優しいアヒルと醜い仔   作:クエゾノ

6 / 6
小学三年生 新学年は出会いの予感

「おはようケンタくん。」

 

「おはよう。」

 

家から出ると、小夜ちゃんがいた。

時間がかかりそうな時は、家に上がって待ってることもあるが、こうして家前で待ってる事が多い。

 

自分から迎えに行く?

・・・早起きは苦手だ。

 

由亞ちゃんは山宮一味の事があるので学校には行かせていない。

 

だいぶ残念がっているがこれは仕方ない。

 

「今日はクラス分けの発表だね。」

 

「ああ、一緒になれたら良いんだけど・・・」

 

「一緒だよ。きっと」

 

何か確信があるかの様に小夜ちゃんは言う。

 

予知の類の的中率は1/5程度上昇で低かったが、何か確信があるのだろうか、

 

そんなことを喋りながら学校につく、

クラス分けの表が張り出されていたので確認する。

 

・・・3-2、小夜ちゃんと同じクラスだった。

 

「良かった・・・」

 

「うん、よかった。」

 

しかしなんでまた同じクラスになれたのだろうか、

てっきり他の人とも仲良くしろと引き離されると思っていたが、

 

靴箱を変えてから、教室に向かう。

 

「おはよー」

 

「おはようございます」

 

二人して教室に入る。

 

教室を見渡すとその一角に目が吸い寄せられた。

長く淡い紫髪の少女が机をぼんやりと見ている。

目立つのはもう寒くはないのにぶ厚い濃紫のコートを着ていることだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

何回か校内で見かけた事があるが、同じクラスになるとは思わなかった。

体温系の病気の子なのだろうか、

 

と、

 

「おい、ゴリラと雪女が一緒ってこのクラスはどうぶつ園かよ。」

 

「雪女はどうぶつ園にいないだろ。」

 

「じゃあイエティで」

 

「イエティもいないだろ。」

 

とクラスメイトの話し声が聞こえた。

 

見慣れないクラスメイトだが、顔は覚えたので、あとで小夜ちゃんはゴリラで無いことを説明しなきゃなと思いつつ、あの子は雪女と呼ばれているのか、体温が病気かなにかで低いのかなと思考する。

 

出席番号の席に着き、朝礼に出かける。

 

 

 

 

担任の挨拶と全員の自己紹介が終わったので、席決めのくじ引きを行う。

 

小夜ちゃんなら探知系の力で僕の席の隣のクジを当てられそうだが、悲しいかな引く順番は出席番号の五十音順に狭霧の後に津島が来るので、何かの弾みで逆順に引くことが無いと当て辛い上、先に引かれる事も多い。

 

それはとにかく、クジを引く。

 

・・・小夜ちゃんとは離れてしまった。

 

残念そうにしている小夜ちゃんに微妙な罪悪感を抱きつつ、指定された席に座る。

 

窓際でもなく最後尾でもない中途半端な席、

まあ最前列よりは良いが、

 

しばらくすると、隣の窓際の席に先程のコートの子が座った。

 

名前は・・・藤月澪ちゃんだったか、

 

自己紹介では、名前と寒がりなのでコートを着ていますとだけ言っていたが、慌てて先生がそういう病気だと補足していた。

この年でコミュ障の気があって親近感が湧いた。

 

まあ、これから先、交わることはあまり無いだろうと考える。

 

 

 

「山宮様達が学校を休んでる?」

 

中休み、先ほど、小夜ちゃんをゴリラ扱いしたクソガ・・・クラスメイトにじっくり話をして分かってもらったところで、気になる話が聞こえた。

 

小夜ちゃんは前のクラスの先生に用事があるからと席を外している。

 

「うん、なんかお祭りで二週間位休むって、」

 

「ちょっとごめん、お祭りって何のお祭り?」

 

割って入る。

 

前世なら考えられなかった所業だが、どうせ小学生だと思い気になる話があれば割って入ることにしている。

 

「津島は新しく来た人だっけ、

おおみそぎ祭っていって、昔からたまにあるんだ。」

 

「以前は、ようち園の頃一回あって、お母さんたちがいろいろ動いてた。」

 

言われてみれば、そんなお祭りがあった気もする。

 

あの時はやたらと大きなお祭りだけどなんかの記念でたまたまやっていたのかと思っていたが、たまにやるものなのか、

 

なにか、一人の高校生位の巫女さんにやたらスポットが当たってた気がする。

 

姫巫女は本当にいたんだ!と完全に前世の記憶が覚醒しきる前の意識がはっきりしない頃のテンションで駆け寄ったら、その人に抱き上げられた記憶が薄っすらとあるような無いような。

今頃あの人はどうしているのだろうか

 

「千紗様が今回は祭みこやるのかな?」

 

「いや、今回はほかの家の人がやるらしい。」

 

「祭巫女?」

 

「うん、祭みこに選ばれると、色々儀式とかするけど、好きに歩き回ったり、屋台のものがただになるんだ。

 

前の祭みこは山宮様のお姉さんだったけど、今年は義木さんの家の人がやるらしい。」

 

義木・・・あの時代錯誤な取り巻きか、

なんというか、特権的な家の人が持ち回りで権威を見せつける祭に聞こえる。

 

「義木さんも学校に来ないのか?」

 

「ああ、高幡さんも来ないし、

そっちの家の人たちはみんな来ないんじゃない?」

 

これは良いことを聞いた。

由亞ちゃんを学校に呼べる。

 

「ありがとう。」

 

「それより、お祭りだよ、お祭り、何食べたい?」

 

「たこやきとかいいよな。」

 

「個人的には、屋台の濃い焼きそばも捨てがたいな。」

 

そんな感じで駄弁る。

クラス替え直後だということもあり、すんなりと話の輪の中に入り込めた。

 

このあたりの雑さは小学生は楽だなと思う。

 

 

 

給食の時間である。

 

近くの机の人同士で班分けされていてくっつけて食べる。

 

給食袋から取り出して広げた黄色のナプキンを敷く、

 

