十二月中旬の、秋葉原は凄い人出であった。久しぶりの予定がない水曜日、学校が終わると、私はカリオペと一緒に、約束どおり秋葉原へ遊びにきた。
もう日はすっかり沈み、街にはイルミネーションが灯りはじめている。
「すごいひとです、わたしのいたくにでは、こんなにひとがあつまるのは、おまつりか、デモのときだけ、です」
カリオペは少し不安げに、人混みをキョロキョロと見渡す。
「渋谷や新宿は、もっと凄いっスよ。迷子にならないようにね」
私がそう言うと、カリオペは無邪気な笑顔で、私の手を握ってきた。
お互い手袋をしているが、それでもカリオペの手がひんやりとしている気がして、私はなんとか暖めてあげようと、しっかりとその手を握る。
カリオペと歩くと、やはりすれ違う人が必ず振り向いた。
少し恥ずかしいが、私は自分が美しい王女様を守る、王子様になった気がして、誇らしかった。
「Oh!Wish upon a star!」
街路樹に施されたイルミネーションの説明書きを見て、カリオペが言った。
「え?なんて?」
「ほしにねがいを、ここのイルミネーションのテーマです」
「へー、確かに、たくさんの星が輝いているみたいっス」
二人で、星が降るような光の中を歩く。
「にっぽんは、すばらしいくにです。みんながわらい、すてきなものがあふれて、います」
「そうっスか?カリオペの暮らしていた街では、あんまりイルミネーションとかないんっスかね?」
日本よりも海外の方が、クリスマスなどは派手に祝いそうなイメージだが。
「わたしのうまれた、くには、あんまりゆたかでないです。わたしはうんよく、おかねがあるひとに、ひろわれて、ここに、これました」
カリオペは立ち止まり、その目に焼き付けようとするように、振り返ってイルミネーションを見つめる。
「そんなに、貧しかったんスか?」
私の手を握る、カリオペの手が、一瞬こわばるのを感じた。
聞くべきではなかったか。
「せんそう、ありますから」
カリオペは、イルミネーションから地面に目を落とし、言った。
私はなにも言えず、ただ強く、彼女の手を握った。
「スバル、めいどきっさ、いきましょう」
カリオペは顔を上げると、私に笑顔で言った。そしてそのまま、速足で歩き出した。
「あ、まつっス!歩幅が違い過ぎるっス!」
カリオペに引きずられるようにして、私も歩きだした。
その後は、二人でずっと笑いながら過ごした。メイド喫茶、アニメイト、ゲームセンター、ガチャポン会館、意味不明な商品を売る自販機コーナー。
カリオペは少しでも多くのものを見たいと、そこらじゅうを歩き回った。
「こんな、たのしいじかん、はじめてでした。ありがとうスバル」
「スバルも楽しかったス、またくるっス」
乗る電車の方向が違うため、私達は改札に入ったところで、別れる。
「あ、カリオペに、これをあげるっス」
私は、お風呂に浮かべるアヒルを小さくしたようなキーホルダーを、カリオペに渡した。
「いいん、ですか?」
カリオペはキーホルダーを受け取ると、愛おしそうに胸の前で両手に包んだ。
「おりがとう、スバル、たいせつに、します」
「いや、さっき大量にやったガチャに入ってたやつっスから、そんな大事にしなくて大丈夫っスよ」
そんなに喜んでもらえるとは、思ってもおらず、私は少し、申し訳ない気持ちになった。
「そろそろ電車が来るっスな」
じゃあ、明日学校でと、私は手を上げて振り返った。
「Thank you my idol」
カリオペが何か言った気がして、私は振り返った。しかし、そこにはもう、カリオペの姿はなかった。
「さすが、歩幅が違うっス」
私は一言呟き、ホームへの階段を駆け上った。