「ハッチが開いてるっス・・・」
どうやらリンクが解かれると、配信装置のハッチは自動で開く仕組みらしい。
ホロスタイルでの体感があまりにリアルだったため、現実の感触を確かめるために、私はぺたぺたと自分の体のあちらこちらをさわってみた。
正直な感想、あまり区別はつかなかった。ふれる感触も、ふれられる感触も。
ホロスタイルの再現性の高さに少し怖さを感じながら、自分の体にふれつつ、上体を起こす。
「おはようスバル、もう現実の体に戻っているから、そこをつまむ必要はないわよ?それとも・・・うふふ」
「え?誰っスか!?」
私は慌てて胸元を隠す。
「グットイブニーング、私はホロライブグラム二期生、ホロスタイル 二・四 DOCTORの演者、癒月ちょこ。ちょこ先生って呼んでね。初配信のスバルが体調不良を起こしていないか、確認しにきたの。でもその様子だと、大丈夫そうね。むしろありあまっているというか・・・うふふ」
角の生えた美しい金髪美女が、口に手を当てて笑う。
「何を勘違いしているっスか!?私はただ、現実の感触を・・・」
「いいのよ、若いんだから。せっかくだから、ちょこが手伝ってさしあげましょうか?」
そう言って、ちょこはソファーから立ち上がる。
(こいつ、なんてスタイルしてやがる!)
私は思わず心のなかで叫んだ。
胸元が大きく開いた、ピンク色のブラウスからのぞく深い谷間、ストッキングとガーターベルトによって強調された、長くて細い脚。白衣を羽織っているが、ただ翻るだけで体のラインは丸見えであった。
私が夢中になって観察している間に、ちょこはすぐ目の前まで迫ってきていた。
「い、いや間に合ってるっス!」
私は慌てて身を引き、配信装置の端っこへと避難した。
「あら、遠慮しなくていいのよ?演者さまを癒やすのが、ちょこの役目なんだから。どんなマッサージも、お手の物よ」
そう言って、ちょこは配信装置の淵をまたいで中に侵入し、じりじりと手を伸ばしてくる。
「だー!大丈夫っス!スバルは全身元気爆発っス!」
私は迫りくるプレッシャーに耐え切れず、全裸なのも忘れて立ち上がり、サイドチェストのポーズを決めた。
「あら、残念。それじゃあ早く服を着て、食堂に行きましょう。あやめさま達もいるわよ」
元気なのに「残念」とはこれ如何に?
私はもう恥じらうことなく、先程脱いだ衣服を手に取ると、先程とは逆の順番で身に着けていった。
「ところで、ちょこ先生の今の姿がホロスタイルなんスか?」
角が生え、お尻からは長い尻尾がくねくねと動いているので、明らかに人間ではない外見である。しかし、ちょこの香りや息遣いは、まるで生身の人間であり、とてもCGで投影されたものとは思えなかった。もしかしたら、よくできたコスプレの可能性も、十分にある。
「うふふ、さあ、どちらでしょうね?確かめてみる?」
ちょこが生身の人間か、ホロスタイルなのか確認する方法を一つだけ知っているが、さすがに実行することはできず、謎は謎のままにしておいた。
私が服を着ると、ちょこは先に配信部屋を出て、食堂へ案内してくれた。
食堂は円形のテーブルが五つほど設置されており、各テーブルに椅子が四つ置かれている。
食堂といっても、そこで調理したものを注文できるわけではないらしく、保存のきく食料や、お菓子などが、部屋の奥の棚に盛大に並べられている。
一つのテーブルは既に席がうまっており、三人の少女がカップラーメンを食べて、一人の女性が缶ビールを飲んでいた。
「スバルちゃん、お疲れー、ちょこ先生に変なことされなかった?」
カップラーメンを食べていた少女の一人が、私を見付けると声を掛けてきた。
「あ、お疲れさまっス、まつり先輩っすか?」
「そうだよー、現実の世界では初めましてだね、スバルちゃん」
まつりの促され、ちょこと一緒に隣のテーブルに腰を下ろす。
「スバルも食べるか?カップラーメンも冷凍食品も食べ放題だぞ!」
美味しそうに、勢いよくカップラーメンをすする少女はおそらく、あやめだろう。
「こうして実際に会ってみると、みんなホロスタイルで合ったときと、あんまり変わらないっスなあ」
身長もスタイルも、顔立ちの雰囲気まで、ホロスタイルは本人にそっくりであった。さすがに、あやめのツノは生えていなかったが。
「そうなのよ、すごく細かいところまで、配信装置から投影されるから。これじゃあ身バレしそうよね」
顔を少し赤らめたアキが言う。
私はまだ、配信部屋のモニターに映っていた、ホロスタイルのイメージしか見ていない。自分がホロスタイルとリンクしたとき、どのように再現されているのかが気になった。
「いやーでも、スバルちゃんはホロスタイルのときと全然違う顔だね?」
私をまじまじと見つめながら、まつりが言った。
「え、まじっすか!?スバルはどんな顔してたんすか」
「首から上はアヒルだった」
「怪物じゃねえか!」
角が生えたり、耳が尖ったりするならまだしも、首から上が全部動物って、もはやバグではないだろうか。
「うそうそ、冗談だよ。目がぱっちりしたカワイイ子だったよ」
「ほんとうっスか~」
「ドナルド〇ッグみたいな目をしてたぞ!」
「顔の40パーセントが目じゃねえか!ぱっちりじゃなくてパックリだよ!」
あやめは褒めてくれたのかも知れないが、普段の自分の顔に、目だけがド〇ルドダックになったとしたら、やはり怪物である。
ホロスタイルとリンクした自分の姿は、こんど自分でしっかりチェックしよう。
本当にアヒルになっていたら、デザインは加工してもらえるのだろうか・・・