ソラニウタウトキ   作:kaito-18

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ラーメンとかつ丼

 教科書はすでに持っているようであったが、ちゃんと日本語の授業がわかるだろうか、困っていることはないであろうか。

 慣れない雰囲気のなかで、緊張していないだろうか。

 

 卒業後もホログラムライブでアイドル活動を続ける予定であるため、受験勉強をする必要がない私は、授業よりも転入生に意識がいってしまう。

 

「カリオペちゃん、よかったら校舎を案内するっス、お昼はもってきたっスか?学食もあるっスよ、けっこう美味しいっス」

「がくしょく?たべてみたいです、おねがいします」

 私はカリオペと連れ立って、教室をでた。

 

 廊下を歩くと、皆がカリオペに注目している。

 

 転入生だから注目されて当然ではあるが、おそらく、街で彼女を見かけてても、全ての人が二度見するであろう。

 

 スラリとした長い脚に、ピンク色のロングヘア―、日差しを受けたことすらなさそうな白い肌、そして、光を放つような赤い瞳。

 

 ここは女子高であるが、すぐにでもファンクラブが結成されるであろう。

 

「これが、らーめん!いちどたべてみたかったです!」

 

 カリオペは学食のメニューに目を輝かせ、あれこれ悩んだ結果、王道の醤油ラーメンをたのんだ。フォークで麺を巻き取り、上品に口へ運ぶ。

 

(食べるときに、髪を耳にかける仕草が色っぽいス、私も髪、伸ばそうかな)

 

 そんなことを思いつつ、私はお箸でかつ丼をかきこんだ。

 

 食事を済ますと、体育館、職員室、部室棟などを案内した。校舎は広く、全てを紹介するには時間が足りないため、とりあえずお昼休みの最後は音楽室を案内した。

 

「Oh!ここが、おんがくのレッスンをするへや、ですか?」

 音楽室に入ると、カリオペのテンションが一気に上がった。

 

「そうっス、カリオペちゃん、音楽が好きなんすか?」

「はい、おんがく、だいすきです。わたし、ミュージシャンやアイドルに、なりたいです」

 

 アイドルという言葉に、私は一瞬、硬直した。

 

「スバルさん?どう、しました?」

 カリオペが、少し腰をかがめて、私の顔を覗きこむ。

 

「い、いや、なんでもないっス!カリオペちゃんなら、絶対なれるっス。どんな音楽が好きっスか?」

「わたしは、HIPHOPがすきです、もちろん、ほかのおんがくも」

「ヒップホップっスかあ、難しそうっス」

 

 アイドル活動のために、ボイストレーニングは受けているが、ヒップホップを歌ったことはなかった。

 

 カリオペの容姿で、マイクを握って歌うさまは、さぞかし絵になるだろうなと私は思った。

 

「スバルさんは?おんがく、すきですか?」

「スバルでいいっスよ。うーん、好きっスけど、あんまり上手く歌える自身はないっス」

 

 ホログラムライブに所属して半年が経つが、未だにライブの経験は一度だけであり、緊張し過ぎて、ちゃんと歌えていたのかも記憶になかった。

 

 自身の活動配信でも、あまり歌枠はやっていない。

 

「スバル、よかったら、いっしょにうたいましょう」

 そういって、カリオペは両手を広げ、その後、胸の前で手を合わせた。

 

「え!?いやいや、スバル、ヒップホップなんてほとんど聞いたことないっス、とても歌えないっス」

 

 私は顔の前で両手を振り、なんとか断ろうとした。

 

「だいじょうぶ、このうたなら、みんな、しっています」

 

 カリオペは手をおろすと、指を鳴らしてリズムを取りはじめた。

 

 静まり帰った音楽室に、カリオペの細い指から鳴らされる音が、きれいに反響する。

 

 When the night has come

 And the land is dark

 And the moon is the only light we'll see

 

 目を閉じたカリオペの口から、美しい英語の歌詞が流れる。

 

(あ、この歌なら、サビだけならわかるっす)

 

 No, I won't be afraid

 Oh, I won't be afraid

 Just as long as you stand, stand by me

 

 カリオペが瞳をひらき、ちらりとこちらを見た。

 

 その視線を受け止め、私は目をとじて、口をひらいた。

 

 So darlin', darlin'

 Stand by me, oh, stand by me

 Oh, stand, stand by me

 Stand by me

 

 ほんの短い時間であったが、私は自分の歌声が、カリオペの歌声に混じり合って教室に広がっていく心地よさに、胸が熱くなった。

 

「スバル、すごく、やさしいうたごえです。かんどうしました」

 目をひらくと、カリオペがこちらを見ており、私は一気に恥ずかしくなった。

 

「い、いや、カリオペちゃんも凄いきれいな声だったス。発音も、さすがネイティブっス」

 もじもじと話す私を、何故かカリオペは目を細め、眩しそうに見つめてくる。

 

「あ、予鈴が鳴ってるっス、教室に戻るっすス」

「ざんねんです、もっと、いっしょにうたいたかったです」

 

 二人で音楽室を出るとき、カリオペは私の手を握ってきた。

 

 いきなり手にふれられたことに、私はビックリしたが、私は柔らかくてひんやりとしたその手を握り返した。

 

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