優しいアヒルと醜い仔   作:クエゾノ

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おかしい、こっちの性癖はなかったはずなのに、なぜか性癖外の変態描写が出てる。

15歳未満の方は申し訳ありませんが、諸事情からR15にしました。申し訳ありません。


小学二年生 お化け屋敷の靄祓い 下

 

「うん、そっち何回か振って、」

 

言われた通り伸ばした指示棒の先につけた辰砂朱玉数珠を振る。

小夜ちゃんも手元を見ずにぶんぶんと朱色の数珠を振り回している。

少し離れた仏具屋に、同じ製品の数珠があったので購入した。

 

試してみたところ、猿田山で見つけた数珠と同等の効果があったのでこうして自分用の数珠として使っている。

 

しかしあのクソ仏具屋め、四千円の商品を子供が買うには早いとかなんとか言った挙げ句、二万円まで値上げして売りつけやがって、

 

おかげで貯めていたお年玉がほとんどなくなった。

電車で行ける範囲の他の仏具屋には残っていない可能性があったから今回の機会を逃すわけには行かなかったが、もう絶対利用しない。

 

そんな苛立ちをこめてぶんぶんと振り回す。

指示棒の先につけているのは靄に近づかなくても祓える様にする工夫である。

この支持棒には百均のライトやスタンガン用の電線もつけてある自分用の靄祓いの道具である。

 

小夜ちゃんは靄に憑かれることは無いが自分は憑かれることがあるのでこういうものを使っている。

 

そうこうしている間に、広い庭を抜け、屋敷の入口に着いた。

 

小夜ちゃんが屋敷のドアを開ける。

 

ギギィ・・・

 

軋んだ音を立ててドアが響いた。

 

中は異常に暗い。

 

小夜ちゃんは中を覗き込み顔を顰める。

 

「棒をかして」

 

渡す。

 

小夜ちゃんは指示棒を伸ばし、自分の数珠を取り付けると数回薙いだ。

 

・・・気のせいか玄関付近が明るくなった気がする。

 

「これで入れるよ。」

 

そういいつつ、小夜ちゃんは棒を返し屋敷の中に入る。

 

黴臭い室内、積もった埃、

 

広めの玄関は廊下の途中にあり、前と左右に廊下が伸びていた。

 

足元を照らすと、積もった埃についた複数の小さな足跡が前方の廊下の先に続いている。

 

中田達の足跡だろう。

 

「取りあえず、これに沿っていこう?」

 

「うん、そうだね。

前を行くね。」

 

小夜ちゃんは、前に突き出した数珠を振りながら進む。

 

彼女が数珠を振る回数や振っている様子を見るに、これが普段の靄祓いとまったく違うというのが嫌でもよく分かる。

 

自分も振り残してそうな辺りに数珠を当てているがどれだけ効果があるか怪しい。

 

時々小夜ちゃんは後ろを振り返ってこちらをちらりと見る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

足元を見ると足跡が開いた扉に向かっていた。

 

あそこが広間か、

 

 

広間に入る。

 

広く吹き抜けになっており、古びたソファーやテーブルが置かれたままになっている。

 

どうやら居間として使われていた様だ。

 

大きな窓から明かりは差し込んできているのに何故かとても暗い、

 

「ここで、ゆあちゃんは死んだのかな・・・」

 

「いや、図書館で当時の地方新聞探して読んだけど、家具だか押入れに隠れている状態で引きずり出されて、殺されたみたいだから、ここじゃないと思う。」

 

撤去されていたとしても居間に子供が隠れられる様な家具は置かなそうである。

 

宮橋由亞、それがこの家で死んだ少女である。享年8歳

 

仕事で忙しい両親が家を開けて、一人で留守番していたところに、無人だと思った三人の泥棒が侵入、

顔を見てしまったことから、口封じのため殺害された。

 

顔を見てしまってから家中逃げ隠れ回ったらしいが、結局は隠れた所から引きずり出され腕で首を締められ殺害。

 

殺害の実行犯は無期懲役、一緒に押し入った強盗は懲役二十年の服役中である。

 

図書館で調べて本当に事件があったのかと驚いた。

 

幽霊とか出ないよな?とは思うが、スライムしかり黒い靄しかり、一般に言う幽霊とはかけ離れており、

小夜ちゃんに聞いたところ幽霊を見たことがないと言っていたこともあり、

自分達が祓っている黒い靄と幽霊的な事象は関係がないと思われる。

 

「えいっ」

 

小夜ちゃんが数珠を振り回す。

 

次第に広間の暗さが晴れて・・・

すごい勢いで明るくなっていく、

 

小夜ちゃんは凄いなと思って見ると、

小夜ちゃんは呆然と空中を見ていた。

 

「なに・・・あれ・・・

おやしき中のもやが集まって・・・

 

ゆあちゃん・・・?」

 

ぞわりと悪寒がした。

 

何だ?小夜ちゃんには何が見えている?

 

取りあえず、数珠を小夜ちゃんの見ている方向に向けようと・・・

 

「ダメッ!」

 

小夜ちゃんが手を掴み、引き倒してきた。

 

ヒュッ

 

すぐ真上を何かが通り過ぎる。

 

ガシャン!

 

音がした方を見ると、掛けられていた絵が額縁ごと壁に当たって砕けた。

 

飛んできた方を見るが何もいない。

 

小夜ちゃんが息を呑む、そのまま手を引かれ、ドアに向かう。

 

後ろを見ると、壊れた絵の額縁とガラスの破片が、空中に浮かび上がっていた。

 

「っ!!」

 

小夜ちゃんに手を引かれて潜り抜けると同時に、ドアを叩きつける様に閉める。

 

ドスドスドスッ!

 

ドアに何かが突き刺さるくぐもった音がする。

 

「逃げるよっ!」

 

玄関に向けて小夜ちゃんに引きずられる様に走る。

 

玄関のドアに二人して体当りする様にぶつかって停まる。

 

小夜ちゃんがドアノブを掴み力を込める。

 

「うそ、動かない!」

 

鍵を見るが開いている。

 

ガチャガチャと鍵を動かすがドアノブが動く様子は無い。

 

「危ないっ!」

 

小夜ちゃんに後ろに引っ張られる。

 

ドスン!

 

大きな靴箱が倒れ、目の前にすべって来た。

 

封鎖された!

 

「こっち!」

 

小夜ちゃんに引きずられる様に横の通路に駆け出す。

 

少し走って、突き当りで曲がり、途中の部屋に入る。

 

窓の無い暗い部屋に一瞬だけ明かりが射し込む。

 

寝室の様だが飾り気がない。

客室の様に見える。

すぐにドアを閉め、暗闇の中、そのまま二人で、先程一瞬だけ見えたベットの下に潜り込む。

 

静かな闇の中、二人の荒い息づかいがする。

 

と、小夜ちゃんの息が止まり、口に小さな手が当てられる。

 

静かにしろ・・・か

 

息を静かにする。

 

そのまましばらく待つ、

 

奴が床の埃に気付いて、この部屋にいると気付かれたら・・・

いや、かかっていた絵が割れて暗闇の中から隙間に向って尖ったガラスが飛んできたり、あるいはベットごと押しつぶされたら・・・

 

暗闇の中、嫌な妄想が溢れる。

と、ぎゅっと手を小夜ちゃんが握ってきた。

強く握り返す。

 

しばらく時間が経つ、

 

「・・・もう行ったみたい。」

 

そっと小声で小夜ちゃんが言う。

 

「何が起きたの?」

 

「もやをはらっていたら、急にお家中のもやがあつまって、

白い人形みたいな形になったの、

たぶん、ゆあちゃんだと思う。」

 

「そうか・・・ということはもう靄は見た範囲では無いのか?」

 

