「ところで、アクアはどこにいるっス?もう帰ったんスか?」
椅子から立ち上がり、部屋をのなかをキョロキョロと見渡したが、どこにもアクアの姿はなかった。
「どこ見てるのよ?アクアなら、部屋の右隅にいるじゃない」
シオンに言われ、私は部屋の右隅に目をこらす。
「え、本当っスか?見えないっスけど」
「心を研ぎ澄ませて、真剣に部屋の隅に目を向けて」
そこまでしなければ見えない存在って、もはや亡霊の類ではないだろうか。そう思いつつ、真剣に部屋の隅を見つめるが、やはり見えない。
「見える人には見える、見えない人には見えない。ここにいて、どこにもいない。それが湊アクアよ」
「哲学っスなあ」
まさか、本当に見える人だけが見える亡霊が、ホロスタイルを操っていたのではないかと思えてきた。
「あてぃし・・・ここにいるよ?」
相変わらず、部屋の隅にアクアの姿は見えないが、確かに声が聞こえた。
「アクア!?どこにいるんだ?」
「いま・・・あなたの後ろよ」
「メリーさんかよ!」
振り向くと、ワンピースを着たアクアの演者が、強張った笑顔で立っていた。
「シオン!騙しやがったな!?」
「違うわ、アクアはたったいま、そこに存在したの。スバルが認識した瞬間から、そこに存在したのよ」
何やら小難しいことを言い出した。
「量子力学よ。わたし、ハーバード大学を卒業しているの」
「嘘だろ!?」
見た目はいいとこ、高校一年生なのに、飛び級するほどの天才なのか!?
「信じるか信じないかは、あなたしだい」
「都市伝説かよ!」
信じるはずねえだろうが!
「はあ、突っ込み過ぎて疲れったス」
まるで悪ガキ達のおもりをしている感じだ。
「まあまあ、落ち着いて座りなさいな。アクアさまも、紅茶はいかが?」
「あ・・・はい、いただき、ます」
隣の席に座ったアクアに、ちょこは甲斐甲斐しく紅茶とお菓子を用意した。
しかし、ちょこは他の人は「さま」を付けて呼ぶのに、なぜ私だけ呼び捨てなのだろうか。
それからしばらく、七人で自己紹介を兼ねた座談会がはじまった。しだいに女子会のノリになり、気が付けば二時間以上のあいだ、好き勝手に話つづけていた。
「さて、時間も遅くなってきたから、そろそろ解散しましょうか。あした学校の人も多いでしょうし」
アキが二本目のワインを空けたところで、女子会はお開きとなった。
「そうだ、すばるちゃん、配信部屋に戻って、パソコンのメールを確認した方がいいよ。明日からの予定がきていると思うから」
食堂から出ようとしたとき、まつりに声をかけられた。
「明日からの予定っすか?もう次の敵がいつ現れるわかっているんスね」
「違うよ、私達はアイドルなんだから、ダンスのレッスンや、ボイストレーニング、各種イベントの日程とかだよ」
覚悟はしていたが、学校に通いながらアイドル活動をするというのは、とても大変なのだ。部活は休部しなければならないだろう。
「敵はいつ現れるか分からないから、普段はアイドル活動に力を入れるんだよ。ファンがたくさんできれば、ホロスタイルの能力もアップしていくし」
そうだ、早く私も、みんなの力になれるようにならないと。
「うっス!スバル、頑張るっス!ところで、まつり先輩」
「うん、何かな?」
「この施設に入るには、どうしたらいいっスか?来るときはエイちゃんと一緒にきたんスけど、入館証とかないんすか?」
エイは隠されたタッチパネルをなにか操作していたようだが、方法は聞いていない。
「壁に隠してあるタッチパネルをさわるだけだよ、帰りもエレベーターの一階ボタンを押すだけだし」
「そっか、意外と簡単なんすね」
「うん、ウーバーイーツも届くからね」
「ゆる!」
秘密の施設じゃないのかよ!
ウーバーイーツの配達員が入れるのに、なんで私はエイちゃんに本気で脅されたのか。
「この施設につながるエレベーターは、他の地上施設にもあるから、それも配信室のパソコンで確認できるよ。じゃあスバルちゃん、気を付けて帰ってね」
「はい、お疲れさまでした」
まつりにおじぎをして、食堂を後にした。
ホログラムライブの加入してからというもの、私の生活は一変した。
住む家は事務所が即座に建て直してくれて、学校にも今までどうり通っている。
しかし、放課後と休日は全てホログラムライブの活動にあてることとなった。
平日の放課後は主にダンスレッスン、ボイストレーニング、演技の稽古、空手、剣道、柔道。
休日はライブやファンとの握手会などの各種イベント。
アイドル活動に加え、イントゥルーダーとの戦いに備えて、私は日々体を鍛え続けた。
初めての戦いで無力だった自分を恥じて、少しでも強くなるために日々努力を惜しまない。
そして二ヵ月が経ち、アキにも認められるほど、私の戦闘能力は磨かれてきたが、その間に出動の要請は一度もなかった。