ホログラムライブに入団して数ヵ月が経ち、季節は秋を過ぎて、少しずつ冬の気配いを感じ始める頃であった。私は食堂にホワイトボードを持ち込み、二期生とエイを呼び集め、一同を椅子に座らせた。
「これより、緊急会議を行うっス!」
「はい!」
あやめが元気よく手を上げた。
「はい!あやめ!」
「うどんはおやつに入りますか!?」
「汁物は遠足に持ってこないで下さい」
アヤメはがっかりしてうなだれた。
「なに?みんなで遠足に行く打ち合わせでですか?」
エイが怪訝な表情で問いかけてくる。
「違います。今日はこれから、二期生の方向性について、話し合いたいと思います」
「二期生の方向性?」
ちょこがテーブルに頬杖をつきながら、気怠そうに言う。
「そうっス。皆さん、我々の仕事はなんですか?」
私の問い掛けに、誰も答えなかった。
「とりあず、シオン!」
「え、私?はいはい?」
急に名指しされ、シオンは驚いた顔で私を見る。
「今月の活動内容は?」
「えーと、魔法を使ったマジックショーと、寒くなってきて、ホロスタイルでも野外はいやだから、雑談配信ばっかかな」
私は一つ頷くと、あやめに同じことを問いかけた。
「え?余は一時間で大根何本切れるかチャレンジと、ファン参加型リアル鬼ごっこかな」
「次!アクア!」
「あ、あてぃし?ゲーム、配信……」
「ちょこ!」
「クラブ・チョコの経営よ」
全員の活動内容をホワイトボードに記載すると、エイの方を向いた。
「聞きましたかエイちゃん!これがアイドルの活動っスか!?」
ホワイトボードを叩き、私は必死の顔で、エイに問いかけた。
「まあー、いいんじゃないですか?個性豊かで」
「よくないっス!」
私は両手を握りしめ、エイに詰め寄った。
「ホログラムライブは、新世代のアイドルとして世間にデビューしたはずっス。それなのに、いつの間にか色物芸人集団として認知されているんスよ!みんなも会社も、私達がアイドルだという認識を、もっと強く持つべっきっス!」
ヒートアップする私と反比例するように、みなの反応が冷めていくのを感じる。
「そういうスバルは、今月どんな活動してたの?」
シオンがに問いかけられ、私は一瞬、言葉に詰まった。
「……体育大学で瓦割大会に、ゲストで行ったす。あと、日本野鳥の会のイベントガール」
「地味」
「うるせえよ!一日アヒルの被りものして、頑張ったんだよ!」
まあま落ち着いて、とちょこに渡されたお茶を一息に飲み干した。
「とにかく、私達はアイドルとして、もっとアイドルらしい活動にいそしむべきだと思うっス」
私は真剣に話しているのに、どいつもこいつもすでに、会議に飽きた空気を隠そうともしなかった。あやめにいたっては、席にすらいない。
「まあ、みなさん人気もでてきていますし、無理やり路線を変更する必要はないんじゃないですかね。それに、スバルさんには、とてもアイドルらしい案件がきていますよ」
「え!まじっスか?どんな案件っスか?」
エイはテーブルに置いてあったファイルから、一枚の紙を取り出した。みなの視線が、その紙に集まる。
『地獄の高熱温泉耐久イベント。罰ゲームもあーるよ』
「スバルにぴったりじゃない」
「だまれシオン!全てが罰ゲームじゃねえか!これのどこがアイドルの仕事なんだよ!」
私はテーブルの上の書類を握りつぶした。
「芸人」と検索すると、自分達の名前が上位に表示されてしまうことに、危機感を覚えたのだが、それは自分だけであったようだ。
「まあ、アイドルから芸能人にクラスチェンジしたということで、いいじゃないですか。では、私は仕事に戻りますので、あ、スバルさんは明日、先程の案件の打ち合わせをしますので、よろしくお願いします」
そういうと、エイはファイルを片手に食堂を出て行った。
「ス、スバルちゃんは……どうして、急に、アイドルらしくしたいって、思った、のかな?」
アクアが控えめに手を上げ、そう聞いてきた。
「この前、アズキ先輩やすいせい先輩、そしてソラ先輩のライブ動画を、アーカイブで見たっス。ステージの上で歌って踊る先輩たちをみてたら、アイドルってこういうものなんだよなぁと、思ったス。ゼロ期生がつくり上げてきたイメージを、私達はおかしくしてしまっているのではないかと、思ったんスよ」
「そ、そっか、そう、なんだ」
「でもさっきの温泉企画、ミコ先輩の名前もあったわよ」
「まじかよ!」
「まあ、今はアイドルにもいろいろな方向性が求められるんだから、いいじゃない」
ちょこに諭され、緊急会議は幕を閉じた。
(色々な方向性かあ、確かにそうっスよね)
会議をひらいた目的は果たなかったが、今後の仕事のモチベーションにはなった気がする。
二週間後、雪化粧をほどこされた、美しい山の麓に、私とミコは立っていた。