入り口には、カジュアルな巫女服(そんなものはないかもしれないが)を着た少女が、腕を組んで立っていた。
「ミコチ!ホロスタイルとリンクしてどうしたのよ!?」
はあとが驚いて声をあげる。
この人が、ミコ先輩?話には聞いていたが、会うのは初めてであった。
伝説のゼロ期生の一人で、ホログラムライブの「顔」とも言われる大先輩だが、腕を組んでいても、威厳は欠片も感じられない。むしろ、幼い妹といったイメージだ。
「うむ、もしもの場合に備えて、待機してたにぇ。もう、その必要もなくなったみたいだけど」
そう言うと、ミコはたった今自分が入った食堂の扉を振り返った。
「いやー疲れたー、ごめーん逃げられちゃったよー」
「しぶとかったね、さすが『不死鳥』をイメージしたホロスタイルだよ」
フブキとロボコの演者である二人が、食堂へ入ってきた。
「フブキ先輩、ロボコ先輩、お疲れさまっス、助けてくれて、ありがとうございました」
私は窮地を救ってくれた先輩二人に、お礼を言う。
「いやー大変だったねスバルちゃん。痛かったでしょう?まだ戦いに慣れてないのに、あんな強敵に襲われちゃって」
フブキが私の肩に手をおく。
「はい、普通のイントゥルーダーとは全然違ったっス。あれは何だったんですか?ロボコ先輩はホロスタイルだって・・・」
私の質問に、全員が一瞬、黙り込んだ。
(あれ、なんか聞いちゃまずいこと言っちゃったかな?)
「そっか、スバルちゃんはまだ、盗まれたホロスタイルのことを、知らないんだな」
ミコが椅子に座り、私にも座るよう促してきた。メル、はあと、ロボコ、フブキも椅子に座り、急遽、会議が開かれるような態勢になった。
「実は今日、スバルが戦った炎の翼をもった敵は、このエヴァー株式会社から盗まれた、ホロスタイルの一つにぇ。ホロスタイル EN2 PHOENIX。正確には、盗まれたと言うより、裏切った研究者が持ち逃げしたらしいにぇ。ミコもその辺のことは、詳しく知らないけど」
再び腕を組み、ミコは思案気な顔を浮かべた。
「僕たちゼロ期生がデビューする、数か月前のことだったらしいよ。その研究者は、ホロスタイルの試作品を盗んで、とある軍事国家に、すごい待遇で迎えいれられんだって。本当はアイドルとして活動するはずだったホロスタイルが、軍事利用されることになってしまった」
ロボコは悔しそうに言った。
ホロスタイルとリンクして活動することで、演者は痛みこそ感じるものの、怪我を負うことはない。現実の世界に干渉することができる、バーチャルな存在。それを利用すれば、不死の軍隊を作りだせる可能性がある。
エヴァーを立ち上げた矢郷は、純粋に新たなアイドルを生み出し、人々に喜んでもらいたいと思っていたと、ミコは言った。
しかし、その存在が現実世界の脅威になることも、危惧していたらしい。だからこそ、矢郷が経営していた元の会社の資産と、矢郷自身の資産に加え、信頼できる投資家へ資金援助を求め、この地下施設を建設したという。
「まさか、この鉄壁の地下施設から、情報を持ち出せる人間がいたなんて、大きな誤算だったんだにぇ」
ミコが真剣な顔で言うが、私から見ると、この施設のセキュリティはガバガバであった。
普通に佐川の配達員を見かけるし、ウーバーイーツも届く。そもそも入館証すらなかった。さすがに各部屋はカードキーになっているが、開けっ放しの部屋も多い。
もし、世界が侵略されたら、責任は免れまい。
「イントゥルーダーは、その盗まれたホロスタイルから量産された、軍事用ホロスタイルといった感じなんだ。もちろん僕たちのホロスタイルのオリジナルに比べたら、全然ポンコツだけど」
ロボコが言うとおり、ホロスタイルで活動をはじめて二ヵ月ほどしか経っていない私でも、イントゥルーダー相手であれば、なんとか撃退することができた。
「でも、やっぱりホロスタイル同士となると、なかなか一筋縄じゃいかないよねー。あのホロスタイルの強さ、相当やばいところまで、ホロスタイルとリンクしているはずだよー」
フブキが思案気な顔で言った。
「あんなの反則よ!絶対、中の人は狂人だわ!」
はあとが再び悔しそうにテーブルを叩く。
いや、狂人は・・・みんなが思ったであろうが、誰も言わなかった。
「ホロスタイルとのリンクを上げるって、リンクしてる時間の長さが重要なんスよね?」
「そうにぇ。私達は一日一回、三時間までしかホロスタイルとリンクすることを禁じられているにぇ」
「一日二回とか、三時間以上リンクしていると、どうなるんっスか?」
私の質問に、ミコが黙り込む。目を閉じ、話すかどうか思案しているようだ。
「・・・・・」
「そんな、やばいことになるんっスか?」
「いや・・・どうなるにぇ?」
「知らないかよ!」
大先輩に思わずツッコミをいれてしまった。
「知ってりゅよ!でも、頭からでてこないだけだよ!」
そう言って、ミコはすぐに思い出すからと、こめかみを両手の指でぐりぐりと押しはじめた。
(そんなんででてくんのかよ!)
と思ったが、真剣に考えているみたいなので、言わずにおいた。