ふと前を見ると、藤月さんが手を震わせながら緑色のナプキンを敷いていた。

 

・・・なにか、どこかで、彼女と似た人に見覚えがある様な気がする・・・

 

そのまま給食に移る。

藤月さんはスープ類を何杯かおかわりしていた。

スープが好きというよりは、体を温めるためにみえる。

 

カイロでも貼った方がいいのではないかと思ったが、手元を見るとカイロの袋を弄っていた。

 

・・・なにかの病気だろうか、ここまでだと入院した方が良さそうにも思えるが・・・

 

 

5時間目は体育の授業である。

 

食後すぐに体育はきつい、

が、今日はこのクラス初めてということで、このクラスでの並び方に慣れさせるのがメインだった。

 

それで腹が落ち着いたところで、余った時間でドッチボールをすることになった。

 

避ける練習だと思って、ボールを躱していたら、一人減り二人減り、とうとう同じチームの小夜ちゃんと二人だけになった。

 

・・・いやおかしくね?

相手チームはたくさんいるだろ?

 

と思って見る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

と、藤月さんの投げたボールに思いっきり当たって転んだ。

 

・・・力、強くね?

 

と思って残念そうな小夜ちゃんを尻目に外野に回る。

 

「ごめんね、がんばってね。」

 

流石に小夜ちゃん一人が集中砲火浴びるのは肉体的には平気であろうが、後ろめたさがある。

 

「いいよ、うん、がんばる。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして伝説が始まった。

 

本当に小夜ちゃんが頑張ってしまった結果、次々に敵チームはボールに倒れ、残るは藤月さんのみとなった。

 

この藤月さんもだいぶおかしい。

 

本気になった小夜ちゃんに食らいつくどころか対等に戦っている。

 

次第に弾速は早くなっていく。

 

「ふふっ」

 

「ふふっ」

 

気づけば二人共、喜色を浮かべ全力でボールを取り、投げあっていた。

 

小夜ちゃん、珍しく全力を出せて楽しんでるなと思いつつ、藤月さんも同じく全力を出せて楽しんでいるのだろう。

 

小学生とは思えぬ速度で飛び交うボールを前に、自分達外野は、呆然と二人を見ながら、たまに外に転がるボールを二人にパスするだけの装置と成り果てた。

 

結局、予鈴と共に決着がつかないまま、ドッチボールは終わった。

 

「お疲れー、楽しかった?」

 

小夜ちゃんに近づいて声をかける。

 

「うん、楽しかった。」

 

本当に楽しかったというように、小夜ちゃんは喜色満面の笑みを浮かべて言う。

 

「あ、藤月さん。」

 

藤月さんの方を見ると、クラスメイトに遠巻きに見られながらとぼとぼと更衣室に向かっていた。

 

不幸な事にこの小学校では低学年から着替えは男女別の更衣室で行う。

 

そこは低学年は一緒に教室だろと思う。

 

それはさておき

 

「小夜ちゃんに付き合ってくれてありがとー!

すごいプレーだったよ!」

 

感謝を伝える。

 

普通小学校低学年位なら、スポーツができるやつ=すごいやつとして尊敬を集めるが、

小夜ちゃんレベルになると、尊敬されるよりも引かれてしまう。

 

なのでいつもは手加減しているので、こうして本気を出して楽しめる機会は大人相手の時のみで、いつもはあまり楽しめなさそうだが、今回は全力で楽しめた様だ。

本来なら精神は大人な僕が付き合うべきだが、いかんせん脆弱な子供の体では無理がある。

 

「ありがとう。楽しかった。」

 

小夜ちゃんも声をかける。

 

藤月さんはこちらを見ると、なんと言ったら良いのか分からないという感じの表情を浮かべて、逃げるように更衣室に向かっていった。

 

 

 

「津島ってすげーな・・・」

 

着替えながら中井・・・先程、大禊祭について話していた方の片割れに声をかけられる。

 

「なんのこと?」

 

「あの二人と話すとかさ」

 

「藤月さんは分からないけど、小夜ちゃんとは昔から一緒だったぞ。

ちょっと大人しめだけど、悪い子じゃないし普通に話せると思うけど、

それともなにか支障が・・・」

 

「いやいや、狭霧さんはそうだとしても、藤月さんもいっしょなのはすごいなって」

 

なにか慌てた様に言う。

 

「藤月さんになにかあるの?」

 

「・・・アレを見て、何もないと思う津島はヤバいよ・・・」

 

何かと言われても、小夜ちゃんの様な力を持っている可能性はあるが、

それならそれだけである。

あっそうだ。

 

分からないというように首を傾げて訊く。

 

「旧家の人たちと関係あるとか?」

 

「ないない、あの家、新ざんだし、

お母さんが言ってた。」

 

「そうなのか、」

 

これだと、藤月さんは山宮一味とは繋がっていなさそうである。

 

もし仮に力をもっていたとしたら、小夜ちゃんと同じ、たまたま力が宿った一般家庭の出だろう。

 

しかし、他人の家を新参扱いするとは、昔からの家では中でどんな会話が行われているのか、考えてみると恐ろしい。

そちらの方がヤバく感じた。

 

 

 

『それで、あしたは学校に行けるの?』

 

帰り道、由亞ちゃんの声を片耳イヤホンで聞きながら歩く。

 

「うん、そうだよ。

よかったね。ゆあちゃん。」

 

『やった!待ってたの。』

 

イヤホン越しに喜びが伝わってくる。

 

『ランドセルも用意した方がいいかな?』

 

「そういえば、姿形変えられるの?」

 

『すこしだけ、生きてたときのふくなら変えられるわ。』

 

「服とかバッグだけ?」

 

『うん、だけどハンカチとティッシュはできたわ。

おもちゃとか身につけないものは出せなかったわ。』

 

「それだけ?武器とか文房具とか食器や食べ物飲み物には変えられないのか、」

 

『うん、だめだったわ。』

 

他人に化ける様なことはできない様だ。

 

ただ、水さえ確保すれば濡らしたハンカチを顔に・・・とかはできそうに思える。

 

