、意地悪とかじゃなくてできないものはできないんだよ。」

 

「そんなこと言わずにさ、」

 

「だから、無理なものは無理なんだって、物理的に無理」

 

面倒くさくなってきた。

無理なものをねだるのは子供の特権とはいえ、同じ子供にねだられるのは鬱陶しい。

 

「ねえ、見てあげないの?」

 

話を聞いていたのか小夜ちゃんが言ってきた。

 

「小夜ちゃんが言うなら別にいいけど、」

 

あっさりと意見を撤回する。

 

具体的なことは小夜ちゃんがやる以上、小夜ちゃんがやりたいのなら別に構わない。

 

「女の子のおねがいは聞くんだな。」

 

「いや?小夜ちゃんだからだよ。」

 

この年で女の子意識するとは色気付き過ぎじゃなかろうか。

 

自分の事を棚に上げてそんなことを思う。

 

「おおーい、みんな津島と沙霧さんが様子見に行ってくれるって!」

 

わーとクラス中から声が上がる。

 

既成事実化されたようで釈然としない。

 

そこで、

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴った。

 

 

 

「それじゃあ、今日のプリントは津島くんが三人の家にもって行ってくれるということで良いですね?」

 

「はい。」

 

帰りの会で今日の分のプリントを奴らの家に持っていく仕事を貰う。

 

それにかこつけて奴らの様子を見に行くつもりだ。

 

「「「さようなら」」」

 

挨拶とともに放課後特有の弛緩した空気が広がる。

 

ランドセルに教科書とプリントをしまい、レーザーポインターとカメラ改造スタンガン、数珠と色々アルコールに溶かし込んだ手製スプレーと目打ちを左右のポケットに突っ込む。

 

防犯ベルはランドセルについている。

 

刃物の類いは小遣いが出るようになった上、自分の机(ストレージ)ができたので買える様になったが、流石にポケットには入れない。

 

「じゃあ行こうか、」

 

ランドセルを背負い、朱の数珠を握りしめた小夜ちゃんがコクりと頷く、

 

「なあ、おい。」

 

「ん?」

 

声がかかった方を見るとあまり話したことがないクラスメイトがいた。

 

名前は・・・石井だったか、

 

「あいつらの事をよろしくな。」

 

「ああ、分かった。」

 

小夜ちゃんの方を見るとあちらも中田グループを心配する女の子に声をかけられていた。

 

意外とあいつら人気あったんだなと思う。

 

 

 

「えっと・・・こっち?」

 

「いや、こっち、ほらあった、中田の表札」

 

ピンポーンとチャイムを押す。

 

どたどたという音とともにドアが開く。

 

「はい。

あ、えーと・・・」

 

「中田のクラスメイトの津島です。」

 

「あ、そうそう津島くん、と、そっちの子は・・・」

 

「沙霧小夜です。はじめまして、よろしくお願いします。」

 

ペコりと頭を下げる。

 

「・・・またうちの子が何か?」

 

「いえ、体調崩して休んでいるので先生から言われてプリントを届けに来ました。ついでにお見舞いをと思いまして、」

 

「まあ、そうなの、ごめんなさいね。

今寝ちゃってて・・・」

 

「ちょっと声だけでもかけたいので上がらせてもらっても構いませんか?

あと、クラスの子から様子見るのを頼まれているのもありますし、」

 

「そうなの、それなら、ささっ、上って」

 

中田のお母さんに促されるまま家に入る。

 

「知ってるみたいだけど会ったことあるの?

家も知ってるみたいだし・・・」

 

「何ヶ月か前に、あ・・・中田達の間でスカートめくるのが流行ったことあっただろ?

あのとき、後つけて、家を特定して、お母さんになんとかしてくれと、やってるところの写メみせた上で話したからな。」

 

「あれ、やめさせてくれたのケンタくんだったんだ。

みんなよろこんでたよ。

ありがとう。」

 

小夜ちゃんは笑みを浮かべて言う。

 

引かれるかと思ったが、そこまで情緒や常識が発達していないらしい。

 

やはり子供はこうでなければ、

 

そんな自分勝手な事を思いつつ、家の奥に向かう。

 

 

中田の部屋に入る。

机とベット、おもちゃが入った箱が置かれた部屋、

青色の物が多い。

 

自分の部屋を持っているのは素直に羨ましい。

 

小夜ちゃんはとてとてと、ベットで寝ている中田に近づく、

 