「お庭にはあるけど、おやしきの中にはないと思う。」

 

「靄にそんな性質があるなんて・・・」

 

小夜ちゃんが見たものが宮橋由亞だとするなら、黒い靄は幽霊を具現化するエクトプラズム的な性質を持っている。あるいは、そのエクトプラズム的な何かとそれによって半実体化した微弱なナニカが混ざったものなのだろう。

 

「懐中電灯つけて大丈夫?」

 

「うん、たぶん、

もうどこかにいっちゃったし、」

 

ライトを取り出して付ける。

部屋が明るくなった。

 

見たところここは客室の様だ。

絵や壺が飾られてはいるがホテルの部屋の様に生活感が無い。

 

と、思いきや、一つだけ、

テーブルに小さな写真が立てかけられている。

 

写真を見ると、短く淡い金髪の幼女と言っていい年齢のかわいらしい少女が写っていた。

七五三の時の写真らしく白っぽく薄藤色の模様の入った着物を着て金太郎飴の袋を持っている。

髪の色と雰囲気は違うが、背格好から後ろ姿で薄暗い中で見たらどことなく小夜ちゃんの様ではありそうである。

 

「この子がゆあちゃんなのかな?」

 

「多分そうじゃないか?

こんな感じだった?」

 

「うー・・・分からない。」

 

「そうか、」

 

言いながら、写真立てを分解して、写真を取り出す。

 

ゲームの様に写真の裏に何か書かれているということはなく、

テーブルの引き出しを見るが何も入っていない。

 

一応、写真を写メしておく、

写メのついでに携帯の電波を見ると見事に圏外だった。

まあ圏外だからといっても防犯ベルを鳴らしたり、外に異常を伝える方法はいくらでもあるが。

かといって、下手に救助されようものなら、靄祓いはできなくなるのは確実だろう。

 

「窓のある部屋に行って、そこから外に出よ?」

 

こくりと小夜ちゃんはうなずく、

 

ランドセルから見えないナニカ・・・取りあえず怪異と呼んでいる。

怪異用の装備を取り出してホルスターごとベルトにつける。

百均で揃えた細長めの包丁とナイフ、塩、灰、線香、マッチ、自作怪異用スプレー、ジッポライター・・・

ただこれらがどれだけ役に立つかは不明である。

 

一緒にドアに近づき、おっかなびっくり、ドアノブに手をかけて開ける。

 

小夜ちゃんはするりと隙間から顔を出して様子を窺う。

 

「だいじょうぶ」

 

よし、

 

そろりと向かいの部屋に入る。

 

畳数畳ほどのがらんとした和室だった。

 

壺が飾ってある以外は特に何も見つからない。

 

そうっと、ドアを閉めて窓に近づく、

ゆっくりと内側の障子戸を開けて、外側の窓ガラスの鍵に目をやる。

 

・・・鍵の部分だけ異常に錆びついていた。

隣の窓を確認するとこちらも異常に錆びついている。

 

小夜ちゃんが鍵に手をかけて開けようとするもピクリとも動かない。

 

小夜ちゃんを止めさせ、ポケットから目打ちを取り出す。

 

そうして、窓ガラスと窓枠の隙間に目打ちを差し込み、力をかける。

 

これで割れるはず・・・

 

ピキッと窓ガラスから音が鳴りヒビが入った。

 

小夜ちゃんが息を飲む。

 

さらに力を込める。

ヒビが広がる。

 

その瞬間、

 

「!」

 

突き飛ばされた。

 

ヒュン!ガシャン!

 

何かを思う前に、何か飛んできて割れる音が響いた。

 

見ると、壺が壁に当たって砕けていた。

さらに状況を確認すると、小夜ちゃんに押し倒されていた、

 

何か声をかけようとするが、恐れるような真剣な表情で何もいない中空を見つめていた。

 

温度が下がる。寒気がする。

 

ばっと起き上がった小夜ちゃんに引きずられて和室の出入り口に向かう。

 

畳の上とはいえ、あちこちが擦れて痛い・・・

 

なんとか起き上がり、小夜ちゃんと一緒に部屋を出て逃げ出す。

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

物置・・・にしては整理されて出入りがありそうな部屋のタンスに隠れて息を潜める。

 

遠くからバタン、バタンとドアが開けられる音がするが次第に遠ざかっていく、

 

アレは中を一瞥するだけで、中を探したりはしないのか?

 

「・・・もう大丈夫だと思う・・・」

 

そっと小夜ちゃんは言う。

二人でそっとタンスから出る。

 

「はぁ〜・・・

何だったんだ・・・?」

 

「たぶん、まどを割ったせいだと思う。

家のものをこわすと出てくるみたい。」

 

「やっかいな・・・」

 

こうなったら、椅子か何かを投げつけて思いっきり窓をぶち破ったところで、一旦逃げ出して、いなくなったところでまたそこから逃げるか、

 

そういうと、

 

「だめ、こわすのが多いと、出てくるのも強くなりそう。

そうしたら逃げられるか分からない。

さいしょに入ったひびだと弱わそうな感じだったけど、次にひびが入ったら 強くなった。」

 

厄介な。

 

ライターで燃やしても鉄筋建築なので燃やせそうもない、

 

小さな火種で燃やし始めて、ある程度火が大きくなってそっちに引きつけられたら、他のところで窓を割って脱出するか、

 

とはいえ、未成年ガードがあるとはいえ、流石に放火はやりたく無い、下手したら、靄祓いどころか小夜ちゃんと接触禁止になる。

 

となると、目に見えぬ怪異を倒すか、開けられる窓やドアを探すか、

 

どうしたものか、

と、小夜ちゃんが懐中電灯の明かりに照らされた物置のあちこちを見ている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

大きな遊具やタンス、本棚など、ダンボールやケースに入れない程度に時折使う品々を保管している部屋の様だ。

 

「これかな」

 

小夜ちゃんは本棚から数冊の大きい本・・・アルバムか、

を取り出して開く。

 

二人の大人の男女の写真があった、女性の方は先程の写真の少女と同じ色の髪をしている様に見える。

といっても昔のフィルムで発色が悪いせいで微妙に褪せているが、

 

さらにアルバムをめくる。

その二人の男女の旅行の写真、結婚の写真、お腹が膨らんだ写真、

 

ここで、アルバムを読み切り次のアルバムに向かう。

 

赤ん坊を抱く女性と隣に立つ男性の写真、保育器で眠る赤ん坊の写真、

 

そういえば、あれ内側から見ると光が反射して白い帯が空中にかかってる様に見えるんだよなあと遥か昔の事を思い出す。

 

幼児ベッドで眠る赤ん坊の写真、服を着てハイハイしている赤ん坊の写真、

室内用の滑り台で遊ぶ幼児の写真、

庭とおぼしき場所で遊んでいる薄い金髪の幼児の写真、

幼稚園で撮られたのか制服を着た金髪の幼児が周りの皆と共に手を繋いでなにかやっている写真、

 

次のアルバム

 

穏やかな表情の男女の間でどことなくふわふわした感じで笑う先程の写真の金髪の少女の写真、

そして、ウチの小学校の校門で撮られた入学した時の写真、

先程見た七五三の時の着物を着た写真、

ゆあちゃん誕生日おめでとうと書かれたケーキを前にした淡い水色のドレスをきた金髪の少女のパーティの写真、

 

そして、何も入っていないアルバムのページが続く。

 

ここで死んだのか、

 

宮橋由亞という一人の少女が生きた証を前に、手を合わせようかと思ったが、変に儀式動作をして呼び寄せてしまったら元も子もないので、目を閉じ頭を下げて黙祷を捧げる。

 

目を開け、小夜ちゃんを見ると、沈痛な表情を浮かべ同じ様に黙祷していた。

未熟な彼女ではこういうときどうすればいいのか分からなかったので、とりあえず真似たのだろう。

 

