吸血鬼のモノマネをしているメルの背後には、見渡す限りの海が広がっていた。前回の北海道での戦いも、海の近くであったが、今回は沖縄の海辺らしい。
夏まっさかりの沖縄の日差しはとても眩しく、海面は至る所に宝石を散りばめたように輝いている。空気は乾いていて、気温が高くても、不快な暑さではなかった。
せっかくこんなに美しい景色なのに、これから正体が不明な集団と戦わなくてはならないとは、非常に残念な気持ちであった。
「さっさと倒して、海で泳ごうね、メル、犬かき得意なんだよ」
メルはまるで観光気分だが、私はこの場に二人しかいないことが気になった。
「あの、メル先輩。今回は二人だけで戦うんっスか?」
「そう、ここは真黒岬って言うんだって、こんなに海も空も青いのに、不思議よねー」
話がつうじねえ!
あやめは度々ひとの話を全く聞いていないが、このひとは時々、話を聞いたうえで、返事がかみあわない。
「不思議っスなあ」
「ねえ、はやく敵さん来ないかなあ」
誰でもいいから早く、間に入ってくれる人に来て欲しかった。
仲間の出現を願ったのだが、残念ながら先に現れたのは、敵であった。五百メートルほど離れた海岸に、その姿が現れ始めた。
「きたよ、スバルちゃん。準備はいい?」
けっきょく、二人で戦うのか。次の戦いこそはと思い、心も体も鍛えてきたが、おそらく敵はまた百人はいるのであろう。いくら一期生のメルであっても、一人では手に余るはずだ。
なんとかメルの足を引っ張てはならないと、腹の底に力を入れた。
「よし!いくっス!」
メルと共に海岸へ向けて走り出そうとしたところ、目の前で誰かの足が出現し始めた。
「やった、他にも仲間がきたっス!」
「お、誰がきたかなー、この足は・・・」
足から次第に出現したのは、金色の髪に赤いリボンをたくさんつけた、つり目の美少女であった。
「ハーチャマッチャマー!ホログラムライブ一期生、ホロスタイル一・三 LUNATICの演者、赤井はあと参上!」
「きゃーハーチャマ!いらっしゃーい!」
「メルちゃーん、えへへ、来ちゃった」
抱き合いながらくるくると回る二人を、私は茫然と眺める。
「おや、そこにいるのはスバルちゃんだね、初めましてだよね?」
「は、はい。初めまして、大空スバルっス」
はあとに会うのは初めてであったが、噂は聞いていた。かなり破天荒な性格らしく、その行動が吉とでるか、凶とでるかは運しだいらしい。脳裏にさきほどミオに占ってもらったタロットカーにでた、逆さの塔が頭をよぎる。
「ハーチャマ、どうしようか、先に戦う?それとも泳ぐ?」
「うーん、日が高いうちに泳いでおこうか?」
いや!先に戦えよ!
なんでこの二人はここまでマイペースなのであろうか。思いっきりツッコミたかったが、初対面の先輩もいるので、グッと言葉を飲み込んだ。
「いや、あの、先に戦った方がいいと思うっス。敵さんもだいぶ揃ってきたし、こっちに気付いているみたいっスよ」
というか、
「なんで脱いでるんすか!?」
私が敵を指さし必死に状況を説明しているのに、二人は衣服を脱ぎはじめていた。
「ちょっとメルちゃん!あいつらこっちをのぞいているわよ!」
私が指をさした方向を向いたはあとが、ヒステリックに叫ぶ。
「乙女の着替えをのぞくなんて許せない!お仕置きよ!」
いや、お前らが公衆の面前で脱ぎだしたんだろ。
私がつっこみを入れる隙もなく、二人は敵陣へ向けて走り出した。
「あ、あ、待つっス、そんな正面から突っ込まなくても・・・」
「ほら、スバルちゃんもはやくーキャハハハハハハ!」
まるでこれから海に飛び込もうとするテンションで、はあとは笑いながら走っていった。
いつの間にか右手に握られた包丁が、太陽の光を受けて眩く光る。
前回の戦いで、アキが敵陣に切り込んだときは、こちらの存在を相手が認識していなかったため、うまく不意を衝くことができた。
しかし今回はあの二人が大声で騒いでいたため、敵はこちらの存在を認識している。
当然、駆け寄る二人に向けて、イントゥルーダーはライフルの銃口を定め、一斉に射撃してきた。
無数の弾丸が、二人に向って飛んでくるのが、私の目にもはっきりと見えた。
「見える、銃弾が、はっきり見えるっス」
私の目に見えるということは、先に走り出した二人にも、銃弾の軌道は見えているのだろう。そしてひらひらと、簡単に銃弾を避けて、前進を続けていく。
二人が躱した銃弾は、地面をえぐり、着弾点から煙が上がる。仮想の存在であるはずのイントゥルーダーの銃撃は、確かに現実世界に影響を与えいる。
そして常人ならまず躱すことができないはずの銃弾を、このホロスタイルであれば、躱すことができる。周囲で起こることはゆっくりと認識できるのに、自分の動きは、そのままなのだ。
動体視力があがったとか、反射神経が鋭くなったという感覚ではなく、まるでシューティングゲームをプレイしているようなイメージであった。
NEO3DCGの凄さを、私は再認識した。それはもう、驚きというより、怖さであった。
まるで現実の世界が、ゲームになってしまったような感覚。
どこかでその境目をを見失ってしまったら、取り返しがつかないことになるのではないか。
私が立ち尽くしているあいだに、敵陣に切り込んだ二人は縦横無尽に動き回り、敵のイントゥルーダーを撃退しはじめた。