慌てて、自分も小夜ちゃんに続く。

 

中田は、苦しそうに寝ている。

母親に聞いたところ熱は無いそうだ。

 

「すごい量・・・もやにつかれてる・・・」

 

自分には何も見えない。

 

ただ苦しそうな中田の寝顔が見えるだけだ。

 

小夜ちゃんは数珠を取り出す。

それを中田の体に当てる。

 

以前は擦っていたが、次第に小夜ちゃんの力が強くなっていっているのか、ぽんと一当てするだけで、大体の取り憑いた靄なら祓える様になった。

それに一日何回かやっても疲れて眠らない様になった。

 

と、中田が目を開いた。

何か、ぞわっとした感覚が全身を巡る。

 

いきなり、中田が起き上がりながら小夜ちゃんの首を掴んだ。

 

「きゃっ!?」

 

小夜ちゃんが悲鳴を上げて、中田の腕を振りほどきながら、腕を掴んで中田の上半身をベットに叩きつけた。

 

「っはっ!」

 

声にならない息が漏れる。

 

慌てて駆け寄りながら、ポケットから自作スタンガンを取り出し、中田の首に押し付けてスイッチを入れる。

 

「ああ"っ!あぁ・・・」

 

ビクンと中田の体が大きく一回震えると、そのままくたっと力が抜けた。

 

「はぁ・・・

はぁ・・・」

 

なんだ今のは、

 

小夜ちゃんは慌てたように、思っいっきり数珠を握りしめて中田を叩く。

 

「おいっ!?危な、」

 

「今ぜんぶはらったわ!」

 

小夜ちゃんは中田を見ながら言う。

 

しばらく中田をみていると安らいだ顔になっていく。

 

それを見て何回か深呼吸して緊張を解く、

カチコチに固まったスタンガンを握りしめた手から徐々に緊張が抜けるのを感じた。

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

「うん。」

 

小夜ちゃんはうなずく。

 

「怪我とか無い?辛いとこない?靄に巻かれてない?」

 

「だいじょうぶ」

 

小夜ちゃんの全身を見る。

 

見る間に小夜ちゃんの握られた首の手の形をした赤みが引いていく。

ほかに異常は無さそうだ。

 

「良かった・・・」

 

呟く。

 

小夜ちゃんはもっている力のせいか身体能力は高く、体育の身体測定ではいつもクラス一位である。

 

以前軽々持ち上げられた事もあり、大人並みの力を持っているんじゃないかと思っている。

 

とはいえ、おとなしめな性格や素振りから普段は全くそうは見えないが、

 

というより、体育の時間では、ドッジボールで小夜ちゃんが投げたボールに当たった子が泣き出したり、サッカー等で走る小夜ちゃんにぶつかって吹き飛ぶ子が出るので、クラスでわりと孤立気味だったり、怪我をさせないように一緒に遊ぶのを避けているせいでそういう性格になったと言えるかもしれない。

 

自分は中身は大人なので泣かないが、たまに本気の小夜ちゃんのスポーツ遊びに付き合った時は生傷が絶えない、

 

そんなことを考えながら、だいぶ力が抜けてきた右手に握りしめたスタンガンを見る。

 

前世のこち亀の漫画に載っていたものを参考にして作ったカメラのフラッシュ回路を改造して作ったスタンガン。

カメラのフラッシュ用のコンデンサーの電気容量的に気絶させられるかは怪しかったがうまく行った様だ。

回路自体は小さいので、カメラから取り出して小さなケースに入れている。

 

「ちゃんと動けて良かったな。」

 

こっそり呟く。

 

ねだって買ってもらった、大きなビニールの人形型浮き輪を使って、いざというとき即座に動いて、相手の体にスタンガンを押し付けてスイッチを入れられるよう毎日訓練していたおかげで、ちゃんと動けた。

 

正直非常時に動けるかは不安だったが、訓練は体を裏切らない。

 

「う、うぅ・・・いたた・・・」

 

薄ぼんやりと中田が目を開けた。

さきほどの異常な雰囲気はなく、寝起きの子どもらしいすこしぼんやりした雰囲気、

 

それを見ると、小夜ちゃんはさっきの毅然とした姿はどこへやら、こそこそと僕の後ろにまわる。

 

「おー大丈夫か?中田」

 

「えーと・・・津島・・・?

