ソラニウタウトキ   作:kaito-18

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歩幅

 十二月中旬の、秋葉原は凄い人出であった。久しぶりの予定がない水曜日、学校が終わると、私はカリオペと一緒に、約束どおり秋葉原へ遊びにきた。

 もう日はすっかり沈み、街にはイルミネーションが灯りはじめている。

 

「すごいひとです、わたしのいたくにでは、こんなにひとがあつまるのは、おまつりか、デモのときだけ、です」

 

 カリオペは少し不安げに、人混みをキョロキョロと見渡す。

 

「渋谷や新宿は、もっと凄いっスよ。迷子にならないようにね」

 

 私がそう言うと、カリオペは無邪気な笑顔で、私の手を握ってきた。

 お互い手袋をしているが、それでもカリオペの手がひんやりとしている気がして、私はなんとか暖めてあげようと、しっかりとその手を握る。

 

 カリオペと歩くと、やはりすれ違う人が必ず振り向いた。

 少し恥ずかしいが、私は自分が美しい王女様を守る、王子様になった気がして、誇らしかった。

 

「Oh!Wish upon a star!」

 街路樹に施されたイルミネーションの説明書きを見て、カリオペが言った。

 

「え?なんて?」

「ほしにねがいを、ここのイルミネーションのテーマです」

「へー、確かに、たくさんの星が輝いているみたいっス」

 

 二人で、星が降るような光の中を歩く。

「にっぽんは、すばらしいくにです。みんながわらい、すてきなものがあふれて、います」

「そうっスか?カリオペの暮らしていた街では、あんまりイルミネーションとかないんっスかね?」

 日本よりも海外の方が、クリスマスなどは派手に祝いそうなイメージだが。

 

「わたしのうまれた、くには、あんまりゆたかでないです。わたしはうんよく、おかねがあるひとに、ひろわれて、ここに、これました」

 

 カリオペは立ち止まり、その目に焼き付けようとするように、振り返ってイルミネーションを見つめる。

 

「そんなに、貧しかったんスか?」

 私の手を握る、カリオペの手が、一瞬こわばるのを感じた。

 

 聞くべきではなかったか。

 

「せんそう、ありますから」

 カリオペは、イルミネーションから地面に目を落とし、言った。

 

 私はなにも言えず、ただ強く、彼女の手を握った。

 

「スバル、めいどきっさ、いきましょう」

 カリオペは顔を上げると、私に笑顔で言った。そしてそのまま、速足で歩き出した。

 

「あ、まつっス!歩幅が違い過ぎるっス!」

 カリオペに引きずられるようにして、私も歩きだした。

 

 その後は、二人でずっと笑いながら過ごした。メイド喫茶、アニメイト、ゲームセンター、ガチャポン会館、意味不明な商品を売る自販機コーナー。

 

 カリオペは少しでも多くのものを見たいと、そこらじゅうを歩き回った。

 

「こんな、たのしいじかん、はじめてでした。ありがとうスバル」

「スバルも楽しかったス、またくるっス」

 

 乗る電車の方向が違うため、私達は改札に入ったところで、別れる。

 

「あ、カリオペに、これをあげるっス」

 私は、お風呂に浮かべるアヒルを小さくしたようなキーホルダーを、カリオペに渡した。

 

「いいん、ですか?」

 カリオペはキーホルダーを受け取ると、愛おしそうに胸の前で両手に包んだ。

 

「おりがとう、スバル、たいせつに、します」

「いや、さっき大量にやったガチャに入ってたやつっスから、そんな大事にしなくて大丈夫っスよ」

 

 そんなに喜んでもらえるとは、思ってもおらず、私は少し、申し訳ない気持ちになった。

 

「そろそろ電車が来るっスな」

 じゃあ、明日学校でと、私は手を上げて振り返った。

 

「Thank you my idol」

 

カリオペが何か言った気がして、私は振り返った。しかし、そこにはもう、カリオペの姿はなかった。

 

「さすが、歩幅が違うっス」

 

 私は一言呟き、ホームへの階段を駆け上った。

 

 




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