「かわいそう・・・」

 

ぽつりと小夜ちゃんが口を開く。

 

「そうだな。」

 

「あの子、ゆあちゃんなのかな?」

 

「さあ・・・分からないけど可能性はあるな。」

 

なにせスライムなどというファンタジーの魔物的な怪異が現れる世界である。

幽霊等ではなくそういうモンスター的なものである可能性はそれなりにある。

 

「ゆあちゃんだったとしたら、どうしておそってくるのかな?」

 

「分からない。

ただ出れない様に閉じ込めている以上、追い出したいとかじゃなくて、明確に僕らになにかしたいんだと思う。」

 

殺したり、傷つけたり、

 

「そっか・・・

ゆあちゃんの事、知りたい。」

 

「アレと全く関係が無いかもしれないぞ?」

 

「それでも、知りたいの。」

 

「そっか・・・じゃあ、手がかりを探す?」

 

どれだけ、彼女の手がかりが残っているかは分からないがアルバムさえ放置して引っ越したのなら、日記や彼女の自由帳位は残っているかも知れない。

 

「うん。

それと、出口もあったらさがさないと、」

 

そこは分かっていた様で安心した。

 

 

 

取りあえず、外で由亞が遊んでいる写真に裏口が写っていたので、そこを目指して移動する。

 

途中の部屋や廊下の窓を見るがどこも鍵は錆びついているかはめ殺し窓で、動きそうにない。

 

先程の広間をおっかなびっくり通り抜けて、裏口とおぼしき場所へ、

 

「あった。」

 

裏口が見つかった。

そおっと、小夜ちゃんがドアノブを握り、開こうとする。

 

動かない。

カギをガチャガチャと動かすが動かないのは変わり無い。

 

と、

 

「来た!」

 

小夜ちゃんが叫び、後ろに僕を匿う。

 

「ゆあちゃん?ゆあちゃんなの?」

 

何も無い中空に話しかける。

 

「ゆあちゃんだ・・・」

 

そこで、廊下に飾られていた重そうな額縁に入った絵が、音もなく浮き上がる。

 

小夜ちゃんは中空を見ていて気づいていない。

 

「危ない!」

 

小夜ちゃんの肩を引く、

 

ズオッ!

 

少し前まで小夜ちゃんの頭があったあたりを、重そうな額縁に入った絵が通過する。

 

ドゴッ!

 

額縁はすぐ隣の壁に当たって砕け、小夜ちゃんをかばった自分に欠片が降り注ぐ、

 

痛い。

 

「ゆあちゃん、なんで・・・」

 

「逃げるぞ!」

 

ショックを受けた小夜ちゃんの手を引いて逃げる。

 

追ってくる由亞(仮)にまずいと思ったのか、途中で小夜ちゃんが駆け出し、さっきのように僕が引き摺られる様になる。

 

あちこちを走り回り、階段を登り2階へ、そこでいくつか先のドアに入る。

 

どうやらここは書斎だったらしい。

ここは引っ越すときに持っていった物が多いらしく、あちこちの棚が空いている。

隠れ場所は・・・

 

小夜ちゃんが大きな棚を開けるとその中がまるごと空だった。

 

二人で無理矢理その中に入る。

狭い・・・

 

みっちりと密着する。

小夜ちゃんの甘い体温と押し殺した息遣いがみっちりと全身に押し寄せる。

 

バタッ!

 

ドアが開く音がする。

息を止める。

 

バタッ!

 

ドアが閉まる。

しばらくドアを開け締めする音が響く。

 

だんだん音が遠くなる。

 

「どこかにいったみたい。」

 

小夜ちゃんが言う。

 

二人でなんとか棚から出る。

 

怖かった。

 

「由亞ちゃん・・・だったのか?」

 

「うん、はっきり見えた。」

 

「なんて言ってたんだ?」

 

「なんて言ってたかは、テレビの2チャンネルの音みたいで分からなかった。聞こうとしたら、急に絵が飛んできて・・・」

 

テレビの2チャンネルの音、つまり砂嵐のノイズか、

前世ではデジタル化に伴いとっくになくなっていたが、現世ではまだ現役である。

 

「そうか・・・じゃあ由亜ちゃんの痕跡を探すか、」

 

「うん」

 

整理されているのでもう無い可能性もあるが、

 

少し探す。

 

「あった、日記って書いてある。」

 

小夜ちゃんは何冊かの日記帳を持ってきた。

 

宮橋勝司と日記の名前欄には書かれている。

 

おそらく父親の日記であろう。

 

「漢字にふりがなが無い・・・」

 

日記を開いた小夜ちゃんが呟く。

 

「僕が重要そうな所を要約して読むから、」

 

「うん、お願い。」

 

読み進める。

この家は、子供にのびのびと育ってほしいという思いから、街から遠くなくて自然があって広い家として中古で買ったらしい。

 

前の所有者は夜逃げしたらしい。

 

幼稚園の入園でも由亞はどこかのほほんしていた事、

 

幼稚園で由亞が口喧嘩で他の園児を泣かせてしまったことを妻から相談されたこと、

 

連れて行ったキャンプで、普段はおっとりしている由亞が珍しくはしゃいでいたこと、

 

入学の時の手続きを由亞に感謝されたこと、

 

テストで良い点をとっていたこと、

 

あまり感情は込められておらず、由亞の事が書いてあるところはそこまで多くは無いが、大切に思っていたのは伝わってくる。

 

それを次々に小声で読んでいく。

小夜ちゃんはじっとそれを聞いている。

 

ページを捲る。

あの事件の日になる。

空白、

何回かページを捲る。

 

日記帳の三日後のページには乱れた字で、なんで由亞が、と書かれていた。

 

それからしばらく由亞の葬儀の段取りについて書かれており、

 

葬式が終わったところで、

由亞への別れの言葉が書かれていた。

 

それでも日記は続く。

由亞を喪ったショックから次第におかしくなる妻の事が書かれていて、最後には、ここに由亞の記憶を置いて引っ越すと書かれていた。

 

富豪だなぁ。

そんなことを思う。

 

妻のおかしくなり方は書かれていた限りでは、いないものがいる的なものは少なく、自責の念でおかしくなっていた様なので、今回のアレとは関係無さそうだろう。

 

「お父さん、かわいそう・・・」

 

小夜ちゃんが呟く。

 

「そうだな。」

 

それは間違いない。

 

「由亞ちゃんて、こんな子だったんだ。」

 

「どーだろ?

父親のひいき目が入ってる感じもあるし、

頭が良くて落ち着いた子だったのは確かみたいだけど、」

 

「そうだね。」

 

父親のひいき目は小夜ちゃんも感じていたらしい。

 

「読んだ感じだと、お母さんも日記つけてたみたいだし、お母さんの部屋と由亞ちゃんの部屋を探そう?

あと出られそうな所を、」

 

基本は出られそうな所優先だが、こうして由亞の過去を探れば、由亞をなんとかする手がかりが見つかる可能性がある。

 

「うん。」

 

こくりと小夜ちゃんは頷く。

 

 

そおっとドアを開ける。小夜ちゃんが周りを見回す。

 

「こっち」

 

小夜ちゃんが先導して、廊下を進む、

 

廊下の窓を見る。

やはり、窓の鍵部分は錆が激しい。

 

どうしてこうなったんだ?と思って観察すると、窓の隙間近くのゴムや鉄材部品も錆ているというか腐食している。

 

靄が外に流れる際に物質を腐食させていたのだろうか、

アルミは錆びにくいのでアルミサッシ部分は無事で、

 

「ケンタくん?」

 

「あ、なんでもない。」

 

少し慌てて着いていく。

 

と、

 

「来る・・・」

 

小夜ちゃんが呟く。

僕の手をとって駆け出す。

 

そして、とある部屋のドアを開けて中に入る。

 

中にはクローゼットやタンスが並んでいた。

衣装部屋か、

そのうちの一つのクローゼットに潜り込む。

 

バタッ!