それはとにかく由亞ちゃんははしゃいでいるらしく、いつものドレスじゃなくて、七五三の着物着ていこうかとかあれこれ言っている。

 

『サヤも、たまには明るい色の服を着たらどう?』

 

「白いシャツならときどき着るよ?」

 

『そうじゃなくて・・・もっとカラフルな服とか』

 

「はでな服だと、目がちかちかしちゃって・・・」

 

それに小夜ちゃんは相槌を打ったり、提案したりと、女の子同士の服の話に華を咲かせている。

 

このあたりの話は男の僕には分からない。

 

そういや、もし、藤月さんが由亞ちゃんを見えたならどうしようか、

まあ、聞かれたら友達の幽霊とでも言っておけばいいか、

 

そんな雑な事を考える。

 

『そういえば、サヤと同じくらいつよい子がいたの?』

 

「うん、楽しかった。」

 

『・・・その子、本当に人間なの?』

 

「人間よ。話してみたいな・・・」

 

「今度話しかけてみたら?」

 

「むりだよ・・・」

 

『モヤハライとか、お化け退治だと、つっこんでいくのに人間相手だとサヤはだめねえ、』

 

「そりゃあ、倒して居なくさせてもいいものと、ずっと付き合っていかなきゃならないものだと、

後者・・・付き合っていかなきゃ行けないものの方が大変だよ。」

 

できれば自分も最小限の付き合いだけで、引きこもっていたい。

 

が、今は労力に見合う楽しさや発見がある。

 

『あいかわらず、なんていうかその・・・そうだ、身もふたもないわね。

ケンタ、サヤと話させてあげたら?』

 

「機会を見つけて、そうするよ。」

 

「ほんとう?ありがとう!」

 

小夜ちゃんが喜んだ。

 

「だけど、けんたくん大変じゃない?」

 

「いいのいいの、嫌じゃない範囲でしか動かないから、」

 

そんなことを駄弁る。

 

 

 

 

翌日、朝早く、あまり当校している人はいない時間、

ただ上級生はクラブの朝練でグラウンドでサッカーをやっている。

 

「小夜ちゃんは由亞ちゃんを見ておいてね。」

 

「うん、」

 

「由亞ちゃんも小夜ちゃんから離れない様にね。

退治しようとしてくる人がいるかも知れないから、」

 

『分かってるわ。』

 

と言いつつ、実質由亞ちゃんの暴走対策である。

 

由亞ちゃんを認識できな自分が歯がゆい。

 

おまけに校内でイヤホンを着けておく訳にはいかないので、対応は小夜ちゃん頼りである。

 

まあ困ったら小夜ちゃんから伝えるか、メモ帳を置いておくのでそれで筆談する事になるが、

 

イヤホンを外してラジオの電源を切る。

 

世界が"普通"になる。

由亞ちゃんを声であっても認知する手段が無くなり、まるで由亞ちゃんが最初からいないかの様にも思えてくる。

 

「じゃあ行こっか、」

 

「うん、」

 

手に見えないなにかが触れる。

 

そのまま校門をくぐる。

 

 

 

小夜ちゃんが昇降口で立ち止まり、中空を見ながら小声で喋っている。

 

「むかしはくつ箱、もっと古かったの?

新しくしたんだ。」

 

「ここの昇降口使ってたの?」

 

「・・・そうだって、クラスが同じだしむかしは木だったんだって」

 

「そうなのか、今は鉄製だもんな。」

 

「・・・由亞ちゃんのくつ箱はこのあたりにあったの?

高くて、取り出しにくそう。

・・・たまに台を使ってたの?

取るのたいへんだったんだね。」

 

「どう考えても欠陥じゃないか・・・

そら変えるわ。」

 

こうやって小夜ちゃんに復唱してもらうことで、普通に話しているように会話を成立させる。

 

そんな感じで由亞ちゃんの昔語りを聞きながら、教室に向かう。

 

まだ誰も来ていない教室に入ると、小さなかけるような足音がして、真ん中あたりの机の椅子が引かれる。

 

「そこにすわってたの?

・・・そうなんだ。」

 

一瞬、一瞬だけ、授業参観の時の由亞ちゃんの写真を思い出して、由亞ちゃんが生徒として座っている姿が脳裏に思い浮かんだ。

 

小夜ちゃんと近くの椅子に座って椅子を寄せる。

 

いつかの失われた在りし日の様に、

 

 

【挿絵表示】

 

 

少し、机になにか軽いものが落ちる音がした。

 

 

 

「急ごう!」

 

「ああ!」

 

由亞ちゃんに付き合って学校のあちこちを巡っていたら、始業までの時間が無くなった。

 

慌てて教室に駆け込み席につく、

 

由亞ちゃんは授業中、後ろのランドセル入れの棚の上に座って待機することになっている。

 

後ろを取られているのはどうにも安心できないが、命令を曲解する余地やサボタージュだけで殺せる不確定要素だらけの戦場とは違って、授業中大人しく待機位なら十分だろう。

 

というか、それすらできないようなら、とっくの昔に、非物質化状態で家や道路で後ろから何かされてる。

 

教室のドアを開けて駆け込む。

 

教室中の注目が集まるがすぐに散る。

 

そうしてそれぞれの席につく、

 

すぐに、先生が来て朝の会が始まった。

 

「藤月さん?」

 

「は、はいっ!」

 

横を見ると慌てて藤月さんが前を見るのが見えた。

 

「後ろに先生はいませんよ。」

 

ハハハ・・・

 

教室内に生徒と笑い声が響く。

 

何か言いたそうな表情で藤月さんが堪えるのが見えた。

 

 

授業中も藤月さんはちらちら後ろを気にして、先生から何回も注意されていた。

 

見えているのだろうか、

 

たまに後ろを見た小夜ちゃんが吹き出しそうになっていたので、由亞ちゃんが棚の上で遊んでいるのかもしれない。

 

そして迎えた中休み、藤月さんは後ろに向かって歩き出した。

 

「ねえちょっと、」

 

中空に向けて言う。

 

それを見ていたクラスメイトは引いていたが、元から同じクラスメイトだったらしい数人はまたか、と言うような雰囲気だった。

 

「あー出た。藤月さんの見えない人、」

 

もう片方の隣の席のクラスメイトが言う。

 

慌てて、小夜ちゃんがどうしようと言うような感じでこちらを見ながら歩いて来る。

 

「藤月さん、」

 

鞄からスプレーをとりだしてポケットに入れて、声をかける。

が、集中している様で、気づかない。

 

「藤月さん、」

 

ぽんと手を置く。

 

ビクッと藤月さんが驚いた様にこちらを見る。

 

「な、なに?

