彼女は、何も言わなかった。
ただ雪の中で、赤い瞳が、私を見つめる。
「うそっスよね!カリオペがホロスタイルだなんて、絶対、うそっス!」
私はあかゆの手を払い、カリオペに向って駆け出した。
彼女はただ、私ともっと話をしたくて、ここに来たのだ。
駆け寄る私に、カリオペが手を伸ばす。
「スバル!」
ミオが叫ぶと同時に、手から何枚ものタロットカードを投げる。投げ出されたカードは規則正しく一列に並び、まるで鎖のようにカリオペを拘束した。
「やめるっス!ミオシャ!彼女は!」
「わたしは・・・」
カリオペの声が、私の声をさえぎった。
「このからだは、ホロスタイルです」
私がカリオペの目の前に立ったとき、彼女はハッキリ、そう言った。
「うそ、スよね?」
カリオペはミオのタロットガードに縛られたまま、抵抗する様子もなく、雪の舞う空を見上げた。
「スバルを、だましたっスか?」
カリオペは空から、私に視線を戻した。
「ぐうぜん、だったのです。わたしはめいれいされて、ホログラムライブのしせつをさがしに、きました。そこで、スバルに、あいました」
「どうして、私が配信者だって、わかったんすか?」
「うた……なんどもきいた、スバルのデビューライブ、おんんがくしつで、きがつきました」
「私の、デビューライブ?」
カリオペは再び、空を見上げる。
「わたしのくにでは、よくゆきがふります。ひざしはほんのすこし」
そして、再び私を見る。
「はじめてスバルのはいしんをみたとき、ひざしだと、おもいました。まるで、たいようのような。むちゅうで、なんども、なんどもみました」
だから、と白い息をはきながら、彼女は言った。
「あなたに、あえて、うれしかった。たとえ、わたしが、スバルのてきであっても」
「カリオペ・・・」
「わたしがここにきたりゆうは、みなさんがそうぞうしている、とおり、です。でも、わたしはやくめをはたすつもりは、ありません。わたしじしんの、ゆめ、はかないましたから」
カリオペは満面の笑みで、私を見た。
「スバルのては、あたたかかった。うたごえは、やさしかった。おくりものうれしかった……おしにであえて、よかった。うれしくて、うれしくて、うれしくて……」
「カリオぺ……」
私は手を伸ばし、カリオペの手を握ろうとする。彼女の手を、温めなくてはいけないと。
しかし、掴もうとしたその先から、カリオペの手は、少しずつ消えていった。
「カリオペ?どうしたっス?」
「さくせんは、しっぱいですから、わたしのリンクはきょうせいてきにしゃだんされました」
「まって!カリオペ!どうしたら!?どうしたらいい!?」
舞う雪に溶け込むように、カリオペの姿は、次第に消えてゆく。
「ミオシャ!助けて!カリオペが!!」
必死にカリオペの体を掴もうと、私は闇雲に手を伸ばす。
「Good By My Idol」
私の手には、溶けた雪が水となって、握られていた。
「スバル・・・」
ミオが私の肩に、優しく手をまわした。
「友達、だったんす・・・」
食いしばり過ぎた、歯が痛い。
「ごめんね、スバルちゃん。でも、彼女を配信施設に入れるわけには、いかなかったんだよ」
フブキが私の手を握る。とても、暖かい。
「彼女は、スバルちゃんに、会いたかっただけだったんだね。すごく幸せそうな、顔をしてたよ」
背中に、おかゆの温もりを感じる。
「でも、でも、私は・・・」
空を見上げ、瞬きもせずに、雪を見つめる。私の瞳にふれた雪は、すぐに解けて、頬を伝う。
突然、両頬を掴まれ、空から視界を戻された。
「泣きたかったら、泣けばいいだろうが!」
鼻を赤くしたころねの顔が、目の前に迫る。
「泣かねえよ!!……あ、うあ、あああああああああ!」
私が声を上げると、ころねは私の顔を引き寄せ、しっかりと抱きしめてくれた。ミオも、フブキもおかゆも、まるで重なり合って冬を越す、小さな動物のように。
雪がやみ、雲の切れ間から光が差し込むまで、私は泣き続けた。
「スバル?リハーサルは休む?なんなら明日も……」
ミオが心配そうな表情で私を見る。
「いや、やるっス」
カリオペは、カリオペの演者は、きっと明日のライブを見てくれる。
「どこまでも届くように、最高のライブをするっス!」
私が声を上げると、皆も「おー!」と応えてくれた。
五人でビルに入り、エレベーターで地下施設に入る。エレベーターの扉がひらくと、すぐにエイが現れた。
「はい、五人遅刻。減給です」
無慈悲なエイの宣告に逆らう気力もなく、全員うなだれながらリハーサル部屋へ向かった。