 

ドアが開く音がする。

 

今度は中々閉じない。

開け放しでどこかにいったのかなとも思ったが、

 

トン、

 

微かな足音がそれを打ち消した。

 

いる。

クローゼットの隙間から覗く、

ただ埃舞う薄暗い室内が見えた。

 

トン、

 

また足音がした。

 

いる。

見えないが、何かが目の前を歩いている。

 

トン、

トン、

トン、

 

トン・・・

 

 

トン・・・・・・

 

 

足音は去っていく。

 

バタンッとドアが閉まる音がした。

これで安全か・・・?

 

ぎゅっと小夜ちゃんが袖を掴む。

 

まだ危険か、

 

しばらく待つ、

バタン!

 

ドアが開いた。

 

戻ってきた!?

 

バタン!

 

違う。出なかったんだ。

ドアを閉めて、出たように見せかけて、ずっと部屋にいたんだ。

 

それで今度こそ出ていったと・・・

 

なんでこれだけの知能があるのにクローゼットの戸を開けない・・・?

 

それがひたすらに不気味だった。

 

「もう行ったみたい。」

 

小夜ちゃんが言った。

 

「ありがとう・・・そういえば、小夜ちゃんは、どうやって察知してるの?」

 

「さっち?」

 

「猿田山のときもそうだけど、目で見たり音が聞こえない時も近づいてるとか、もう行ったとか分かるみたいだから、」

 

「なんとなく分かるの。

いやなものが来たとか、行ったとか、」

 

「そっか、そういや失せ物探しも得意だったな・・・」

 

保育園や小学校で、誰々の何々が無いと騒ぎになったとき、小夜ちゃんはあっさり見つけていたなと思い出す。

 

さっきから3回続けて、由亞の記録がある部屋に逃げ込んだのといい、この辺の探知系の力の賜物だろう。

 

つまり、この部屋にも何かあるかもしれない。

 

そう思って部屋を探し始める。

・・・タンスから女児ものの服が出てきた。

七五三の時の写真に写った着物や写真にあった服等、

 

女児もの服は由亞の趣味だったのか淡い色のものが多い。

薄い水色や黄緑色等、

 

特に目を引いたのは、誕生日の写真にあった薄い水色のドレスである。

 

小夜ちゃん曰くこれを着ていたとのこと、

 

これらの服のポケット等には特に何も入っていなかった。

 

すぐサイズが変わる子供服にこれだけ金をかけるとは、金持ち過ぎると思いつつ、何故か変態な事をしてる気分になってくる。

 

 

 

再び廊下を歩く。

 

こうやってる時、由亞はどこに待機しているんだろうか、じっと、来そうな廊下を見張っていれば早く捕まえられるのに、

 

いや?

そこまで安定した存在として実体化していない・・・?

実体化したり消えたりを繰り返している?

 

思考を紡ぐ。

 

「ここ、」

 

小夜ちゃんが何かに導かれる様にして一つの部屋を指す。

 

扉を開ける。

 

女物のコートがかけられて、どことなく調度品に女性らしい雰囲気がある。

誰かの女性の個室の様だ。

ただ、これまでの部屋とは違い、空のペットボトルや酒瓶、女物の服が乱雑に散らかっている。

 

再び家探しを行う。

日記帳はアルバムと一緒にソファーの隣の机の上に置かれていた。

 

ご丁寧に由亞の誕生年から必要な年代分ある。

 

酒に酔いながら、ソファに寝転がって、当時の日記と写真で過去の幸せな時代に浸っていたのだろう。

 

日記を開く。

難しい漢字を読めない小夜ちゃんに変わって関係ありそうな所を要約していく。

直接育児をしていたらしい母親の日記だけあって、由亞ちゃんについて書いてある量が多い。

 

最初の本の妊娠〜出産では、母親になる不安や産まれた喜び等が書かれていたが、関係なさそうなのでざっと解説だけして読み飛ばす。

 

・・・どうも由亞はおとなしめだが気が強く、妙なカリスマ性があった様だ。

幼稚園でも皆から一目置かれていて、女王様気質だったという。

それで、口喧嘩になった相手を泣かせる事もたまにあった様だ。

 

かと言って、そこまで、わがままとか悪い子という訳ではなく、そういうちょっとマセた子は園に一人位はいる。

あの保育園で一緒だった里菜ちゃんは元気にしてるかなとふと思い出す。

 

それはとにかく、さらに読み進める。

小学校に入っても、直接的に泣かせる事は減ったがそんな感じだった様だ。

 

由亞の部屋にかわいい木のプレートをつけてあげたら喜んでいたこと、

 

7歳の七五三で買ってもらった着物に喜んで一日中着て過したこと、

そして、着付けを習ってたまに着る様になったこと、

 

8歳の誕生日の写真のドレスはそれ以前から持っていたお気に入りで、たまに着ていたこと、

学校にそれで行こうとして止めたこと、

 

友達が遊びに来て、家でお茶会していたこと、

 

一つ一つの話から宮橋由亞という一人の人間の輪郭ができていく、

 

「・・・ふつうの女の子だったんだね。」

 

ポツリと小夜ちゃんが言う。

 

さらに読み進める。

 

そして、迎えたその日は白紙だった。

 

あとはひたすら教育に悪そうな鬱々とした話、酒浸りになって過去を夢見て壊れていく日々が書かれていた。

 

もう読み飛ばそうと思ったが、ふと気になる記述を見つけた。

 

「由亞ちゃんは、家中を隠れ回りながら、自分の部屋を目指していて、自分の部屋の押入れに隠れようとして引きずり出されたけれど、

そこには天井に出るための天井扉と、そこから外に出られる空気取入口があった・・・?

さらにそこには非常用縄ばしごがあって、以前にも由亞ちゃんがこっそり外に出るとき使っていた可能性があると・・・」

 

さらに、過去に届いたらという思いから天井扉を開けたままにしていると記されていた。

 

「行けるか・・・?」

 

鍵が最初から無い上、開いたままの扉なら行ける可能性がある。

 

他にも何か無いか探すが気になる記述はそれで終わり、ひたすらに後悔と自堕落に溺れていく自分への嫌悪、酒を決めた酔夢の中に見た由亞の幻について書かれていた。

 

それを適当に読み飛ばしていくと唐突に日記は終わった。

 

辛かった。

 

流石に病んだ人の内面を読むのはきつい。

 

「小夜ちゃん・・・?」

 

気がつくと、小夜ちゃんは離れており、ソファの所に寝転んでいた。

 

手には小さなボトルを持っている。

 

そうして、ぺろりと、小さなピンクの舌を出して酒瓶の口を甜めた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「何やってるの?」

 

「こうすれば、お母さんのきもちになって、生きてたときのゆあちゃんのことが分かるかなって・・・」

 

病んだ親の日記の話を聞いて悪影響を受けていた。

 

やめる様に言おうとした瞬間、何か寒気がした。

 

「ゆあちゃん!?」

 

すぐソファの前を見て、小夜ちゃんが叫ぶ。

 

不味い、分断された。

 

そこらに転がっている酒瓶が持ち上がる。

 

「やめて、ゆあちゃん!

なんでこんなことするの!」

 

小夜ちゃんが叫ぶ。

 

少し、間があく。

 

「おなか、おなかがへってるの?

アメならあげ・・・ぎゃあ!!」

 

バリン!

 

酒瓶が小夜ちゃんの頭に叩きつけられて割れる。

 

「小夜ちゃん!」

 

叫ぶ、

死んだか?いやそんなはずはない、これくらいじゃ死なないはず!