なんで・・・」

 

「いや、体調崩して、学校休んでたから、プリント届けにきたついでのお見舞い。

どこまで覚えてる?」

 

「おぼえて・・・?」

 

「いや、お化け屋敷行ってたんだろ?」

 

「お化けやしき・・・あぁ・・・」

 

「何があった?」

 

「なにも・・・山岸がびびって広間まで入ったところで帰ってきて・・・

それから気分が悪くなって・・・」

 

「何かいた?」

 

「なんもいなかった・・・

おい、なんでそんな事聞くんだよ。」

 

完全に目が覚めたのか正気に戻った。

 

「それより、体は大丈夫か?」

 

「なんか、せなかと首がいてえ。」

 

「それ以外は?」

 

「なんか、辛いのはすっきりしたけど力がでねえ・・・」

 

「そうか」

 

この分なら、取り憑いていた靄は無くなった様だ。

長期間、靄に憑かれた人は体力を消耗して、楽にはなったが力が出ないというのは良くある。

以前、風邪を拗らせて体調を崩して病院に入院した時に、お見舞いに来た小夜ちゃんと一緒に、病院にいた靄に憑かれた人を祓って経過観察した事があったが、そんな感じだった。

 

「今日休んで、石井とか心配してたぞ。早く学校に戻ってな。」

 

「大西ちゃんも心配していました。」

 

小夜ちゃんが背中から顔を出して言う。

 

「沙霧も来てたのか?」

 

「ああ、体調が回復するようお祈り(物理)してくれたんだぞ。」

 

中田は、なんと言ったら良いか分からない表情を浮かべる

 

「そうか・・・」

 

「そういや、どこ行ったんだ?

三人まとめて体調崩すとか、普通じゃない。」

 

「加藤と山岸も休んだのか!?」

 

「ああ、これから見舞いに行く。」

 

「俺も・・・いつつ」

 

中田は痛そうに背中を抑える。

 

それに何か言いそうになる小夜ちゃんを手で制す。

 

「無理すんな。

ちゃんと中田が心配してたことは言っとくから、」

 

「分かった・・・」

 

「そういや、中田達が行ったのって何処なんだ?」

 

「ん〜あ〜・・・

まるいけこーえんの、近くのコンビニの先に行って、緑色の家の所で右に曲がって、そのまま歩いて家がすくなくなったとこに黒い屋根の草だらけの大きな家がある。

そこ、」

 

「分かった、ありがとう。

お大事に、さようなら」

 

「おだいじに、さようなら」

 

そう言って、部屋から出ようとする。

 

「おい、」

 

呼び止められた。

 

「あそこ行くのはやめとけ、あそこは・・・なんか・・・ヤバい。」

 

その声はらしくもなく、心細げに聞こえた。

 

 

「もう帰るの?」

 

「はい、お話できたので」

 

「ありがとう。気をつけて帰ってね。」

 

「はい、さようなら、」

 

「さようなら。」

 

中田の母親に声をかけて家から出る。

と、ひしっと小夜ちゃんがしがみついてきた。

どうしたの?と問いかけようとしたが、気がつくと自分も小夜ちゃんを抱きしめていた。

 

女児の微かな柔かい匂い、

ガタガタと震えながら二人で壁に寄りかかり、しばらく抱き合っていた。

 

やはり命のやり取りは、心とは全く別の所で恐ろしいものだった・・・

 

 

 

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「山岸が言ってた変な小さな叫び声が聞こえた気がした。

以外は収穫無しか・・・」

 

震える小夜ちゃんに、今日は襲われたしプリントだけ渡してもう止めようか、と提案したが、小夜ちゃんの意思は強く、そのまま残り二人の家を回った。

 

次は、小夜ちゃんも油断せず、寝ている相手に即座に2回数珠を当てて暴走する前に完全に祓ったので危険は無く終わらせられた。

 

靄に巻かれてなにかおかしくなった人はこれまでも何回か見つけて祓ったことがあるが、これまでは一回で祓えた上、あそこまで凶暴になったのは初めて見た。

 

「うん、そうだね。

入口のドアから入って、ろうかを通ってリビングに行って、そこでがまんできなくて帰ったみたいね。」

 

小夜ちゃんは一見したところ先程の恐怖から開放されたのか、目立って不安定な様子は無く、連続で六回も靄を祓ったのに意識ははっきりしている。

 

「そもそもなんで玄関のドアが開くんだ・・・?