今は・・・」

 

「ちょっと、外の校舎裏で話そう?

目立ってるし、」

 

何をいきなり?

という目でこちらを見るが、ハッとしたように、中空を見て僕と中空を見比べる。

 

「あ、待って!」

 

由亞ちゃんが移動しているらしい。

教室のドアが開いた。

 

皆で教室を出ていく。

 

 

「・・・今、なんかかってにドアが開かなかったか・・・?」

 

後ろから、怪訝な声が聞こえた。

 

 

 

校舎裏の古い焼却炉の辺りに着くと周りを見回す。

 

「誰もいない?」

 

「いないよ。」

 

小夜ちゃんが答える。

 

ポケットからイヤホンを取り出して耳につける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

怪訝そうな藤月さんに言う。

 

「僕は、ラジオを使わないと、この子の声が聞こえないんだ。」

 

『そうなの。』

 

イヤホンから由亞ちゃんの声がした。

 

物質化して現れてもいいが、生前の由亞ちゃんを知っている教師に見られたら面倒だ。

 

「藤月さんには見えていると思うけど、この子は由亞ちゃん、友達の幽霊なんだ。」

 

『宮橋由亞です。よろしくおねがいね?』

 

「で僕は、津島健汰、よろしくね。」

 

小夜ちゃんは少し、ためらってから、口を開く。

 

「狭霧小夜・・・です。よろしく、おねがい、します。」

 

ぎこちなく小夜ちゃんが言う。

 

「わたしは・・・藤月澪、です。」

 

同じくぎこちなく藤月さんが口を開く。

 

またの自己紹介となるが普通はクラスの自己紹介だけでは覚えられないだろうと思う。

 

「あなたも、ゆあちゃんが見えるん、ですか?」

 

「うん・・・

あなたたちは・・・何ものなんですか?」

 

「何者と言われても・・・」

 

「なんだろう・・・?」

 

『ねえ・・・?』

 

揃って首を傾げる。

 

「退魔師・・・じゃないの?」

 

モヤハライの時はタイツを着ているが対魔忍ではない、

そんな馬鹿な事が頭に浮かぶ。

 

本職関係者か?それとも何かの本で出てきた名称を言ってるだけか?

 

「由亞ちゃんが見えるみたいだし、藤月さんは退魔師なの?」

 

質問にあえて答えずに訊く。

 

「そう。

私は、藤月の退魔師、藤月澪です。」

 

クソ、野良の異能者とかじゃなくて、藤月、家名か、現地の専門家の家系か、これはどう判断すべきか・・・

単にこの子が中二病なだけだと良いんだが・・・

 

「あれ?この辺の関係者は、大禊祭で今は休んでるって聞いたけど、」

 

「それは、昔からここに住んでる神社の人たちだけですよ?

 

私たちみたいな、新しくここに来た退魔師にはかんけいないです。」

 

怪訝そうに言われる。

 

・・・ヤバい、この業種、この土地だと一本化されて無かったのか、

 

そういえば、猿田山で面接したのも、神職と神父とあと謎の女の人だったか、神社と教会とあと新しく来た退魔士勢で三つに分かれてたのか、

なんで三人いた意味に気づかなかったんだ。

 

ひたすらに焦る。

 

と、

 

「・・・あの・・・たいましって何をする人なんですか?」

 

小夜ちゃんがやっとこさというように、口を開く。

 

「悪魔をやっつける人です。

あと、わるい場所か、かんていして、

魔虫を除霊する。」

 

悪魔とは古風な名称な。

まあ、自分が使う怪異という名称が一般的に使われるのはかなり新しいというか未来の事だが、

 

あと、お互い幼くて(ついでにコミュ障で)慣れてないのか丁寧語のブレが大きい。

 

『まちゅー?』

 

「黒いモヤみたいな小さい虫の悪魔の事です。」

 

待て、今聞き捨てにならない情報を言わなかったか?

 

「それなら、さやたちも、たいましだね。

モヤハライっていってましたけど」

 

「・・・そうだな。」

 

もう、どうすれば最適か判断はつかない。流れに乗る。

 

「やっぱり、そうだったんですか、」

 

ほっとしたように、藤月さんは言う。

 

「じゃあ、その悪魔は、使い魔なんですか?」

 

『私、あくまじゃない、』

 

「少なくとも悪霊でしょ。

まあ、そんな感じで契約した幽霊だね。」

 

「悪魔召喚師の人ですか?

はじめてみました・・・」

 

悪魔召喚まで存在するのかこの世界は、

悪魔召喚プログラム作れるかな?