 

生きてるなら、助けないと、

 

呼吸を一つ、

 

どうすればいい?

こういうときは・・・

 

小夜ちゃんが見ていたあたりを、睨みつけ、腰のホルスターからスプレーを左手で抜く。

 

「おりゃぁぁぁ!」

 

掛け声で自分を奮い立たせ、そのあたりに吹きかける。

 

プシューというどこか間の抜けた音と共に、見えない空間に蛍光ピンク色の塗料が人の形に浮き上がる。

 

長いスカートを履いているように見える。

 

「おどらしゃぁぁ!!!」

 

自分でも訳がわからない叫びとともに、スプレーを吹きかけたまま右手で細身の包丁を抜いて全身でその影に向って突っ込む。

 

当たる!

 

「?」

 

当たった時の感触は、これまで感じた事の無いものだった。

 

柔らかくも、固くもない。

 

力そのものが消えた。

というのが一番近い。

 

ただ問題は、ピンクの塗料で覆われた内側に全く刃が入り込んでいないということだ。

 

「っ!!」

 

吹き飛ばされた。

 

「えぼっ!」

 

壁に背中から叩きつけられ、肺から息が無理矢理吐き出さされる。

 

苦しい・・・

 

背中に背負ったランドセルのせいで衝撃は緩和されたものの痛い・・・

床に打ち付けられた右の手首がじくじくと痛む。

 

ぶつけられた衝撃でスプレーと包丁がどこかに吹き飛んでいた。

 

なんとか目を開く、

由亞についたピンク色の塗料は上手く付着せず垂れて落ちそうである。

 

酒瓶が浮かび上がる。

 

ジッポライターを右手で取り出し、見えない様に火をつける。

 

「死ねや」

 

呟いて投げつける。

 

ジッポライターは蓋が閉まるまで燃え続ける性質上、火のついたまま由亞の落ちかけている塗料・・・を溶かしたライターオイルと、学校のストーブからくすねた灯油、発泡スチロール片をミックスした液体にぶつかる。

 

ゴアッ!

炎が上がった。

 

『!!ーー!』

 

何か分からないものが脳内を通り過ぎる。

 

とにかく、小夜ちゃんを拾って逃げなければ・・・

 

なんとかふらふらと起き上がって、小夜ちゃんの寝ているソファに近づく。

 

と、小夜ちゃんが目をぼんやりと開けているのに気づいた。

 

良かった。生きてる。

持ち上げようとしたところでパチッと目を開いた。

 

「逃げよう!」

 

そう小夜ちゃんは叫ぶと、手をとって僕を引きずる様に、ドアに向けて走り出した。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・」

 

お互い荒い息をしながら、ベットの下で息を潜める。

 

ここは寝室だった様だ。

 

離れたところで、どたどたと暴れている様な音がする。

 

しばらくするとその音も聞こえなくなる。

 

「だいじょうぶ・・・?」

 

「ああ、ランドセルが盾になってくれた。

そっちこそ酒瓶で殴られてたけど大丈夫・・・?」

 

「だいじょうぶ、

だけど、こぶになってない?」

 

白色の頭を差し出してくる。

 

酒瓶が当たったあたりを撫でる。

 

髪に混じっていた酒瓶の細かいガラス片を丁寧に払い除ける。

 

少しこぶになっていた。

・・・なんで、小さなたんこぶができる位で済むんだ・・・?

身体能力が大人並みとはいえ、肉体強度もそれくらいなのか?

いや、これ大人でももっと大きく怪我するだろ。

やはり小夜ちゃんの力のせいか・・・

 

「いたた・・・」

 

「あ、ごめん。」

 

やさしく擦る。

 

「ううん、いいの、もっとして、」

 

治れーと思いながらやさしく撫でる。

ベットから出たら冷却パッドを貼り付けないと、

 

「首は大丈夫?

なにか変な感じない?」

 

「だいじょうぶ。」

 

「そっか・・・違和感があったら言ってね。」

 

「うん、

・・・ゆあちゃんが言ってたんだ。

おなかが空いてるって、

がまんできないくらい。」

 

「だから僕らを食べようとしてるのかな?」

 

「うん、わたしたちから吸い取ろうとしてるみたい。」

 

「何を?」

 

「わからない。

だけど、わたしたちが怯えたり痛いと少しおなかのへりが弱くなるって」

 

「単に性格が悪い・・・

というわけじゃ無さそうだな。」

 

「うん。そんな子じゃないよ。」

 

日記を読んだ限りではそこまでは性格悪そうでは無かった。

 

怪異らしく、恐怖や生気的なものをエネルギーにしているのだろうか、

 

「由亞ちゃんて、倒せないのかな、」

 

呟く。

小夜ちゃんをこんな目に合わせた以上、もうまったく手加減する気はない。

むしろ滅ぼしたい。

場合によってはこの屋敷ごと燃やすのも有りか、もちろん僕と小夜ちゃんが無事であることが前提だが、

 

「むり、わたしよりもずっと強いから、

さっきの火も、びっくりしただけだったみたい。」

 

「・・・」

 

でたらめな。

 

「お数珠でたたいたり、当たったらけがはすると思う、」

 

「そうか・・・」

 

怪我させるだけでは倒せまい。

 

それよりも、見えないあれと再び至近距離で殴り合うのは単なる自殺としか思えない。

 

「逃げよう?このおやしきから、」

 

「由亞ちゃんはいいの?」

 

「今のゆあちゃんとお話ししてたら、ケンタ君がしんじゃう。」

 

ちゃんと現実をみている。

 

「そうだな。

で、脱出口だけど・・・」

 

「・・・ゆあちゃんのお部屋しかないと思う」

 

少し自信なさげに、それでもきっぱりと言う。

 

小夜ちゃんの超感覚のなせる技か、

他に脱出口はないのか、

 

・・・遠くからドタバタ音が聞こえる。

 

今までとは違って消えない。

 

この中であるかどうか分からない脱出口を探すのは難しい気もする。

 

「そうだな・・・」

 

呟いた。

 

 

 

おっかなびっくり廊下を歩く。

 

寝室には特に気になるものは無かった。

 

ドタバタ音は下の階から聞こえる。

 

このままずっと下の階を探してくれと思いながら、かわいい木のプレートが掛かった部屋を探す。

 

あった。

 

そおっと中に入る。

なにせ由亞の部屋だ。何があるか分からない。

 

由亞の部屋は散らかっていた。

あの事件以降、両親は入ろうとはしなかったらしい。

 

警察の現場検証後にそのまま放置されたらしく、当時の、殺された時の状況のままに見える。

 

赤っぽい色のフローリングに、シルバニア一家だったか小さなぬいぐるみ用のドールハウスが倒れて、ぬいぐるみが散乱しており、その他女児向けのおもちゃ、文房具があちこちに落ちている。

 

壁にはかわいらしいキャラクターのポスターが貼られている。

 

大きな学習机には女の子向けのアニメのキャラクターが書かれたノートが置かれ、机の前のカレンダーは、彼女が殺されたその月からめくられていない。

 

押入れに目をやる。

 

あれか、

 

そおっと二人で近づく。

 

ガラッ

 

「あった。」

 

押入れの上の段には黒々と屋根裏へと続く天上扉が開かれていた。

 

「きゃあ!」

 

小夜ちゃんの方を見ると、押入れの下の段を見て悲鳴を上げていた。

 

と、思った瞬間、

後ろに吹き飛ばされた。

 

「痛っ!」

 

先程の母親の部屋ほどは衝撃が無かったのでなんとか起き上がってドアに向けて踏み出す。

 

小夜ちゃんは既に立ち上がって、出入り口のドアに取り付いていた。

 

