少女の翼が、再び光り出した。もう一撃くらったら、おそらく私のたちは許容量を超えて、ホロスタイルとのリンクは切られてしまうだろう。
そうしたら、あいつはどうする?
この島にも、住民はいる。まさかその人たちを、焼き尽くすのであろうか。
「負けられないっス、地球を守るのが、スバルの仕事っス」
なんとか上体を起こし、必死に砂を掴みながら立ち上がろうとするが、脚に力が伝わらない。
もがく私に、少女が視線を向けてくる。どうやら、とどめを刺すらしい。
「あ、終わったス」
死ぬほどの痛み、嫌だなあ。
再び燃える翼が強い輝きを放った。
死ぬほど痛い思いをしても、実際に死ぬわけではない。そう自分に言い聞かせ、注射を刺される瞬間のように、観念して訪れる痛みを待った。
しかし、目をつぶって歯をくいしばっていても、痛みに襲われることはなかった。
「スバル、大丈夫?」
「ミオシャ!?」
私の目の前に、ミオが仁王立ちしていた。そしてミオの前には、八枚の光るタロットカードが浮かんでいる。どうやらそのタロットカードで、あの光る翼の攻撃を防いでくれたらしい。
「ヘキサグラムスプレッドの結界だよ、私の側を離れないでね」
「ミオシャ!ミオシャ!ミオシャ!ミオシャー!」
私は安堵のあまり、ミオの腰に縋りつく。
「こ、こら!離れちゃだめだけど、くっつくな!結界はそんなに狭くないよ!」
「ミオシャ!ミオシャ!ミオシャ!ミオシャー!」
「いつまでも泣いてんじゃないよ!」
いきなり耳元で怒鳴られ、私の鼓膜は激しく揺れた。
後ろを振り返ると、犬耳の少女がメルを抱え、猫耳の少女がはあとを背負っていた。
「あの、どちらさまですか?」
「人の顔を忘れるなんて、なんて奴だ!」
いや、怒られても知らんし。
「その二人は、コロネと、おかゆだよ」
「え、あの犬と猫?」
「そうだよースバルちゃん、僕たちSPYのホロスタイルは、動物の姿に変身できるんだよ」
おかゆが尻尾を振りながら教えてくれた。
さすがバーチャル、なんでもありだな。
「さあ、早くホロスタイルのリンクを解いて、意識を肉体に戻すのよ」
「え、でも、あの敵はどうするっス?」
私が再び海上の少女に目を向けたとき、海岸から発射された二筋の光線が少女に命中した。
少女は炎の翼でそれをガードしたが、空中でよろめいた。ダメージを受けたのだ。
海岸からは続けて、少女に向けて光線が放たれ、少女は間一髪でそれを躱していく。
「すげー、なんスかあのビーム?」
「あれはロボコさんのビームだよ。ホログラムライブゼロ期生、ホロスタイル 0・一 ROBOTの演者。伝説と言われるゼロ期生の力は、半端じゃないんだから」
確かに、三人を一瞬で追い込んだあの少女に対して、ロボコは優勢に戦っている。
「はあーすげーすな、ゼロ期生って。でも、本当に手伝わなくていいいんスか?」
「僕たちは戦闘向けじゃないからねー、それにまだ助っ人もきているから。ほら、あっち」
おかゆが指をさす方向を向くと、見事な毛並みの尻尾を揺らした、銀髪の少女が立っていた。
少女が右手を天に掲げると、彼女がいる周辺の景色が歪み、そこから体長が十メートルはあろうかという、巨大な銀色の狐が現れた。
少女の指示により、銀色の狐は海岸へ躍り出て、炎の羽の少女に襲い掛る。
ロボコの光線を避けるのに必死だった少女は、狐が振り下ろした腕に弾かれ、水面に叩き付けられた。
「あ、あれは、白上先輩っスね」
ホログラムライブ一期生兼SPY、ホロスタイル 一・一 FOXの演者、白上フブキであった。
「あの二人なら大丈夫だべな、やれー!フブキちゃん!」
コロネの応援に、フブキが親指を立てて答える。
「さ、私達は退避、退避」
すでにメルとはあとは、コロネとおかゆがリンクを解いたらしく、姿がなかった。
「よ、よし、じゃあお言葉に甘えて、スバルも退避するっス」
もう何回か、ホロスタイルのリンクを解除したことはあるが、人目があるなかでするのはまだ抵抗があった。
「スバルちゃん!さっさとしなさい!」
「あん!」
せっかちな犬に背後から襲われ、私のリンクは強制的に解かれた。
配信装置のハッチがひらくと、私はすぐに服を着て、食堂へ向かった。そこにはすでに、メルと、はあとの演者らしき女性が、テーブルに突っ伏していた。
「あースバルちゃんおつかれ~メルだよ~わかる?」
やはり、テーブルに突っ伏していたのは、メルと、はあとの演者であった。
「お疲れさまっス、二人とも、大丈夫っスか?」
「うん、大丈夫だけど、あんな痛い思いしたの初めてだよ~」
「ほんっと!なんなのあいつ!次は許さないんだから!」
はあとは悔しそうに、何度も両手をテーブルを叩きつけた。
「うらああああああ!」
テーブルを叩きつけるだけでは気がすまなかったらしく、はあとはついにテーブルごと持ち上げた。
「ハーチャマやめて~」
「お、落ち着くっス!」
メルと一緒に、はあとの蛮行をとどめていると、食堂のドアがひらいた。
三人の視線が、入り口の向けられる。
「うむ、元気そうでなによりだにぇ」