確か一巻のあとがきで、現実でもアメリカの方で研究されてるとか書いてあったし、

 

そんな冗談はとにかく、

 

まあやるとしたら、あの靄を集めて何らかの形で指向性持たせた上で濃縮するというのが現実的なやり方か、

 

そんなことを考える。

 

「召喚というより調伏した霊を、悪さできないように契約で縛って使役してる感じだけどね。」

 

藤月さんは不審がる表情を浮かべた。

 

「・・・だけど、あなたには力があるように見えないです。」

 

「それは・・・」

 

どうしようか、とちらりと小夜ちゃんを見る。

小夜ちゃんが頷く。

 

「僕と力のある小夜ちゃんが一緒に調伏して、契約したんだ。」

 

「そうなんですか?」

 

藤月さんは小夜ちゃんを見る。

 

「そうです。

3人でやりました。」

 

調伏の言葉の意味は分からないだろうに、ここは合わせてくれた。

 

同じ年齢の相手が普段は使わない難しい言葉使ってれば関係者だと思われるだろう。

 

「そう・・・」

 

納得した様に藤月さんは言う。

 

そして、警戒する様に言う。

 

「悪魔をわるいことに使ったりしてないですか?」

 

「悪い事って?」

 

雑にいくつか浮かぶが、どういうのがアウトのラインなのかが業界のルールが分からない。

 

不法侵入はしまくってる訳だが、

 

「人を呪ったり、盗んだり、

悪魔に人を殺させたりです。」

 

「呪詛の力は持ってないし、やり方知らないよ。」

 

小夜ちゃんや由亞ちゃんにオカルト本を元に訓練させればできる様になるかもしれないが、失敗ならまだしも半端に成功して本人に返ってきたら目も当てられない。

 

怪しいオカルト本を参考に訓練するのは霊感訓練で発狂しかけて以来もう懲りた。

 

じっと藤月さんはこちらを見る。

 

読心とかされてないと良いが・・・

 

「ごめんなさい。うたがって、そんな感じはしないです。」

 

「分かるんですか?」

 

「魔法を使ってるような気じゃなくて、

・・・宮橋・・・さんの方もそんなに悪い気を感じないです。」

 

『私、悪霊じゃないって、』

 

ふふん、と言いたげに由亞ちゃんはこちらを見る。

 

「そうじゃなくて、あんまりかたよってない気というか・・・」

 

「人を殺すと気が偏るの?」

 

「それとかたよった気の悪魔や人は人を殺しやすいというか・・・」

 

説明に困った様に言う。

 

「きってなんですか?気力のこと?」

 

「ええっと、人間の体とか地面から出る力で、たまると悪魔が現れたりします。

悪魔がいるための力です。」

 

「それなら気力のことね。」

 

気でいいのか、良かった。

よく言われる気功とかの気という謎エネルギーの概念と近いのかな?

 

まあ、近いとすると呪い屋とか殺人犯から歪んだ気を感じるとかはありそうである。

 

それはとにかく警戒を解いた様子で藤月さんはこちらを見る。

 

「おなじ学年の退魔師は初めてみました。」

 

「わたしも、わたしと同じ力があるクラスの人は初めてです。」

 

「「あの・・・」」

 

たまたまなのか二人でハモった。

 

「狭霧さんからどうぞ、」

 

「ううん、藤月さんから・・・」

 

譲り合う。

コミュ障少女二人がわたわたやってるのは可愛らしいが、話が進みそうにない。

 

「二人共友達になったら?」

 

なので、自分が言う。

二人共、こちらを見る。

 

「二人共そうしたいんだよね。」

 

「えっと・・・」

 

「あ・・・」

 

お互いを見合う。

 

そして、頷いた。

 

『私、仲間はずれ?』

 

「そこは、お互いしゃーないだろ」

 

なんだかんだで空気を読むのが上手い由亞ちゃんと小声で話す。

 

幽霊と生まれ変わった死者だし、良くも悪くもお互い現世に対して俯瞰的な立場である。

 

「津島さん、宮橋さん」

 

と、藤月さんから声をかけられた。

 

「私と友達になってくれませんか、」

 

どことなくこちらをうかがう様な不安そうな表情で、聞いてきた。

 

『もちろんいいわ。』

 

由亞ちゃんは笑って答えた。

 

「よろしくね。」

 

自分も微笑んで答えた。

 

これからどう転がるかまったく検討もつかない、が、藤月さんと友達になれたのは僕たちにとっては大成功・・・だったと思いたい。

願わくば藤月さんの親もこの関係を尊重して、僕らの事を無下に扱わないと良いんだが・・・

 

なお、校舎裏で話に集中していたので、始業のチャイムが聞こえず、授業に遅刻して三人と一体で怒られた。

 

が、僕以外とは孤立気味の小夜ちゃんと完全に孤立している藤月さんが仲良さそうにしているのを見て問題が減ったと安心したのか、お説教は短めで済んだ。

 

給食時、何か話しかけたがっていた同じ班の藤月さんと話す。

 

もちろん退魔師絡みの話は抜きで・・・

 

「へえー家でアニメとか見ないのか、」

 

「うん、うちではテレビ、あんまり見ない、です。」

 

「ニュースとかも?」

 

「テレビはニュースをたまに見るくらいです。」

 

「本とかは読むの?」

 

「ええっと・・・」

 

ちらちら回りを見る。

 

「・・・そういう系の本?」

 

「うん、」

 

「そっかー・・・そういう本って売ってるの?」

 

「あんまり・・・」

 

「そっか・・・」

 

さらに話す。

いや、藤月さん、それ以外だと、ほとんど話すネタ持ってないな!?

小夜ちゃんでも好きなアニメやら番組やら音楽やらの話はある程度できるぞ・・・

 

退魔師の家とはかくも厳しいものなのか・・・

 

この業界に関わって良いのか不安になりつつ、これはチャンスだとサブカル沼に沈めようと決意する。

 

差し当たっては、小夜ちゃんも見てる魔法少女ものを薦めるか、

 

そんなことを考える。

 

前置きはそこまでとして、重要な家族の事を聞いていくか、

 

「そういえば、お母さんとお父さんってどんな人なの?」

 

「お父さんはいないです。」

 

「そっか・・・ごめん」

 

「気にしないで、」

 

「それでお母さんは?」

 

「うーん・・・

どんなって言われても・・・」

 

藤月さんが首を傾げる。

 

「たしかに、改めて自分のお母さんがどんな人って言われてもピンとこないよね。」

 

比較対象がいないとピンとこないのは仕方ないか、

まあ、特に親に大きな不満とか悪感情は無さそうである。

 

やたらと優しいを連呼したり不安定な様子だったら関わるの避けようと思ったが、

 

「うちは、ほら僕ってこんなだから、あんまり親とは話さないな。

仲悪いわけじゃないけど、お互いお互いの領分を守ろうって感じで、」

 

だから早く僕の部屋くれ。

 

「そうなの?

