しかし、この雪山であるかどうかも分からないキノコを探して、ご褒美がすき焼き。割に合っているのであろうか。私は皆より少し、冷静であった。
「まあ、何もないよりはマシっス」
こうして一行は、雪山へと行進を開始した。
スキーやスノーボードをしているときもそうだが、寒い中で厚着をして運動すると、案外体は温まり、うっすらと汗をかいてくる。
暑くて寒くて、曖昧な感覚だ。
十分ほど坂道を登ると、少しひらけた場所にでた。
雪で白くなった針葉樹林に囲まれて、それ以外の景色は見えない。
「じゃあ、この周辺でキノコを探しましょうか」
エイの号令で、それぞれ手分けをして、林を探索することとなった。
(さっさと見つけて、さっさと帰ろう。ちょこ先、アクア、シオンはきっと真面目に探さないだろうから、私とあやめでなんとかしないと)
そう考えて林に入った途端、天気が一変した。
先ほどまで林に差し込んでいた日差しは急に失われ、風か木々を揺らし、周囲を激しく雪が舞う。
「こ、これはやばいんじゃないっスか?」
私は後ろをついてきているはずの撮影スタッフに声をかけたが、返事はない。
それどころか、突然の吹雪は一メートル先の視界をも奪っていた。
「ちょっと!スタッフさん!大丈夫っスか!?聞こえるっス!?」
しかし、返事はなく、ただゴウゴウという風の音だけが、私の鼓膜を震わせる。
(下手に動くと危ないのかな)
そう思った私は、大きな木の根元で腰をかがめ、風がやむのを待つことにした。
(はやくおさまれ)
腕時計を見つめながら、私は必死に祈った。
やがて風はやみ、再び木々の隙間から陽射しが差し込んだ。
時計の秒針はたった、五週しかしなかったが、まるで何時間もじっとしていた気分である。
私は立ち上がると、周囲を見渡した。
しかし、周囲には誰もおらず、先ほど自分が残した足跡さえ新雪で埋められており、ただただ白銀だけの世界となってる。
「おーい!誰かいないっスか!?」
私は力の限りの声で呼びかけた。
しかし、私の声は木々と雪に吸収され、こだますらなかった。
「え?やばくねえかこれ?遭難した?」
とんでもないことになってしまった。と思う反面、周囲のあまりの静かさに、私は冷静を保ってもいた。
まるで夢のような非現実的な美しい光景により、自分の状況を客観視してしまう。
「どうしよう、ここで見つけてもらうまでじっとしてるのがいいのかな。それとも、誰か探しに行ったほうがいいかな」
周囲を見渡しながら、考える。
足跡が消されてしまったため、自分がどちらの方向から来たのかわからないし、木々に囲まれ、この場所からでは、どちらが山の頂上で、どちらが麓に続いているのか、わからなかった。
山に入ってから十分ほどしか歩いていないので、方向さえわかれば、すぐに宿へ帰れると思おうのだが。
(じっとしてても仕方ないし、とりあえず少し下っている方向に歩いてみよう)
雪山の知識などない私は、いつもどおり深く考えずに足を踏み出した。
十分分ほど歩いても、見える景色に変化は訪れず、次第に焦燥にかられはじめる。
「おかしいっスなあ、そんな離れて行動していたわけでもないのに、誰とも会わないなんて」
そう呟いたときに、背後からもの音が聞こえた。
ドドドドと、まるで高速でブルトーザーが走っているような、何かを蹴散らしているような音である。
驚いた私は、振り向いた瞬間、その音の発生源に吹き飛ばされた。
「があああ!」
私は悲鳴をあげながら、雪原を転げ回った。
「おう?なにか轢いてしまったか?」
声の主は、雪に半神を埋めた私を引っ張りあげた。
「ん?お主は誰じゃ?こんな雪山で何をしておる?」
「あ、あやめ?よかった、やっと人に会えたっス」
「いかにも余はあやめじゃが、お主はだれじゃ」
「え?」
寒さのせいだろうか、ついにあやめは私の顔も忘れてしまったらしい。
「あやめ、落ち着いてよく見るっス、スバルっス。何の冗談っスか?」
あやめは私を立たせると、全身をくまなく眺めた。
「うむ、知らん」
「そんなはずがねえだろ!」
大声で怒鳴っても、あやめの頭には疑問符が浮かんでいる。
「まあ、いいっス。ところで他の人は見掛けなかったんスか?というか、いつの間にかホロスタイルとリンクしたんスか?」
あやめの服装は、ホロスタイルの衣装に変わっており、ノースリーブにミニスカートで、背中に刀を差している。
常人ではとても雪山に来られる服装ではない。
「誰か?特に誰にもあってないぞ。余は一人で来たからな。ホロスタイルってなんだ?」
「え?」
いつも以上に会話がかみ合わない。
「え?一人で来たって、皆で来たじゃないっスか。早く皆と合流して、宿に帰るっス」
「お主はさっきから何を言っておる?余はこの山のダンジョンを攻略しにきたのじゃ」