空き家でも、鍵くらいかかってるはずだろう。」

 

「あの家はかかってなかったよ?」

 

「あの猿田山の家は空間からしておかしかったから別、」

 

あと安っぽすぎるので泥棒の類いも入らないだろう。

封鎖が解除された後、あの家を探したが見つけることはできなかった。

 

ただ、どことなく見覚えのある場所に、以前に撤去された家の土台らしきものがあったのは見つける事ができた。

ついでにいくつか見覚えのある様な端材や瓦礫が転がっていた。

 

さらに探すと、あのとき見たのとそっくりな変色した数珠の木箱が出てきた。

 

その箱だけはあの時、家の中にあったときの状態と同じで、開いてみると見覚えのあるボロ布が入っており、数珠は入っていなかった。

 

色々と怖いが、あの世界で家が再構築されたときに、数珠の力で再構築の力が及ばなかったのだろう。

 

そう論理的に考えることで、恐怖を抑えている。

 

それはとにかく、

 

「ねえ?その家、行ってみない?」

 

「今から?そろそろ夕方だよ?」

 

少し空に赤みがさしてきた。

時間的に言えば、そこまで遅くはないが、まだ日が落ちるのは早い。

 

「ほんのちょっと、見るだけ、だから」

 

「小夜ちゃん、結構、力使ったでしょ、

今日どうしてもというわけじゃないんだし、明日にしない?」

 

万一の事を考えると、外から見るだけであっても小夜ちゃんが消耗した状態で濃い靄の発生場所に近づきたくない。

 

「つかれてるの?

それならわたしひとりで行ってくる。」

 

「待て待て、分かった・・・一緒に行くよ。」

 

きつくない訳ではないが小夜ちゃん一人に行かせるよりマシだ。

 

それに、外から見るだけで不味いということは今までは無かった。

 

「ありがとう。」

 

ぱっと小夜ちゃんは微笑んだ。

 

 

 

 

「あれか・・・」

 

不気味な家である。

移動している間に日は落ち、微かな赤い光が藍色の空を照らしている。

 

確かに屋敷と言っていい規模の大きな2階建ての洋風の家である。

もとは黄色かかった白と思しき壁の塗装はところどころひび割れ、枯れた蔦が絡みついている。

庭が広い上、周囲の家からも少し離れている。

この時期の枯れている枯れ草が散らばり不気味な雰囲気を醸し出している。

 

夕闇の暗さと相まって不気味な家だ。

 

「どう?」

 

「お庭は少し、まどの中はすごくこいまどがあるよ・・・」

 

「あの時の猿田山と比べたら?」

 

「あれよりはうすいよ・・・」

 

「そっか〜・・・靄祓いをやるとしたら少しづつやって行こう?

一度には危なそうだし」

 

「そうだね・・・」

 

靄祓いに関しては、そこに殆どの自己表現を突っ込んでいるかのように積極的な小夜ちゃんが言うのは相当である。

 

「今日は危ないし帰ろ?」

 

「うん。」

 

コクッと小夜ちゃんは頷いた。

 

 

「えっ!ゆあちゃん!?」

 

屋敷から少し離れたところで、いきなり声をかけられた。

 

こんな時間に声をかけてくる人には警戒に越したことないと声をした方をみる。

 

すると、六十代ほどの散歩中の老人が立っていた。

 

「違ったか・・・ごめんごめん。

君たちどうしてこんなところにいるの?

暗いしもう帰りなさい。」

 

「ゆあちゃんって誰ですか?」

 

言われるまでもなくさっさと帰ろうと思ったが、小夜ちゃんが口を開いた。

 

・・・?らしくない。

 

「この先にお屋敷があるのは知っているかな?

そこに昔住んでた子なんだよ。

だけど・・・」

 

「だけど?」

 

「何年か前、こわーい泥棒が入って、死んじゃったんだ。

だから、さっさと帰りなさい。」

 

老人は心が痛むというようにやるせない表情を浮かべる。

 

「何年前ですか?」

 

「五年くらい前だったかな?