話したほうがいいです」

 

「その辺、むしろ話したほうが、お互いコレジャナイ感がでるんだよなあ・・・

変に意識がはっきりしてるから、」

 

語彙や頭が良いというだけではなく、親の立場にも配慮して話しつつ、自分の立場を主張するので、幼児の親子としてはわりと違和感が大きい会話になってしまう。

 

「それより藤月さんはお母さんとは話すの?」

 

「うん、」

 

「家にいる事多いんだ。」

 

「いっしょにおしごとに行くことが多いです。」

 

「へえ、すごいな。お手伝いとかもするの?」

 

戦いの現場に連れて行くのか?

いや、単に靄・・・魔虫だったかを祓う現場で悪魔が実体化しない程度ならそこまで危なくはないか、

 

「うん、」

 

「へぇーすごいな。」

 

自分達と似たような事をやっているのかな?

 

そんなことを考えつつ、家族関係について聞き出す。

 

と昼食が終わり、昼掃除になり昼休みになった。

 

 

 

中休みと同じ焼却炉付近に三人と一体で集まる。

 

「藤月さんもモヤハライやってるんですか・・・」

 

「除霊の事をそういってるんですか、」

 

「個人的にはアレが小さなスライムの集合体だった事に驚いた。

てっきり、気によって半実体化した怪異か、瘴気的なナニカだと思っていたから」

 

三年来の謎が解けたが、虫眼鏡で黒い靄を調べようとしなかったのが悔やまれる。

 

まあレンズの様な光学的手段で拡大できるかは分からないが、

 

「瘴気、ともいう。」

 

そっちの名称も使われてるのか、

確かに性質はそれっぽいが、

 

そんなことを考えている間に小夜ちゃんと藤月さんは話し続ける。

 

やはり男女より女の子同士の方が話しやすいのだろう。

 

「藤月さん、一人でモヤハライやってるんだ。

すごいな。」

 

「少し前まではお母さんといっしょだった、

けど、強くなるために一人でやらなきゃだから」

 

いつの間にかお互いぎこちない丁寧語を外して普通に会話している。

だが藤月さんは丁寧語をやめるといきなりすごい舌足らずになった。

ほぼ目上の人と話す事ばっかりで身内と話す機会がなかったのか?

 

『あの気力・・・気だっけ?

を取り込む量が減るもんね。』

 

おい待て、

 

「それに、強い人が近くにいると吸われるから、」

 

経験値みたいなもんなのかアレ、

 

「つまり気を取り込めば、小夜ちゃんみたいに僕も強くなれる・・・?」

 

「えっと・・・そしつがある人じゃないと取り込めない」

 

「取り込めれば強くなれるの?」

 

「うん」

 

『知らなかったの?』

 

「そうなの?」

 

小夜ちゃんを見ると、小夜ちゃんはキョトンとした顔で見ている。

 

『サヤも知らなかったの?

強くなってるから知ってたと思った。』

 

「知らなかった・・・」

 

重要な前提を由亞ちゃんから引き出し損ねていた。

他に知っておかなきゃならない前提無いだろうな?

 

それはとにかく、

 

「素質が無いとだめか・・・」

 

何かで補えないだろうか、

 

「なん年か修行をすれば、

できるようになる、かも、」

 

「かもか・・・

藤月さんもしたの?」

 

「うん」

 

「わたし、してないよ。」

 

「そういう人もいるの、それに・・・」

 

そう言って、藤月さんは、はあと息を吐く。

白い息が空気に溶けていく。

いやおかしい、この気温だぞ。

 

そもそも、白い息は水蒸気が外気の低温で冷やされたり湿度が高すぎて水滴になる現象なのに、なぜ平温の外で水滴になる。

 

それだけ体温が高くて藤月さんの呼吸に含まれる水蒸気の量が多いのか、

いや?むしろ口から離れて白くなったのではなく、口から出た直後から白かった様な・・・

 

と、すると口の中の温度自体が低くて肺からの水蒸気が口の中で冷されて・・・

 

だめだ判断がつかない。

 

「力を使えるようになっても、うまく使えないと、

こんなふうになっちゃうの。」

 

「温度系の力なのか、」

 

とりあえず当たり障りのない事を言う。

 

藤月さんは手を出す。

 

パキンと音がして、手の中に小さな雪片が生じる。

 

「こおらせる力、」

 

小夜ちゃんたちの持つ力は、こんなふうに勝手に発現したり、物理的な事象を伴うものなのか?

 

いや、衝撃や念動力を使う由亞ちゃんがいる時点で今更か。

勝手に発現するのもなんとなく色んな事が分かる小夜ちゃんもそうと言えるかもしれない。

 

「氷系か、カイロとかいつも使って寒そうだからな。

大変だな。」

 

「だいじょうぶ?

藤月さん、」

 

「だいじょうぶ、なれてる。

それに、ふつうは力に目覚めたときこんなにならないのに、力があばれるのは、私が未熟なだけ、」

 

力は修行で習得するというより、目覚めるものなのか、

しかも目覚めた力は制御しきれるとは限らない・・・?

