「雪っスなあ、積もるかなあ」
東京で雪が積もるのは、一年に一度、あるかないかだ。
だから不便だと思いつつも、雪が降るとつい、嬉しくなってしまう。
「ゆき、きれい、ですね」
カリオペと二人で、校舎の窓から外を舞う雪を眺める。
「スバル、さいきん、いそがしい?」
「あ、うん年末年始が過ぎるまでは、けっこう忙しいっス。色々あって」
色々の内容は言えないのだが。
「そう、ですか。また、いっしょにあそびにいきたいです」
「スバルもっす。そうだ、冬休みの間に、温泉に行かないっすか?スバルは温泉に詳しいっス」
もちろん、ミコと巡った地獄温泉ではなく、そのロケ中にちゃんとした温泉の情報も集めていた。
「おんせん!いきたいです!はだかのつきあいですね?」
「うん、どこでそんな表現を・・・。温泉気持ちいいっスよ。雪を見ながら入れる露天風呂がいいっスなあ」
「ゆきみぶろ!たのしみです!」
クリスマスのライブ、年末年始のイベントで疲れた体を、カリオペと一緒に温泉で癒す。
私にもすごく楽しみな予定ができて、高校生活で最も充実した冬休みを迎えることができそうであった。
「じゃあ、今日は早退するっスから、また来週っス」
明日の土曜日はいよいよクリスマスライブであり、今日は午後からリハーサルと、打ち合わせがあるため、私は午前中で学校を早退した。
吹雪くことなく、雪は静かに舞い降りていた。
地下の事務所に通じるエレベータはいくつかあるのだが、学校から一番近いのは、けっきょくオーディションを受けに行った、あの廃墟のようなビルであった。
もはや馴染みとなった駅で降り、人気のない道路を歩く。
普段もあまり人通りのない道であるが、平日の昼間、そして雪が降っているせいか、ほとんど歩いている人を見かけなかった。
ビルに到着すると、入り口に一匹の猫が丸くなっている。
「おかゆ?」
猫はこちらを見ると立ち上がり、一瞬光ったかと思うと、人の姿に変わった。
「お疲れさま、スバルちゃん」
「どうしてこんな所に?おかゆはいつも、違う入り口を使っていなかったっスか?」
「お迎えにきたんだよ」
お迎え?リハーサルをどこか別の場所でやることになったのであろうか。
「スバルちゃんじゃなくて、後ろのお客さんのね」
おかゆの言葉を聞いて、私は自分の後ろを振り返った。
「カリオペ?」
そこには、さきほど学校で別れたはずの、カリオペの姿があった。
そして、その背後にはミオところね、フブキが立っている。
「どういう、ことっスか?」
まるでカリオペを警戒し、包囲しているかのような状況であった。
「スバルちゃんは、後をつけられていたんだよ」
おかゆが普段ののんびりとした話しかたとは違う、ハッキリとした言葉で言った。
「スバルを?カリオペ、スバルに話があったんスか?学校で言ってくれればよかったのに」
カリオペに向って歩き出そうとした私の肩を、おかゆが掴んだ。
「近寄ったら、だめだよ」
「どう、してっスか?」
相変わらず人気のない通りに、雪が静かに舞い降りる。
「スバルちゃん、彼女はホロスタイルだ。Grim Reaperの。一対一の戦いでは、メル先輩のVamp以上に、危険な相手だよ」
カリオペが、ホロスタイル?
でも、彼女はずっとあの姿だった。今日だけでなく、学校でもずっと、放課後、秋葉原で遊んだときも、ずっとあの姿だった。
ホロスタイルと安全にリンクしていられる上限である、三時間どころではなく。
「ミオちゃんのカードに暗示されたていた、彼女は死神なんだ」
「うそっスよね?」
私はおかゆではなく、カリオペに問いかけた。