それから奥さんがおかしくなって、しばらくして、ご主人があの家を手放して・・・

 

ああいや、早く帰りなさい。」

 

「分かりました。」

 

帰り道、小夜ちゃんを送った後、図書館に寄る用事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

「まだ、中田達休みだぞ。」

 

「あれ?一応、お祓いして楽になったみたいだったのに、」

 

「そうだったのか?」

 

「ああ、中田はお祓い中いきなり起き上がって、首を絞めてきてヤバかった。

小夜ちゃんが抑えたけど、」

 

「首を!?なんで!」

 

「しらん、病気で頭がぼんやりしてたり、悪い場所に影響受けると凶暴化することがあるからその影響だろう。」

 

「・・・けがしなかったか?」

 

「大丈夫、お互いピンピンしてる。」

 

「そうじゃなくて中田がだよ。」

 

「襲われた僕らの心配しろよ!?」

 

そんな事を高口と話す。

 

その後の朝の会で先生が言うには、体調は落ち着いたものの体力が落ちて起き上がれないので来れないとの事だった。

 

単に靄に憑かれて弱っていたのだろう。

靄に憑かれた際の体力の回復にはしばらくかかる。

 

それよりあのお化け屋敷の攻略をどうするべきか、

色々実験もできそうだし、

 

そんなことを授業中考えて過ごす。

 

授業中他のことを考えるのは前世からのスキルである。

 

そして、給食を食べた後の昼休み、小夜ちゃんと教室を出て人気の無い屋上に続く廊下に行こうとする。

屋上は封鎖されているのであの辺りは人気が無い。

ここでいつも作戦会議を行っている。

 

と、

 

「すみません。沙霧さんと津島くんっていますか?」

 

声がかかった。

 

 

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声の方を見ると、少し笑みを浮かべた背の高い長い漆黒の黒髪の幼女がいた。

上品そうな白いフリルシャツに赤いスカートを履いて、巫女服の様にも見える。

 

「山宮さん!?」

 

声が上がる。

 

上履きに丁寧に書かれた文字を読むと確かに3−2山宮・・・上級生の様だ。

 

有名人なのかなと思いつつ、何か用なのだろうか、

 

「はい、津島は僕ですが、」

 

「沙霧は私です。」

 

「ああ、良かった、ちょっと付き合って下さいませんか?」

 

どことなく言葉遣いや所作が上品だが、その有無を言わせない感じを含めて、お嬢様というよりお姫様というという雰囲気である。

 

「分かりました。」

 

二人で、そう言ってついていく。

 

・・・よく見ると、廊下に二人の男子上級生が山宮さんを守る様に立っていた。

一人は小学生にしては体がゴツく、なにか武道をしている様に見え、もう一人は背がひょろ高いが眼光鋭く周囲を警戒している。

 

なんだこいつら、

 

そっとポケットの防犯ベルを握る。

 

 

人気のない校舎裏にやってきた、

ここはもう使われていない焼却炉と夏の使用時期を過ぎて濁って沼と化したプールへの入口がある。

 

微妙に肌寒い、良く上着着ずに四人とも平気だなぁと思う。

 

「で、なにかご用で・・・」

 

「質問は、姫様が行う。

お前達は、聞かれた事に答えていればいい。」

 

ゴツい方の上級生、上履きを見ると、3年2組義木が言葉を遮った。

 

姫様wいつの時代だよww

ここそこまで時代考証無視できるド田舎じゃ無かったと思うけどww

思わず頭の中に草が生えた。

 

隣の小夜ちゃんの様子を窺うと・・・なんだ?警戒している?

 

「楽にしてくださいな。」

 

明らかにツッコミどころ満載の隣の上級生の言葉を当然のように気にした風もなく、山宮・・・もう山宮氏でいいか、

山宮氏が言う。

 

「すこし、伺いたい事があります。」

 

「はあ」

 

とぼけたふうに言う。

 

次の瞬間、空気が変わった。

 

山宮氏の隣の二人の気配がやたらと攻撃的になった。

なぜか、恐ろしい。

ポケットの中の防犯ベルを握る手に力が入る。

校内とはいえスプレーも持ってくるべきだったか、

 

と、

 

小夜ちゃんが一歩前に出る。

 

よく見ると拳を握りしめていて珍しく臨戦態勢である。

 

自分も負けずに一歩踏み出そうと震える足に力を込める。

 

が、小夜ちゃんに肩で制された。

 

「義木、高幡、納めなさい。」

 

山宮氏が呼びかけるとすっと圧が軽くなる。

 

なんなんだ。コイツラは・・・

 

「ごめんなさいね。

質問、よろしいですか?」

 

「どうぞ、」

 

小夜ちゃんが答える。

 