「だめ!開かない!」

 

鍵もついていないのにドアノブが回らない。

 

小夜ちゃんはドワノブを回そうとしながら、怯えた目で前方を見る。

あの辺にいるのか、

 

腰につけた袋に手を突っ込み、鼻血のついたティッシュを燃やして作った灰を握りしめ、投げつける。

 

靄に液体はあまり干渉しないが、固体はそれなりに干渉する。

そして生体物質はもっと干渉する。

 

ということは、生体物質を混ぜた塵の様な固体はより干渉するのではないか、

そう思って、作ったものである。

 

靄に使ってみたところ微妙に灰の滞空時間が伸びた様に見えた。

それと靄が集まっていたらしい。

 

水の時ほど顕著な集まりは無かったらしいが、

 

靄相手では微妙であるが、以前遭遇したスライムの様な見えない怪異相手であれば、相手を浮き上がらせる事ができるのではないか、

そう思い、怪異用の道具として持ってきていた。

ただどう考えても、相手の姿を浮き上がらせるだけなら、先程どこかに行ってしまったスプレーの方が便利なので優先順位は低かった。

 

結果は・・・

 

細かな灰が3D初音ミクコンサートの霧のスクリーンの様に、由亞の姿を浮き上がらせた。

 

アルバムで見た通りの、短く淡い金髪、水色の長めのドレス、ぼんやりした水色の瞳、

 

写真で見たときもそうだったが、どことなく淡くぼんやりした印象を受ける少女がいた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

・・・特殊な灰がスクリーンの様になって霊的存在が浮き上がって召喚されるなんて、小説の女神転生にもそんな描写があったな・・・

 

ふと雑念が混じる。

 

由亞は少し戸惑った様な表情を浮かべ大きく両手を広げる。

 

何をやってるんだ?

 

と、由亞がこちらを見て笑った。

欲しかったものを見つけた、というように、

 

ぞわりと背筋か粟立つ、

 

「だめっ!」

 

小夜ちゃんが叫び僕の前に出ようとするが、

それよりも早く僕に向けて飛びかかってきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

右手で数珠を握って突き出そうとするがそれよりも早く、由亞が自分にぶつかっ・・・らない?

 

目の前いっぱいに由亞の笑った顔が広がったと思ったら消えてしまった。

 

何が起きた?

 

と、

 

「あ"あ"っ!」

 

頭が痛い。

痛みは意思を持っているかの様に体を蠢く。

 

『やった!

おなかすかない!もう、おなかすかない!』

 

痛みは少女の喜びの声になって全身に響く。

 

痛みに耐えて、ふと一瞬窓の外が見えると庭中に薄い黒い靄があるのが見えた。

 

取り憑かれた。

 

憑依までするのか、この怪異は!

靄が取り憑く時点で気づくべきだった。

 

体が意思に反して動こうとする。

由亞の意思が『呼び捨て?』体を乗っ取ろうとする『ごめんなさい。でも、いいでしょ?』良くない出ていけ『いや』、出ていけ『ごめんね。もらうからあきらめて』、この悪霊『ひどいわ』

 

追い出すため『あきらめて』には・・・

言語化する前、なんとか右手と顔の制御を取り戻し、数珠を口の中に突っ込みいくつかの数珠の珠を噛み砕き、歯ですりおろす、

 

ガリッ、

表面と中身で食感が違う。

辰砂朱玉『なにそれ?』と言いながら塗装しただけかよ・・・安物極まりない。

パリパリした表面を粉にして意識して飲み込む。

 

ゴクリ

 

『もう消えてて、』

 

体の制御が奪われようとする。

と、

 

『ギャー!!』

 

体内で何かが暴れ回る。

腹が、頭が、苦しい、痛い。

 

「あ"、あ"、あ"!」

 

濁った叫びが口から溢れる。

 

口からタバコのような白い煙が漏れる

 

「あ"え"っ」

 

体の中で暴れる何かが口から出る。

同時に胃の中の物も溢れた。

 

溢れた胃液の水たまりに不自然な乾いた島ができる。

その島の周囲の胃液と混じった赤い硫化水銀の塗装の粉のあたりから細い煙が上がる。

 

そこが足か!

 

再び袋に左手を突っ込み灰を掴んで投げつける。

 

四つん這いになって逃げ出そうとする由亞の姿が灰をスクリーンに浮かんだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

灰を投げつけられ、由亞は少し固まった。

 

逃がすか!

 

千切れた数珠を握りしめて、四つん這いの由亞に殴りかかる。

殴りかかって数珠が当たったところから煙が上がる。

 

音は聞こえない。

だが、先程の力が霧散する感覚とは違い、数珠の部分に触れたところだけは確かに人体を殴った感覚があった。

 

「死に晒せぇ!!」

 

そのまま何度も殴りつける。

 

由亞の態勢が崩れ仰向けになり、そのまま由亞の体に馬乗りになりながら殴り続ける。

 

死なない。

どうすれば・・・

 

・・・由亞は首を締められて殺されたんだったな・・・

 

親指で数珠を保持すると、由亞の首を右手で押さえ、端から垂れた数珠を左手と由亞の首の間に挟み両手で締め付ける。

 

「死ねや!」

 

ジュワーという音とともに、由亞の首が煙に包まれる。

 

由亞は強い力で暴れる、

が、次第に弱くなっていく。

だが消えない。

このまま押さえつけないと・・・

 

「止めて!」

 

鋭い声が耳に突き刺さる。

 

「小夜ちゃん・・・?」

 

「ちゃんと、ゆあちゃんを見て、」

 

言われた通り由亞を見る。

 

すべてを諦めた様な絶望した表情で涙を流していた。

その姿は今まで散々攻撃してきたものとは違い、非常に弱々しく思えた。

 

すうっと、血が引く、

・・・だがやらなければ、

 

再び手に力を込め・・・

たところで小夜ちゃんに引き剥がされた。

 

「ケンタくん!だめっ!」

 

「でも・・・」

 

「ゆあちゃん、だいじょうぶ?」

 

小夜ちゃんがしゃがみ込み由亞に話しかける。

・・・右手にはちゃんと自分の数珠を持っている。

 

周囲を見回す。何か致命的な物が浮かんでいないか、

 

由亞の姿はぼんやり見えるが声は聞こえない。

 

何か話している。

 

「ゆあちゃんに、死んでほしくないから、

あんなふうにころされて、また首をしめられてころされるなんて、」

 

 

「だからって、死んじゃうのはだめだよ。

わたしたちも生きてるし」

 

「少しでもタイミングがズレたら死んでたけどな。」

 

言う。

 

由亞は明確に怯えた表情でこちらを見る。

 

「ケンタくん、ゆるしてあげない?」

 

はぁー

息を吸って吐いて深呼吸、怒りを抑え込む。

 

「小夜ちゃんにやったことを許すかはとにかく、見逃すのは良いとして、由亞ちゃん、どうなるの?

