クリスマスライブ、お正月企画を無事に乗り切った私たちは、会社の慰安旅行へ旅立った。メンバー全員が一斉に休むわけにもいかないので、ゼロ期生から順に休み、私たち二期生は最後に旅立った。
季節はもう冬真っ盛りの二月であり、用意された温泉旅館に向かう途中、景色は一面、雪景色となった。
「いやー二期生だけで集まるの、久しぶりっスなあ」
「というか、全員で出掛けるって初めてじゃない?」
シオンはポッキーを食べながら、窓の外を見ながら言った。
「そうねえ、なかなか全員で集まる企画ってないし、楽しみね。アクアさま、大丈夫?」
すでに車に酔ったのか、体調の悪そうなアクアをちょこは看病していた。
「だ、大丈夫、です、でへへ」
不調ながらも、アクアも楽しみにしているようだ。
「ところで、旅行に行くのもロケバスなんっスなあ。機材が積みっぱなしだし」
貸し切りの観光バスで行けるのかと思ったが、そこは費用削減のためか、普段乗り慣れたロケバスでの移動であった。
「スタッフもけっこう乗ってるな。まるで普通にロケに行くみたいだぞ」
あやめの発言に、全員がいやな想像をした。
「まさか、ね?」
私はシオンと目を合わせる。
一瞬、引率役のエイが微笑んだ気がした。
東京から車で三時間以上かけて辿り着いた旅館は、旅館と言うのもおこがましい、普通の一軒家であった。
「右の建物が皆さんの宿泊する建物です。スタッフは左の建物に」
エイの指示で、私たちは古い民家の玄関から、中へ入った。
「なんか、本当にただの家よね」
シオンはがっかりしたように、家の中を見回す。
「でも、お風呂はけっこう広いわよ。全員一緒に入れそうなくらい」
ちょこは水回りが気になるらしく、台所やお風呂を覗いている。
「温泉というより、銭湯っスなあ。蛇口をひねると、源泉がでてくるって、エイちゃんが言ってたっス」
「よし!やることないから、もう入ろう!」
さっそうとあやめは服を脱ぎだす。
「え?もう入るんすか?少しぐらい観光するっスよ」
私があやめをの脱衣を阻止していると、玄関がひらき、エイが入ってきた。
「えー皆さん。荷物を置いたら、家の裏口から外に出て下さい」
「えー、なんで入ったばかりなのに、もう出なきゃいけないのよ」
不満げなシオンに向けられたエイのメガネが、怪しく光る。
「これより皆さんには、夕食の食材を獲りに行ってもらいます」
その場にいた全員が俯いた。
「あ、ああの。慰安旅行じゃ、ない、のかな?」
アクアがキャップを深くかぶり直しながら、もじもじと言った。
「はい、しかし、慰安旅行の様子は、配信させていただきます」
「ちょっと待って!」
ちょこが声を上げる。
「生身で来ているんだから、そんな配信をしたら、即身バレするじゃない」
「心配ありません」
エイがメガネをクイっと指で上げながら、不敵な笑みを浮かべた。
「皆さんの姿は、ホロスタイルの姿で配信されます。エヴァーの技術力をもってすれば、朝飯前の合成技術ですよ」
いつの間にか、エイの後ろにはカメラを構えた五人のスタッフが並んでいる。
「あ、あてぃし、ごはんは、いらないよ。おかしが、あるし」
背を丸めて逃げようとするアクアの首を、エイが背後から掴み、片手で持ち上げた。
「ヒッ!た、たすけ……」
「お夕飯は、みんなで楽しく食べましょうね?」
「は…はい」
エイは返事を聞くと、アクアから手を離した。アクアはその場に崩れ落ちる。
「ア、アクア―!」
私はうずくまるアクアに駆け寄った。
「あ、あてぃし、もう、だめ、みたい。もっと……みんなと、もっとゲーム、したかった……な、ぐふ」
「あてぃしー!」
「はいはい、寸劇はいいですから、さっさと用意して下さい。玄関から靴を持って、裏口に向って」
アクアを犠牲にすることで、おかしなイベントを回避できないかと思ったが、無駄であった。
「おい!みんな!はやく行くぞ!」
あやめはすでに行く気満々であった。
正直、私はあやめの言動が一番読めない。元気一杯にふざけていたかと思うと、突然、どこかを見つめて微動だにしなくなったり。
コミュ障のアクアのほうが、まだ人間味を感じるのだが。
宿の裏口を出ると、すぐに雪に覆われた山の、登山道が確認できた。
「まさか、あそこから雪山に入るの?」
ちょこが「ありえない」と言いたげな顔で、エイに言った。
「はい、大して高い山じゃないから、大丈夫ですよ。道に迷わなければ」
道に迷わないどころか、雪に覆われて、道もろくに見えないのだが。
「こんな雪山に、食料なんてあるの?」
「いい質問です、シオンさん。実はこの山には、冬にだけ収穫できる、幻のキノコがあるんです」
「幻の、きのこ?」
「そう、幻のキノコ。松茸よりも香り高く、シイタケよりも濃厚な味わい。一口食べれば、あっとゆうまに夢の世界へ旅立つという、絶品のキノコです」
「それって、マジックマッシュ……」
「おい!やめとけ!さすがにアイドルにそんなもの獲らせないだろ!」
私はシオンのこと言葉をさえぎったが、本当に大丈夫なのか、自分も不安であった。
「キノコだけじゃお腹一杯にならないだろ、余は猪も狩るぞ!」
あやめは意気揚々と両腕をまわす。
「あやめさま、生身できているんだから、猛獣と戦うのはムリよ」
「そうだった、肉はむりかあ……」
「他の食材は用意してありますから、安心して下さい。キノコを手に入れた暁には、松坂牛ですき焼きですよ」
エイの言葉に皆が目を輝かせた。