 

この辺、小夜ちゃんや藤月さんの力は魔術的なものというより超能力の類いの様にも思える。

 

「体質みたいだし仕方ないんじゃ・・・」

 

「それでも、がんばるのが退魔師」

 

「・・・本当にすごいな

頑張ってるんだな。

お疲れ様」

 

一礼する。

 

小学三年生になったばかりの幼女の中に、確かな自負が垣間見えた。

 

藤月さんは少し得意げにみえる。

 

 

 

 

「どうしてこうなったんだろ。」

 

呟く。

 

服の下には退魔スーツ、背中には色々入ったランドセルと石の剣と盾等フル装備である。

 

いつもの活動圏から離れた街路、目の前には二階建ての一軒家があった。

 

そして、横では藤月さんと小夜ちゃんと物質化した由亞ちゃんが話していた。

 

「ここ、すごく濃いね。」

 

「うん、だから除霊するの」

 

「濃さでは一番じゃない?」

 

「さるた山とか、ゆあちゃんのお家の方が濃かったよ。

そっちよりはずっと弱いよ。」

 

どうやらかなり濃いクラスらしい。

 

濃さに関しては指標作ろうと、水の濁度計を参考に、棒の先に二本の並行する直線を引いて、どれくらい離れると、その直線の隙間が見えなくなるかを小夜ちゃんに聞いて数値化しようと思ったが、靄にムラがあり過ぎてうまく行かなかった。

 

なので未だに指標は猿田山と宮橋邸である。

 

ちなみに猿田山や宮橋邸クラスの所からは、家に入らず遠距離から削ることになっている。

 

しかし、友達ができて舞い上がってるのは分かるが、危険のあるかもしれない自分の仕事場に案内するのはプロとしてどうなのだろうか、

 

まあ、こちらのことをプロと思い込んでいる様だし、都合が良いので放置している自分の言えた事では無いが、

 

それに、小夜ちゃんの様に力があると魔虫に取り憑かれる様な事はまず無いようなので、力を持つものにとってはただの空き家散策的な感じなのかもしれない。

 

あと、悪魔が出たときに、同業者に自分の技を見せていいのかという気もするが、

まあ、雑に硫化水銀入りの武具使えば祓える上、自分は氷系の力を持っているのは同業者が見れば分かるレベルでたれ流しな以上、秘密にするような事は無いのかもしれんが、

そもそも、周知されている技術しか使わない可能性も高いか、

 

チラチラと藤月さんは周りを見回す。

 

「どうしたの?」

 

「おじさんがいない・・・」

 

「おじさん?」

 

「ううん、なんでもない。

じゃあ、入る。」

 

ポケットから鍵を取り出す。

 

自分も、硫化水銀で染めたバザーで買った手袋と、学校から持ってきた硫化水銀を塗りたくった防災頭巾と、同じく硫化水銀を塗った真っ赤なガスマスク型のお面を被る。

 

硫化水銀は周囲にも微妙に作用するので、多少隙間があっても靄が入ってこない、

 

「きゃあっ!!」

 

「どうしたの!?」

 

見るとドアを開けた藤月さんがこちらを見て怯えていた。

 

あー確かにいきなり防災頭巾を被った赤マスクが出現したら驚くか、

 

「ごめんごめん、靄・・・瘴気が入ってこない様にするためにやってるんだ。」

 

「津島くんも入る?」

 

怪訝そうな顔をする。

 

「うん、」

 

「魔虫に取り憑かれちゃう!?」

 

驚いた様に藤月さんが言う。

 

?ああ、硫化水銀だと分からないのか、

 

論より証拠と薄暗いドアの中に腕を差し出す。

 

「危な・・・い?」

 

キョトンとした表情で藤月さんが言う。

 

ドアの前から退きながら、腕まくりして、下に着ている硫化水銀のタイツを見せる。

 

ちなみに、小夜ちゃんは黒っぽいタイツを入手できたので硫化水銀を塗って、もう一つ仕立てた。

 

名前は雑に退魔スーツと名付けた。

 

ピッチリスーツはええぞ。

 

「?」

 

「辰砂を塗った装備だから靄は入ってこれないから安全だよ。」

 

「しんしゃ・・・?」

 

「ほら、硫化水銀とか、水銀朱とか言われる。」

 

「なにそれ?」

 

?ああ装備品の素材とか教えられて無いのかな?

 

「硫化水銀にはこういうものに対抗する性質があるんだ。

帰ったらお母さんに聞いてみるといいよ。」

 

「知らなかった。」

 

まだ教えられていなかった様だ。

いや、もっと効率的な物質や方法があると考えた方が自然か、

 

 

【挿絵表示】

 

 

「津島くんは狭霧さんといっしょにいつも入ってるの?」

 

「そうだよ。」

 

「・・・狭霧さん、津島くんが憑かれてあばれそうになったら、おさえてて。」

 

「ケンタくんなら大丈夫だと思うけど、わかった。」

 

この辺はプロである。

 

「そういえば藤月さんのお母さんの電話番号教えてくれない?」

 

「どうして?」

 

「なにかあったとき連絡しなきゃいけないから、」

 

「分かった。」

 

そういうとポケットからメモ帳を取り出して、電話番号を書いて渡してきた。

 

「じゃあ、行く。」

 

お手並み拝見である。

 

 

 

 

玄関に入ると、藤月さんが腰につけた袋を開けて粉のようなものを撒く。

 

塩か、

以前、幼稚園の数珠しかなかった頃に試した事があるが、小夜ちゃんが使った場合、ただの砂等よりは良いが、靄を払う効率は数珠に及ばない上、塩を台所からくすねる必要があるので止めた。

 

おそらく藤月さんの使う塩はそれより効果が強いのだろう。なにか曰くのある塩なのだろうか、

 

と思って小夜ちゃんと由亞ちゃんを見るとそろって首を傾げていた。

 

なんだそのリアクションは、

藤月さんを先頭に家に入る。

 

 

 

部屋ごとに藤月さんが塩を撒いていく、

だいたいどこの部屋も一撒きするだけで明るくなりきっていない部屋も多い。

 

かと言って雑にやってる感じではなく撒く前と撒いた跡で部屋を見渡して確認している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

小夜ちゃんと由亞ちゃんも困惑している。

 

何部屋か巡った所で居間に出る。

 

「こんな感じ、どう?」

 

「・・・塩でお祓いしてるんだ。」

 

迷った末、すぐに妙な所を指摘するのも気が引けてとりあえず言う。

 

「みんなはちがうの?」

 

「硫化水銀・・・

小夜ちゃんのシューティングスターでお祓いしてるな。」

 

「シューティングスター?」

 

「みせてあげるね。

じゅんびして、」

 

小夜ちゃんはシューティングスターを構える。

 

小夜ちゃんの声に、お面を下ろし、硫化水銀のカプセルを口に含み、石の剣と盾を装備する。

 

