ソラニウタウトキ   作:kaito-18

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遅刻の代償

 彼女は、何も言わなかった。

 

 ただ雪の中で、赤い瞳が、私を見つめる。

 

「うそっスよね!カリオペがホロスタイルだなんて、絶対、うそっス!」

 私はあかゆの手を払い、カリオペに向って駆け出した。

 

 彼女はただ、私ともっと話をしたくて、ここに来たのだ。

 駆け寄る私に、カリオペが手を伸ばす。

 

「スバル!」

 

 ミオが叫ぶと同時に、手から何枚ものタロットカードを投げる。投げ出されたカードは規則正しく一列に並び、まるで鎖のようにカリオペを拘束した。

 

「やめるっス!ミオシャ!彼女は!」

「わたしは・・・」

 

 カリオペの声が、私の声をさえぎった。

 

「このからだは、ホロスタイルです」

 

 私がカリオペの目の前に立ったとき、彼女はハッキリ、そう言った。

 

「うそ、スよね?」

 

 カリオペはミオのタロットガードに縛られたまま、抵抗する様子もなく、雪の舞う空を見上げた。

 

「スバルを、だましたっスか?」

 

 カリオペは空から、私に視線を戻した。

 

「ぐうぜん、だったのです。わたしはめいれいされて、ホログラムライブのしせつをさがしに、きました。そこで、スバルに、あいました」

「どうして、私が配信者だって、わかったんすか?」

「うた……なんどもきいた、スバルのデビューライブ、おんんがくしつで、きがつきました」

「私の、デビューライブ?」

 

 カリオペは再び、空を見上げる。

 

「わたしのくにでは、よくゆきがふります。ひざしはほんのすこし」

 そして、再び私を見る。

 

「はじめてスバルのはいしんをみたとき、ひざしだと、おもいました。まるで、たいようのような。むちゅうで、なんども、なんどもみました」

 

 だから、と白い息をはきながら、彼女は言った。

 

「あなたに、あえて、うれしかった。たとえ、わたしが、スバルのてきであっても」

「カリオペ・・・」

「わたしがここにきたりゆうは、みなさんがそうぞうしている、とおり、です。でも、わたしはやくめをはたすつもりは、ありません。わたしじしんの、ゆめ、はかないましたから」

 

 カリオペは満面の笑みで、私を見た。

 

「スバルのては、あたたかかった。うたごえは、やさしかった。おくりものうれしかった……おしにであえて、よかった。うれしくて、うれしくて、うれしくて……」

 

「カリオぺ……」

 

 私は手を伸ばし、カリオペの手を握ろうとする。彼女の手を、温めなくてはいけないと。

 しかし、掴もうとしたその先から、カリオペの手は、少しずつ消えていった。

 

「カリオペ?どうしたっス?」

「さくせんは、しっぱいですから、わたしのリンクはきょうせいてきにしゃだんされました」

「まって!カリオペ!どうしたら!?どうしたらいい!?」

 

 舞う雪に溶け込むように、カリオペの姿は、次第に消えてゆく。

 

「ミオシャ!助けて!カリオペが!!」

 

 必死にカリオペの体を掴もうと、私は闇雲に手を伸ばす。

 

「Good By My Idol」

 

 私の手には、溶けた雪が水となって、握られていた。

 

「スバル・・・」

 ミオが私の肩に、優しく手をまわした。

 

「友達、だったんす・・・」

 食いしばり過ぎた、歯が痛い。

 

「ごめんね、スバルちゃん。でも、彼女を配信施設に入れるわけには、いかなかったんだよ」

 フブキが私の手を握る。とても、暖かい。

 

「彼女は、スバルちゃんに、会いたかっただけだったんだね。すごく幸せそうな、顔をしてたよ」

 背中に、おかゆの温もりを感じる。

 

「でも、でも、私は・・・」

 空を見上げ、瞬きもせずに、雪を見つめる。私の瞳にふれた雪は、すぐに解けて、頬を伝う。

 

 突然、両頬を掴まれ、空から視界を戻された。

 

「泣きたかったら、泣けばいいだろうが!」

 

 鼻を赤くしたころねの顔が、目の前に迫る。

 

「泣かねえよ!!……あ、うあ、あああああああああ!」

 

 私が声を上げると、ころねは私の顔を引き寄せ、しっかりと抱きしめてくれた。ミオも、フブキもおかゆも、まるで重なり合って冬を越す、小さな動物のように。

 

 雪がやみ、雲の切れ間から光が差し込むまで、私は泣き続けた。

 

「スバル?リハーサルは休む?なんなら明日も……」

 

 ミオが心配そうな表情で私を見る。

 

「いや、やるっス」

 カリオペは、カリオペの演者は、きっと明日のライブを見てくれる。

 

「どこまでも届くように、最高のライブをするっス!」

 私が声を上げると、皆も「おー!」と応えてくれた。

 

 五人でビルに入り、エレベーターで地下施設に入る。エレベーターの扉がひらくと、すぐにエイが現れた。

 

「はい、五人遅刻。減給です」

 

 無慈悲なエイの宣告に逆らう気力もなく、全員うなだれながらリハーサル部屋へ向かった。

 

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