このまま逃しても、お腹が空いたと堪えきれずに、そこらの人襲い始めると思うけど、

そうして死んだ人や大怪我した人や取り憑かれて心を壊された人がでたら、自分許せる?」

 

「そんなことしないよ。ねえ、由亞ちゃん」

 

こくこくと由亞はなにか口を動かしながら頷く。

 

「由亞ちゃんがそれを守ったとして、由亞ちゃんは飢えに苦しんで死ぬことになるぞ。それでいいの?」

 

良いなら別にいい。

小夜ちゃんは俯く。

由亞は何かに気付き、絶望した表情を浮かべる。

 

・・・ものが飛んでくる気配はない。

力を使い切ったか、

 

「じゃあ、わたしがゆあちゃんにごはんをあげる。

ゆあちゃん、わたしたちにこうげきしないなら、わたしから少し吸っていいよ。」

 

本当にいいの?という表情を浮かべ由亞が、小夜ちゃんの顔を見る。

 

「やめとけ、」

 

ビクッと由亞が震え、恐る恐るこちらを見る。

 

「ケンタくん、」

 

「・・・分かったよ。」

 

千切れた数珠を握る。

 

「ゆあちゃん、いいよ。」

 

おそるおそる小夜ちゃんが差し出した左手に由亞が縋りつく、

 

「うーん・・・

こう、かな?」

 

由亞の姿が少しはっきりとする。

 

驚いたように由亞が小夜ちゃんを見る。

 

「ごはんを上げるやり方がわかったの。

これがほしかったんだね。」

 

なにかよく分からない感覚を掴んだ様だ。

 

「どう?足りる?」

 

由亞が頷き、なにか話す。

 

「良かった。それなら、約束守ってくれたなら、あげるよ?」

 

「おい、体、大丈夫か?」

 

「へいき、人についたモヤをはらうの、5つ分位だから、

今ので力の使い方がわかった。

いつものわたしなら12回くらいはできると思う。」

 

「・・・今は?」

 

「あと3回くらい・・・かな?」

 

今ので持っている力をMP的なものとして扱える様になったのか・・・?

 

以前はあと何回位できるか聞いてもよく分からない感じだったが、

 

「で、どれだけ由亞ちゃんは持つ?」

 

「一日くらいは大丈夫って言ってる。」

 

「本当に分かるの?」

 

「・・・多分それくらいだって、」

 

「持たなかったらどうしようか・・・」

 

由亞はいやいやと首をふりながら涙を浮かべ怯えた表情を浮かべている。

 

「大丈夫だよ。きっと、」

 

「というか、それくらいの力の吸収で済むのに殺そうとしてきたのか?」

 

「ううんと・・・

ゆあちゃんは、ケンタくんの中に入る前はすっごく強かったの。

でも、出たときにすごく弱くなってた。

わたしでも、やっつけられる位に、

それでおなかが小さくなったみたい。」

 

攻撃されて力を奪われたせいで弱体化した?

じゃあ力を食わせたらまた強くなって必要量が増えるんじゃ・・・

 

「ゆあちゃんそのものが小さなものにけずれた、かな?

育って大きくなりそうならやめてもらうから、」

 

「・・・なるほど、」

 

単に力を奪われて風船の様にしぼんだというよりは、霊体の基盤となる基質・・・型月用語でかつ意味違うけど、仮に霊基でいいか?

僕の体内で霊基が削られて弱体化して別のものになった感じか?

 

自分はこれの母親になったつもりはないが、

それはとにかく、小夜ちゃんが由亞を倒せる程に由亞が弱体化したのは朗報である。 

 

・・・ならご飯とやらが足りない様ならまた削ればいいか、

 

そんな事を考える。

 

「分かった。」

 

「じゃあ・・・」

 

二人・・・と言っていいのか分からないが、二人の顔がほころぶ。

 

「ちゃんと面倒みよう。」

 

「うん、分かった。

ちゃんとめんどうみるから、」

 

「僕もみるからな。」

 

「えっ?」

 

「小夜ちゃんだけに力吸わせて、はいおしまい、にはしないぞ。」

 

「ケンタくん・・・」

 

喜んでいる小夜ちゃんの顔と、怯えている由亞ちゃんの顔が対照的だった。

 

 

 

「こんなもんでいいかな?」

 

契約書を確認する。

 

ランドセルから出した3枚のルーズリーフ全てに同じ内容が書かれている。

 

あとは血判を押すだけ、

 

契約書に穴が無いといいが、まあ、穴があってそれをつかれたら、育ってなければ二人で倒せばいい。

 

まあ、存在するのに必要なご飯を提供する代わりに、僕らの言う事を聞け、僕らに戦いを挑むな。小夜ちゃんより強くなるな。強くなったり、必要なご飯が足りなそうなら先程の弱体化を受け入れろ。

人質取るな。そもそも精神、拘束含む攻撃を許可無しで親しい人にするな。

許可取るときは憑依したり、過度な興奮状態や恐怖等ストレスかかった状態でした許可は無効、

契約の変更は僕らが話し合って合意を持って行う。

呼んだら来ること、呼びかけが聞こえないほど離れないこと、離れた場合は即座に合流をめざすこと、

僕らに対する危険を看過するな。

二人のどちらか片方ないし両方が死んだら自害しろ。

などなど、可能限り穴は塞いだつもりだ。

 

まあこういう霊的存在は契約を破らない性質があると聞くが、普通に破れる可能性も高いのでどこまで有効かは不明だが、

 

「・・・けんたくんて、ゆあちゃんのこと、すごく気づかってくれてるんだね。」

 

由亞ちゃんもこっちをみて不思議そうな表情を浮かべている。

 

「なんの事?」

 

「こことか、」

 

「そら、小夜ちゃんが病気とか力を使い切ったとかで、由亞ちゃんにご飯あげられないときもあるだろうからさ、僕や他の人からも気が沈む位の影響でご飯取れる様にしないと、お腹減らして消えちゃうかもしれないだろ。

ちゃんと面倒みるんなら、面倒見れないときは、人の迷惑にならないように条件付きである程度自由度持たせないと、」

 

その代わり、勝手に取るのは禁止で基本的にどちらかの許可が必要、

それが無理な場合は事後承諾でもいいが、した相手を偽りなく教えた上、確認させること、

 

など条件を厳しめにした。

 

面倒みる以上は無駄に苦しんでは欲しくないし、面倒をみたせいで意図せず死んでしまったらダメージがでかい。

 

前世で雑な管理で殺してしまった金魚のことを思い出しつつ、契約文を練った。

 

「じゃあ血判するよ。」

 

「けっぱん?」

 

「指に血をつけて、それを全部の契約書に押すの。」

 

そう言って、先程由亞ちゃんに吹き飛ばされたとき、おそらく割れた酒瓶のガラス片で切った右手の手首近くの傷を出して、固まった血を剥がす。

 

小夜ちゃんが息を呑む。

 

血が溢れてくる。

 

ある程度血が溜まったところで左手の人差し指で拭い、それぞれの契約書に血判を押していく。

 

「さあ、由亞ちゃんもやって、」

 

恐る恐るといったふうに由亞ちゃんが血に触れる。

 

・・・少し指先が鮮明になった気がする。

やはり血にご飯の元が含まれているのか、

 

そのまま、血判を押していく。

 

「小夜ちゃんも、」

 

「いたく、ないの?」

 

そおっと、撫でるように小夜ちゃんは傷口に手を滑らせる。

 

「そこまでは」

 

このあたりは精神大人の特権である。

 

「いたいのいたいのとんでいけー!」

 

小夜ちゃんは傷口を撫でて幼き呪いを唱える。

 

・・・力、消費してないだろうな?