由亞ちゃんがスプレーを僕のランドセルから取り出し隣に並ぶ。

 

「え?え?」

 

いきなり物々しくなった空気に藤月さんは困惑した表情を浮かべる。

 

「えいっ!」

 

小夜ちゃんがシューティングスターをデタラメに振り回す。

 

部屋が一気に明るくなる。

 

「ちょ!?な、なにやって!」

 

「来るわ!」

 

由亞ちゃんがスプレーを虚空に向けて吹きかける。

 

スライムが着色され、ピンク色になって目の前に現れる。

 

「!?」

 

「やっ!」

 

小夜ちゃんが振り回したシューティングスターがスライムの2/3位を消し飛ばす。

 

「えいっ!」

 

由亞ちゃんが放った衝撃波がスライムの残りを吹き飛ばす。

 

「あ"ーー!!!」

 

叫び声を上げ一歩踏み出す。

 

最近は、小夜ちゃんがシューティングスターの扱いに慣れてきて、一撃で消える事も多いのに、由亞ちゃんの衝撃波まで受けてこれだけ残るのは珍しい。

 

こちらに向かって来たスライムを鍋の蓋の盾で抑え込む、

 

弱いことが分かるのか、スライムは僕を攻撃対象にする事が多い。

なので離れたところでシューティングスターで戦おうとしても、向かって来たスライムを削りきれず、そのまま取り付かれる(憑かれるではない)事が多かった。

 

盾とシューティングスターだと取り付かれた時に有効な攻撃ができないので、結局、自分は戦い方は盾と石の剣での接近戦という、最弱が接近戦という問題しかない形に落ち着いた。

 

ジュッと煙が立つ。

暴れるスライムにひたすら石剣を突き刺す。

 

この石剣は三代目で、わざわざ地面に型作らなくても、中が空のプラスチック製の剣のおもちゃに硫化水銀入りコンクリ流し込んで成形すれば良いんでね?

と気づき、これまでよりさらに扱いやすい形の石の剣を作る事に成功した。

 

と、目の前に手が現れて、消えた。

それと同時に世界が変わり、逃げようとする着色されたスライムの残骸が見えた。

 

由亞ちゃんが憑依した。

 

と同時にスライムが消失し、小夜ちゃんのシューティングスターが少し前までスライムがいた虚空を打った。

 

「もういないみたい。」

 

「そうなの?」

 

「うん、」

 

ふぅー・・・ゆっくり息を吐き周りを見渡す。

 

と同時に由亞ちゃんが抜けて隣に現れる。

 

と、呆然としている藤月さんが見えた。

 

「おわったよ、藤月さん、」

 

小夜ちゃんが声をかける。

 

思えば、やり残しがあったのは、こちらのやる分を残していたのかも知れない。

 

まあ、藤月さんの戦闘が見れなかったあたり、都合の悪い部分だけ押し付けられた感もあるが、

 

「な、な・・・」

 

藤月さんはかたかたと震えだす。

 

「なにやってるの!!

瘴気の除霊で悪魔を実体化させるなんて!!」

 

藤月さんの怒鳴り声が響いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「え?」

 

ぽかんとした表情で小夜ちゃんは藤月さんを見る。

 

「それに、それだけの力あるのに!

ただの人に戦わせて、悪魔を憑依させるなんて!」

 

「あーこれは・・・」

 

やっぱり、契約で縛って、硫化水銀カプセルを口に含んでるとはいえ、憑依させるのって不味いんだろうか、

 

「死にたい、死なせたい!?」

 

不味い、ガチ切れしてる。

 

「えっと・・・かなり瘴気が濃くても、悪魔を実体化させずに瘴気を祓えるの?」

 

「あたりまえ!

なんで、あんなにいちどにドカッと瘴気を祓うの!」

 

・・・一度に祓うのがヤバかったのか・・・

単に元からの減少量で実体化すると思っていたので分らなかった。

 

小夜ちゃんは、オロオロしながら口を開く。

 

「で、でも、すぐに終わるから・・・」

 

「いそいでもないのに、すぐ終わらせるために、悪魔を呼び出す!?

何かんがえてるの!!」

 

まずい、小夜ちゃん、会話の選択肢を間違えてる。

 

「それに、悪魔を力の無いただの人に取り憑かせて戦わせるなんて!

退魔師のやることじゃない!!」

 

「そうなの?」

 

由亞ちゃんがキョトンとした口調で言った。

 

「体がおかしくなって、魂を食べられちゃう!

さいあく、人間のふりした悪魔になっちゃう!」

 

この懸念は仕方がない。

 

「そういうことができないように約束してるの」

 

「ふつうの人だと約束あってもなくても悪魔が入ると体も心もおかしくなるの!!」

 

叫ばれる。

おかしくならないようにするという契約なので由亞ちゃん側にも頑張らせて、憑依時間は15秒を超えない契約だが、本職から見ると不味いんだろうか、

 

「お母さんに言う!」

 

「ちょっと待て!」

 

不味い、この状態で本職に言われると何されるか分からない。

出口に向かう藤月さんを追いかけて、玄関に向かう。

 

藤月さんがドアに触れる。

 

と、ガクッと地面が凹んだ。

 

え?

と思う間もなく、浮遊感がした。

 

落ちる。

 

「きゃ!」

 

固い斜面にぶつかる。

山の連峰の頂上の様になっていて、小夜ちゃんと藤月さんは向こう側の斜面を滑り落ちていく。

 

「小夜ちゃん!」

 

手を伸ばす。

 

届かない。

 

そのまま、どこともしれぬ場所に滑り落ちていった。

 

 





小夜猫、由亞猫、健汰猫「ヨシ!」

藤月澪猫「同業者に現場案内したら、いきなり現場猫三連発した件、にゃー」


初期案の第一ヒロイン登場、
なお、初期案だと小夜ちゃんは式神or由亞枠で、由亞は影も形も無かった模様


藤月さんの口調が安定しないのでそのうち修正するかも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。