「昨日から、あなたのクラスのお三方が休んでいると聞きました。

なんでもお化け屋敷に行って具合が悪くなったとか、

それで昨日あなたがたがお見舞いに行ったと、

お三方の具合は大丈夫そうでしたか?」

 

「へいきでした。

あと何日かしたらもどると思います。」

 

「そうですか、それはなによりです。

それで、どこに行ったか、分かりますか?」

 

「分かりません。

聞いて言われた所に行きましたけど、おやしきなんてなかったです。

きっと、場所をまちがえたんですね。」

 

「そうですか・・・

どのあたりですか?」

 

「おおいけ公園から郵便局を目指してまっすぐ行ったところです。」

 

モロに山の中に誘うルートである。

 

「そう、ありがとう。

あなたの下のお名前は?」

 

「小夜です。」

 

「沙霧小夜・・・良いお名前ですね。」

 

「あなたのお名前は?」

 

「っ!」

 

なにか言おうとした義木を視線で制して山宮氏は言う。

 

「まあ、私としたことが、

山宮千紗と申します。」

 

「ちさ、ですか、きれいなお名前ですね。」

 

「ふふ、ありがとうございます。

そうだ。

あなたがよろしければ、私のお友達になりませんか?」

 

「・・・」

 

いきなり何を言っているんだこの人。

 

同じく小夜ちゃんも訳分からないとキョトンとした様子である。

 

「返事は遅くなっても構いません。

では、失礼致しました。」

 

そう一礼すると二人のお供を引き連れて去っていく。

 

何だったんだ今の・・・

 

狐に化かされた様な感じである。

 

小夜ちゃんを見る。

 

「あの人・・・途中からケンタくんのこと見てなかった。」

 

彼女にしては珍しく少し怒っている様子だった。

 

話している相手以外は普通は見ないと思うが、

 

 

 

作戦会議用の資料やノートを取ろうと教室に戻ると、教室がざわめいていた。

 

「おい、だいじょうぶだったか?」

 

真っ先に高口に話しかけられる。

 

「何が?」

 

「山宮様だよ。」

 

「様付け!?」

 

あいつらは一体何なんだ。

 

「知らないのか!?

山宮神社って分かるか?」

 

「ああ、お祭りで行く・・・」

 

猿田山の時に見た神職を探した事もあるが見当たらなかった。

 

「そこの子だよ。」

 

「そーなんだ。」

 

知らなかった。

 

「そーなんだってお前・・・」

 

「津島さんちは、昔からここにいた人じゃないから、知らないんだと思う。」

 

薄く茶色がかかった髪を肩口で切りそろえた、ピンクっぽい子供服を着た女子・・・花田愛が言う。

 

「そんなにここでは権威ある・・・偉いの?」

 

「すっごくえらい。

この街が小さかった頃から、ずった見守ってくれているヤマシロ様をおまつりしていたの。」

 

「ヤマシロ様ねえ・・・ここのあたりの昔話だったな。」

 

なんでもこの辺り一帯はもともとたちの悪い妖怪が蔓延る不毛の土地だったが、ヤマシロ様が降臨して悪い妖怪を退治して村が開かれたとか、

 

「そうそう、その昔話のヤマシロ様からいわれて、さいしょのほこらを立てて、ヤマシロ様に来てもらった人の子孫が山宮様なわけ、」

 

「なるほど。」

 

要するに由緒正しい一族というわけである。

一応、ここは村とか町とかそういう規模ではなく、小さな市規模だがまだそういうものに権威があるのか、

 

その後、何を話したか等、同級生に質問責めにされて、作戦会議をする時間が取れなかった。

 

小学生に浸透しているレベルでいまだに強い山宮家の権威には驚いた。

 

 

 

家に帰ると装備一式を揃えていつもの公園で小夜ちゃんと合流する。

 

今日、あのお化け屋敷の靄祓いを行う。

 

庭の黒い靄をざっと祓って屋敷への道を作ってから屋敷に入る。

 

最初に庭の靄を全部祓わないのは、庭の靄を祓っている時に近隣住民に見咎められて、連れ出されてしまうかもしれないからだ。

 

一度連れ出されたら警戒されるので、庭の靄を完全に祓うのは屋敷の靄を全て祓った後である。

 

「じゃあ行こう?」

 

小夜ちゃんが差し出す手を握り、歩き出す。

 

 

 

 




最後の方に出てくるお姫様が、将来、全裸土下座して種乞いするかと思うと、

なんというかこう、浮き立つような気持になりませぬか?兄上?



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