 

そうして、契約書に血判を押す。

 

とりあえず、契約は成った様で安心した。

まあ、どこまで由亞ちゃんを縛れるかは分からないが、

 

まあ、生存と飢え対策を考えるなら由亞ちゃんもやらかさないだろう。

 

この前の神社の家の人が由亞ちゃんを探している様子で、見つかったら除霊されるかもと脅しておいたので、勝手に僕らを殺して居なくなるのは無いと思いたい。

 

「由亞ちゃんの分の契約書は小夜ちゃんが持つというので良いか?」

 

由亞ちゃんが頷いたのを確認して小夜ちゃんに由亞ちゃんの分の契約書も渡す。

 

「さて、帰るか、」

 

「そうだね。」

 

「そういや、入口のドアの前に転がした靴箱、退かせない?」

 

由亞ちゃんは首を振る。

 

「弱くなったからむりって、」

 

「そうか・・・

じゃあ、一階の窓を割って出るか」

 

由亞ちゃんが怯えるようにこちらを見ずになにか言う。

 

「この部屋のドアノブの中身を壊したから出れないって、」

 

「えー・・・」

 

ぼやく。

試しにドアノブを動かそうとするが動かない。

 

内部のドアノブの歯車系の金具をひん曲げて壊したな。

 

「天井から出よ?」

 

「分かった・・・」

 

不確定要素が強そうなのでやりたくは無いが、

 

屋根裏に上がる。

 

分かっていたが狭い。

僕ら小学生でも立てない位の高さしかない。

 

四つん這いになって明るい方を目指す。

 

風が流れて来る。

外だ。

 

四角く開いた空気の取入れ口から夕焼けの赤い光と、風が流れ込んでくる。

吹きさらしに開かれた取入れ口の周りは汚れたり朽ちていた。

 

縄はしごは・・・

あった。非常用の箱がある。

箱を開けると、少し古びた非常用縄ばしごがあった。

 

・・・使えそうだ。

 

「よいしょっと」

 

縄ばしごを地面に向けて垂らす。

 

「ケンタくん、先に行って、」

 

はっきりと小夜ちゃんがいう。

 

・・・ここで、由亞ちゃんと取り残される相手は、万が一のことがあっても由亞ちゃんに勝てる小夜ちゃんしかありえない。

最もシンプルな川渡り問題である。

 

「分かった。」

 

「あ、庭にはまだもやがあるから、終わりから二段目あたりから下や周りにお数珠を振ってね。」

 

「了解、」

 

上を気にしながら、縄ばしごを降りる。もちろん数珠は振る。

 

降りきった後は、数珠を振って、周囲のもやを払ったと思う。

 

 

「もう良いよー。」

 

「分かった!どいてね!」

 

縄ばしごから離れる。

と、するっと、縄ばしごを小夜ちゃんが引き上げた。

 

「え?」

 

「行くよー!」

 

小夜ちゃんが飛び降りた。

涙目の半透明の由亞ちゃんと一緒に手を繋いで、

 

「うえっ!?」

 

ドシン!

 

着地した。

 

「いたた・・・」

 

そういいつつ、小夜ちゃんはごく普通に立ち上がる。

 

由亞ちゃんはしゃがみこんで、いやいやと首を振っている。

 

どちらもダメージを受けた様には見えない。

浮かぶこともできる由亞ちゃんはとにかく、小夜ちゃんも3階の床くらいから飛び降りて平気なのか・・・

 

「ほら、大丈夫、しっかりして」

 

由亞ちゃんの頭を撫でて小夜ちゃんは言う。

 

ゆっくり由亞ちゃんは顔を上げる。

 

と、立ち上がって信じられないというふうに周りを見回す。

そして夕陽を見た。

 

なにか、由亜ちゃんの口が動いた。

声は聞こえないが、口の動きから、なんとなく何を言ったかは分かった。

 

やっと出られた。

 

「きれいな夕焼けだね。」

 

小夜ちゃんもほっとしたように夕焼けを見ながら言った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

あれから、一週間が経った。

ご飯的な力に関しては、靄を祓うと、その分の力を感覚を得た小夜ちゃんや由亞ちゃんが吸収できる様なので、不足問題は早々と解消した。

しかし、靄を祓った際に得られる力をとりこんでも、小夜ちゃんのMP的な使用回数は回復せず、

由亞ちゃんの存在を安定させる力としては取り込むことはできるあたり、ある程度の互換性はあるがMPとは質が違うように感じる。

 

その辺は小夜ちゃんも分かった様で、話し合って、使用回数をMP、存在に関わるご飯的な力を生気と名付けて分けて使いこなすことにした。

 

黒い靄は生気が溜まった所に時折出現して、人の生気に食いつく様だ。

これが靄が人に纏わりつく原理の様である。

 

あと、血には生気が含まれていて、灰になっても生気は残る様である。

 

またそれとは別に自分の血とティッシュを燃した灰には形代的な効果があり、それに取り憑く事で実体化したり生気の消費量を半分程に減らしても存在が安定化しやすくなる様だ。

 

あの直後、由亞ちゃんを構成している灰が吹き飛ばされて一気に生気の消費が増えて、また削るしかないか・・・となったとき、慌てた由亞ちゃんが袋の中の残りの灰に取り憑いて事なきを得た。

 

これからは気をつけて灰の体を維持するという。

 

ただ、小夜ちゃんには見えるらしいが、基本的には灰の体で実体化したときも由亞ちゃんは見えない。

自分も由亞ちゃんが見せようと思わなければ見えない。

 

宮橋邸では、姿の見え隠れの切り替え方を由亞ちゃんが分かっておらず、灰に込められた気力が僕の物だったので、灰を浴びせられて、あ、飢えから助けてくれる人がいる、と思って無意識的に姿を現したらしい。

 

あと重要なこととして、見えてる時と見えない時だと、明確に力のかかり方が違う。

 

由亞ちゃんが見えない時に由亞ちゃんを押しても、あの力が霧散する感覚とともに、全く由亞ちゃんを動かせないが、

由亞ちゃんが見えている時だと普通に押すことができる。

 

ただし小夜ちゃんはどちらのモードでも変わらず押すことができるが、

 

なので、単に見える見えないというより、この世界に物理的に実体化しているかどうかという切り替えの様でもある。

 

とりあえず、この辺で実体化という用語を整理して、霊体として安定する事を実体化、見えるようになることを物質化と呼ぶことにした。

 

小夜ちゃんが難しい言葉だと反対したが、ここは通させてもらった。

 

・・・さすがに、政策でもないのに見える化は無いと思う。

 

 

そういえば、中田達だが数日前には無事に学校に来た。

 

あの小夜ちゃんの首を締めようとしたというので友人達から英雄扱いをされて戸惑っていた。

 

・・・誰々がぶったとかは日常茶飯事の小学校低学年とはいえ、小夜ちゃんは一体なんだと思われているのだろうか、

 

昔いた小夜ちゃんをゴリラ呼びするクソガキ・・・輩は、そいつらに、ことあるごとに丁寧にゴリラらしく無い事を説明して理解してもらって謝らせていたら、いなくなったが、まだ残っているのだろうか、

 

それはさておき、あの山宮一味はあの後、中田達のお見舞いにいったらしく、中田達が威張っていたが、それ以外特に何も無かった。

 

靄に憑かれているか確認して、憑かれていなかったので帰ったのだろう。

 

「ねえ、ケンタくん、帰ろ?」 

 

過去を振り返って帰りの会を聞き流していたら小夜ちゃんに声をかけられた。

いつの間にか帰りの会は終わっていたらしい。

 

「ああ、」

 

由亞ちゃんも加わり、これから、新しい発見や研究があるだろう。

 

例え、次の学年でクラス替えで小夜ちゃんと別れても一緒に靄祓いをやり続ける。

 

そう思って椅子から立ち上がって、小夜ちゃんの隣に立った。

 

 





ゆあ「悪霊 ポルターガイスト コンゴトモヨロシク・・・」

やったね!外道 ウィルオウィスプと合体させればシキガミができるよ!

できるのは妖鬼 シキガミであって、シキガミちゃんじゃない・・・?

せやな・・・


数珠食べたのは、msx版女神転生だと、悪魔に魅入られておかしくなった先生に硫化水銀使って正気に戻すというのがあるので、そこから取りました。



さて、お化け屋敷にとりつく幽霊の悪霊退治に見えるが、今回やったのは何だったのだろうか、

力を集め、対象の姿をイメージし、対象の好む供物を出し、対象に対する長い詠唱を重ね、先人の残した具現化手順をなぞり、最後には対象を見つけたやり方をなぞる。

・・・
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