この年で手をつないで歩くのは恥ずかしかったが、外国では普通なのかもしれない。
予鈴後の廊下は人気がなく、私たちは手をつないだまま、教室まで戻った。
「スバル、この頃いつも以上に元気一杯だね、なにかいい事あった?」
事務所の食堂で、いつもどおり雑談をしていると、ミオが私にそう言った。
「え、そうっスか?別にいつもどうりっスけど」
確かに、カリオペが転入してきてから、新しい友人ができて、少しはしゃいでいるのかもしれない。
カリオペとは、時間が許す限り、たくさんのお話をした。ホログラムライブの活動があるため、放課後はほとんど時間が取れないが、一緒に下校し、お昼はカリオペと、友人たちとしゃべりながら食べるのが、なによりの楽しみであった。
「まースバルちゃんが元気ないのって、見たことないよね。どうしていつも、そんなに元気なの?」
テーブルに突っ伏したおかゆが、こちらを見上げて聞いてくる。いまにも喉からゴロゴロと鳴りそうなくつろぎかただ。
「そんなことないっス、スバルの脳みそにも、悩みというクラウドが、かかることもあるっス」
「嘘つけ」
おかゆと同じ態勢でくつろぐころねが、即座に否定する。
「嘘じゃねえよ!スバルだって悩んでもいいだろ!」
「じゃあその悩みとやらを言ってみろ!仕方なく聞いてやるからよ!」
なぜかころねは、私に対しては言葉が強い。他の人に対しては、犬が尻尾を振ってじゃれるように話しかけるのに。
「ねえよ!悩みがないと、やばい奴って思われるから、あることにしてんだよ!」
「ねえのかよ!お前やばいな!」
こんなくだらないやり取りをしている時間も、とても楽しく、私は本当に充実した生活をすごしている。
「あ、悩みってほどじゃないんスけど、今度、友達と秋葉原に遊びに行くことになったス。友だちは秋葉原にはじめて行くんスけど、どんな所がよろこばれるっスかね?」
「秋葉原かー。僕も最近は言ってないけど、やっぱりメイド喫茶じゃない?あとはアニメイト」
「お店によっては、私たちのグッズも置いてあるかもよ」
「うーん、やっぱりそういうお店っスよなあ」
秋葉原は外国人にも人気の観光スポットであるが、女子高生がメイド喫茶や、アニメイトを喜ぶであろうか。
「なによ、スバルちゃんもしかしたらデート?」
「ちげえよ!」
「アイドルは恋愛禁止だよー」
「ちげえって!」
「じゃあ、うちが、スバルの恋愛運を占ってあげるか」
「ちげえって言ってるだろうが!」
皆にからかわれ、私は必死に否定する。しまいには冷やかしをやめないころねを、食堂の中で追い掛けまわした。
「あれ?ミオちゃん、カードが一枚落ちたよ」
おかゆがテーブルから滑り落ちたタロットカードを拾い、ミオに渡たす。
「あ、ごめんねおかゆ、ありがとう」
おかゆから渡さされたカードを手に取ったミオが、カードを見つめたまま、動きを止めた。
「ミオちゃん、どしたのー?」
「え?あ、なんでもないよ。ほら、スバルもころねも、椅子に座りな。それより、みんな年末のクリスマスライブの準備は順調?」
十二月二十五日には、久しぶりに事務所主体のライブが予定されていた。久々のアイドルらしい活動にむけて、みんな一生懸命準備を進めている。
「人前で歌うの、緊張しちゃうよねぇ」
「ころさんは歌も踊りも上手だから、大丈夫だよー」
「もーおかゆったらー」
「仲いいっすスなあ」
イチャイチャし始めた二人を羨ましく思い、私もミオに構ってもらおうと話しかけた。
「ミオシャは、クリスマス付近に、ライブ以外の活動はするんすか?」
「え、うん。なに?スバル?」
「いや、ライブ以外、何か予定があるんスか?」
「うーん、そうだねえ。クリスマス付近は占いの需要が増えるから、占い系の配信か、ファン参加型でなにかしようかな。それなら女性ファンも掴めそうだし」
「いいっスなぁ。スバルはクリスマスライブの後は、ミコチとの温泉企画第二弾っす。社長命令で」
「ああ、あの企画、すごい反響があったみたいだよ」
「え、マジっすか!?黒歴史だから、なかったことにしたかったのに」
ただのコントでしかなかったのに、あの配信が人気を集めてしまうとは、またアイドルから遠ざかったのではないだろうか。
「あー僕も聞いたよ。なんでも実際に行った人が、熱くてとても入れいないって、クレームが殺到したらしいね」
「じゃあ何で第二弾をやるんだよ!」
「温泉のクレームは凄かったけど、配信自体はそうとう再生されたみたいだよ」
ならいいか、いや、よくないか。
その後もしばらくの間、四人で話し続けたが、どこなく思案気なミオの顔が、私は気になった。